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2005年01月26日

はじめに

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 ここにあるのは割合、ラフっぽいものです。
 もし自分の書いたものに興味を持っていただけたら

 http://99ya.gozaru.jp/monogatari.htm

 から見ていただけるとありがたいです。
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2005年01月27日

深淵

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

海の中に見えるのは深淵だった。
 ただ、そこを見つめる時、人は深遠の中に何かを見る。
 それは人にとっては罪である。永遠を誓った存在でもある。失われたぬくもりかもしれぬ。人の数だけ深淵に何かを見るのだ。
 深淵。そこが地名や固有名詞でなく、そう呼ばれるのは理由がある。深淵は東京湾の中に存在しているのは確実だ。だが、その位置は日々変動し、時には消え去ってしまったように姿を消すこともある。だが、深淵が消え去ることはない。人の心に自分では見ることができない部分があるように、それは確実に湾内にある。
 天津甕星は深淵を見つめていた。
 深淵の下には巨大なマギ・システム。人が神を真似る巨大な偽神が沈んでいる。この深淵が生み出されたその場に甕星はいた。
 だから、こうして深淵をただ見つめているだけの事が危険なのかも分かっている。
 深淵は人の闇を顕在する。闇を見ても動じないものならば問題はない。だが、闇に蝕まれ、そのまま命を失ったものは多い。
 生なき身になった事もわからずに、泣き叫び、今に悲嘆するものの怨嗟の声が甕星の耳にも聞こえてくる。
 闇を顕在する。だからこそ甕星はそこにいた。
 自分には闇はない。自分の心の内側は不愉快になるくらい分かっている。
 自己保身がない身では、この深淵を見つめても何ということはないのだ。
 しかし、甕星はよくここに来た。
 深淵は変化の多い世界で数少ない変化のない場所だった。
 深淵に映るのは見ている人間の内側。だからこそ変わらない甕星に見えるのは、かつての世界だ。
 ずっと道具として生きてきた。それは比喩ではなくまったくの事実だ。もともと自分が誰に創造されたかは覚えてはいない。初めて意識したのは血の海だった。あとから人もまた血の中で生まれる事を聞き、なんとなく納得したものだ。ただ、人が血の海を渡るのが生まれる瞬間だけかもしれないが、甕星はずっと続いたということだ。血の海の中で人の姿に擬する事も覚えた。そうしていれば、より手にとってもらえる可能性が増えた。
自分が生まれた血の海の中にいることが安堵につながる。だから常に戦い続けなくてはならなかった。
 血の海の中で最後に出会ったのが天見四郎だった。彼は武器を求めていた。そこにある数多の武器の中で、自分がとられたのはただの偶然。だが、その偶然が今の甕星を作った。そう、彼は愚かだった。
 甕星は深淵から眼をそむけた。
 愚かとはいっても主の遺言は守らなくてはならない。だが、甕星は。
 深淵の上に何かが浮いている。
 今日の深淵の場所は東京湾の真ん中。近くには何もなく、見えるのは魚くらいのものだ。
 だが、今日は違う。あの深淵にいる存在なんなのだろう。それは光に見えた。その光が深淵に近づくと、小さな光が深淵から出てくる。そして光は小さな光を連れ、空に上っていく。暫く時間を置いて戻ってくる。それの繰り返しだった。
 見ているうちに小さな光の正体が分かってきた。深淵からはなれる小さな光は魂、そして導くのは。
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2005年01月28日

心猿

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

「ああ、いたですよ」
 ルーテは呟いた。
 もともと魂を集めて天国に送る羊飼いであるルーテだったが、最近はどうも調子が悪い。
 今まではしっかりと案内する事ができた魂が今は不思議と見つからないことが多い。
 そんなに仕事第一というわけではない。何が困るかといえば、別に困ることはない。ぼんやりと人の世を眺めているのも好きだ。
 でも、魂を集めるのは嫌いなわけではない。死んだ事も気付かずさ迷っている魂は悲しいからそれを案内するのは嬉しいことだ。
 そろそろ夜も明けるから、もう一人ということだろう。昼の光の中では魂のもつ光はぼやけて見つけにくいのだ。
「私はね別にあいつのことなんてどうでもよかったのよ。ただ、付き合ってくれって土下座するから付き合ってやったのに、『女神にあった』なんていって別れてくれなんて信じられる」
「女神だなんて信じられないですよ」
「でしょ。だからね、そう思って一言文句いってやろうと思ったら飛行機落ちて・・・死にたくなんかない」
「そうですよね。でもですね、天国は意外といいところですよ」
「私悪いことたくさんしたから地獄いきだよ」
「天国も地獄も、あなたの中にあるですよ。あなたが天国にいきたいっていうなら門まで一緒にいくです」
「本当に?」
「そうです」
「そっか。天使が送ってくれるくらいなんだ。フランダースの犬ってしってるかな」
「しらないですけど」
「そっか。生きているうちにいろいろあった子がさ、最後に天国に行くんだ。天使に送られて」
「同じですね」
「そうそう同じだよ。だから、いくことにするよ」
「それが一番です」 
 ルーテは人魂を連れて宙に飛び上がった。
 ゆっくりと舞い上がるルーテの足元でひしゃげる音がした。
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2005年02月03日

親縁

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思わず手を出してしまった。
 あまりにもその光は無防備だったからだ。自分がしていることをまったくわかっていないその様子だった。何度となく小さな光を送るたびに、深淵が不愉快を持ち出している事に。そしてついに深淵が悪意を持って光に襲い掛かった。
 光を掴みそのまま天空に達する。
「どうしてそんな馬鹿な事をするのですか」
 思わずいうが光の方は差があるらしく分かっていないようだ。ただ、お礼がいいたいのは分かるのだが、それだけではしょうがない。
 持っている情報を分解し、光に入れた。
 光が変化し、人間の少女の姿をとっっていく。いや、天使だ。それほど大きくはないが美しい純白の翼。光を集めたようなの黄金の髪。碧の目はこちらをまっすぐ見ている。この情報は四郎の持っていた情報だろう。甕星の知る天使はむしろ獰猛で冷酷だ。
「助かったです」
「どうしてそんな馬鹿な事をするのですか? ああした行いを続ければ、何れ襲撃されるとは思わなかったのですか」
「何がですか?」
「あなたが奪っていた魂は深淵が所持していたものです。それを持ち去れば害意を持たれるのは分からなかったのですか?」
「ええと危なかったですか」
 天使は首を傾げている。
一瞬、壊してしまいたい衝動に駆られた。
 自分がもっていないこの自然な心が妬ましてならない。だが、その反面思うものもあった。
 つい助けてしまったあの衝動。あれはよく四郎が無茶をする時に感じていたもののように思えた。
「私が言えるのはもうここにはこないほうがいいということだけです」
「でもですねえ、ここにいる魂を運ばなければならないですよ」
 何の怖れもなく天使はいう。
「消え去ってもいいんですか」
「それが仕事ですから」
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2005年03月07日

White-Wing

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 現在連載中および、いろいろな世界に出回っているアルの真のデビュー作であるところの
White-Wingなのですが、とあるサイトにあるのを見つけました。でも、騒ぐとまた去っていってしまいそうなので、こちらから迂回してよかったら見てみてください。

White-Wing

 どうも続き書いているのが、あまり気に入られていなかったような気がしてきました。
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2005年03月22日

After babel の部屋オープン

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http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/f.htm

 六星やらルーテ、ノノ先生は誰なのかと聞かれたので。
 だが、どうも他の装備に重点がおかれてしまった。正直すまなかったと思っている。
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2005年04月12日

出会い アルと六星

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「依頼があるのだが」
 きれいな青い瞳が僕を見下ろしていた。
 僕はあわてて跳ね起きた。
 そんな風に彼女が山海探偵事務所を訪ねて来たのは、秋も終わりに差しかかった頃だった。
 僕はぼんやりと、叔父が創り、父が継ぎ、何年かすれば自分が使う事務所のソファに寝転がっていて、言い訳も聞かないくらい気が抜けていた。
 電話帳にも、ネットにも載らず、公式には休業しているここにくるのは、身内くらいもので油断していたのは事実だ。
 でも、こんな風に気づかなかったのはあまりにみっともない。
 跳び起きた僕を、彼女は淡い笑みを浮かべて見ている。
「ここは探偵事務所だろ。仕事を頼みたい」
 彼女はいった。金髪碧眼で、神秘的な美女というのはこういうものを言うのだろう。ただし、あと十年は必要な気がした。
 白いジャンパースカートをはいた体は小柄で、中学生もしかしたら小学生かもしれない。妹の七瀬の小学生なのに大人びた顔を思い出しながらそう思った。
 それ以上、観ようとしたところで、彼女の表情が厳しくなった。
「観るのはやめてくれ。そうでなければ信用できないのなら、依頼はしないことにしよう」
 こちらがどんなものか分かっているのなら話は別だ。
「どこからここを紹介されましたか」
「境界管理委員会の窓口で、腕が立って、目利きなのは天見六星だと聞いた」
 彼女に惑わされていたようだ。彼女の話している音の意味、きれいだなというが分かるだけで分からないが、何を言っているかは分かる。それは異界から来た人間独特のものだ。
「腕がいいとは聞いたが、無遠慮に踏み込むとは思わなかった」
「観るのは癖でして、本当にすいません」
 素直に誤ると少女は不思議そうな顔をした。
「無意識ならしょうがない。観るのは得意なのかな」
「得意ではないですが、使えます」
 得意ではないというのに嘘はない。息をするのと同じような事で、得手不得手とは関係ない。
「そうか。では頼むとしよう。物を探してほしい」
「何をですか?」
「翼だ」
 少女の背中に半ば砕けた翼が姿を見せた。半透明のそれは実際の翼ではなく光を背負っているように見える。
「天使」
 唇からもれた言葉は悪意をかくしきれなかった。
 まだ、忘れていないのか。
「これは観てくれて構わない。説明はするが、これは物品だ」
「そうですか」
 神聖な、天使にも通ずる性質を持つものだが、これは特定の神のための品物のようだった。
「観ての通り砕けている。自力での再生も行うのだが、破片があればそれだけ早くなる。そこで破片探しをしてもらいたい」
「分かりました」
「随分と安請け合いだな」
「管理局を通って来たというだけで、ある程度身柄は確実ですし」
「依頼人の名前も聞かないのか」
 すっかり間の抜けている話だった。
「もうしわけありません。天見六星です」
 名刺を取り出すと少女は指先でそれをもてあそんだ。
「アル・ナスラインだ。ところで一つ言っておくが」
 最後まで言葉を聞き取ることはなかった。
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2005年04月13日

四大精霊

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 そこは薄暗い塔の一室だった、
 魔術師は多くいてもここまで質素な部屋を持つものは少ないだろう。
 部屋の主フェイト・クローナーは自分を訪ねて来た少女魔道師を見た。
「君が作ろうとしている武器を作るのは難しいね。強力な精霊の助力が必要だ」
「だったら問題なし。だってあたし、精霊の支配者である、『白き翼』だもの」
 シアの言葉にフェイトは笑った。
「確かに君は精霊王の後継者だ。しかし、君に仕えるのはあくまで精霊王の
配下の意思を持った精霊。人の近くにいたせいか、自然の荒々しさを持つ真の
精霊ではなくなっている」
「真の精霊?」
「そう。それは力として存在するものだ。自然として制御できる事ができない
彼ら」
「だってあたし強いし問題なし」
「では、そうだね。一つわたしが彼らを呼び出そう。
彼女を捕まえてみたまえ」
「いいよそれでも」
 シアは自信ありげに頷いた。
 フェイトの呪文が部屋の中に響く。起きたのは自然の猛威であった。
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2005年04月14日

それいけノノ先生

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 学校初日。
 スーツの用意もばっちりだ。ノノはリアのために鏡の前で回って見せた。なかなか、動きに合わせて、動くスカートはいい感じだ。
「よくにあっているわノノ」
 リアはいった。
「ありがとうございますリアさま。ちょっと散歩してきますね」
「汚さないようにね」
 保護者に挨拶をして飛び立った。
「本当によかった」
 リアはつぶやいた。
「よろこんでくれてよかったあのスーツが出るまでに結構使ってしまったから」

 リアさんがノノのために箱買いしたグッズはこんな感じです 
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2005年04月15日

それいけノノ先生

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

「ノノ、学校はどうだったの。大変だった?」
 保護者のリアに言われて、ノノは小さく笑った。
「今日は資料もらって学校の中を回ったくらいなんで。でも、意外と向いている気がします」
「そうなの」
「今も資料を見てました」
「資料?」
「まあ、これを見てください」
 誰かが気をつかってくれたらしく、縮小コピーされたと思われる書類。
「変わった子ばかり集めたクラスらしいんです。あたしたちみたいに他の世界からきたような」
「適材ね」
「え。なんか押し付けられているような。だって見てくださいよ。先入観与えない程度の情報っていってこんなの渡されたんですよ。」
 リアは目を通すと苦笑を浮かべた。

1 何人もの人間を天国送りにした。

2 境界中の学校を締め、鬼と呼ばれる。

3 彼女を巡って白昼切りあいがはじまり血の雨が降った。

4 毎日のように、化け物に喧嘩を吹っかけるバーサーカー
 
5 逆らったもの存在を抹消する権力者。

6 とその取り巻き。

7 既に博士号を持ちながら、今回の学校運営に興味を持って参加

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2005年04月18日

それいけノノ先生

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 ノノは廊下を飛んでいた。意外と重いのが出席簿である。先生として初めてということで副担任になったが、いつまでも担任の姿がない。そこで出席をとることになったのだが。
「大丈夫ですかノノ先生」
 そう声をかけられた方を見ると白髪頭の老人が立っている。小脇にはノノの読めない難しい漢字で書かれた本が見える。
「教授おはよう」
 生徒が声をかけて通り過ぎて行く。
「よかったらお持ちしますよ」
 老人は手を差し出した。
「ありがとうございます」
 ノノは頭を下げた。
「これでは先生には使い辛いでしょう。生徒には、各人のルールをできるだけ優先するといってますが教師にまでは手が回らないようですしな」
「そうですね」
 歩いている内に見えてきたのはM組だった。
 ノノは過日渡されたメモを思い出し、ため息をついた。
「どうされました」
「いろいろな生徒がいるみたいですね」
「案ずるよりうむがやすしですよ」
「おお」
 ノノは扉を開けた。
 落ち着いてみれば一見まともそうな面々だ。中にはルーテや封希といった知り合いの顔も見える。これならどうにかなるように思えた。一緒に入ってきた老人は教卓に出席簿を置いた。そのまま生徒達の合間に混じる。
「え?」
「教授、遅いですわ。今日は詩経の読み説きをしてくれるんではなかったですの?」
 品の良さそうな黄金の瞳をした少女が老人にそう話しかける。
「清原さんすまないね。いやいや、そこで先生とお会いしましてな」
 ノノは大きな声を上げた。
「教授じゃないんですか」
「徒名ですい。いやはやお恥ずかしい」
 

7 既に博士号を持ちながら、今回の学校運営に興味を持って参加
  有馬暁生 あだ名は教授
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2005年05月05日

それいけノノ先生

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 午後の用意を終えて、職員室を抜けた時に、12時半を回っていた。
「ねえお昼」
 教室に戻るがだれの姿もない。
「もういちゃったか。まあ、いいや学食いこう」
 学食は盛況だった。
 食券を買おうとノノはバックパック(財布)の中を見た。中にはお金はない。昨夜の事が思い出された。学校の資料で重量限界でお金の類いを家に置いてきたことを。
「仕方ない」
 ノノは庭に出た。
 エルフと一緒に住んでいるから、野生の食べ物には詳しい。てっとりばやく蜜を飲もうと飛び始めた。
 いい匂いがする茂みの中に入って行った。
 花が咲いていた。ノノの名前の知らない花の中、少女が一人眠っていた。
 クラスにいた少女だ。名前は清原寧といった。
 少女は目を開けた。きれいな黄金の瞳がこちらを見ている。
「こんにちわ先生。どうされたんですか」
「蜜吸おうと思って。昼寝中だった邪魔してごめんね」
「いいえ。それよるお昼がまだでしたらどうぞ」
 いつの間にか少女の膝の上にはバスケットが用意されている。
「サンドイッチですが。もしよろしければどうぞ」
「ありがとう。最近こっちの食べ物には慣れていたから、あまり乗り気じゃなかったんだよね」
 ノノは寧の横に座った。寧はバスケットを開いた。
「おいしそう」
「肉は好きではないので野菜やチーズばかりですが」
「別にだいじょぶ」
 ノノはサンドイッチを手に取った。人間には少し小さめかもしれないがノノにはちょうどいい。
「おいしい」
「喜んでもらえてうれしいです。飲み物もありますよ」
 寧は小さなコップを差し出した。中には程よい暖かさの紅茶が湯気をたてている。これまたちょうどいい。
「もしかして人形好き?」
「いいえ。どうしてですか」
「よく6分の1がちょうといいっていわれるの。そのサイズって人形なんでしょ」
「ああ。確かに先生の大きさはそうですね。ただ、適した大きさを出したらそうなっただけですから」
「すごいね。そんなにカップ持ち歩いてるの」
「そんなところです」
 寧はいった。
 寧の携帯が鳴った。
「はい。ええ、撤去手段はお任せしますが、あまり蔓延るのも問題ですので、浄化はしっかり行ってください」
 携帯をしまい寧はノノの空になったカップにどこからともなく取り出したポットで紅茶を注いだ。
「すいません」
「仕事? 学生だしそんなことないか」
「休み時間もあまりありませんし、食べるのに集中したほうが」
「そうだね。先生が遅刻するのもね」
 ノノは食べるのに集中した。腹八分といったところでサンドイッチは終わった。
「ごちそうさまでした」
 ノノは頭を下げた。
「おそまつさまでした」
 寧も同じように頭を下げた。
「悪いなあ。あのさ清原さん」
「はい?」
「明日はお礼するから」

