2007年07月08日

海深く翼3

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 頭を強く押しつけられるような不快な空気は消えていた。
 地下から出た六星の頭上で、空は黄金に輝いていた。
 先程まで空を覆っていた黒い雲は変わらずあるが、オーロラめいた輝きが雲の間からさしている。
 どうなったんだ。
  さっきまで周りにあった嫌なプレッシャーは消えている。そして父親の気配も。
 六星は外に出て歩き始めた。
 竜巻でも起こったのか、地上にある建物はなぎ倒されいた。地上に居れば結果は明らかだ。
 歩いても誰の姿もなかった。それだけではない。
 何の音もしない。ここは海の近くで、常に波の音がしていたのに。
「お父さ〜ん」
 六星の声は響いていったが答えるはなかった。父親の名を呼びながら、六星は歩き続けた。
 街は終わり、もう海のすぐ側まで来ていた。
 海の向こうに、崩れかけたビルが見えた。あそこに父がいるような気がした。
「お父さん」
 堤防に登った時、六星は声を失った。
 波が壁のようになって向かってきていた。
  
 六星は目を開けた。
 病院の廊下の椅子に腰掛けたところまでおぼえているが、眠ってしまったようだ。
 きっと波の音のせいだ。
 六星は夢を思い出していた。それは夢であるが、数年前に六星が見たものが、作り直されたものだ。
 悪夢だったが、ただ一つの場面がそれを懐かしい思い出に代えた。
「俺はまだそこにいけない」
 父、天見四郎の最後の姿。あの背中を今でも追いかけている。あの時の父はヒーローだった。
 少しでも近づきたくてただ同じように振る舞った。救いを求めるものを助ける。敵は打ち倒す。
 街では少しは知られるようになった。ただ、それは父のようなものではなく、小魔侠とそしりを含んで呼ばれるものであった。
 街も父がいた頃とは違う。この十年で世界は変わってしまった。
 かつては何の問題もなく出られた首都への移動も、今では許可制になり検疫が必要になった。国の中の外国。それが六星の住む境界だった。
 十六になった時、境界管理局が発行するバウンティハンターのライセンスを取得した。
 これで一歩近づけるそう思えた。しかし、既にこれまでの因縁が、六星の周りには張り巡らされていた。
 その一つが『翼ある蛇』だ。組織が問題なのは、あくまで組織的なバウンティハンターの顔を持つということだ。母体企業である『真人』は、境界において著名な企業だ。その警備部門ということで、社会的な信用も高い。
 ルーテが、賞金のかかっている存在なら、捕縛直前にかすめ取ったことになる。
「ルーテか」
 彼女にそのような雰囲気は一分もないが、調べる必要はあるだろう。
「六星、電話だ」
 ドクターの声に六星は向かった。コードつきの電話を必死にのばしているドクターの姿があった。
「天見です」
「こんばんわ」
 その声は昨夜あった魔法使いだ。
「どなたさまですか?」
「聞き覚えはありませんか」
「もうしわけないです」
「ティエンともうします。真人の保安部門で渉外を担当しています。天見さまは、こちらで確保する予定だった対象を、保護されていると思いますが」
「何のお話ですか」
「そういわれると困りますね。韜晦しているのか、揶揄しているのか」
 六星は答えずに言葉を待った。
「恐らく、金髪翠眼の少女の姿をとっていると思いますが、それは擬態ですから、注意されるとよいと思います。あれは人間を簡単に無力にしますから。では、失礼します」
 電話は切れた。
 確保対象ということは、宣戦布告のようなものだ。今後も、何かしてくるということだろう。
「済んだか?」
 ドクターは不機嫌そうに眉をしかめた。
「ええ。蛇の人間だな」
「ご存じですか?」
「『妖精兇手』。異界出身のバウンティハンターだよ。いろいろな系統の魔術を使うので、有名だ。確か半年くらい前に、真人にスカウトされたんじゃないかな。それより、事を構える相手くらい覚えておけよ」
「すいません」
 六星は謝った。
「ルーテさんは?」
「また眠っているよ。まあ異様に消耗しているからな」
「そうですか」
 六星はうなずいた。
posted by 管理人 at 18:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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