2007年09月02日

海深く翼8

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「暫くすれば、橘花。先程のものが迎えに参りますから」
 少女はそういうと小さく頭を下げた。
「では失礼します」
 少女はゆっくりと背を向けた。
「一人でだいじょうぶですか?」
 ルーテが手を伸ばしたタイミングが悪かったのか、少女の体は前によろめいた。
「危ないです」
 少女の体は支えられていた。
 六星の手に。
 驚いたのか少女から笑みが消え、刹那冷ややかな仮面のような顔が見える。六星は素早く手を離している。
「だいじょうぶですか?」
「ありがとうございます。重くありませんでしたか?」
 少女の言葉にルーテは答えようとすると、六星が唇に手を当てているのが見えた。
「だいじょうぶです」
 少女は安心したのか笑みを再び浮かべた。
「では、失礼します」
 少女は戻っていった。
 すっかり部屋が静まりかえった頃、六星が口を開く。
「すいませんでした」
 ルーテが答えに困っているとドクターは鷹揚に口をいった。
「気にすることはないさ」
「あのお知り合いですか?」
 ルーテの問いに六星は目を細めた。
「どうしてそう思うんですか」
「だってあの人は目が見えないのです。だから声を出さなければ知られることもないですけど、最初から知らない人なら隠れる必要もないですよ」
 六星は落ち着いた声でいった。
「従姉です。会うのはずいぶん久しぶりなんですけど」
 その六星の答えはなお隠れる理由がないように思えた。
「まあルーテ聞きたいこともあるだろうがここはね」
 橘花と呼ばれたメイドが姿を見せた。
「お待たせいたしました」
 橘花は深く一礼する。
「至王子橘花です」
 六星を一瞥して、続いて顔を廊下にむけた。
「こちらにどうぞ」
 部屋を変えると森の匂いが変わり、レモンを思わせる匂いがした。部屋は黄色い壁紙がはられ、アルプスの山河を描いた油絵が飾られている。
「食事は、時間になりましたらお知らせします。何かご入り用の物がありましたら、ベルでお知らせください」
 橘花は小さく頭を下げた。
 部屋のソファにドクターは腰掛けた。立って居るままのルーテと六星に向かい目で促した。ルーテは座ったが、六星は窓際に拠って景色を眺めている。
 座ってみると、柔らかいソファに埋もれるようで、疲労が強く感じられた。
「少し休んだらどうだ」
「だいじょうぶです」
 そういっているがもう眠い。
 ルーテは目を閉じた。
「おやすみなさいです」

 目を開ければ月明かりが部屋に差し込んできていた。
 ベットの上にルーテは横たわっていた。部屋は変わら同じようにモダンな感じだが、ベットと壁に備えつけのクローゼットを抜かせば何もない部屋だ。
 ソファで眠り込んでしまった後、六星かドクターが運んでくれたのだろう。そう重いながらルーテは体を起こした。
 意識して体を動かしてみると重いのがわかる。昨夜から感じていた消耗は未だ回復してはいない。ルーテを追っていたあの一団の放つ武器は傷つけるわけではないが、ルーテの存在を欠落させる作用があるらしい。あまたの武器と同じく、自分を損なう事などないと、あたっていても気にしなかったのが現状をまねいている。
 少しでも休んで消耗を取り戻そうと目を閉じるが月明かりが瞼の奥にまで忍んでくるようで眠れない。
 ルーテはベットから降りて窓によった。カーテンを閉めようと手を伸ばすと、彫像の置かれた庭に六星が月を見ながらぼんやりと立っている。その姿は小さかった。
 
posted by 管理人 at 19:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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