「デザート作ろうと思うんですよ」
 夕食の後言い出したノノにリアは目を細めた。
「いいけど気をつけてね」
「魔術じゃあるまいし大丈夫です。クッキーだし」
「そう。私はあっちでテレビ見ているから何かあったら読んでね」
「おいしいの作るからお楽しみに。その前に材料買いにいってきます。ちょっとジャムほしいので」
「昼間、トラブルがあったらしいから気をつけてね」
「何があったんです?」
「漂流した船が爆破されたの」
「そうなんですか」
「中には人もいたというしね。逃げ遅れた人がいないといいけど」
「怖いなあ」
「浄化といっては、私達に危害を加える人間もいるから気をつけないと」
「分かりました。でも、人間もいろいろですよね。今日いい子いたんですよ。お昼食べ損ねてたらお弁当わけてくれて」
「そういうちょっとした出会いが対立を変えるのかもしれない」
「そうなれるといいです」

「よいしょっと」
 ノノは人通りの少ない朝の街をクッキーの入った袋を背負いながら飛んでいた。
 朝、早く出たせいで人どおりが少ない。おまけに空を飛べることを活かして今日は公園の上を飛び、大幅にコースカットして飛んでいる。
 下の方で声があがった。
「また寧がしたの?」
 鋭い声だ。
 下を見れば制服姿の二人だった。
 一人は寧。もう一人は金髪の少女が目に入った。褐色の肌にポニーテールにした金髪。スタイルはいい。
「あんたたちストップ。喧嘩はやめなさい」
 ポニーテールの方が消えた。
 すごい早さで移動したのか、何か魔術を使ったのかは分からない。
「だいじょうぶ」
「ありがとうございました」
 寧は頭を深々と下げた。
「いやいいけど、どうしたの喧嘩?。殴る方も殴られる方も痛いからやめたほうがいいよ」
「おっしゃる通りです。そもそも喧嘩が起きないようにできるのが最善なんですけど」
「そうだね。せっかく朝あったからあげる」
 ノノはバックパックを差し出した。
「これは」
「昨日のお礼。クッキー食べて」
 寧は壊さないようにそっとクッキーを受け取って抱き締めた。
「ありがとうございます」

5 逆らったもの存在を抹消する権力者。

6 とその取り巻き。
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2005年05月12日

それいけノノ先生

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 世の中には一目ぼれという言葉がある。
 そんなことは人間の話だと思っていた。
 でも、そんなことはないっていうのが今日初めて分かった。
 きれいなワイルドさを感じさせる金色の髪。形のいい頤。きれいな瞳。持ち運びに困らなそうなサイズ。

「サラ、サラ・ノーマン。魔術は天使向きじゃないのは分かるけどしっかり聞いて」
「はい、分かりました」
 ノノは大きく息を吐いた。
 そろそろ半月あまり。だいたいクラスのメンツもとい教え子たちの事は分かってきていた。
比較的みんなまじめに授業を聞くのが以外だったが、考えて見ればみんな必死なのだ。結局ここを卒業すればそれなりの場所を得ることになる。この世界で生きていくのなら学歴は必要なのだ。たとえ異能を持つとしても。いいや、異能を持つが故にだ。管理されていないそうした力は恐怖を与える。だが、それがコントロールされていると照明されれば違う次元のものとなる。
 サラは一見褐色の肌に下ろした癖のある金髪で、長身でスタイルのいいせいか超然としたというか、天使らしい畏怖すべき神秘といった雰囲気をもっている。物静かないい子なのは分かっていた。それでも普通に受け答えはする。ルーテもそうだが、この学校に来るような天使は温厚な性格のものが多い。
 天使がそうした温厚なだけでない一族なのをノノも聞いていたがここに関する限りはそうでもないようだった。

「どうしてそうルーテは遅いんだよ」
 サラはルーテにいった。
 同じ天使系統であるはずなのに自分に比べてルーテは遅く感じられる。
 この学校に近い船溜まりにくるのにも、ルーテを待って十分は過ぎている。本来、天使なら一瞬でこれる距離のはずなのだが。
「サラさんが早いですよ。それにどうしてそんなに魔術のとりしまりなんかするですか。サラさんも御仕事ないから学校にきているですよね」
「お父さんにそんな事を聞かれたら消されてしまうよ」
 サラは小さな声でいった。
「はあ、いちじく扱いはされないと思うですけど」
「今から後いつまでも、お前から実を食べる者がないようにね。
いつ招命されても困らないように鍛えておかないとだめだよ」
「天の国への門は狭いですからね」
「そうと分かったらさっさとあのレギオンを掃除するよ」
 レギオン。船溜まりといわれるそこに溜まっているのは半ば実体を持った気の塊だ。その中にこもっているのはうらみつらみといった負の感情だ。まだ、それは何も起こしてはいない。だが、これをこれらレギオンは魔術の触媒になるのだ。
「サラは破壊、ルーテは浄化だよ」
「了解しました」
 サラの手には制服姿には不釣り合いな斧が現れる。
「さっさといくよ」
 サラは斧を叩き落とした。
「滑ったよ」
 滑りながらもレギオンは一瞬で砕け散る。だが、それは一部に過ぎない。二度、三度とするうちにレギオンの多くが砕かれる。実体を失い浮かび上がった思念をルーテが奈落に誘導していく。
「てめえら人がせっかくためておいたのに何しやがる」
 叫んでいるのは現れた小鬼だった。のっぺりとした顔と糸のように細い目。ずんぐりした身体は黒い衣に覆われ足は赤い。
 サラは息を吐いた。何度してもここはすぐに溜まるのはそういう理由だったようだ。
「魔術師は地獄行きだよ」
 サラはごく自然に小鬼に斧を向けた。
「お前ら天使だろ。博愛とかないのか」
 無言のままサラは斧を叩き落とした。小鬼の身体ぎりぎりに斧をめり込んでいる。
「サラさん、そんなにしなくても」
 サラは斧を消した。ポニーテールだった髪が落ちて、広がる。
「あんたたち止まりなさい」
 その声は矢のように突き刺さった。
「力の行使は許可をとらないとダメでしょ」
「どうしたですサラさん」
「帰ろう」
「どうしたですか?」
「来るの」
 ルーテは近づいて来る一団にノノの姿を見つけ大きく手を振った。
「ノノさん」
 ノノが急いで近づいてきているのが見える。中で飛翔できるのはノノだけらしく誰もついてこない。
「ノノさん、どうしたですか?」
「どうしたって、辺り一帯破壊している生徒がいるからって。まさか二人が」
「ああ、それは。よくわからないです」
 いいかかったルーテの翼はサラの手につねられている。
「ああ、聞いてくれよ」
 小鬼はノノに向かい声をかける。
「ひでえんだよ、こいつら」
 言い掛かって小鬼は絶句した。ノノの背後で、サラは小鬼など一撃で叩き潰す大きさの斧を構えている。
「がこなかったら危うく殺されるところで」
「助けてあげたんだ。まあ、サラさん天使だしね」
 ノノがサラに目を向けた時には既に斧は消えている。
「私も天使ですノノさん」
「ぼけなくていいよルーテ。ルーテが、羽根人間なのは分かっている。最近、輪もつけてないし」
「ひどいですよ。わたしは本物の天使です」
 ルーテは懐から輪を捜し出すと頭につけた。
「分かった分かった。じゃあ、この辺りは危ないから早く帰るのよ」
 ノノはそういうと去っていった。
「見逃してあげるよ」
 サラは言うと飛び上がった。ルーテはあわてて後を追った。
「どうしたですか」
「だって乱暴な子って思われたくないよ」
 サラは小声で言った。
「サラさんかわいいです」
「うるさいよ」

4 毎日のように、化け物に喧嘩を吹っかけるバーサーカー
 
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2005年05月19日

それいけノノ先生 その男カネール

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 ノノは小さく歌いながら空を飛んでいた。
 いつものようにコースカットすべく、公園に入ると、ルーテがベンチに座って、ぼんやりとしている。
「ルーテ」
 ルーテは顔を上げた。あまり元気そうではない。
「どうしたのルーテ」
「ああ。最近、仕事がないんでのんびりしてたです」
「仕事?」
「そうです」
「天使の仕事」
「ああ。それもさっぱりですね。最近、天国への門も広いようで、迷う魂の話も聞かないです」
「そうなんだ。まあ、この世界のルールはよく分からないけど、それ以外というとバイトか」
「2月とか12月はあるんですけどこの時期はあまりないですよ」
 2月はキューピットぽく弓を持ってバレンタインの売り子。12月はサンタクロースの服を着て、ケーキの売り子として、天使はいい相場で雇ってもらえる。バイトをしてくれる天使は貴重であるから引っ張りだこらしい。
「それに学校いってるんだからしょうがないじゃない。学生の仕事は夢をみることらしいし、したいことでも考えておけば。その目的に沿っていろいろできるみたいよ」
「おいしいものが食べたいです」
「ああ、コックさんとかいいね」
「お腹すいたです」
 ノノは笑った。
「今、腹すかせてて、明日を夢見るのもね。何か食べに行こうか」
 ルーテは万歳に笑顔になった後、沈み込む。
「ああ、でも、今月もピンチなんです」
「ごちそうしてあげる」
「そんな悪いですよ」
「ああ、給料入ったから。ふふ、初任給だぞ」
「おお、すごいです」
「じゃあ、どこいこうか」
「カーネルさんの店にいくです」
「カーネル?」
「白い髭を生やして赤い服を着たおじさんがいるですよ」
「サンタクロース?。まあ、いいやいこう」

「ケンタッキーじゃない」
 ルーテが案内してきたのはフライドチキンをメインにしたファーストフードだ。
「でも、カーネルって言ってたですよおじさん」
「そのおじさんって誰?」
「ここのお店を最初に開いたっていってました」 
「そうなんだ」
「カーネルおじさんです」
 店の前の等身大の像をルーテは指さした。
「ルーテ、おじさんとあったのって」
「はい、天国です。ああ、天国にも仕事が有るですよ。お金はないんで、奉仕する喜びとか。感謝される喜びとかが、もらえるですけど」
「天国でもおじさんはチキンを揚げてるんだ」
「ええ。天国にないスパイスが多いってぼやいてたです」

1 何人もの人間を天国送りにした。

カーネルおじさんについて
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2005年05月26日

それいけノノ先生

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 ノノの通勤は大変である。
 まず積載重量。学校関係のものは学校においておけばいいことになったのでどうにかなる。だが、お金を置いていくわけにはいかないが、小銭だとけっこうかさばる。
 通勤経路。ノノが住む妖精島といわれる区域から、学校まで公的な交通機関はない。妖精によっては電気系統に異常を起こすので、線をひけないのである。ちなみに内燃機関は基本的にさけた方がいい。そこで魔法の絨毯バスや、乗シーサーペントがあるのだが、意外と御高い(定期も学割もありません。)
 結局、自力で飛ぶことになるのだが、ノノは全力で飛べばそれなりに早くても、持久力がないので結局休み休み行くことになる。
 結局のところ、早起きして出かけることになる。
「眠い。あたしどうしてこんな暮らししてるんだろう。森できままに暮らしてたはずなのにな」
 ちょっと考えたが、眠気に負けて思考力が落ちていく。
「うう。眠い」
 いつものように少しでも飛ぶ距離を減らそうと思って公園に入った。
 この時間だとまだ人気がないはずなのに、今日は既に人がきている。
 少年と少女がちりとりとほうきを使って公園の掃除をしている。その側には古めかしい屋台が置かれている。火の入っていない行灯がゆらゆらとゆれている。
 少年は教え子だった。確か天見六星といった。物静かな少年でクラスでもあまり話しているのを見たことがない。六星の方もノノに気づいて頭を下げている。
「おはようございます」
 六星は頭を下げた。少女は少年の背に隠れるようにして頭を下げる。顔立ちはどこか似ていて、兄妹なのだろう。
「おはよう。早いね」
「ええ。今日はここに店を出すので早めに掃除しておこうかと思いまして。先生はどこにお出かけですか?」
「どこにって学校」
「ああ。お疲れ様です」
「確かに。飛んでいくのも一苦労だし」
「先生も妖精島に住んでらっしゃるんですね」
「うん。リアさま、主人がそこにすんでいるか」
「通勤、大変ですね」
「もう慣れてきた。それよりここってそんなに客足多いの?」
「まあ、先生もよかったら帰りがけにでも」
 そのすまなさそうな顔からあまり客はこないようだ。
「うん。寄るよ。じゃあ、またね」
 ノノは再び飛び上がった。
 
 ノノは疲れきって帰りの道を飛んでいた。空に道はないというが、だいたいいつも同じところを飛んでいれば道のようなものだ。
 公園の上を通って・・・ノノは頭を下にすると一気に飛び降りた。
「ちょっと何やってんの?」
 昨日の少女が小さな鬼と向かい合っている。黒い服に赤い靴。線のような目は見覚えがあった。
「あんたまた」
 そういいかけてからああ違うと分かった。種族が同じだけでノノがあったことのある鬼とは違う。
「あんた。なんか勘違いしているようですがな。金はらわんといっているわけではないんです。ただ、今日は持ち合わせがないんで、少しツケで食べさしてくれんかとそういっているわけです」
 という鬼に少女はえらく無表情だった。
「ちょっと待てストップ」
 ノノは少女の前に降り立った。
「あたしだって面倒だけど、しっかりお金払って生活しているんだから、ちゃんとしてくれないと困るのよね」
「何だ妖精ですか。黙ってもらいましょう。これはこのお嬢さんとわれわれの問題ですから」
「あのね〜、この子は知り合いなの」
「知り合い。いったいどんなお知り合いで。そちらのお嬢さんの」
 丁寧な口調だが、少女の方にはおびえが見える。
「この子怖がってるじゃない」
「あのひとりくらいなら」
「だめ。ここでいうと付け上がるんだからこういうやつらわ」
 騒ぎを聞きつけたのか何人かの人々がノノの横に並ぶ。その数は五人あまりになった。
「仕方ありませんなあ」
 その声が終わった途端にしげみがゆれた。鬼たちがいっせいに現れる。百はいるだろうか。それも間の前の小鬼ではなく、オーガーといわれる大物もまじっている。
「あんたたち、まさかこの子がいいっていったらみんなでたかる気だったの!」
「多勢に無勢ですよ」
 鬼はいった。ノノは後ろを見た。泣きそうな顔の少女に。周りの人々はひるむことなく向かいあっている。
「数は問題じゃないのよ」
 ノノは吼えた。
 刹那だ。
 制服姿の少年が現れたのは。少年は天見六星だった。
「ありがとうございます」
 はっきりとノノに頭を下げ、六星は鬼に向かい合った。
「七瀬をお願いします」
 六星は小さく構えた。
「ちょっと一人でする気?」
「数は問題じゃないですから」
 静かに六星はいった。
「ちょっと」
 六星は飛び出した。
「霹靂拳だ」
 中の一人がいった。
「霹靂拳?」
「そうだよ七歳の時に、境界中の流れ者を倒して回ったんだよ。ああ、今はあんたみたいにいい人もいるんだろうが昔は悪かったからね」

 数分後。小鬼は消えた。


2 境界中の学校を締め、鬼と呼ばれる。
境界中の漂流者を屠りかけ鬼と呼ばれる
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2005年06月02日

それいけノノ先生

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「誰、先生にこんなことしたの」
 サラは怒鳴った。
「事故だよ」
 誰かが小さな声で言った人間はそのまま沈黙していた。目の前で怒鳴っているサラのせいではない。はっきりと自分の存在に標準はあわさっているのが分かる。
 そう清原寧がたっていた。
「先生を運びます」
 倒れて地面に突っ伏すノノを寧は抱き上げた。寧に近づいてくるのはサラとルーテだ。
「ノノさん、何かあってもわたしがついているからだいじょうぶです」
「ルーテ、不吉な事を言わないでほしいよ」

 ノノは目を開けた。
 翼の生えた美しい女性が目にはいった。咲き乱れる花園。いわゆる死後の平安だ。 
 続いて視界に入ったのは寧とサラが言い争っている姿だ。
「先生に当たらないようにするのは簡単なのにどうしてしないんだよ」
「それでは一緒に遊ぼうと思った先生の意志を挫くでしょ」
「命を賭けるなんておかしいよ」
「ああ、もうやめるです」
 ルーテがあたふたしている。
 起き上がって元気なところをと思うが、ノノの体は動かない。
「お前ら言い争いは外でしてくれ。ここは神聖な場所だぞ。場合によってはここを離れ、さまざまな世界に向かう存在を送り出す場所だ」
 どこかで聞いた声だと思い声の方を向こうとすると、床は火の海が見えた。
 天国と地獄?
「まあ。ここに入った以上、何者もルーテに任す気はないが」
 ノノの事を少女が見下ろしていた。整ったせいでやや冷ややかな印象を受ける顔だった。
「そろそろ起きることだな」
 声が聞こえると体の中に活力が満ちるのが分かった。それは頭から指先まで、体の中にぬるま湯を注ぎ込まれた感覚だ。
「アル、なんでいるの?」
 目の前の少女は、聖女と呼ばれたり神殺名医と言われるアル・ナスラインだった。
「それはノノ嬢のように命をかけて教職にあけるものの手助けをしたくてな」
「いや・・・」
「分かっているそれ以上いうな」
 痛さは身に染みて分かっているからもうドッチボールは遠慮したかった。
 どうしてついつい楽しそうに見えて一緒にするだなんていってしまったのだろう。
「よかった」
 清原寧はいった。表情は変わらないが手が強く握り締められている。
「だいじょうぶノノ先生」
 サラは潤んだ目で見ている。
「ああ、えっと。だいじょうぶだよ。痛いところないし」
「大丈夫だって」
 サラは目を輝かしている。
「今度はうちのコートにきてくださいよ」
「じゃあいくです」
 天使に連行されて、また命をかけた戦いの場(一名限定)に連れられて行くノノ先生だった。
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2005年06月16日

