2007年07月11日

海深く翼4

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 部屋には誰の姿もなかった。
 寝顔でも少しみたいなという不埒な考えがここでは僥倖だった。
 六星は先程の電話を思い出した。あの何の意味もないような会話。その向こうで、ルーテはさらわれていたのだ。
 情報を引き出そうとこっちが長々としゃべろうとするのは、相手からすると好都合だっただろう。それだけ発見が遅くなると言うことなのだから。
「なんだ寝込みでも襲い・・・」といいかけたドクターだったが、六星の様子を見るなり理解したようだ。
「見当はついているのか?」
「探しに出ます。まだそれほど遠くにはいっていないはずです」
 六星は外に出た。
 恐らく、ここから離れるにしても、ルートを限られている。この診療所に向かう道と言えば、一本しかない。
 六星は走り出した。
 寝ている少女はそれなりの荷物になるはずだ。しかし、相手が複数であれば確とはいえない。結局は時間と労力の大小の問題だ。
 診療所から出て前屈みになってタイヤの後を探す。風が強いせいで消えやすいが、それほど時間はたっていない。もし車できたならわかるはずだ。となれば、海しかない。
 相手が同じように思考するなら、海に向かうだろう。陸路では限定されてしまうし、追跡も用意だ。
 しかし、それは間違いだ。海からは自在に上陸できるように思えるが、この辺りは海流の流れがあって、意外と安全に停泊できるところは多くない。
 六星は海に向かい駆け下りた。岩礁になった一角は岩陰が多く、見通しが悪い。上から見るだけではわからず六星は岩場に降りた。
 海は荒れていた。波が飛沫を上げながら足下をぬらす。六星はルーテの姿を探しながら歩いた。
 首が締め上げられた。波に混じっていたせいで近づいてくる音はしなかった。六星の
 締め上げるのはむしろ細い手だ。だが、そこに秘められた力は半端ではない。
 視界が赤く霞む。六星は相手の首を締め上げる腕の指を持つと力任せにひねった。
 小さくうめきをあげ、腕は離れた。
「おお痛い」
 そこに立つのはファンであった。
「お前か」
「先に片付けておいた方が仕事が早いからね」
 六星は踏み込みながら右拳。ひねりを加えた一撃は青年男子でも意識を刈り取るが、強靱な筋肉は弾いていた。
 六星は飛び退いた。
「いたかないよ人間の細い腕じゃね」
「生粋の獣人からすればそうだろうな」
「はあ〜まがいものと区別がつくだけましだね。気をつけろっていうのももっともだ」
「お前もバウンティハンターなら相手の事くらい調べておくべきだな」
「小魔侠だっけ。あんた、ずいぶん、荒っぽいんだろ。これまで、うちの連中ともさんざんやりあったっていうじゃない。」
 ファンの手には大剣が握られていた。両手持ちのそれは赤く鈍い光を放っている。刃そいのものは実体があるのではなく、魔力と称される正体のわからない場を持った異界の武器だ。その魔力部分に紋様が現れることから、呪紋武装と呼ばれる武器だ。
「細々にして小々々魔侠くらいにしてやるよ」
 ファンの自信ももっともだ。その手の異界の武器は、こちらの常識で判断すると、掠った一撃が致命となる。
「これがお前をあの世に送る死に神の鎌だ」
 六星は息を大きく吸った。呼吸のリズムを代え、同時に自分の中の力を代える。対人から対魔へ。人外のものと荒そうならば必要な、日常を送る上では不要な意識を呼び覚ます。 操るのは自身という一降りの刃。
 波が大きく寄せた。
ファンが動いた。
 振り落とされる刃はそれほど早くはない。踏み込みかけて、六星は止まった。刃の振り抜かれた地面から湯気が出ている。
 ファンの周りが暑くなっている。
「気づいたね。でも、もう遅い」
 ファンが振った刃が大きく振られた。切っ先がなぞった流木が発火し、燃え上がった。その勢いのまま六星に剣が走る。
 隙は正面。
「くたばりな」
 六星は踏み込んだ。ファンの正面から拳を放つ。剣のせいでファンの早さは落ちている。とららえきった。そう思った瞬間、横にした刃で拳は防がれた。
「終わりだ」
posted by 管理人 at 19:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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