2008年01月25日

海深く翼16

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「起きたか」
 濃い緑の壁紙。八角形の電灯が高い天井に揺れている。そこが自分に用意された部屋であるのを六星は思い出した。
「盛大にやられたな」
 声の方を向けば、ドクターが椅子に腰掛けて本を読んでいる。
「いかないと」
「止めといた方がいいぞ」
 立ち上がろうとした六星は痛みのあまり体をくの字に曲げる。
「一応塞いだが腹に穴が開いている」
「すいません」
 六星は息を整えた。
「どうもmagiが止まっているみたいだな」
「それで」
 一切の回復が停止している。
 六星の体はmagiを利用したDNAコンピューターによる肉体の制御が行われている。それは回復能力の向上。痛みのカット。身体能力の強化と数値で説明できるところだ。だが、制御しているDNAコンピューティングを制御するmagiは、オカルト、特に錬金術で培われたモジュール化だ。その黎明期、六星のしらないところを雹ならば熟知しているかもしれない。雹の持つ剣には術を阻む呪能があったのだろう。
「古い酒か」
 六星は立ち上がった。
 痛みを予想していたから先程に比べれば楽だが、それでも自由には動けない。しかし、ルーテを救いにいかなくてはならない。
「あてはあるのか?」
「最初にルーテさんを拾ったあたりにいきます」
「待て、行く前にあの音を聞け」
 廊下を指さすといったりきたりしている足音が聞こえた。
「清原嬢が部屋の前でずっと待っている」
「寧姉が」
「目をさましたぞ」
 寧が橘花と共に入ってくる。
「目がさめてよかった」
 寧は胸に手をあてた。
「すいません」
 ルーテのことばかり考えていて、屋敷の被害をすっかり忘れていた。門の方でした音を考えればそれなりの騒ぎがあったと考えてもおかしくはない。
「あなた以外誰もけがはしていないから大丈夫」
「よかった」
「よくないわ。その傷は雹おじさまね」
 寧と父と雹と自分でいったあの日が思い出された。
「さあ」
 六星はできるだけ平気な顔で歩き始めた。
「取り返しに行くの?」 
 六星は頷いた。
「おじさまは、ハンターとしてあなたに告げていた。知らなければ、ただの獲物の奪いあいになる。これから奪い返せば、あなたが獲物に回る」
「それでも行こうと思うんだ」
「どうして?」
「お姫様は救い出すものだから」
 寧はため息をついた。
「私もいきます」
「お嬢様」
 橘花が声をあげる。それに合わせるようにして六星はいった。
「ダメだ。そもそも目が見えないのにそんな」
 六星の頬に寧の手が触れた。
「何」
 寧の指先からリズムが感じられた。はじめは小さく血流かと思った。だが、弱いと思ったそれは強く鼓動のようになって六星に伝わってくる。
「どうして?」
 magiの発動だった。つぶやきめいたそのコードは暖かみに満ちていた。
「六星と同じでmagiによって最適化されているの。あの事件の後にすぐね、目が見えないのを踏まえて、問題ないように構成されたの」
「そんなことを」
「もう奪われるのはたくさんだから。父さんが亡くなった時も、母が消えた時も」
「戦いがあるかもしれない」
 寧は首を横に振った。
「六星、戦い方を見せてあげるからいきましょう。数年間、私がどんな戦場にいたか、言葉で語るよりもいい機会だから」
posted by 管理人 at 20:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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