それいけノノ先生

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「今日から転校生くるけどいじめないようにね。まだきてないけどもうくるはずだから」
 ノノはいうのを待っていたようにドアがノックされた。
「どうぞ」
 教室に入って来た生徒は、剣柄のブレザーではなく、古めかしいセーラ服に身を固めていた。メガネの下の瞳はおだやかな光を放っている。
 生徒は無言のまま黒板に大きく名前を書いた。スカートの裾がきれいに回って見えた。
「転校生のアル・ナスラインです。よろしくお願いします」
「ちょっと待った」
 思わず突っ込みをいれるノノにアルは華やかな笑いを浮かべた。
「ベタだな。っていうか、先週まで校医だったじゃないの」
『辞めた。卒業資格がないとダメだというのでな。それに何か大学というのまでいくと、賃金の具合がよくなるというではないか。それで、大学にいこうと思ったのだが、その前に受験資格を手に入ないとならなくてな。そこでいける学校がどこだと考えたら、ああ自分の働いているところがそうだという結論に達してな』
「よろしくお願いします」
「分かった。みなさんもよろしくね命が惜しかったら間違っても細かいことはきかないようにね」
「そんなことないですよ」
 アルは大きく頭を下げた。

 休み時間になりアルの回りに来ているのはルーテと、封希だった。
「保健室はどうしたですか?」
「疾斗さまにお願いしました」
「ああ、だからさっきいたんだ。でも、疾斗、よくしてくれたね。忙しいみたいだったのに」
「いいえ。疾斗さまは説得に快く応じてくれました」
 アルは邪笑を浮かべながらルーテを見た。

 アルの説得
「なあ疾斗氏。校医をしないか」
「・・・?」
「封希嬢がいるぞ」
「それで」
「彰斗氏も先生でいるのだ」
「で」
 鼻で笑う疾斗は彰斗など問題ではないといっている。
「封希嬢は毎朝昇降口で大変そうなんだ
「?」
「恋文。ラブレターで、そうフロが沸かせるくらい」
「・・・」
「保健室にも人が来る。しかしそればかりにはどうにもならないしな。」
「?」
「そうそううちの学校には伝説の告白スポットが多くてな、図書館、裏庭、部室棟、樹木、古墳、屋上、プラネタリウムと多種多様だ」
「・・・・」
「昼休みには見に来る男もいるし、夏になって水泳なんか始まればきっと整理券を配らなくてはいけないくらいに・・・」

「と延々といかに封希嬢がもてるというのを推測を交ぜながら小一時間ほど、でその後に」
「黒い羽根としっぽが見えるですアルさん」
「しまった。この学校ではちょっとイメージチェンジをしようと思ったのについ本性が」
 その横で封希がぼんやりしている。
「そんな心配してくれてるんだ疾斗」
「どちらかというとジャイアニズムっぽいが」
「俺のものは俺のもの お前は俺のものです」
 
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2005年06月23日

それいけノノ先生

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 七瀬が小さな鳴き声を聞いたのは店を畳んだ時のことだった。
 小雨と思っていた雨は大降りに変わり、もうお客さんもこないように思えた。
 九十九神の屋台である源さん(元燈無蕎麦)はある程度勝手に片してくれるから、七瀬の仕事は店を出していた公園の辺りを回るくらいの事だ。
 そんな時に「わんわん」という声を聞いたのだ。
 段ボールだった。子供が書いたのかクレヨンでカラフルにたどたどしい字で書いてある。
「拾ってください」
 段ボールは雨に濡れて、壊れて来るし、声がだんだん小さくなるものだから七瀬は慌てて中をのぞき込んだ。

 六星が家に帰ると七瀬が家の前に立っている。
 きっと何か拾ったんだろうと思って六星は目を細めた。
 七瀬は捨てられているものがあると拾って来る。中でも一番大きいのは元燈無蕎麦の源さんだ。だが、生き物を拾って来ることも多く、裏庭は一時は動物王国と化していた。
「どうした七瀬」
「あのね、わんわんないてて雨降ってきてて」
「何をひろったんだい」
 犬だろうと思いいった。 
「どんなの?」
「うん。はちみつみたいできれいな色なの」
「飼いたいの?」
「うん」
 七瀬は息をするのも辛いようにおっかなびっくりだ。だから六星もついいってしまう。
「ちゃんと世話できるならいいよ」
「ありがとうお兄ちゃん」
「で、どこにいるんだい?」
「お風呂。冷たかったからあっためてあげようと思って」
「一匹で入っているの。お風呂好きなんて珍しいね」
「さっき羽根を洗ってあげたら喜んでた」
「羽根?、妖精犬でも拾ったの?」
「だいたい、そんな感じのだよ。夕飯、できてるよ。今日は空まめ貰ったから炒めてみました」
「着替えて来るから」
「分かった暖めておく」
 犬のように鳴き羽根を生やしていて、体毛は黄色。
 六星は白澤図に載っていた斯渓を思い出した。
 山中にあり、人を食らう。見は翼に包まれ滑空する。犬のように鳴き人を惑わす。
 七瀬は妖気とかそうしたものを察するのがほとんどないので、前はトカゲだと思って竜を拾ってきた事もあった。もしそうなら。
 何があっても対応できるように身構えて風呂場から中を伺った。
 シャンプーハットの下で金色の髪が踊っていた。
「七瀬さんですか」


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2005年07月02日

それいけノノ先生

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「お兄ちゃん、用意できているよ」
 食堂にいけば七瀬が「目覚めよリトルグルメ」と、ぶっそうなことを歌いながら料理を皿に持っていた
「七瀬、何を拾ったんだい」
「あのねえ」
「いいお湯だったです」
 入ってきたのはハチミツ色、わんわんと無き、羽根を持つ、山中で人を食う妖怪ににたルーテ・キューブリックだった。
「はい、ルーテさんのお箸とご飯。そこに座って」
「すいませんです」
 ルーテは進められるままにお客さん用の六星脇に座った。
「どうしていらっしゃるんですか?」
「拾われたからです」
「拾われたって犬や猫じゃ無いし」
「あのですね段ボールに入って拾ってくださいって書いておいたです」
「どうしてそんな」

 雨が降っていた。
 学校が終わり公園に戻ったルーテはせっせと家の修理を始めた。
 天使の家は雨に弱い。できるだけ雨が入らないように樹上や、建物の陰になるようにしているのだが、連日続くと土台が段ボールな為に限界があるのだ。
 それでもせっせとルーテは修理を続けた。
「何してんの?」
「ノノさん。いや、家を修理しているです。最近雨が続いててちょっと壊れてしまって」
「レンガで作れば。三匹の子豚でもそういってたし」
「レンガですか。でもですね、材料もこれが精一杯で」
「疾斗のところに戻れば。さすがに追い出されないでしょ。封希のところでもいいし。あと前いたところ。あのインチキな占い師」
「それはよしておくです」
「どうして?」
「天使は一カ所に止まるといけないです」
「そうなんだ。じゃあいい方法があるよ。これはいろいろなところで聞いた話だし、あたしもこれで封希に会えたから、優しい人を探すのはいい手だよ」
「おお、そんなのが」
「まず段ボールを用意する。そして、適当に人通りのある、ここが大切。あまり多いとダメだよ。人通りがあると自分以外誰かがするって思われちゃうから、そういうところに段ボールを置いて入って鳴くの。そうするとだいじょうぶ。ああ、拾ってくださいとか書いておいても効果的」

「七瀬さんと直ぐにあえたし。さすがノノ先生です」
 六星は大きく息を吐いた。こう正直に話すのだから後ろ暗いところなどまったくないのだろう。しょうがない。そうしょうがない。
「うちにいるのは構いません。ただ、何かあったときはちゃんと、さよならをしていってください」
「わかったです。挨拶は大切ですよね」
 ルーテはうなずいた。

リトルグルメって何って人はこちらを
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2005年07月07日

『…わたしが生まれた夏は母さんの生きてきた中で一番暑かったの。千の夏が重なったくらい』 

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 雨が降っている。
  山で遭う雨は、不意に訪れ、予想を許さない。街に入れば、ほんの少しの努力で逃れられる雨もこの山の中では無理な事だ。
  木々の葉を揺らす雨音は大きく森の中に響き、山が脈打つ鼓動のように思える。鼓動の中を宇賀史明は走っていた。自分自身の鼓動が大きく山と一体になったような錯覚。
  どこでケチがついたんだ。
  確かニュースが聞こえていた。途中で通り過ぎた街の一つで強盗が出たというのを聞いた時に、嫌な予感がした。ラジオが聞こえなくなったと思うと車自体も力を失い止まってしまった。それでも自力でどうにかなると信じていろいろ手を尽くしたのが、いつまで待っても車一台通ることはなく、思いついたのが途中で見た看板だった。随分と古びていたがそこには旅館の名前が記されていた。そこで電話を借りよう歩き出したのだ。晴れていた空は気付けば黒雲が見え、すぐに大粒の雨が降り始めた。
  シャツもジーンズも雨に濡れ、身体に張り付き走り辛くなっていた。遠からず足を縺れさせ転がる事だろう。
  時折、山に囲まれた狭い空で稲光が見える。雷鳴との間隔がせばまり雷は少しづつ近くなっているようだ。
  宇賀の顔が明るくなる。遠くに灯りが見えたのだ。宇賀は足を速めた。

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2005年07月09日

それいけノノ先生 寧さん事件です

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 妖精島で花火が上がっている。
 大気の中を花火を作り出す波紋は一瞬一瞬で消えてしまうが、それでも印象は残る。淡く痕跡を空に残して行く様は同じものは二度とない。
 40階建ての最上階。空をそのまま切り取ったような大きな窓からの景色を清原寧は好んだ。
 アールデコ、既に一世紀は越えたモダンな室内で、一人チェアに腰掛けている姿は、眠っているように静かだ。
「嬢」
 寧は視界を切り替えた。空に見えるのはただの白い煙が風に紛れて行くだけだ。昨日の西の帝国の建国記念の行事に比べればずいぶんとさみしく見える。
「どうしたの?」
 側に見えるのは幻のようなそれでいて実体を持った小さな鬼だ。黒い服に赤い靴をはいた肌色の顔をした糸のような目をした小鬼。
「知らせくる。どうする?」
「まあ、仕方ないわ。休校ね」
「さぼりと違う」
「さあ」
 寧が頷くとタイミングよく電話が鳴った。出れば知人が怪我をしたのと事だ。
「そうですか」
 寧は立ち上がった。自分が声をかけられたということは、恐らくはもう助からないのだろう。
 寿命。
 そう思ってちょっと悲しくなった。知人、沢瀉執政官との付き合いは自分がまだ幼い頃からのものだ。
「直ぐに行きます」
 視界を切り替える。世界がただの情報の羅列と化した。自分がいる清原ビルの1階。エントランスの一角を読み上げる。
 移動。
 寧の体は1階に移動していた。無人のエントランスを抜け、寧は外に出た。
 梅雨時期のしめった空気が体にまとわりつくのに任せたまま歩きだした。
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それいけノノ先生 六星もきてます

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 沢瀉執政官が倒れた。
 それは秘密に属する事だ。境界2を管理する境界管理局。そのトップに立つ人間が倒れた。医学面からは原因不明。となればどうしてもある可能性が出てくる。それは呪詛だ。
 境界管理局は古今東西を問わず、様々な神秘により守られている。だが、さまざまな異界からの流入が確認される東京湾。未だ、未知の呪詛を用いるものがきてもおかしくはない。
 天見六星は視覚を切り替えた。マギ使いの基本であるサーチだ。シンプルなポストモダンに統一された室内が二重写しになる。様々な光を放っているものは、結界だろう。境界管理局の魔術の素晴らしさを示している細かさだ。今見ているものが。部屋にはこれといって忌まわしさを感じるものはない。
 その神々しい光が歪んだ。金の光が見えた。それは神々しいと思われた管理局の結界が一瞬で色あせる。光は一人の少女の姿をとった。
 清原寧だった。
「おはようございます」
「おはよう」
 寧がいうのに会わせて足元の鬼も頭を下げる。とりま鬼と寧が読んでいる鬼はいろいろと働き者らしい。
「おはよう」
「おじさまが倒れられたんですってね」
「ああ。原因がわからない。だから呼ばれたみたいだ。そっちはどういう経緯?」
「にたようなものですが、おじさまはご自身に何かあった時に、私達が介入するように手筈してあったようですわ」
「それでか。朝ごはん食べてたら突然だったから驚いた」
「七瀬一人だと寂しいでしょうね」
「ああ。まあ大丈夫だと思う。見たところ部屋には何の痕跡もない。ただ自分ができるのは現在の認識だから、寧姉ならもっと細かく見れるんじゃないかな」
「辿れるのは六時間程度ね。ここは結界がいろいろあって。その浄化作用が効きすぎていて正直難しいですね」
「辿ってくるから少し待っていて」
 寧は目を閉じた。足元で小鬼が謎めいたダンスを踊っている。
 ここに蓄積された過去の情報を読んでいるのだろう。
 三秒ほどして目を開けて寧はいった。
「けーき。原因はケーキだわ」
「ケーキくらいで。イエローケーキのこと?」
「それでは沢瀉さんも助からないでしょう。って違います」
「乗り突っ込み」
 寧は頬を赤くした。実は寧はお笑い好きだ。イメージの問題であまり見せないが。
「それより包み紙はあなたの家のだったわ」
「怒るよ。七瀬がそんな物騒なもの作るわけない」
「まあ紙だけ偽装ということも考えられるんだけども」
「バースデーケーキか」
「どうして?」
「いや、何日か前七瀬が用意してた。沢瀉おじさん用だったけど。もしかして、いやこれは事件じゃなくてただの間違いかもしれない」 
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2005年07月12日

それいけノノ先生 愛の重さ(A面)

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 あなたは窓に雨が当たる音にカーテンを開けました。
 雨が降り出しているせいで、湿気を孕んだ空気が流れ込んできます。
 時間が夜中に近いこともあって通りには人はおらず、街灯の下に一つの影があるだけです。
 あなたは注意してその人影を見ました。制服姿です。その顔は整っていてきれいで、金髪や青い瞳は、遠い異国の人のように思えました。こちらをその瞳は見つめています。とたん、顔には安堵が浮かび上がります。
「よかった」
 声は本当に間近で聞こえました。声だけではありません。直ぐ側の雨どいに少女は立っています。
「こんばんわ。はじめましてというべきかな」
 その外見に合わない口ぶりと容姿は、あなたの記憶から一つの名前を蘇らせます。
「アルさん?」
「ああ、分かってくれてうれしいよ」
 アルはうれしそうに笑いました。
「あの、どうしてここに?」


「だってわしはアル・ナスラインだしな」
 説明にならない説明を残し、アルは大きくくしゃみをしました。七月に入っていると言っても梅雨寒はまだ続いています。
「どうぞ」
 そういうとアルは頷いて部屋に入りました。
 いつから外にいたのか随分と濡れています。
「結構片付いているものだな」
 あなたがタオルを差し出すと、アルは黙って濡れた髪をふき始めます。
「何か飲み物でも」
 アルは小さく首をふりました。
「これを渡したら直ぐに戻るのでな」
 アルはどこからか取り出した大きな包みをあなたに差し出します。
「詳しくはこれを見てくれればいいぞ」
 差し出されたのはビデオテープです。
「分かりました」
 あなたはテープをデッキにいれました。
 
