2008年01月03日

海深く翼13

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「お父さん」
 六星は声を出して呼んだ。
 重苦しい空気は変わらなかった。こうしているだけで頭から押さえつけられているような気持ちになる。しかし、体の方は逆に熱い。何か内側からわき出るものに突き動かされるようだ。
 ピラミッドの中に入っていくと人がいた。あわてて近づくと、あるのは何か白い塊で人ではなかった。
 残念な反面、安心もあった。誰かに見つかれば、子供一人がここに、まして戦場に赴くなど許されはしない。
 戦場であろう、父がいるのは空調制御室といっていた。広すぎてどこに空調制御室があるかなど分からない。
 そう考えて進むと、ロビーの中央には受付があった。六星は横から回り込んで受付のカウンターの中に入った。館内の案内図を見ると、空調制御室は地下にあるのが分かった。案内図を手に、ついでに非常用と書かれた袋の中からヘルメットと懐中電灯を取り出した。 空調制御室に向かう。本来はロビーからは入れないと思われる施設フロアであるが、災害の際は全てのロックが外されるようで、あっさりと重い扉の中に入ることができた。
 扉の隙間から覗くと、電気は消えてしまっていて、緑色の非常灯だけが見えた。
 六星は進み始めた。数歩歩いて立ち止まる。聞こえたのは自分の足音だけだった。
「静かにいこう」
 父は気配を隠すのもうまかった。気配を隠せば目の前にいるのにまるでいないように錯覚しそうな存在の薄さになった。しかし、一度動いたときは、地味な努力の積み重ねな結果なのを六星は思い出した。気配を絶ったからといって魔法のように存在が消えるわけではない。
 階段を見つけて下に降りた。手すりをつかみ確実に一歩づつ歩いたせいで2〜3分はかかったろうか。階段を下りきったところで懐中電灯をつけた。階段を照らすと、地下というよりは高い建造物を見上げているような気分になる。その明かりを使って案内図を眺めた。このまままっすぐ行けば空調制御室につくはずだ。
 そう思った時、六星の口はふさがれた。
「どうしているんだ」
 少しあきれた声は聞き覚えがあるものだ。
「大きな声出すなよ」
 口から手が外された。
「雹さん」
 六星が笑うと、雹は苦い顔をした。怒られると思って目を閉じると、『はあこの親子は』と小さく呟いていた、
「戻るよ。ここは危険だ」
「雹さん、お父さん助けて。この先にいるんだお父さん」
「四郎さんが」
 雹はいうなり黙った。
 六星は雹の答えを待った。雹がいってくれるなら、きっとだいじょうぶそう思った。
「六星はここにいるんだ」
 雹は闇の中に入っていく。
 二人で戦ってくれればきっとだいじょうぶだろう。
 聞こえてきた轟音は六星の安堵を一瞬で打ち消した。それは巨大なものが起動する音だ、ジェット飛行機や、タンカー、そうしたもの。
 闇の中に光が生じた。スポットライトのように浮かび上がる瓦礫。その側にいるのは父だった。コンクリートの塊が背中を押しつぶしている。
「父さん」
 叫んで駆け寄った。だから、その光の源が何かなど気にならなかった。
「逃げろ」
 雹の声がした。
 そう光は天使が敵を捕らえるために放った光に他ならなかった。
 光を放ちながら天使が一斉に六星に襲いかかった。
 六星は無言のまま近づいてくる光を見ていた。その光がより大きな光に覆われていくのを六星は見た。

posted by 管理人 at 19:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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