2007年07月25日

海深く翼6

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 雲の合間から光が降りてきていた。それは雲の間から日の光がこぼれているようにも思えたが、どこか違和感があった。
 光は美しすぎだ。
「Jacob's ladder」
 ティエンは呟いた。
「ヤコブはあれに天使の姿を見たと言いますが・・・あの光の下にいけば、彼女はいますよ」
 ティエンは六星の側にゆっくりと降りてきた。六星は警戒しつつ、病院にマシンガンを置いてきたのを後悔していた。あれがあれば少しはマシになるだろう。
「一つ今ので貸しということで、手を出さないでいただけますか?」
 六星はうなずいた。六星の微かな動きに合わせて、海月が海水に揺れるように、雷球は動く。触れれば炸裂するタイプのもののようだ。早さとトリッキーな動きで、触れずに攻めればどうにかなるかもしれないが、今の六星の体では無理だった。
「ファンつかまりなさい」
 ファンは朦朧としていたが、ティエンを見ると淡い笑みを浮かべた。信頼に満ちたその表情は幼児にのようだ。
 ファンの体を支えたまま、ティエンは剣に手をやった。剣は光の粒になると、ティエンの手元に吸い込まれる。
 先程まであった暑さが一気にひく。
 ティエンは六星に背を向けて歩き出した。しかし、一度立ち止まって振り返る。
「あそこにいって、全てを見た上で、もう一度、こちらの交渉に乗るかどうか決めてください。そう時間はありませんけど、後一日はだいじょうぶでしょうから」
「何のです?」
 ティエンは少しだけ困ったように眉をひそめた。
「無知は罪ではありませんが、知らないですまそうと怠惰な行いをしたり、目をそらすのは罪です。あなたがチーフを嫌っているのはしっていますが、少しは我々が何をしたいか情報を得た方がいいと思いますよ」
 ティエンは歩いていった。
 隙だらけの背中だった。
 六星は黙って見送った。苦痛のせいではなく、ティエンの言葉だった。
 チーフ。木辺雹の事を思い出したからだ。

『操るのは自身という一振りの刃』
 木辺雹が最初の教えがそれだった。
 木辺は父の友人であり、十代の頃に知り合ったという。そのせいか、家にもよく顔を出した。その頃の印象は穏和そうなお兄ちゃんだった。
 父が亡くなった後も、引き取るという形こそとらなかったが、陰日向に様々な援助を行ってくれた。
 父親の一周忌にハンターになりたいことを告げると、木辺は力の一端を見せた。穏和なお兄ちゃんなどそこにはおらず、阿修羅がいた。『そうなりたい』という六星に木辺から送られた言葉がそれだった。
 六星の技の土台は父親の家伝の拳法である天見心纏流だが、身体運用を実戦を想定して構築しなおしたのは木辺の指導だ。ハンターとしてのやり口は、父よりもむしろ木辺に似ている。
 その木辺が、父の死の原因となった『真人』に属したと聞いたのは一年ほど前だ。
 ただ、面と向かって尋ねることはなく、木辺も六星の意思を尊重したのか、顔を見せなくなった。
 それからどことなく遠慮して『翼ある蛇』とのもめ事も起こさなかった。今になってみれば、何かがあったとき、木辺と向かうあうのが怖かったのだ。
 数分あまりの物思いの間に六星の出血は止まった。
「動けるな」
 短期間でずいぶんと回復したのはmagiの為だ。戦闘前に暗在系にバックアップしておいた自己像を元にmagiがシュルドレイク共鳴を利用して肉体を修復したのだ。Fictional Futureと違い即効性はないが、生命を保つという点では非常に友好的な手段だ。ただし、共鳴による修復は、同時に成長を封じる。前の段階に能力が戻ってしまい、戦いで得た経験を蓄積することができない。
 体は回復しているものの、未だFictional Futureの影響は残っているせいで体が重い。口の中で小さく「1・2」と数えながら六星は歩き始めた。
  Jacob's ladderに向けて。

posted by 管理人 at 19:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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