ー再生中ー
 ルーテのバストアップが曲がって映っている。
「ノノさん、ちゃんと映ってるですか?」
「うん、ばっちし」
「先生、ウソはだめだよ」
 画面が天井や、部屋の様子を映し出した。そこは普通の家らしい台所だった。
 最終的にルーテの姿が正面から映った。
「なにが世界最小最軽量よ。使えると思うじゃない」
「人間用だからしょうがないよ。サラには少し小さいけど」
「じゃあ、私が映そうか」
「封希はダメ。ルーテの手元から目を離しちゃダメ」
「料理は愛情ですからだいじょうぶですよ」
 ルーテがポーズをとっている。
「その曖昧さがいくつもの惨劇を招いたのをあたしはしっているから」
「この七瀬さんから、借りてきた秘伝レシピその4があればだいじょうぶです。前も喜んでいただけましたし」
 小学生用の自由帳を突き出すルーテ。
「ルーテちゃん、これ塩と砂糖が逆だよ」
「え、すいませんです」
 ルーテ、あわてて手元で、がちゃがちゃとしている。
「よしこれでだいじょうぶです。じゃあ、レシピ通りにいきます」
 それから無言のままルーテ、紫色の粉をふるいにかけている。
「大きな粒はこの時に潰してこまかくするの」
「分かったです」
 ルーテ、真剣にふるいで固まりがちな粉を砕いている。
「こうやって見ているとどうしてああいうのができるか分からないんだけどな」
「もともとない技能だからしょうがないんだよ。光があれば生きていけるんだ天使は」
「その割りにはサラもご飯食べてるよね」
「それは実体部分を全て光を変化させるのも辛いからしょうがないんだよ」
「ルーテは余程光がもったいないんだな」
「ルーテは多分、嗜好として食べ物が好きなんだ」
「あのサラ、あまり翼撫でないでくれる」
「ああ、ついふわふわで。サラの翼は堅いからうらやましいよ」
 そんな会話はすっかり聞こえていないようで、ルーテは粉に牛乳をいれて溶き始めた。
「こうやってしっかり混ぜて練って後は蒸すだけみたい」
「分かったです」
 画面が切り替わった。紫色の巨大な蒸しパンのようなものの上にクリームが塗られていく。ルーテの真剣な横顔が映っている。
 そうしている間にクリームはきれいに塗られ、砂糖菓子が飾り付けられる。
「あとはロウソクを立てて完成です」
「あと熟成させるんだって」
 封希の言葉に頷く。
「おつかれさま。最後にメッセージいって」
「誕生日おめでとうです。いっぱいの幸せが降ってくるよう神様に祈ってるですよ」
ー再生終了ー


「これがそのケーキなのだ」
 あなたは危険を感じて少し距離をおきます。ルーテの事を誰よりも知っているあなたなら正しい判断です。
 アルはバースデーケーキを出すとロウソクの準備を始めます。
「今ロウソクを立てるから。10のケタは省いていいかな?」
 アルはとても優しい笑顔です。いつも邪笑と表記されているのはきっとこの顔でしょう。
「心配しないでくれ。だからわしがきているのだ」
 アルが胸を張って言います。
 そんな善後策をとるよりもっとすることがあるのではないか。そう思いながら逃げ場を探していると、白い翼が窓の向こうに見えています。あと金色の髪も。
 いろいろな意味で準備ができすぎです。
「誕生日、昨日なの」
「そんなことはないぞ」
 時計を見るとまだ今日です。
「日付が変わる前にどうぞ」
 アルがロウソクを吹き消すように促します。
 自分の命の火が消えないことを願いながら、あなたはロウソクを吹き消しました。
 アルは手際よくケーキをカットすると2人前程度切り分けて差し出します。
「どうぞ」
 フォークで一口運んだ瞬間、口の中を何かが弾けていきます。一瞬それが苦痛のように思えたのは錯覚でおいしさが口の中を広がって生きました。
「おいしい」
「え?」
 アルが驚いた顔をしています。
「料理は愛情ですよ」
 窓の向こうで嬉しそうに翼がはためいているのが見えます。続きを読む
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2005年07月15日

それいけノノ先生 担任

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「・・・ああ、でもそれはしょうがないと思うです。手伝える事があったらするですよ」
「そうそう一生懸命やってるよ」
 ルーテとサラが壁に向かい話しかけている。
 ノノが天使二人が壁に向かい話しかけているのに気づいたのは、梅雨に入った頃からだった。それから気にしていれば毎日壁に話しかけているの。
「そう思うですよね、ノノさ先生」
 いきなりルーテに話しかけられ、、ノノはうなずいた。
「ほら、ノノ先生はやっぱりいい人だよ」
 サラはとても熱心にうなずいている。
「ところで何の話?」
「ノノ先生が副担任としていやがっているんじゃないかって、先生がいっているです」 
「先生って担任のアルベルト先生? どこであったの」
「あの先生はいつもここにいらっしゃるですよ」
 ルーテがいうが、ノノにはその姿は見えない。
「ああ、やっぱり見えないんだよ」
 サラは残念そうにいった。ノノはサラの見ている方に向かいとんだ。
「あ、うらやましいんだよ」
「ノノ先生、照れているですよ」
「?」
「先生は幽霊なのですよ」
 幽霊担任アルベルト。
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2005年07月16日

Shura Beating Soul 明日への来往その3

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「よし」
  アルは小さく呟いた。
  戻ってきたらレジスとフェルティアの姿に気づき、邪魔しないように隠れていたのだ。二人揃って人前だと意地をはる傾向があるので、まったくしょうがない。正確にいうなら、フェルティアがここにくるのも掴んでいた。そのためにレジスにそれなりの立場を提供したのだが。しめしめというやつである。
  宴は円舞曲に導かれるように、すっかり雰囲気が華やかなものになっている。
「さて、そろそろ退散するかな」
  アルは宴に背を向けて再びテラスに出た。夜風が薄手の装束に少しばかり肌寒い。
「少し張り切りすぎたかな」
  ・・・見せる相手もいないのに。


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/032.htm
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2005年07月21日

それいけノノ先生 ドライブ

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 今日はエンジンの調子がいい気がした。
 そんなのは錯覚だ。ネロデイトナのエンジンはいつもと変わらない。境界の道路はいつもと同じだ。国産の車には十分な広さだが、ネロデイトナには狭く、エンジンが生み出すパワーの多くを無駄にしている。能力を押さえ込まれたせいか、時折不機嫌だというようにうなりをあげる。
 それが力をもてあましている疾斗自身を思い出させて、いらつきが増す。そんな悪循環。
 今日は違う。うなりもないし、動きもスムーズだ。
 助手席を見た。荷物を抱っこするように抱えた封希の姿がある。
「楽しいか?」
 封希は黙って頷いた。とはいってもにこにことしかいいようがない顔が雄弁だ。これで楽しくないのならアカデミー賞がとれるだろう。
『あのね、海に行きたいの』
 海に行きたい理由は不明だったが、封希がこう楽しいなら不服はなかった。
「どこの海がいいんだ?」
「あのね外房のほうがいいの。けっこう遠いよね。食べ物は作ってきたんだけど。ああ、飲み物忘れてす。疾斗もなにか飲むよね?」
「そうだな」
 確かに喉が渇いている。
「コンビニがあるよ。わたし買ってくるね」
 コンビニにネロデイトナを停めると、封希は走って店に向かった。
「気をつけろよ」
「だいじょうぶ」
 封希はコンビニに入っていった。注意が聞いたのかちょっとつまづきながらも無事に。
 空は快晴で、飛び込めそうなくらい綺麗な青だ。
 いい日になりそうだった。
 空を切り裂くように光が一つ飛んでいる。それは境界にいてもそれほど多く見かけない速さだ。それは不意に空中に停止した。それに続くように遅れて光が飛んでくる。
「待ってくださいノノせんせ、サラさ〜〜〜〜〜ん(ドップラー効果)」
 ジェット音のように聞きなれた声がした。
「・・・」
 疾斗は外に出た。日差しが腕を焼き付ける。疾斗はじっと空を見た。この距離ならあたるだろう。
 コンビニの扉が開いて急いででてきた封希がつまづいた。
「封希」
 駆け寄って手を差し出すと
「ありがとう」
「何あわてている?」
「うん」
 封希は頷いた。そして回りを見た。
「どうした?」
「あのね今、ルーテちゃんの声が聞こえたの」
「そうか気のせいだろ」
 疾斗はいった。
 空にあった2つの光は既に飛び去ったのか、姿が見えない。
 もっともきたところで、封希に気付かれないうちにいなかったことにするだけだろうが。


 疾斗と封希は雛稀さんのところの子です。http://pure.egoism.jp/


 
彼女の名前は封希、彼の名前は疾斗。二人は、ごく普通(?)に惹かれあい、ごく普通(?)に付き合いだしました。でも、ただひとつ違っていたのは、彼は魔王だったのです。
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2005年07月28日

それいけノノ先生 制服は正規店のユザワヤで購入しました

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 職員室に入ると、生徒が机をあさっていた。
「なにしてるの?」
 荒れた学校とか(イメージ映像)。
「なんて事」
「ああ、新入生か」
「新入生?」
「あんたのこと。うちな、ここだけの話先生やねん。だから内緒にな」
「あたしも先生よ」
 ノノは叫んだ。
「またまた、どうせどこぞの人形使いやろ。よくできてるけどだまされへんで」
「だから先生だってば。そっちの方が怪しい。どこの世界に生徒と同じ制服きた先生がいるのよ」
「あまいな。このもっとも制服が似合う先生コンテスト七連覇のうちをしらんとは、そっちのがもぐりちゃう」
「至王子先生、ノノ先生が困っておいでですよ」
職員室の温度を下がったように思えた。入ってきたのは手に日誌を持った清原寧だった。
「ああ、寧ちゃん。おはよう」
「おはようじゃないです。たまにしかこないからそういうことになるんです」
「相変わらず固いな寧ちゃんは。それよりも、この小さいのが副担任?」
「小さいっていうな。地球に優しいんだから
「ああ、そっか。よくあのクラスで」
 とその制服姿の先生は頷いている。
「うちは式王子橘花。橘花ちゃんでええよ」
「あたしはノノ先生ね」
「わかった。しっかし、ノノ先生も大変やね。担任は病院送りやろ」
「?」
「あれは不幸な事故でした。それよりどうして制服なんです?」
 当たり前のことの用に橘花先生はいった。
「似合うから」
 寧はノノの机の上に書類を置いた。そして、ポーズをとる至王子橘花のツインテールを寧は握った。
「さあいきますよ。実習のミーティングですから」
「寧ちゃん、校内暴力反対」
「誰が見たって『橘花ちゃん』となら、生徒同士のぼけとつっこみにしか見えませんから」
「いけず。っていうか寧ちゃんのはいじめ・・・」
「では失礼します先生」
 寧は穏やかにノノに向かいほほ笑むと出て行った。
「いろんな先生いるな」
 と自分を棚にあげてノノはいった。
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2005年07月30日

はじまりの物語 ノノ 封希 疾斗 ルーテ

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雨が降ってきていた。
  こんな寒い日はぬくもりが恋しい。そう思いながらノノは翼を丸めた。少しでも自分の体温を逃がさないように少しでも暖かく。
  この世界に迷い込んできてしまって数日。この世界では、お金というものがなければまともに生活できないのがわかった。とはいうもののこの世界の住人は自分の何倍も大きい。単純に体を使って働くこともできない。
「リアさま」
  呟いた名前は気付かないくらい遠い。元いた世界や、仕えていた主人を考えているとさびしくなってくる。それは体だけでなくいろいろなものを削っていく。気力とか、生気とか見えないけれど生きるためのものだ。
「だめだこれじゃいけない。今日は帰らないと」
  この世界にきてから家にしているのは古い工場だった。その軒先に置かれたダンボール。そこがノノの居場所だった。
「あれ」

http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/1.htm
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2005年08月04日

それいけノノ先生 「  」

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 外房の海は青い。太平洋の青は黒めいた青で一見静かに見えるがその勢いは力強い。その海を一望できる灯台の上で倒れている天使が一人。
「疲れた死(デス)」
 ルーテはだらんとベンチに腰掛けていた。もともと色は白いが今はそれより青が目立つ。
「ルーテ、しっかり」
 ノノは濡れハンカチ(ノノ的には布団サイズ)をルーテの頭に乗っけている。
「だらし無いよ。何かあったら困るよ。これくらい軽い運動だよ」
「だって急に千葉を越えた辺りから早くなったじゃないですか」
「悪意を感じたからしょうがないよ。ノノ先生を抱えていたし」
 と先ほどまでの幸せを思い出しながらサラはいう。
「気付かなかったですよ」
「これを飲んで頭を冷やすといいよ」
 サラはルーテにペットボトルを、ノノに紙パックの黒酢ドリンクを差し出した。
「うう。その時はサラさんに頼むです」
 ルーテは水を飲んだ。水が減るに連れてルーテの顔色はよくなる。
「おかしいな。ルーテはもっと早いはずだよ。ちゃんと「  」している」
「うわしてないですよ。「  」は苦手で」
「あまりしないと差が増えていって辛くなるだけだよ」
 ノノは紙パックの黒酢ドリンクを飲み終えた。
「さっきからよく分からない言葉が飛んでて分からないんだけども」
「「  」だよね」
「なんていったらいいですかね」
 二人は顔を見合わせている。
「サラやルーテは、この世界に本体から投影されているんだよ。本体は大きすぎてこの世界で活動するとバランスが崩れるから」
「そうなのですよ。だから時折、「  」をして、本体との調整を行うです」
「いいね」
 ノノは息をはいた。
「ノノさ先生、大きいっと背の話じゃないですよ」
「そうそう重さの問題だよ」
「もしかしてあたしもそういうことかも。そうだ、きっとどこかの世界に行くと大きいんだよ」
 ノノは希望を見出したように力強い声でいった。
「その気になっている先生かわいい」
「うわあ、ダメなところもしっかり話した方がいいんじゃないですか」



  さんたの考えている、天使について
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2005年08月07日

Shura Beating Soul 明日への来往その5

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 こもっている島と聞いていたせいで、むしろ北の島を思い浮かべていた。空は常に曇っており、波は荒く、いつも泊まれる港もない。人々はみな陰鬱で、重苦しい雰囲気の中、かろうじて生命をつなぎとめている。
  というのをアルは想像していた。
「こもるって理由は保養か」
  アルはつぶやいた。
  だが、来たのは、椰子が生え、白い砂浜の広がる美しい島だった。青く澄んだ海はきれいな色の魚が日の光を返しながら泳いでいる。
「違いますよ。ここはジャック・アーヴィングが復讐者となり、エリク・チェンバースが太陽の騎士となった島。この砂浜で、魔術師は、ブロッサムを奪い去っていたんです」


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/034.htm
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2005年08月13日

Shura Beating Soul 明日への来往 間奏

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「怒ってるかなフェルティア。それよりアルちゃんの方が怖いけど」
  レジス・シャールは飛び出したもののどうすることもできずにふらふらと町の中をさ迷っていた。飛び出たものの、逃げ出すわけにいかず、かといって戻るのも気まずく、ふらふらとしているのだが。
「素直に謝ろうかな。いや、俺は悪い事はしてない。フェルティアを危ない事に巻き込みたくないだけだしな」

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/035.htm
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2005年08月18日

それいけノノ先生 花びらの白い色は

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「あそこにいるの封希と疾斗じゃない」
 ノノの言葉にルーテとサラは目をこらした。
 灯台の下の方に見える花畑には封希と疾斗の姿がある。
「おお本当だ」
「あんなにくっついて熱くないのかな。人間は」
 疾斗に抱っこされるようにして封希は海を眺めている。
「サラ、あたしを抱えながらいわないで」
「涼しくないですか。少し温度を下げてますけど」
「いや。涼しいけど。便利だね天使は」
「封・・・もごもご」
 ルーテが声をかけようとするのをノノが止める。
「黙って見てよう。せっかくここまできたのに邪魔するのもね」
「そうそう野暮ってものだよ」
 封希が小さな細いひまわりを積んでいる。疾斗は黙って封希を引き寄せた。封希は何を思ったのか疾斗の頭にひまわりをつけた。鮮やかな大輪が疾斗の黒髪に・・・。
 ノノが吹き出した。
「疾斗が頭に花つけてる。しかも満足そう」
「ノノ先生、声が大きいよ」
「気付かれたです」

「封希、あの花も綺麗じゃないか」
 疾斗は少し離れたところに見えるハイビスカスを指差した。
「きれいだろ」
 こくこくと封希が頷く。
「俺もそう思う」
「とってくるね」
「ああ。つんでいてやってくれ」
 疾斗は灯台の方に見える、翼つき三人組を見つめた。

「あわ、本気ですよ。南の方では、あの封希さんがとりにいかされている花は」
「え、いやだってこれくらいじゃ」
「でも来たよ」
 疾斗は一気に飛翔したらしい。あっという間に灯台に到達している。その手には大型の漆黒の剣が見えている。
「疾斗さん悪気はないですよ」
 なみだ目でルーテはいう。
「そうそう疾斗、・・・だめだ笑いが止まらない、だって頭にひまわりつけてすごまれても」
「よく似合っているよそのひまわり」



答え
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2005年08月25日

それいけノノ先生 だけど今日は彰斗先生です 前編

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「へ、新入りだとよ」
「まだ若いじぇねえか」
「せいぜい背中には気をつけろよ」
「あの格好なんだ遊びにでもきたつもりか」
 彰斗はそんな声を聞きながら回りを見た。
 そこは地下とは思えない程、広い空間だった。電灯の明かりは、遠くになるにつれ、小さく隙間なく見えてくる。いったいこの広さは何なのだろう。街程もあるこの空洞は
 しかし、問題はそこにいる顔ぶれだった。どう見ても兵士や戦士が多い。人間種、妖精種が中心だが、中には悪の組織の怪人といっていいようなどうにか人間形を保っているような甲殻類めいたものもいる。
「いったいどうなってんだ」

 夏休みも終わりに近づき、花火大会や、祭り、旅行などは終わり、最後は海を謳歌しようとした時、部屋の扉がノックされた。
 開けば笑顔がまぶしいエルフの少女だった。
「ボランティアへのご登録ありがとうございます。彰斗さまですね。
「そうだけどボランティアってなにかな」
 少女は手元にある書類と、彰斗の顔を見比べている。
「ああ、記憶にないのですか。それは困りました。こちらとしては強制するわけではありませんが人数がその」
 少女は本当に困っているようだった。
「ボランティアなんだよね」
「ええ。そうです。場所は海で、ゴミ掃除です
 そうして過ごすのもいいかもしれない。
「いいよ」
「ありがとうございます」
「終わった後時間あるのかな」
「え」
「せっかくだから花火でも持っていこうかって」
「いいですね」
「君もする」
 少女は本当に嬉しそうに笑った。
「喜んで」
「じゃあ約束な」

