2007年07月15日

海深く翼5

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 発火物を燃え上がらせる効果を持つのが、ファンの大剣紅蓮に秘められた呪紋だ。 一撃では燃え上がらせることがないものも、剣の間合いに作られた熱の場。そこにとどまることでいずれは燃え上がる。
 足下の海水は全て水蒸気と化している。そのせいで六星の姿は近いながらよく見えない。
 人体は意識、無意識にかかわらず抵抗力を持つため、一瞬では燃え上がらない。しかし、直に刃に触れ、呪詛を流し込ませた者は、発火する。
 海水が蒸発しきったのか、靄は消えた。
 六星の手を動き出した呪紋が伝わっていくのが見える。それが伝えきれば、六星は火柱と化して燃え尽きる。
「Break The Spell 」
 六星は叫んだ。
 一瞬赤熱した学生服は燃え上がるのを拒むように燃えるのをやめた。
 呪紋は動きを止めた。
「お前、何を」
  ファンの手に激痛が走った。六星の拳がファンの柄を握る手に叩きつけられる。大剣の重さにファンの体が傾いた。崩れたファンの腹に六星の正拳をそのまま腹に伸びている。
「効かないよ」
 しかし、人間とは質の違うしなやかな筋肉が、六星の拳の威力を殺していた。このまま六星を振り払い剣でとどめをさす。発火がきかなくとも、剣の威力で十分六星を倒せるはずだ。
 だが、そのもくろみは消えた。
 触れた拳から何かが伝わってくる。それは波音に似ていた。
「天見心纏流風塵」
 ファンの口元から血がこぼれた。
 揺すられたのは内臓だ。筋肉は鍛えることはできても、また強靱でもその内部は普通の人間とそう変わるものではない。
 倒れないのは大剣によりかかっているせいで、ファンは立っているのが精一杯だ。体温が下がっていくのはわかるのに、腹の中だけは燃えているように熱い。それが苦痛のあまり脳が認識を惑わしているのもわかった。
「このくらいで終わるか」
 叫びながら口元から漏れた血が辺りに飛び散る。
 立ち止まれば死。
 目の前の少年の形をした死に神をファンはにらんだ。

 世界に存在的な秩序があり、独自の蓄積システムがあり、プログラムがある。そのプログラムを利用し、万象を解析する。そんなアーキテクチャーを持ち、自分の肉体と霊体をインターフェースとして、意思を伝える。
 magiとその思想は呼ばれた。
 magiは危険なものであった。前回したものが、同じ結果をもたらすとは限らない試行錯誤。それは人間というものの差異が故に当然の事であった。
 しかし、時に天分の持ち主を持つ者があり、magiを自らのものとし、奇跡を作り出した。
 大剣にもたれたまま倒れたファンを見ながら六星は拳を下げた。
 だが、奇跡には代償が必要だ。六星が数時間内におこなった現象の支配は体にダメージを及ぼしていた。
 Fictional Future。虚構の未来。蓄積システム上に存在する過去を改訂し、それ以降の時間を書き換える。自分にとって必要な未来を観測し、現実にする。magiの中ではもっても基本的かつ危険なテクニックだ。些細な変更と思われても、全ての構造は連動しており、もしかしたら自分の存在を不能にする事態が起こるかもしれない。リスクを回避する為に、矛盾は少ない方がいい。矛盾の解決が六星に残るダメージだ。外のダメージはなくなっているが、経験は六星に蓄積される。肉体には見えないもののダメージは残っていた。
 ファンとの戦いは、時間が過ぎ回復しているものの、一度死んだ体で行っているのに等しい。
「元来、戦闘に向かないmagiをよく使い込んでいますね。とどめは、家伝の拳法ですね。」
 六星はファンの背後に立つ女、ティエンを見た。
「自分の内側に置くよりも、外部に置いた方がリスクは少ない。ケアも楽。それが現代の魔術ですね。magiは自分をインターフェースにすることで危険すぎます」
「そうでもないですよ」
 こちらの体調がどの程度ばれているだろうか。六星はそう思いながら、背筋を伸ばした。
「嘘つきですね。立っているのも精一杯でしょう?」
「それでも、片付けるくらいの体力は残っています」
 六星は地面を蹴った。
「あまり動かない方がいいですよ」
 人の頭ほどの大きさの雷球が六星の周りに数個浮いている。
「どこにいますか?」
「それはこっちが聞きたい」
 言ってから六星は黙った。
 黙っておけば交渉の余地があったのに、ばれてしまってはしょうがない。
「逃走しましたか」
「そっちがてっきり連れ出してこっちに時間稼ぎしているのかと思いました」
「それは剣呑」
 ティエンの目が空に空に向けられた。
posted by 管理人 at 11:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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