2008年01月14日

海深く翼15

HOME海深く翼 ⇒ この記事です

「六星さん」
 ルーテの叫びが響くが、ルーテはすぐにおとなしくなった。側には雹が近づいてルーテの手を捕らえた。
「六星さん」
 六星の周りがゆがんだと思うと、立ち上がった。
「Fictional Futureを使ったのか。意識を飛ばしきれなかったか」
 Fictional Futureは限定的な時間回帰だ。既にもたらされた未来と、今存在する現在が六星の中できしみをあげている。もたらす苦痛をねじふせながら六星は叫んだ。
「ルーテさんを離せ」
 六星は地面を蹴った。
 一気に距離をつめる直線の動きは相手の遠近感を狂わせる。
 雹はルーテを背にしながら剣を六星に向けた。
 六星は舌打ちした。雹の構えは、そうすれば剣で六星の位置を推し量れる。加えて雹の攻めは突きだ。
 正面からぶつかった場合、突きは点の動きとなる。それは横から切られるのとは比べものにならない、見切りを難しくする。
 無数の突きが放たれる。
 だが、六星ははっきりと雨だれの如く放たれる刺突をみていた。
 雹から教わった事は多いが、盗んだ事も多い。今回はそれがうまくいっていて、動きを読み切れる。
 六星は剣が伸びきったところをとらえて刃を弾いた。雹の手から剣が足下に転がる。その体勢も小さいながら崩れている。
 六星は体を捻りながら拳を握り、一気に叩き込む。
「砕破衝風塵」
 衝撃を帯びた拳が雹に向かい放たれる。
 足下から稲光が走った。それが光ではなく蹴り上げられた剣と認識した時、脇腹を刃が切り裂いていった。
「操るのは自身という一振りの刃。教えなかったか?」
 雹の声を聞きながら六星の体は崩れ落ちた。
 脇腹が熱湯にでもつけたように熱い。それが痛みだと認識した瞬間、六星は叫びを上げた。
 magiを使い余計な情報、痛みを切り離そうとしたが、それは失敗に終わった。体の中でmagiは麻痺を起こしている。これでは治癒を始め、他の選択肢もないのと同じ事だ。
「magiは、新しい革袋に注がれた古い酒だ。酒に変わりはない」
 雹の前身が同族の裏切り者を断罪する人間である人狩りなのを六星は思い出した。同族とは六星同様、異能を持つ者に他ならない。まして自分が雹の動きを知るように雹も自分の動きを知っている。あの剣には何らかの呪能が込められていたのだろう。
 立ち上がろうとすると苦いものが込みあがってくる。それでも立とうとすると咳き込んだ。血だった。
 雹が地面に転がった剣を持ちあげるのが見える。
 雹はそのまま剣をしまい、ルーテに近づいていく。
「逃げるんだ」
 それは声にならずに喘ぎ声にしかならなかった。
 背を向けて館に向かうルーテに六星は安堵した。
 逃げかかったルーテの体が止まった。
 雹が自分の方に向かってくる。
「いこうか」
 ルーテは雹の言葉に頷いた。その頷いた理由が自分の生命であるのに六星は気づいた。
「だめだ」
 声よりも血が口から漏れた。
 あの時と同じだ。自分のせいでまた。誰かが結末を迎える。
 雹がこちらを見ている。その足が自分に向かい蹴りを放つのが見えた。
posted by 管理人 at 17:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。