 ってどうしてこんな生命賭けるはめになってるんだろう。
 愛用の双剣を振り回しながら近づいてくる泥を切り裂く。
「馬鹿野郎。増殖するだろ」
 ハサミで殴られた。
「なにするんだ」
「よく見ろ」
 確かに破片が元の大きさに復元して行く。
「刃物は呪文なりなんなりで凍った奴だけにしろ」
「わかった」
 甲殻類の話を聞きながら身構えた。
「ありがとう」
「変な奴だ。無駄口たたいてないで戦え」
 そのボランティアは退治だった。
 疑似生命。海底のパイプライの一角に何かあるらしく、沈殿した泥が、一時的に生命力を得て襲いかかってくるもの。
 そんなものを撤去しているらしい。半日あまり泥と戦っている間に分かったのはそんなところだ。
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2005年09月01日

それいけノノ先生 だけど今日は彰斗先生です 中編

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 一日あまりは戦ったろうか。
 地下の一角に作られたプレハブの中で、彰斗は体を休めていた。
 体力的にはまだ余裕があるが、精神的につかれてきているせいか、どうも調子が悪い。
 加えて回りはどう見ても荒事を仕事にしている連中だ。気も滅入る。
 彰斗を案内したエルフの少女が入ってくる。
「どうもありがとうございます。大丈夫ですか」
「全然余裕」
「よかった」
「はい。ただ、あと少しだけ」
 少女は誰からも見えるように部屋の前に立った。
「今日もお疲れさまでした」
「なあ、いつまでこれが続くんだ」
「数日中には終わりにしたいと思います」
「あてはあるのか」
「今日までは防戦一方でしたが、反撃に出ます」
「できるのか」
「するんです。その為にもみなさんのお力をお借りしたい。直接、魔王に挑みます。この作戦は任意です。一名でも多くの参加を望みます」
「ばか言うなあいつらの本拠地にいって勝てるわけないだろう」
「そうだごめんだ」
「だから任意だといっています」
「俺行くわ」
 彰斗は立ち上がった。
「おまえみたいな小僧がか」
「女の子が困ってるのに手を貸さないのはな」
「おまえみたいな小僧一人でやれるかよ」
 立ち上がったのは甲殻類だった。
「外にはいらっしゃいませんね。では、お二人はこちらに」
 少女に連れられ、彰斗と甲殻類は外に出た。
「どうしてあんなにびびってるんだ」
「ああ、水底の魔王を知らないのか」
「魔王に知り合いはいるけど、深海のはしらないな」
「だからああして簡単に決めたわけだな。深海の魔王ってのは、生きた泥どもを操って、こうしてここを占拠しようってやつだ。今まで何人も挑んだが、ほぼ全滅だ」
「そうなのか」
「どうした」
「だいたい全滅したとかいってどうして伝わるのか不思議だったんだが、ほぼなら問題ないな。実際いる敵ならどうにかなるでしょ」
 少女は彰斗が先程戦っていたところを抜け、さらに奥に向かう。
「では向かいます」
「用意もなしか」
 甲殻類の言葉に少女は首を横に降る。
「いいえ。既に用意はできています」
 地下道に向かい進んで行く。10分あまり歩いた頃、バナナが山のように積んである。
「寧ちゃんきたみたいやで」
「分かったわ」
 声は二つ。
 電灯の明かりの中に立っているのは制服姿の二人だった。
 清原寧と至王子橘花だった。
「先生」
「清原じゃないかどうしてここに?」
「実習です」
 実習。希望がある物は学校の方で実習扱いで仕事を斡旋するのは聞いていた。
「引率者は?」
「そこです」
「ああ、双子の先生やね。よろしく」
 と制服姿で説得力に乏しい。それが顔に出ていたようだ。
「制服は世界を救うで。だから古今東西いろいろな人が世界制服っていって世界を制服だらけにしようと・・・」
「ここ危ないから」
「分かっています。だから呼ばれたんだと思います」
 そういう寧は美人で、珍しい色のカラーコンタクトが入っているところを除けば、普通の女子高生だ。
「そうです。今回は彼女の手助けがないと無理なんです」
「ええ。私、得意なんです。探すの。師娘も得意ですから、問題ないと思います」
「わかった」
「よしよしこれで彰斗先生も制服やね」
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2005年09月03日

それいけノノ先生 だけど今日は彰斗先生です 後編

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「これならいけるかもしれねえな」
 甲殻類はいった。
「そうかな」
「今までは魔王のところにつく前に随分消耗していたからな」
「そうなんだ」
 恐らく選ぶコースが最短なのだろうがそれでも1時間は歩いている。案内なく闇雲に進めばどれだけかかったろうか。
 甲殻類は随分なれているように見える。
「もしかして、ほぼ全滅って」
「ああ。俺が唯一の例外だ」
 寧と橘花が立ち止まった。あれこそと相談している。
「こっちです」
「そうかな。相手は魔王なんやろ。そんなすっきりしとるかな」
「最後だからこそすっきりしているのではないでしょうか」
「どうしたんだ」
「ええ。もう少し行くとかなり大きな空間があって、そこにいると思うんです」
「でもな、そこには一体くらいしか敵がいない感じなんや」
「だからそこにいくと、世界の半分をとか言われてしまうわけです」
「でも半分だけ制服着せてもな」
「そうそう制服、違うでしょ」
「ええ。違うの。さっき秋人先生やって賛成してくれたしな」
「敵は一体なら突っ込むのがいいんじゃないか。前は大量に襲われたしな」
 経験者の甲殻類の言葉に秋人もうなずいた。
「そうしようぜ」
「どうする」
 エルフの少女は頷いた。
「基本的には氷結させて片付けるのは王といえども同じですから」
「じゃあ、一気にいこう。各自武器の用意はええかな」
「おお」
「不意をつくなら転移していった方がいいですね」
「転移?」
「厳密には違いますが瞬間移動です」
「分かったそれで」



静かな空間の中には確かに誰の姿もない。ただ、こんなところにも電気がきているのか明かりだけはある。
「どうなってんだ」
 彰斗は進んだ。
「上だ」
 上から泥が降ってくる。それは降りてくるなり人間ほどの大きさに変わる。落ちてくるのは一つだけではなかった。
 寧は小さくつぶやいた。
「引っ掛かった。逃げて」
 瞬間、部屋が変容する。
「一体っていっただけで大きさが」
 寧は声を上げた。
 部屋全体が一気に崩れ落ち泥の触手となり、襲いかかった。
「伏せろ」
 甲殻類が叫んだ。
「師娘、結界を。みなさんはそこに」
 寧の目が黄金の輝きを強くした。
「掌握」
 寧は無造作にいうと落ちてきた泥は停止する。
「すげえ」
 彰斗は寧がそれを支えているのを見ていた。
「量が多すぎる。師娘、結界を張って」
 橘花がさっさと結界を張っている。
「掌握限界」
 泥が落ちてくるのと結界。橘花の作り出した空間は泥の中に埋もれた。
「部屋に擬態していたのか」
「私のミスです」
 寧はいった。
「師娘の言う通りでした」
「生きているだけいい。前はここまでくることもできなかったからな」
 そう甲殻類はいうと膝をついた。
「おい」
 甲殻類の背中は大きくひびが入っている。
「気にするな。今までのつけだ。今回だけってわけじゃない」
「しっかりしろ」
「今、治療を」
 エルフの少女が手当をしているが甲殻類はぐったりとなっている。
 寧は目を外に向けた。
「師娘、みなさんを守って」
「まさか寧ちゃん。あかんて。あれは寧ちゃんの体に負担がかかる」
「この大きさ。普通なら壊せない。でも、垂迹させれば問題ないわ」
「でもな。あれはまずいやろ」
「だって私の責任ですから」
「清原。これの大きさを教えてくれ」
「おおよそ学校の校庭くらいです」
「校庭か。そうか。あのさ脱出はできないのか」
「全員を連れて転移はできます。でも、そこまでで追撃されればおしまいです」
「転移しよう。こいつを治療するのが先だ」
「追撃があったら」
「どうにかするよ」
 当たり前のように彰斗はいった。
 寧は小さくため息をはいた。
「この借りはいつか返しますから」
「先生は生徒の為にってね。清原的になら、私の責任ってことだ。それに貸し借りをいいだすとこまる」
 甲殻類を彰斗は見た。そうしてから彰斗は寧の頭にぽんと手を置いた。
「こっから抜け出す方は頼むよ」
 エルフの少女が彰斗のそばに立った。
「確かにあの灯台を壊した一撃ならいけるかもしれませんが」
「灯台ってなに?」
「阿城岬の灯台です。あなたが吹き飛ばした」
「あ。そうか」
 彰斗は笑った。それも腹の底からだ。
「頼りにしてくれるなんてうれしいな」

 寧はその場の全員を認識し、掌握した。
「では転移します」
 一気に視界が切り替わる。
 眼下には泥の海が広がっている。それが水底の王といわれる巨大な粘液上の生き物の本体だった。
 それは宙に移動した結界。バナナのマーキングのされているのでよくわかるそれに気付いたようだ。一斉に触手が伸びる。
「吹き飛ばすわけにはいかないよな。こんな狭いところで」
 彰斗は双剣フェルセ=ファインを構えた。一気に自分のもつ力を乗せる。それは剣に吸収され、刃身に光をまとわせる。
「魔王っていうにはお前役不足だったな」
 彰斗の軽やかな動きに合わせて、空気に光を刻み込んだ。光は力を増す。水底の王の体に光が刻まれた。その刻まれた光に沿って水底の王の体は崩れていく。
「じゃあな」
 水底の魔王の最後だった。
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2005年09月08日

それいけノノ先生 夏花火

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 こんなに安らかな気持ちになったのは随分久しぶりな気がした。
 日は落ち始め砂浜にはオレンジ色の光が優しく沈んでいる。その光の底でリアはぼうっとしていた。
 終わったんですね。
 リアは安堵していた。

 妖精島、境界の中でもっとも異界に近い区域である。そして漂流者が多く住む町だ。より正確にいうなら、この島そのものが最大の漂流物なのだ。ここでは異界、リアのもともといた世界の力が随分と強く働いている。
 そのため島そのものを危険とし、破壊するという意見もあったが今では小さくなっていた。妖精と呼ばれるリアたちの一族は、この世界に対して様々な技術をもたらした。
 マギシステムで始まった工業魔術は、確かに素晴らしいものであったが、いかんせん実例にかけた。実例となるものが、この世界においては神秘とされる分野であった為に発達が遅れたのだ。しかし、妖精たちは違った。全てではないにせよ、多くの技術としての神秘を見せたのだ。現在でも妖精種が見本を見せ、それを正確にマギシステムを用いた機械が再現させることで。応用は効くが、基礎はあくまで妖精あってこそなのだ。
 だが、もたらされたのは光明だけではない。
 その一つが水底の王であった。初期段階では禁止されていなかった生物の創造。それによって生み出され出現した擬似生命。いつしか妖精島の地下で繁殖していた。それが水底の王だ。
 もともと妖精島の魔術で作られたそれは魔術に対する耐性をもってしまった。加えてウボサスラ。根源の生命から作られたせいか構造そのものが強靭で、通常の攻撃にも強い。
 撤去を続けていたが、人員も限界に近づいていた。
 その時にあった申し出が人員の援助であった。境界内にいくつもの企業を構える清原家からはガイド、探索者を送ると。加えて強大なパワーを備える人間がここにくるという。
 この2つが重なったのは非常に幸運といえた。

「リアさま、花火するんですって」
 ノノが飛びついてきた。
「交ぜてくださいよ」
「ああ。うん」
 リアはいった。
 こうした姿を見ていると少し変わったなと思う。昔は、そんなことを問うまでもなく一緒にいたものだ。
「ところで他にはいないんですか。まさか騙されたとか」
「もうすぐくるはずですよ」
「問屋街までいって買い込んできたからいっぱいだぞ」
 胸に袋を抱えて姿を見せたのは彰斗だった。
 彰斗は袋いっぱいの花火を持っている。後ろからは荷物もなく身軽そうに寧と橘花が向かってくる。
「どうしたのみんな」
 ノノの姿に、
「ノノちゃんじゃん奇遇だね」
「ああ、ノノ先生、休みでええな」
「ノノ先生こそ、妖精島に住んでらっしゃるのはしっているんですが、どうして」
「リアさまについてきて。ああ、リアさまは私のご主人なんだよ」
「ああ、使い魔っていってたもんな。納得」
「あんたたちこそどうしてリアさまと知り合いなの」
「お仕事でご一緒しまして」
「そうそう実習の場所がリアさんの職場だったんだ。世間は狭いな
「そうなんだ」
 ノノはひらひらとみんなの周りを飛んでいる。その様子はノノが立派になっているようで少し嬉しい。

 彰斗がいう通り花火はたくさんだった。
「何か飲むものほしいな」
「ノノ」
「そうですね何か」
 寧はどこからともカップを乗り出すと、ノノに差し出した。
「みなさんもよろしければ」
 寧は飲み物を取り出した。
「相変わらず用意いいな。もしかしていつもあたし用のを持っているとか」
「まあ、にたようなものですわ」
「寧さんはマギ使いなのよノノ」
「ええ。そうです」
「マギ使いって」
「例えばノノが火を操る時は、呪文を唱えて、火の精霊にいって火を操るわよね」
「はい」
「マギ使いはその過程を全てカットして、火を起こすという意志だけで火を起こせるの」
「そうです。でも、万能ではないんですよ。使った際に代価が必要ですし」
「代価」
「体力とか金銭を代価にすることも多いですね。こうした物品に関してはその方が正確に値が出ますし」
「すごいな」
「そうでもないです」
「いや、すごいって。すごいところを見せてやらないといけない」
 橘花はいった息が酒臭い。
 既に彰斗を巻き込んでビールを飲み始めている。
「師娘」
「いいやん。まあ、みといて」
 橘花は残っている花火を手に取った。
「ねずみ花火と、線香花火、あと煙り玉」
 橘花の手の中で花火が変形する。一つになったのはそう三尺玉。
「打ち上げます」
 橘花は指を鳴らした。手の中から消えたと思った瞬間、大きな花火が宙に咲いた。
「おお、たまや」
「かぎや」
「こんな風に書き換え強化も可能やで」
「そんなに便利ならもっと使う人間がいるでしょ」
「扱いが難しいんです。だから、今の工業魔術の隆盛があるんですから」
 寧はそういうと少しさみしそうに笑った。

 リアはノノを抱き抱えながら歩いていた。こうしていると軽くて本当はいないのではないかと思えてしまう。でもノノはここにいる。その感触が心地よい。
 リアは立ち止まって砂浜の方を見た。
「どうしたの」
 彰斗は少しばかり酔っているのか頬が赤い。
「かたづけいいんでしょうか」
 リアはいった。
「大丈夫だよ。やる気出してたから」
「悪くて」
「頼りにしてもらえるのはうれしいことだと思うよ」
「あなたもですか」
 リアは地下で彰斗がいっていたことを思い出した。
「ああそうだな。兄弟がいるんだけどさ、俺を頼りにしてくれないんだ。まあ、俺が悪いんだけど。珍しく頼ってくれたからさ」
「そうなんですか」
「だから頑張れたわけだ」
「あなたもいい人ですね」
「ありがとう」
 二人は笑い合った。
「リアさま、早く帰りましょう。もう眠くて」
 ノノは目を開けた。
「分かったわ。では失礼します」
 リアは飛び上がったノノを追っていく。
 彰斗は呆然と見送った。
 どうしてか、ノノがあからさまに警戒していたからだ。
「狼扱いか俺は」


 

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2005年09月10日

それいけノノ先生 寧(ねい)さん事件です

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「学校に到着まで3分、みなさんの出席状況は」
寧が学校に入ると同時にとりま鬼、小型の式鬼たちから連絡が入ってくる。
「6割といったところです」
「それしかきてないの?」
「移動速度が人間と比較にならないものが多いですから。あくまで現段階ではです」
「しょうがないわね。いいわ予定通りいきます」
「それではお嬢」
「遅刻するよりはいいわ」
 寧は悲しそうにいった。
 誰が決めたのかお嬢様というのは最後の少し前に登場するものらしい。そして余裕の笑顔を見せながら、
それらしいことをいわなくてはならないのだ。
 こうしたことを考えると学校は少しばかり面倒だ。
 教室に入れば一角に人が集まっている。
「おはようございます、みなさんお揃いでどうなさったんですか」
 寧はいった。
 ルーテ、サラ、封希、教授、アルが顔を合わせている。
「引っ越したんで住所を教えているです。寧さんもどうぞです」
 ルーテは寧にカードを差し出した。翼がエンボスになっているカードはかわいらしい。少しまねをして作りたくなったが自分のシンボルにしている鱗紋ではとてもかわいくはないだろう。
「ありがとうございます」
 肝心の住所のところを見ると、見慣れた地名だった。
「ん?」
 寧は目を細めた。
「大神宮ですか。いいところですよね」
「はいらーめん屋さんが多いですよ。どこで食べるかが悩みの種で」
「そうですね。カムイはおいしいですね」
「寧さんもいくですか」
「ええ知り合いの家があるものだから」
 予鈴が鳴った。封希がノノ用に扉を開けていると、颯爽とノノが入ってくる。
「おはよう。みんな無事みたいで何より夏ばて夏ボケはいない」
 ノノが出席を読み始めるのを聞きながら、寧はカードを見た。見慣れた住所だった。
「?」

