2007年07月05日

海深く翼2

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 診断室は古めかしいベットを真ん中に、右にはオフィスにあるような棚、左には学校にあるようなスチールの机と椅子が置かれていた。
 椅子に腰掛けたドクターは口を開いた。
「今回はどんな死に方だね」
「この銃で撃ち殺されました」
 六星はMP7を出した。ドクターはMP7をとるその重さを確かめるように動かしている。
「体を銃弾でつぶされる感触はどうだった?」
 その声に六星は揶揄を感じた。ここで医師の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。神殺名医の名で呼ばれるドクターは、重病にかかり命を失いかけていた牧師を改宗させた事に由来する。元牧師の言葉、「神は死んだ」が、そのあだ名となった。
 ウィッチドクター、霊的治療を行える医師は多くとも、ドクターに勝る物はいない。少女の為にも、ここは素直に答えなくてはならない。
「意識が飛ばなかったのが幸運です」
「あまたの死を超えてきたものの言葉とは思えないな。あの猛毒に化けた塩の針はどうだった?」
「あれは効き始めるまで間がありましたから」
「なるほどな、やはり意識させないまま、遠距離から一撃でしとめるのが一番確実だな。ありがとう参考になった」
「いえ」
 六星は奥歯を噛んだ。この医師とは一度敵味方に分かれた事がある。その時にしとめきれなかったのが余程悔しかったらしい。
「ところで、あの少女はなんだね」
「海で拾いました」
「なるほど。慰霊の際に見つけたというところだね」
 ドクターは息を吐き、「あの少女は人間ではない」
「は?」
 少女の人以外なにものでもない外見を思い出した。
「獣人のたぐいですか」
 遺伝子の一部を書き換え、戦闘力を増加したもの。または、シャーマニズム、自分の祖先に獣のトーテムを持つことで自然の造化による獣の能力を所持したものだ。
「いや、そうではないよ。あれは生き物ですらないのだ」
「俺は確かに彼女を抱き上げて運んできた」
「君の内部での話だ。あれは、周りからエネルギーを吸い取って自分が存在するように認識させる」
「先生も見ているのに?」
「ああ。認識している。私の感覚に対して干渉を受けているからな」
 六星は息を吐いた。では、白昼の幽霊のようなものだというのだろうか。
「事を構えたのは誰だね」
「蛇です」
 ドクターは盛大にため息をつくと、顔を押さえた。
「まったく君は。蛇相手だと容赦ないね」
 どこかで鈴の音が聞こえた。
「患者が起きたようだ」
 ドクターは立ち上がった。ついていこうとする六星にドクターは小さく笑うと、待っているようにと言い残していった。
 六星はベットに腰掛けて外を見ていた。
 この部屋からも島が見える。
 工場の象徴と言われる煙突。空気汚染がされないように高空で煙が流されるそれは工場が操業している昼間は白い煙を流している。島ができてから生まれた子供の中には、あの白い煙が雲を作っていると信じているものもいる。それほど工場は止まることはなく、煙を吐き続けている。
「六星」
 ドクターの声に振り返った。
 はじめに目に入ったのは翠の瞳だった。
 どこか遠くを見ているような瞳だった。癖のない柔らかな顔立ちが、瞳の持つ神秘を薄め、どこか人なつっこい印象を受けた。
 入院患者用のガウンに包まれた体は小柄だった。
「礼がいいたいそうだ」
「ありがとうございます」
 声も柔らかい。
「いえ、当然のことをしたまでです」
 六星はできるだけ冷静に答えた。
「そうそう、こいつはヒーローだからな。むしろ仕事を提供してやってありがたいと思っているさ」
「ヒーロー」
 少女は何か思い出したように強くうなずいた。
「良いですね」
「ところで名前を聞いて良いかな。whoやらアンノウンではレシピはかけないからな」
「ルーテです」
「どこからきたんだ」
 手はゆっくりと窓の向こうを指した。
「あそこです」
 そういったルーテの顔は真摯だった。
「もっぱら天使といったところかな」
 ドクターのからかいにルーテはうなずいている。
 ルーテの手はまっすぐに空を指さしていた。

posted by 管理人 at 21:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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