2007年08月16日

海深く翼7

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「ここだ」
 その邸宅は森の中にあった。
 森は暗く、その中に見える白亜の建物は、アールデコ様式。世界が一定の方向に向かうと大きな夢を持って生きていた時代の様式だ。
 一見個人の住宅ではなく、美術館や博物館を思い出させる。
 ドクターは慣れた様子で玄関に入った。
「とってくわれたりはせんよ」
 ルーテはドクターの後について入っていった。
 玄関には窓と一体化したガラスで作られた亜麻色の乙女の立像が飾られている。
「すごいですねこれ」
 立像を見ながらルーテはいった。ドクターは立ち止まった。
「まあな。なんといってもここは境界で一、二を争う金持ちだからな。この屋敷もそうだろう」
「おお」
 そういいながらルーテは六星の姿が無いことに気付いた。
「いないです」
「いやついてきてるから大丈夫だ」
 ドクターは後ろを見た。
「お待たせしました」
 髪を両脇に縛ったしたメイドが姿を見せた。
「こちらにどうぞ」
 家の中に入ると外よりも強く木々の匂いがした。
 案内されたのは広間だった。間接照明の薄明かりの部屋だ。ツツジをモチーフにした壁紙。床には赤色の絨毯が敷き詰められ、壁際に一人かけのソファが5つ置かれている。中央には大型のランプが置かれている。
「そちらに座ってお待ちください」
 ソファを示し、メイドは一礼する。
 ルーテとドクターはソファに座った。
「良い匂いするですね」
 ドクターがランプを指さした。
「アロマランプなんだ」
「ああそれで家全体が良い匂いするですね」
「お待たせしました」
 落ち着いた澄んだ声だった。
 先程のメイドに手を引かれ、姿を見せたのは少女だった。
 癖のないまっすぐな髪をポニテールにし、白いブラウスに紺のブリーツスカート。中性的に整っている面立ちの中で、口元は小さく笑んでいるのは女性らしい柔らかさを感じさせた。しかし、その目は閉じられている。
「遅くなりました。ア・・」
「ドクターでかまいませんよ。清原さん」
「ではドクター、『翼ある蛇』に追われているとのことでしたね」
「ええ」
 ルーテはドクターに手を引かれた。突き出されるように少女と向かいあう。彼女は目を閉じたままなのにじっと見られているように思えた。
「失礼」
 ドクターは少女の開いている右手をとると、ルーテの顔に沿わせた。少女の手は冷たい。その手が顔をなでるにルーテは任せた。不快感は感じなかった。手を通して感じたのは強い意思だ。
 少女は手を戻した。
「不調法をしました」
「だいじょうぶです」
 ルーテは見えないということを考えながらも小さく笑った。
「私に彼女をどうしろとおっしゃるのですか?」
「ところで清原嬢、彼女、ルーテを匿って欲しいのですが」
「ドクターがご存じかどうかわかりませんが、私は『真人』のステークホルダーです」
 ドクターは邪にも見える歪んだ笑いを浮かべた。
「だからこそですよ。組織の右手をしていることを左手は知るよしもない。ましてあなたは心だ。手では想像もつかないでしょ」
 少女は手を口に持って行って沈黙した。
 かっきり10秒。
「わかりました。この屋敷に滞在していただきましょう。橘花、私はいいから客間の準備を」
「かしこまりました」
 橘花と言われたメイドは一礼すると少しばかりうるさいくらいの足音で部屋から出た。
posted by 管理人 at 18:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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