「ああ、寧ちゃん」
 七瀬が気付いてくれて寧はちょっと安心した。公園で屋台を出している七瀬に、どう声をかけようか迷うこと30分あまり。声をかけようとするとお客さんがきて、なかなか声をかけられない。
「ごきげいかが七瀬」
「こんにちわ」
 寧は穏やかな笑みを浮かべてた。
「よく売れているみたいね?」
「ぼちぼちかな。材料費でとんとんくらいだよ。最近、新しいのを作ってて、ああお試しにどうぞ」
 七瀬はクッキーを差し出した。
「小中居豆腐店のおからを安くわけてもらって作ってみたの。おからクッキー」
「ありがとう。あなたのお菓子はおいしくて好きよ七瀬」
「ありがとう」
 クッキーは確かにおいしい。
「でもどうしてオカラなんか使い出したの」
「あ、ちょっと。またひろちゃったの。それでね、少し節約しようかと思って。ああ、お金がないわけじゃないよ。でも、たくわえは大切だから」
「天使でも拾ったの」
「どうしてしっているの」
「知識かしら」
 今日の朝知りました。
「そう天使を拾ったの。知ってる天使って以外とごはんいっぱい食べるんだよ」
「金色の長毛種でしょ」
「そうそう。天使って外見で分かるんだ。どんな種類がいるの」
「だいたい羽根の数かな」
 七瀬が学習をしている横で、寧は考えていた。
 いったいどうしたものかと。
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2005年09月15日

それいけノノ先生 コナン+金田一

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 ノノは帰宅を急いでいた。
 基本的に通勤にすらそれなりに時間がかかるのだ。
 翼が生えているといってもその力だけではなく、むしろ空気中から何かを吸収して、体内で魔力に変えて飛ぶらしい。
 速度を上げるのも可能だが、そうすると吸収と放出の量に差がつくらしく急に空腹になる。
 空腹になるのは、実は体を構成しているものが減っているので危険信号なのである。
 だから空腹になったら、できるだけ早く食べ物を取った方がいいのだ。
 お腹がくうっと鳴った。
「うわあ、限界かな。コンビ二あったっけ」
 地上に降りるとそこはなつかしい場所だった。
「昔住んでたあたりだ」
 そうこの世界に流れつき、最初にすんでいた辺りだ。そして封希に拾われたのだ。
「ブチ」
 聞いた名前に声だった。声の方に行けば封希が声を出していた。
「ああ、ノノちゃ先生」
「どうしたの?」
「ブチが家出しちゃって探してるの。見かけなかった?」
「いやみかけないけど。どうしたの」
「帰ってこなくて」
「猫はどこでもそういうものだって。明日には帰るんじゃない」
「でも心配で」
「ああ、こういうときは探偵に頼むんだよ」
「探偵?」
「そうそう。なんかすごかったよ。いきなり眠ったと思ったら、「じっちゃんの名に賭けて」っていうの。そしたら犯人の顔がアップになってね、ああ、でもクラスメイトの半分くらいが事件に巻き込まれてるっていやだよね」
「探偵なんて知り合いいないよ」
「確かどこかに。そうそうこっちにあったよ探偵事務所」


 山海探偵事務所と看板には書かれていた。
 黒いサイドカーつきのベスパ。ちょっと時代を感じさせるような建物。
 明かりはついている。
 扉には、「押し売り、強盗なんでもこい」と書かれていた。
「なかなか気合入ってるじゃない」
「そうだね。でも、呼び鈴とかないよね。声かければいいかな」
 封希は息を吸うとできるだけ大きな声で言った。
「お邪魔します。猫探しをお願いしたいんですけど」
 封希の声に少し間をおいて答えがあった。
「今、先生は買い出し、いや仕事ににいかれていて、中に入ってお待ちください」
 中に入れば思った以上に高い天井があった。天井に下がったこれまた古めかしいライトを背に天使が浮いている。
「今お茶をいれるです」
 降りてきたルーテは笑顔を浮かべた。
「どうしたですノノさん、おお封希さんも」
「ルーテはどうしてここにいるの」
「探偵助手です」
「すごいよルーテ」
 ノノは昨日見た二時間ドラマを思い出しながらいった。
「えっへん」
 胸を張るルーテ。
「あのね猫を探してほしいの。ブチがいなくなってしまって」
「おお、あのノノさんとお寿司をとりあっていたネコさんですね」
「そうそう。あの時はまさに死闘だった。東にあたし、西にあいつ、勝ったそう思った時、あたしの手にはしゃりしか残ってなかったわ。くっそお」
 ぐう。ノノのお腹が鳴った。
「怒ったらおなか減ったな」
「食べ物ですか。今日から始めたので食べ物は何もないですよ」
「ただいま。ごはんもってきましたよ。お客さんなんてきてないですよね」
 声がした。
「きてるですよ」
「ええ。ああ、お茶を出してくれました。あの玉露って書いてあるほうの。ああ、お待たせしました」
 六星は駆け込んできた。そしてノノと封希を見て困惑している。
 担任とクラスメイトがきているのだから何かと思うだろう。
「これはいったい」
「依頼ですよ」
「ネコですかイヌですか」
「おおいきなり推理だ。それもあたってる。すごい探偵」
 ノノは声を上げた。
「いやそういうわけではないんですけど」
 六星はそういいながら、封希を見た。
「ネコの写真とかあれば結構早くみつかりますよ」
「ないんです。ごめんなさい」
 封希は頭を下げる。
「いいんです。だいじょうぶですから。じゃあ長く一緒に過ごしたものとかありますか。縁が深いものとか」
「えっと、あ」
 封希はノノを差し出した。
「はい。任せてください」
「どうしてあたし。なにいってんの」
「ノノ先生は一緒に拾ったから姉妹みたいなものなの」
「それはいいですね。ちょっと観ますね」
 六星の目が一瞬変わる。黄金に似た輝きが宿りすぐに消える。
「ネコは三匹ですね。色は三匹とも違い、気性はいろいろだ」
「何これ。推理?」
「いえ観ただけです。ノノ先生に強く刻まれています。封希さんの方もあまり変わらないですね」
「だめってことかな?」
 封希の問いに六星は首を横に振った。
「いえ。二人から見ていて、変化がなかったということは、何かあったと思います。昔も猫攫いがあったといいますから」
「猫攫い?」
 ノノは首をかしげた。
「昔は三味線にされたり、しばらく前は実験動物にされたり、転売されたりしたといいます。まったくひどい事件です」
「ブチもそんな目に」
「助けに行かないと」
 封希とノノは外に飛び出していきすぐに戻ってきた。
「分からないから来たのに」
 封希はちょっとだけ顔をしかめた。
「心配しないで」
 六星の声は力強い。
「探しますよ。まずはブチのいた場所に向かいます」
「六星さん」
「どうしました?」
「あの」
 目が持ってきたおにぎりに向いている。
「おいしそうですね」
「そうですね。余分に買ってありますから、よろしければみなさんもどうぞ」
 六星はおにぎりをみんなに差し出した
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2005年09月18日

Shura Beating Soul:昏き理2

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アル・ナスラインはメンツを確認した。
  剣士エリク・チェンバース、商人?レジス・シャール、魔法戦士フェルティア・アルフィスタ、エルフニアヴ・ハークレイブ。
「こんな充実したメンバーでいくの初めてだ」
  アルは呟いた。
「よく今まで無事だったわね」
  ニアヴの言葉にアルは笑顔を向けた。
「無事だった事なんかないが、こうして今行けるのだから悪くはない」 
「ところでどう向かうかなんだけどどういくの。一度、アルちゃんは見てきているんだよ」
「前回はフェイト氏がいたので、さっさと空間跳躍をしたが、今回は人数の手前徒歩でいく。森を抜けて廃坑をこえれば早いのだったなニアヴ嬢」
「ええ。その通りよ。私が昔・・・・」
「さあいこう」

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/037.htm
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2005年09月22日

それいけノノ先生 この子の猫の子

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 猫探しは割合よく回ってくる仕事だ。
 売れない探偵がほぼ七割はかかわる仕事だ。実は猫探しというのはリトマス試験紙のようなもので、こっそりどこかで誰かが見ていて、次の事件を割り振っているんじゃないかと思える。そうでなければ、こんな金にならず、難しく、割りがあわないものが、世間に溢れているわけはないのだ。
 ただ、六星からすればそれほど難しい仕事ではない。
 六星はマギ使いだ。
 マギとは暗在系といわれる元来は感知されない領域に介入して、明在系つまりは現実を改編する。始まった当初は魔法の力のように思われていたが、それが多大な代価を必要とする効率の悪いものだとしられるとすっかり下火になっていた。
 産業界からは見捨てられつつあるマギだが、個人で使うには有効だ。
 恐らく暗在系と言われるのは、因果の因なのだろう。その因を変える事で、果、つまりは現実を改変させるのだ。だからそこに費やされるエネルギーは実際他の手段とそう変わらない。
 マギの順序は、認識介入改編なので、その認識の段階が観ると言われる行動だ。
 これは対象の暗在系をはっきりさせるものだ。証拠は普通の人間が見るよりもずっと多い。簡単にいうとある程度の事なら映像で見ることができる。
 天川家は普通の家だった。封希のおっとりさと、どこか育ちのよさから、結構大きな家を想像していた六星からすると以外だった。
 ただ、庭の木は格好がいい。大きさからいって長年まめに手入れしなければここまでにはならないだろう。
 既に家人は眠っているようで静まり返っている。
 その家のリビングの端に猫のための一角があった。ぶちの同胞である二匹はそこにいた。
 白い猫が、黒い猫が、吹き抜けになった天井の方にいくように迫っている。
「これがきょうだいのシロとクロ」
 封希は二匹を抱き上げて見せた。言葉の通り白と黒の猫だ。
 猫は見慣れない六星にうろうろと落ち着かない様子だ。
 六星は観た。
 見えて来たのは楽しそうに封希と猫たちの様子だ。

『わたしも寝てたいな。でも、学校が楽しくないんじゃないんだよ』
 朝ごはんをあげながら猫に向かいいっている封希は大きくあくびをした。
『授業中も寝ているとノノちゃんがチョーク投げてくるんだけどとても大変そうなの』
 猫たちは鳴いて答えた。
『最近、自分が飛んで来た方が早いのが分かったみたい』

 猫三匹が学校に行く封希を見送っている。
「はい。お掃除始めるから少しどいててね」
 封希の母らしい女性が猫を片付けている。
「母さん、今日は展覧会にきていく服どこだったかな」
「封希に頼んでおいたんだけど、クローゼットにない」
「わかった」
 玄関でベルが鳴った。
「ごめんなさい、ちょっとお待ちください」
 
 六星は観るのを切った。寧ならもっと速やかに情報の整理ができるのだが、六星では時間がかかる。
 現実はノノが猫に寄って来ている。 
「お、ひさしぶり」
 ノノが顔を見せると白猫は寄って来て甘い声をかけている。
「ぶち、心配だな」
「にゃあ」
「でもだいじょうぶ。探偵つれてきたから。ああ、三毛猫じゃないとダメ。ああそれは差別だと思う。で、心当たりはあるの」
「にゃあ。にゃああ。にゃにゃにゃああ」
「ああ、そんなのが。なんだ封希、心当たりあるじゃない」
「え。本当にノノ先生」
「うん。家出じゃなくて修行みたいよ」
「修行ですか?」
「人間になりにいったんだって」
「???」
 六星と封希は顔を見合わせていた。
 一般的に猫は人にならない。だが、時には例外があるのもしっていた。
 六星はざっと白澤図の記述を思い出した。
「猫が人になるのは怨恨か、時間かどちらかですね。主にですが」
「あたしじゃないよ」
「わたしじゃないです」
「え、どうして二人とも。何かしたの」
「あの食べ物の恨みじゃないですから」
 安堵の息を吐く翼二人組。
「どうして人間になりたかったのかな」
「聞いて見るよ」
 白猫は首をひねっているように見える。
「わからないって」
 ノノは答えた後で首を捻った。
「そうか。でも、理由が分かったならいいじゃない。そのうち諦めて帰ってくるでしょう」
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2005年09月25日

Shura Beating Soul:昏き理3

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「本当にここなのか? 帝国というのはすごいな」
  アル・ナスラインは目の前に広がるものに驚きを隠せないでいた。
  しばらく前までは、アンデットの群れが支配する地であったはずなのに、清浄な空気が流れてくる。空気だけではない。森の一角には真新しい木材で作られた砦を始め、何件か家らしいものまでが作られている。加えてこの人の数はなんなのだろう。百人あまりのドワーフが作業に勤しんでいる。
「どうしてこんな事になってるんだ」
  エリク・チェンバースは呟いた。
「ああ、驚かそうとしたのか。ああ、エリク氏、わしはもう十分驚いたからさっさと用件を済ませよう」
「分かった」

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/038.htm
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2005年09月27日

BeforeBabel 降誕

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 星明りに照らされながら小原紅葉は急ぎ足で学校から家への道を歩いていた。
  8月に行なわれる劇の発表に備えて、峰台中学校の部活動は、放課後の許されるぎりぎりの時間、7時過ぎまで続いていた。
  紅葉も練習に熱の入った一人だった。と言うよりもっとも熱の入った人間かもしれない。
  主役だからということもあるがそれだけではない。峰台中学校の演劇部に入った時から『ハムレット』のオフィーリアや、『ローマの休日』の王女など、主役を務めてきた。二つとも紅葉の好きな芝居だ。2つとも紅葉は全力で演じた。でも今回の芝居は紅葉の中で違う価値をもっていた。
  芝居の名を『PANDORA』という。ギリシア神話に描かれるパンドラの箱をモチーフに作られたもので、3年ほど前に公開された。
  それもただ一回。TDLに程近い駐車場で一回だけ。舞台もテントであったし、舞台背景といったら夜景のみであった。
  それでも小学生だった紅葉は母の葉子と一緒に見て、演じるということに目覚めたようなものだった。
  紅葉は空腹を覚えた。舞台に立っているときは集中してしまって何も感じてないが、こうして小原紅葉に帰ると身体はもう立っていられないくらいだし、お腹も音が止まらないくらい空いてしまっている。
「恥かしいなあ」

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2005年09月29日

それいけノノ先生 封希・心配

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「そうか。でも、理由が分かったならいいじゃない。そのうち諦めて帰ってくるでしょう」
 ノノがいったとき封希が首を大きく横に振った。
「分かってないよ」
「だって人間になりたいから家出したんでしょ」
「あのね違うの。そうじゃないの」
「封希さんは、ブチさんがどうして人間になりたかった気にしているです」
「うん。そうなの。どうして人間になりたかったのかなって」
 六星は頷いた。それは六星にとっては耳の痛い話だった。猫を見つければ解決する程度に思っていたのだ。
「そうですね」
 しかし、マギでは関与できないレベルの問題だ。実際にブチを見つけ出し、ノノを介して話を聞くなりしなくては解決しない。
「まず探しましょう。それから」
 ルーテの懐で目覚まし時計らしい音が響いた。ルーテは時計を見て時間を確かめた。
「六星さん、もう時間ですよ。七瀬さんに言われたです。『お兄ちゃんは観えるけど見えなくなるから、時間で連れ帰ってきて』」
「う」
 六星は腕時計を見た。確かにもう12時を過ぎている。そろそろ帰らないとまずいだろう。
「でも」
「だいじょうぶ。ぶちも自分で行ったんならきっとだいじょうぶ。それ以上知りたいと思うのはわたしのわがままだから」
 封希は小さな声でいった。
「だから一人で探そうっていうんだ」
 ノノはいった。
「そんなことないよ」
 封希は首を横に振る。
「明日、学校終わったら付き合うから今日は休んでおこう。そろそろ封希、頭が回らないでしょ」
「うん。そんなことないよ」
 そういいながら封希は眠いのをこらえているみたいだ。
「また明日です」
 ルーテはいった。

「猫が人間ね。どう見ても猫の暮らしの方が楽そうだけど」
 夜道を歩きながら三人は今日のことを話しこんでいた。
 ノノの言葉に六星は目を細めた。
「そうですか。自分は無力なのは嫌なので」
「でもですね、猫に力がないと思うのはおかしいです」
「言い方が悪かった。自分が望む力じゃないって意味ですから」
「いえ。わたしも何か言い過ぎたです」
 いってから黙り込む二人。
「別に言い過ぎじゃないと思うけど。二人ともあまり言いたいこといわないよね」
「そんなことないです」
「言葉は遠いですから」
「だから行動って事」
「ええ」
「その考えがブチと同じっぽいな。相談も何もなくいっちゃってばかなんだから」
 ノノは言ってからため息をついた。
「でも、実際猫って人になれるですか」
「猫又、化け猫、キャットウーマンというカテゴリーになるだけで、完全な人間になるのは無理です。人間になった時点で多分終わりです」
「それはどういうこと」
「人間になりたいっていう衝動は猫だからこそ出たものですから、人間になった時点でブチという猫はいなくなる」
「諦めて帰ってくるといいな」
「だいじょうぶですよ」
「恐らく帰ってくると思います」

 
 封希はネグリジェに着替えてベットに入った。
 寝る前にお風呂に入ったせいでぽかぽかと心地よい。
「どうしてかな」
 ぶちにはそんなそぶりは見えなかった。
 猫は突然いなくなるものだけれど、いつもそんな疑問がある。
「ちょっと悲しい」
 封希は呟いた。
 猫の気持ちはぜんぶ分かるわけはない。それは分かっているのだが、それでも悲しかった。
 寝たらきっと悪い夢を見そうだ。今幸せなのに、夢は現実がウソだと思ってしまうくらい辛い時がある。
「だいじょうぶだよ。おとうさんもおかあさんもいるし、みんなもいるし、」
 言葉には出さず速人を思い出し封希は眠ることにした。
 夢を見た。
 悲しい夢だった。
 誰かが自分の為に泣いていてそれが分かるのに自分は手を差し出してあげられない。
「夢だよね」
「ううん。あれはさきの事。このままいけばいってしまう未来」
「?」
 顔を上げればそこには女の子が一人立っていた。
 黒いシャツ。白いエプロンドレス。赤いカチューシャ。
 それを知っている。知らないのに。
「ブチ?」
 封希はいった。 裏話
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2005年10月01日

BeforeBabel 降誕

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 8時になって校内放送のT・スクエアの音楽が聞こえてくると、登校してくる人間が増えて、それに負けないくらいクラスの中で飛び交う声が大きくなった。
  峰台中学校3年G組のいつもの朝の風景だった。
  小原紅葉は窓際の自分の席に座り、横の小松成美と昨夜の事を話していた。
  部活帰りにあった昨夜の異変は紅葉に強い印象を残していた。
  あの少女の事や犬のこと。見慣れたけれども違う世界。



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2005年10月08日

それいけノノ先生 災いの始まり

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天見六星は教室に入った。
 ルーテが拾われてきてから少し登校時間をずらした。悪い噂でも立ったらルーテに悪い。
 教室はいつもと変わらなかった。教室に入れば教授がいて、難しそうな本を読んでいる。一体何語だろうと思ったが、多分知らないと思い聞くのは止めておくことにした。
「おはようございます」
「おはよう六星くん。今日も早いね」
「軽く運動しながらきたので」
「健康な肉体と健全な精神は両輪だからね」
「もう習慣で。あの教授、少し聞きたい事があるんですが」
「君が聞くのは珍しい。答えられる範囲なら構わないよ」
「猫が人になることはできますか?」
「それは伝承ということかね」
「自分が知る限りでは、猫又や化け猫程度で」
「グルマルキンを忘れていないかね」
「魔女の猫ですね」
 魔女が猫に自分の血をやって養うという猫だ。
「ああ。工業魔術が隆盛を極めているといっても、オカルト、もともとこの世界の魔術はバベル以降十分力を持っている。そんなことは君の方が分かっていると思うが」
「それはまあ」
 答えながら話に聞いていた事件を思い出していた。
「有無。畢竟全ての魔術は主観で世界を変じる事だ。だから」
「ないとはいいきれないということですね」
「ああ」
「分かりました」
 窓から光がさしたと思うとそれはサラの姿をとった。それを始めに、登校が始まった。
 アルが入って来て、続けてルーテ。気づけば続々と人が入ってくる。
「おはようです」
「おはようございます」
「みなさんおはようございます」
「おはよう」
 予鈴が鳴ってノノが入ってくる。
 いつもと同じ朝だった。
 封希が休んだ事を除けば。

「六星さんの作ってくれたお弁当は今日は何が入ってるですかね」
「ちょっとルーテ」
 いい笑顔でお弁当を広げたルーテは名残惜しそうに見た。
「このお弁当さ」
「今日2つめのお弁当じゃないですよ」
「別にあたしの授業中じゃなければ早弁くらいいいけど
「ちゃんと彰斗先生の時にしました」
「封希が来てないんだけど知らない?」
「疾斗さんのところじゃないですか」
「今ガサいれしてきたけどいなかった」
「おお、いきなり冤罪です」
「六星は?」
「なんか出て行きました」
「じゃあ、先にごはんにするか」
「賛成です」
 ルーテは嬉しそうにお弁当箱を開いた。
 ノノも小さな箸を取り出して、さっと舞い降りた。ルーテの前に。
「ノノ先生どうしたです?」
「とりあえずタコウインナーとおにぎり一個で見逃してあげる」
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2005年10月11日

BeforeBabel 降誕3日目

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 小原家の朝は静かに始まる。平日であろうと土日であろうとそれは変わらない。
  自分の部屋から紅葉は足音を立てないようにダイニングキッチンに向かった。
  翻訳家をしている母葉子は一家二人の生活費をひねり出すために、締め切りが重なると徹夜もしょっちゅうだ。きっと朝まで仕事をして、うとうとしているであろう母親を起こすのは悪い。とはいうものの、朝食の支度を静かにするのは結構難しい。
  炊き立てのごはんと、なまたまご、昨日の残りの味噌汁、緑茶という感じだ。
  音量を絞ったテレビを見ながらごはんを食べ始める。
  紅葉には関係ない世界がテレビの向こうに広がっているのがいつもの姿だった。
  どんな大きな不幸でも、小さい幸せも。良いことも悪いこともテレビを通せば、それは娯楽になる。
  でも、今日は違っていた。
「ああ」
  紅葉は箸を止めて、テレビの中を見つめた。そこに映っているのは同じ町内にある小学校だった。

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2005年10月13日

それいけノノ先生 苛立ちと不安

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 六星は屋上についた。袋に入った瓶の牛乳は寧が好きなものだから喜んでくれるだろう。お礼というには少ないものだが、何もかも持っている寧に何をあげればいいのか分からない。
 屋上への扉を開くと寧が空を見ながら立っていた。結構風が吹いていて、寧の夏服は少し寒そうに見える。
「はい、おまたせ」
 差し出した牛乳を寧は小さく頭を下げながら寧は受け取った。
「何か分かった?」
「ええ。猫は消えていますね」
 やはり封希の家のブチだけではなかったようだ。
「どれくらい」
 影の中から現れた赤靴黒服の小鬼がメモを差し出す。寧はちょっと驚いた顔でいった。
「ねこ12匹ですね」
「そんなに」
 思った以上に多い。
「確証がとれているだけです」
「さらに多いかもしれないってことか」
「ええ。もし、希望なら観ますけど」
 きっと寧の観る力なら、六星よる上だし、事前に入る情報の量から、かなり正確に調べられる。ただし、範囲が広すぎて半日はかかるだろうが。
 でも、それはどう考えても牛乳一本で頼むには過ぎたお願いだ。
「いいよ。あまり寧姉に頼るのも」
「大丈夫ですよ」
 寧が姉のような目で見ている。子供の時の事を思い出した。二歳上のいとこは子供の頃、本当にすごいと思った。勉強もできて、運動もできて。それは今もだか。
「あまり甘えさせないで。俺、甘やかされると駄目になりそうで」
「そうですね」
 言い切った寧に六星はなんともいえずに唇を尖らした。
「全肯定されるのも」
「あともう一つ考えがあるのですけど」
「何だい」
「猫鬼ではないかと」
 猫鬼は猫を用いた巫術。呪の術だ。多くの猫を殺し、その猫の霊を呪詛に使う。蟲毒の類にも似ているが、猫のみを使うのが特徴だ。
「それはまずいな」
 言いながらどうしてきづかなったのか苛ついた。そんなことどうして思いつかなかったんだろう。
「確かに。呪の類いは一度できてしまうと勝手に存在しつづけますから」
「天川さんの猫なんだ。彼女、心配してて」
「そうなんですか」
 寧も同じ事を思ったのかまなざしがきつくなった。
「登校もしてないから、探しにいったと思ってたんだけど、それじゃまずいな。ああ、飼い猫にひどいことして何かされるって人じゃないってのは分かるんだけど」
 それじゃもうブチは。それに考えたくないが、呪詛の対象は封希さんっていうこともある。
「そうなんですか」
「うん。探さないと」
 六星は寧に向かい頭を下げた。
「ありがとう」
 そのまま走り出すと後ろの方でガラスの割れる音が聞こえた。

 階段を駆け降りたところでルーテにぶつかった。
「どうしたです六星さん」
 少しばかりルーテはなみだ目だ。
「ちょっと天川さんが心配になって見に行ってきます」
「わたしもいくです」
「分かりました。危なかったら逃げてください」
「そんなに危ないですか」
「勘です」
 勘ではなくそれが神経質の類いなのは自分でも分かっていた。でも、もしかしたらそれが誰かを救うのなら。
 だが、だいたいこうした思いを抱く時は既に遅いのだ。でも、一番幸せに埋まっている時、一番の不幸がきた。だからこうして不安に身をおいていることで、周りが幸せながらそれがいい。
「分かったです」
 正門を抜けて二人は速度を速めた。
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2005年10月15日

それいけノノ先生 寧さんは大変です

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 屋上を風が吹き抜けて行く。
 9月になってから急に暑さが衰えたせいで、夏服だと少し寒い。
 屋上で寧は空を眺めていた。空は夏に比べ青を増している。澄んだ青は心も綺麗にしてくれるようで寧は大きく息を吐いた。
 昼休みに入るなり、六星が急に声をかけてきたから焦った。
「ちょっと話があるんだけどいい?」
「構いませんよ」
「じゃあちょっと屋上に」
(なんだろう。わざわざ、屋上ってなにか大切な話。いや、まさか)
「調べてほしい事があって」
「ええ、構いませんよ」
(なんだ。仕事の話。教室でするのは何だけど)
 行方不明になっている猫の事を調べて欲しい。六星でもできそうなことだ。
「お礼になにか」
(うわ顔に出てた)
「ああ、牛乳買ってくる」
(あ、それなら一緒にお昼でも食べてくれればいいのに)
 その間に調べることにした。とはいっても実際調べてくるのは小鬼だが。
 五分あまりして、階段をリズムよく上る音が聞こえて、六星が立っていた。
「はいおまたせ」
 瓶の牛乳を差し出される。
「何か分かった?」
(まだ調べ中なんていうとダメな子だと思われるかな)
「ええ。猫は消えてますね」
(ウソじゃない。もうくろすけが調べてきているし)
「どれくらい」
(くろすけ、急いで)
 寧の足元でくろすけが必死になにかを書き上げている。メモには妙に達筆な字で「ねこ12匹」と書かれている。
「猫12ですね」
「そんなに」
「確証がとれているだけですから」
(どうしてそこで、『そうね』とかいえないかな)
「さらに多いかもしれないってことか」
「ええ。もし、希望なら観ますけど」
(それくらいして、いいところ見せないと。がんばれば昼休み中にはいけるこの町くらいだったら)
「いいよ。あまり寧姉に頼るのも」
(ああ、取り戻す機会が)
「大丈夫ですよ」
(がんばれ私)
「あまり甘えさせないで。俺、甘やかされると駄目になりそうで」
(甘えていいのに)
「そうですね」
(もういいや)
「全肯定されるのも」
(拗ねた顔なんて懐かしい。昔みたい、何か日差しも暖かいし、ちょっと幸せかも・・・ああ、でもいやな事思い出しちゃった)
「あともう一つ考えがあるのですけど」
「何だい」
(ああ、いつもの顔だ)
「猫鬼ではないかと」
(でもしょうがない)
「それはまずいな」
 六星は顔をしかめた。
「確かに。呪の類いは一度できてしまうと勝手に存在しつづけますから」
(私たちは持久戦は苦手だから)
「天川さんの猫なんだ。彼女、心配してて」
(え、今までの必死さは天川さんのため?)
「そうなんですか」
(天川さん、ああいう娘がいいのか)
「登校もしてないから、探しにいったと思ってたんだけど、それじゃまずいな。ああ、飼い猫にひどいことして何かされるって人じゃないってのは分かるんだけど」
「そうなんですか」
(天川さん、あの陽だまりみたいな子)
「うん。でも、探さないと」
 六星は頭を下げた。
(え、もう)
「ありがとう」
 背中に声をかける間もなく六星の姿は消えた。
 寧は牛乳を一気に飲み切った。そして牛乳パックを思いっきり力をこめて屑籠に投げ付けた。
「姫、調べ物追加」
 小鬼が顔を出す。渡された紙には追加されていた。
「ありがとう。消えた生き物ね。犬七、エキゾチックアニマル四、恐竜一?」

 封希の家が見えた。
「猫さんです。六星さん」
 猫が見えた。青い目をした、白いきれいな猫だ。
「小さいし、色も違うからぶちさんじゃないですね」
 猫は六星とルーテの姿を見ると寄って来た。
 猫は鳴いた。ハミングをしているように聞こえるきれいな声だ。
「でも、ご飯は何もないです。それどころか・・・」
「そういうのじゃないと思いますけど」
 六星は猫を抱き上げようとした。すると人に慣れているのかおとなしい。
「男の子ですか女の子ですか」
 ルーテがいうと猫は逃げ出していった。
「ノノさ先生がいれば話を聞けるです」
「そうですね」
 六星は封希の家の前に立った。家は一部の隙もなく片付けられている。
 昨日の夜までとはどうも趣味が違う感じだ。
「どうしたですかね」
「聞いてみよう」
 六星は呼び鈴を鳴らすが答えはない。
「失礼します」
 大声でいうと六星は庭に入った。家の回りを調べ始める。
「なにするですか」
「電気メータを見ます。回っていれば誰かいると思う」
 見つけたメータはほとんど止まっていた。
「動いているのは冷蔵庫くらいか」
 そのままもう一度表に来て手紙受けを覗く。朝刊がそのまま入っている。
「これは」
「ちょっと見てくるです」
 ルーテは飛び上がると封希の部屋の前で首を横に振った。
「いないです」
「観るか」
 そう思った時、背中を叩かれた。
 振り返れば全身から湯気を出しているノノの姿があった。
「こら」
「ノノ先生」
「うわ、ノノさ先生」
「勝手に抜け出して」
「これにはわかがあって」
「怒ってるんじゃないの。何も言わなかったのがね」
「すいません」
「ありがとうです」
 二人が頭を下げていると猫がいた。先程の猫だった。
 猫は鳴いた。いや、歌っているように聞こえる。
「うまいな」
「そうですね」
「封希?」
 ノノはいった。

 
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2005年10月18日

BeforeBabel 降誕3日目その2

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 紅葉の前にはたまごがあった。
  たまごには多くの星とそれ以上の空隙があった。
  星には惑星があった。
  惑星には大地があった。
  大地に街があった。
  街に家があった。
  家に紅葉がいた。
  紅葉の前にはたまごが・・・・。

http://99ya.gozaru.jp/storys/babel/nativty4.htm


それいけノノ先生 ロッテ優勝
ノノ「祝ロッテ優勝」
(クス球が割れる)
ルーテ「万歳、万歳」
(ルーテが紙吹雪を舞わす)
ルーテ「でも何がおめでたいんですか?」
ノノ「各店でセール。ロッテリアのハンバーグが半額(品物によります)。なぜか、千葉のケンタッキーも協賛よ」
ルーテ「おお、それは素晴らしい。じゃあ、さらに勝ったら」(遠き理想郷に思いをはせる)
橘花「あまい、あまい。モロゾフのプリンくらい甘いな。虎は強いでえ。ロッテなんかこの優勝記念で無料で配っていたチョコのように」(橘花どこからもと取り出したチョコをむさぼる)
ルーテ「ああ、チョコ」
ノノ「ルーテ反応するところが違う。虎は強い。でも、前回優勝してまだ数年。そんな、気合の量で、カネやんダンスがまったあの日から三十一年間ためていた気合に勝てると思うな」
橘花「(・vv・)」
ノノ「なに、その顔」
橘花「そうかそうか、それでか」
ノノ「何よ」
橘花「ノノせんせーは見かけより年上なんやと思って。31年前っていうならうちなんかまだ世に出てもいんよ」
ノノ「( ̄□ ̄;)!!」
橘花「(‐^▽^‐) 」
ノノ「(ノ--)ノ\。ちゃぶ台返し!!」

数分後、
ルーテ「うわ〜ひさびさのお仕事ですよ。橘花さん、こちらにご案内ですよ。でも、だめですよ人が嫌がることしちゃ」


続く(ことはないと思う)

 今日、インタビューで若い子が31年まってましたっていっていたのを見て思いついた小話でした。
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2005年10月22日

それいけノノ先生 さらば友よ

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 まったくいらいらします。
 清原寧はそう思いながら足を速めた。約束の時間を考えるともっと急いだ方がいいかもしれない。なんといっても相手はかなり早い。
 寧のマギ。観る力を持ってもとらえ切れないかもしれない。
 この世で最も早いのは人の心が善から悪に変わる事だというけれど。それもマギで確認できるのかしら。
 寧はそう考えながら目を細めた。
 寧は目の前に降り立ったそれが何か分からなかった。壊れた車が落ちて来た。そう思った。
 耳障りな鋼を軋ませる音を上げて向かってくる。立っていた地面が抉れた。
 どこかで悲鳴が聞こえた。こんな町中で、なおかつ寧のシマであるここで、かちこみをかけてくる連中がいるとは思わなかった。
 寧は地面を蹴って大きく飛び上がった。だが、相手はそれが狙いのようだった。
 空中から落ちてくる寧に向かいそれは飛んだ。
 回避しきれない。観ていては間に合わない。
 寧は手についたものを引っ張り出した。肌色の姿と黒い服、赤い靴。それは小鬼のクロスケだった。小鬼は何かに気づいたのか何度も首を横に振る。
「頼んだわ」
「タノマレタクナイ」
 寧は小鬼を投げ付けた。
 小鬼とそれが空中で交わる。
 寧はマギを発動した。空気が質感を変え、寧の前に三角形の壁、鱗紋が覆われる。
 障壁だ。それが一撃で砕かれた。
 敵が見えた。不細工ながら四足の獣を思わせるがそれは鉄でできていた。
 寧は地面に降り立った。手には既に大極図の刻まれた陰陽盤が握られている。
「消えなさい」
 先程と同じような三角形がいくつも獣の回りに現れる。再び砕こうと獣は叩きつけるがまったく疵はつかない。
 牛乳瓶を投げ捨てるように寧は手を振った。三角形の壁が集まり、獣は砕け散った。
「うっかりしたな」
 掌握した段階で調べればよかったついつい苛ついて壊してしまった。
 クロスケが立ち上がった。ちょっと脇腹から綿が出ている。クロスケは丁寧にそれをしまいながらいう。
「ヒドイお嬢」
「ごめんなさい。でも、無事でよかった。あとでちゃんと縫うから」
「ソノ謝罪ウソクサイ、アア後ロお嬢」
 寧は振り返った。そこには巨大な鉄の塊があった。
 寧の体は吹っ飛ばされた。
 防御は無論、受け身もまともにとれなかった。立ち上がろうと腕に力を込める。動かないの。寧は自分の腕を観た。変な形で曲がっている上に陰陽盤も吹き飛ばされている。
 寧は敵を見た。自分が倒れれば誰かこれを始末する。その時の為に少しでも情報を残さなくてはならない。
 それは恐竜だった。恐らくゴジラ風にデザインされているものの、ティラノザウルスだろう。
 恐竜は足を大きく上げた。踏まれた。みしりとかかる恐竜の重さに全身が軋む。それでもなお生きているのは父の、鬼の血だろう。
「まったく生き汚い体です」
 急に体が軽くなった。
 だれかが側に立っている。光るその姿は背に美しい翼を見せている。
「こういう立ち会いはルーテの仕事なんだよ」
「サラ」
「待ち合わせに来ないと思ったらこんななんてがっかりだよ」
 顔を上げれば待ち合わせ相手の天使が立っている。その片手が寧に立つように差し出されている。もう片方の手は恐竜の足を持ち上げている。
「そのくらいでサラに挑むなんて愚の骨頂だよ」
 サラはいった。
 目の前の恐竜は咆哮をあげてさらに何度も足を振り上げる。
「消えていいよ」
 サラの恐竜に触れている部分の光が増した。それは斧に姿を変える。
「竜殺しは天使の嗜みだよ」
 殴った一撃で恐竜は地面に転がった。少しばかり動いているがそれは意識しての事ではなくただの顫動だ。
「まったく寧はしょうがないよ。本気になれば一瞬なのに」
「そうもできない事情があるんです」
 寧はふらつきながら立ち上がった。クロスケが転がっていた陰陽盤を寧に差し出す。
「ありがとう」
 寧は怪我、服を元に戻した。そのままサラに倒された恐竜に近づく。
 寧は恐竜を観た。
「寧、どうした?」
 流れ込んでくる情報を観ながら寧は小さくつぶやいた。
「まずいですねこれは」
 
「封希さんなんですか?」
「うん。随分ものの考え方は猫になっているけど封希だって」
 二人の話している横で少し赤面している六星だった。
 今の状態と記憶が連続してないといいと本当に思った。
「どうもブチはみんなの為に働きたかったみたいだね。それじゃ猫の体は何だから人間になって、ついでに封希の猫になりたいっていうのもかなえてあげたみたい」
 封希は猫らしく暇になったようで寝ている。とても自然体だ。
「すごい適応力です封希さん」
「封希が猫になりきり前にどうにかしないと。ああ、それよりもブチをどうにかしないと」
「そうですね。どちらにせよ、何か代価があるはずです」
「あいつめ」
 ノノは小さく呟いた。
「早く探すですよ」
 寝ている封希を抱き上げながらルーテはいった。
 六星の携帯が鳴った。電話の主は寧だった。
「どうしたの? あ、うん。分かった。そこに行けばいいんだね」
「どうしたの」
「いや、ちょっと仕事が」
 六星は封希を見た。
「待っててください」
「六星さん。分かったんでしょ」
「何がです?」
「相手とか、ブチの場所ですよ」
「どうしてそんな」
「だってもしただの仕事なら放っておくでしょ」
 ノノは笑った。
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2005年10月25日

BeforeBabel 降誕4日目

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  小原紅葉は帰路についていた。
  町はいつも以上にひっそりとしているようだった。
  昨日の夜、宇賀史明と話した時に感じたようなイメージの奔流はなくなり、変わりに重い疲労が身体に残っていた。そのまま一日を過ごしてから上がった舞台。
  舞台に立ち、違う誰かを演じていると、何から力を貰ったように紅葉は元気だった。

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2005年10月27日

それいけノノ先生 普段にこにこしている人に限って

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従姉妹の寧ではなく、境界の管理者である清原の当主としての要請だった。速やかに、指示した場所にいき、相手を無力化する。
 いつもなら単独行動する場面だ。戦いの場にはできるだけ人を近づかせたくない。
 それでも今日の場合は仕方なかった。何があっても三人(二人と一匹?あるいは三体)を危険な目にあわすわけにはいかない。
 指定されたマンションは五階建ての古めかしいものだ。
 六星はざっと周りを観た。見張りらしいものはいない。一気に忍び寄っていけば簡単に無力化できるかもしれない。そうすれば三人は大丈夫だろう。
「相手は単独ですから、手打にする必要はありません」
 そう寧はいっていたが、できれば穏便にすませたい。何より封希を元に戻さないといけない。そう考えれば相手に対して生殺与奪を握るのが一番だ。生命の安全は一番の交渉材料になる。
「外で待っていてください」
 六星はマンションの中に入った。目当ての部屋は105号室。一階の真ん中だ。足音を忍ばせて部屋に向かう。
 六星は部屋を観た。中には誰もいない。
 六星は鍵を外すと中に入った。
 中は窓が開いていて陽射しがはいってきて明るかった。
 部屋の中はバインダーにファイリングされた多くの資料が置かれている。それはマンションの一室というよりは役所か何かの資料室のようだ。
 六星はその一つを手に取った。開いて見ればそこには犬だの写真が数枚。どれも殴りつけられる同じ犬だ。
 続いて他のバインダーに目をやる。
 沈められる猫。餌を与えられずやせ細った恐竜。
 それは見ていて不快だった。
 全てを見る事なく六星はファイルを戻した。
 腹の中が何かあるように気持ち悪い。
 六星は気持ちを切り替えて奥に向かった。
 瞬間、視界が歪んだ。ドアスコープから覗くかのように。続いて歪んだのは足元だった。
「く」
 窓が墨でも零したように黒くなっている。
「くっ」
 観た。
 壊せない事はないが、かなり密度が高い。壊すのに時間がかかりそうだ。
 六星は素早く目の前の障害に向かった。

「ルーテなにか変だよ」
 ノノはいった。ルーテは頷く。
 結局、六星の姿が見えなくなった途端、ノノは中に飛び込んだ。そして少しだけするとマンションの中の空気は淀んだ。
 それがノノにとってはとても気持ちの悪いものだ。気のせいかとも思ったが、がルーテにも分かるとしたら気のせいではないのだろう。
「六星さんは?」
「あの部屋みたい。大丈夫だと思うけど・・・・・ああでもしょうがないいこう」
「分かったです」
 ルーテは頷いた。
「ただし、あたしたち力ないから基本は逃げで」
「分かったです」
 ルーテは力強く頷いた。
 六星が消えていった扉を開ける
 そこは家だった。
「封希の家だ」
 さっき見た家だった。
 庭先から見える居間では夫婦らしい二人がソファに身を任せ眠っているように見える。
「封希の家だからいいよね」
 ノノとルーテは中にはいった。
 ルーテは縁側で眠る二人の口元に耳をやっている。
「だいじょうぶ。生きているです」
「呼吸の確認。何気に最悪な展開を考えて行動しないでよ」
「すいませんついなれで」
「誰かいるの」
 入ってきたのは少女だった。
「ああノノ」
 少女の顔がきつくなる。さながら口元が歪んで耳まで裂けそうに。
「ぶち。あんた何してんの。封希こんなにして」
 ノノの声にぶちは首を傾げた。
「みんなの願いかなえたの。お父さんとお母さんは、猫の手を借りてのんびり、封希は猫」
 封希が鳴いた。
「そこで同意しない」
 ノノはぶちを見た。じっと見られていると不安になるのかうろうろとぶちはし始める。
「ぶちの願いは何なの」
「ぶちの願い」
「そう。あんたの願いは、こうすること?」
「え、だから」
「あんたの願い事はそうじゃないでしょ。あたしと寿司を取り合った時みたいに熱いものはないの」
「でも約束したの。あのね」
 ぶちの体が霞む。そしてぶちの体が消えた。そこにはぶちの猫が残っていた。
「貴様何をした」
 空気が震えた。白い巨大な顔がノノとルーテと封希をのぞき込んでいる。顔が現れた途端、ぶちはまた少女の姿に戻った。
「取り込み中だというのに」 
「言いたいことをいっただけ。あたし、お腹の中に溜めておくの嫌いなんだ」
「それは本当か。いかなる思いもないというのか」
 顔はいう。
「当たり前でしょ」
「それが真実か明らかにするがいい。怨嗟の声あるものは答えよ」
 顔の目が光った。それはノノをすりすけていった。
「本当にないのだな。もっとも普遍に存在する怨嗟だけでなく何もかも」
「まあね。あたしは無論、ルーテも天使。封希は猫だし」
 顔は笑った。
 ノノは振り返った。ルーテはかわらない。だが、その背に伸びて行く影はなんだろう。
 影は厚みを増した。
 赤い自然には存在しないような色の体、不自然な触手、切り裂いたような目。
 それはルーテを踏み付けた。
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2005年11月01日

笑う夜1

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 通っている小説教室の締め切りが今週末あるいは二週間後なのですが、二週間後はどう考えてもこみそうなので早めに出そうと思って書いてます。


 天見六華がドアスコープをから外を見るとかぼちゃお化けが立っていた。
 開ければシーツを被っただけの幽霊の姿も見える。
「トリックオアトリート」
 今日はハロウィーンだった。クリスマスは忘れないが、ハロウィーンなんてこと忘れていた。
「ちょっとまってね」
 お茶うけに何かあったか考えたがのど飴と、子供には少しばかりからい黒コショウの利いたせんべいしかない。仕方なく出したそれだったが割合好評だったようで、いたずらはなしだった。
 勉強に戻る気もせずにぼんやりと玄関に立っていた。兄が一升瓶くらい入ると豪語していたポストから物があふれている。中を開ければ一升瓶ではなくシャンペンが入っていた。
 手に取ればシャンペンにはメモが張られていた。
「六華へ、土産。真弓」
 自分が学校へいっている間に彼女は来たのだろうか。戻って来てからポストを覗かなかったからまったく気づかなかった。
 電話が鳴った。
 彼女が事故にあった事を告げる電話だった。
 感じたのはただ驚きだった。



「六華さん」
 呼びかけられると真弓かと思った。それは双子の妹である亜弓だった。
 真弓の事故はどれほどなのだろう。
 双子の間で分けられるべきだった財貨は全て彼女のものになる。生前の扱いからすれば当然かもしれないが、やっかみも多いことだろう。
 そう考えてからちょっと落ち込んだ。
 目の前の亜弓の様子を見ていれば悲しいのが分かる。
「こんばんわ亜弓さん。お姉さんはだいじょうぶですか」
「はい。ありがとうございます」
 六華の言葉に亜弓は小さく頷いた。
「姉も六華さんがきてくれて嬉しいと思います」
 そういう亜弓の表情は優れない。「どうしたの?」
「いえ、だれが姉を刺したのでしょうか」
「殺された。倒れたとしか聞いてないけど?」
「そうです。見つけたのは私です。姉は刺されていました」
 

 
 真弓は玄関で刺されて倒れていたという。
 海外で暮らしていた真弓はセキュリティーにうるさく、住んでいる戸建ても厳重なものだった。
 民間の警備会社とも契約しており、異常があったらすぐにでも飛んでくる。さらに鍵も普通のシリンダー錠だけでなく4つほど追加されている。窓ガラスは二重になっており、まして侵入された後はない。
 今回に関しては役に立たなかったものも多い。警報装置は内側から理由があった場合、反応しないのだ。
 携帯には亜弓が遊びに行くというメッセージがあった。
 金も怨恨も絡む。その上、第一発見者。亜弓が心配になって相談してくるのも分かる。警察に電話する方が先だろうか。しかし既に真弓は病院にいっており、治療を浮けているという。犯人につながる証拠なんてあるのだろうか。
 六華は亜弓に連れられ真弓の家にきていた。
 家は奇麗だった。
 まだ、ほどかれてもいない荷物が見える。
「では調べさせてください」
 調べる対象はそう多くはない。
 部屋の多くはうっすらほこりが被っている。ほこりがないものが戻って来てから使っているものということだ。
 そう思いながらじっくりものを観察する。だが、ほとんどのものはほこりが被ったままだ。
「明日掃除するつもりだったんです」
 続いて屑籠を調べる。
 目についたのは広告の束だった。ダイレクトメールではなく新聞受けやポストに投げ入れるタイプの紙の広告だ。
posted by 管理人 at 17:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2005年11月03日

それいけノノ先生 魔を降すものは己が魔を降さなくてはならない

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 六星は拳を叩きつけた。間を置かずそのまま叩きつける。
 空に向かい殴りつけて行くその様は異常だ。あるいは恐ろしく真剣に形の練習をしているようにも見える。
 だが、しているうちに何もなかったはずの空にひびのようなもの見え始めた。
「よし」
 それは結界が壊れてきている証だった。
 勢いよく六星は拳を叩きつけた。
 一発・二発・三発。
 書き割りが壊れたように、その裏には家が見えた。それは封希の家だ。そこにぶちがいるのだろう。そしてあの巨大な赤いものはなんだ。
「なんだあれ」
 六星はどうしてか見覚えがあるそれを見ながら首をひねった。
 タコさんウィンナー。今日、七瀬とルーテのお弁当にいれたものだ。
「どうしてあんなのが」
「あれもまた怨嗟の形」
 巨大な顔が六星の側に浮かんでいる。タコさんウィンナーにひかれて注意がおろそかになっていた。
「次から次へと客の多い日だ。お前も己が怨嗟に飲み込まれろ」
「くっ」
 腕を組み顔をかばう。
 光が六星を擦り抜けていった。
 痛みもダメージもない。あるのは違和感だ。
 光が通り抜けていった体のあちこちで動いているのが分かる。それは何かの音楽のように一定のリズムをもっていた。
「悪くはない」
 ああ、こいつは何をいっているんだ。体が軋む音が大きくて聞こえない。
「深い怨嗟だな」
 そんなものは口に出さなくても分かるだろ。
 だってその為に手にいれた力だ。
 始めにそれをお前に知らせてやろう。
 魔よ。
 六星は拳を放った。拳に併せたように雷が迸る。
 顔は激痛に叫びを与えた。
「壊れろ」
「出でよ兵共」
 雷が強さを増した。顔は仮面めいて硬直した。もう一撃で全てが終わる。
 終わる?
「ダメだもうそういうことはなしだ」
 六星は呟いた。しかし、握った拳から雷は止まらない。
「助けるんだ早く」


『魔を降すものは、己が魔を降さなくてはならない』
 それが意識から滑り落ちた。

 六星は家に向かい歩き出した。いや、動いている。ただ、視覚がおかしい。地面はこんなに近かったろうか。世界はこんなに高かっただろうか。
「僕、何してるんだっけ」
 六星はいった。
「そうだ。魔を斃さないと」
 お父さんの変わりにしなくてはいけないのだ。
 いつの間にか現れた鋼の鬼たち。それは紛れも無く魔だった。
「邪魔しないで」
posted by 管理人 at 20:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2005年11月06日

BeforeBabel 降誕5日目

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 教室に入った紅葉はTスクエアの音楽のかかる中、明の姿を探した。しかし、明は学校に来ていない様子で、机にはカバンはおろか、荷物がまるで無かった。
『確かめなきゃいけないのに』
  予鈴が鳴り、教室に入ってきた村上春子の表情の暗さにいつもは騒がしい教室が静けさに包まれる。
「昨日から小松成美さんは家に戻っていません」
  教師の悲痛な表情が移ったように騒がしさが増した。
「静かに。心辺りがある人は私の方も言うようにしてください」
  言葉を聞きながら紅葉は成美と一緒に消えていった明の事が思い出された。
  そのまま授業が始まり一日が過ぎた。明も成美も姿を見せることはなかった。ホームルームの中で部活の停止が告げられた。
  帰ろうとした紅葉は声をかけられら。
「小原さんちょっと」
「なんですか?」


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2005年11月17日

それいけノノ先生 八分

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「ルーテしっかり」
 ルーテは自分が生み出した巨大なタコさんウィンナーに踏み付けられていた。
「ノノさん、封希さん連れて逃げてください。何か外でとてもいやな感じがするんです。なんか危ない感じなんですよ」
 ルーテの言葉など聞こえないようにノノはウィンナーを見て回っている。
「本当に大きいな」
 ノノはちょっとあきれて呟いた。
「まさかそんなにウィンナーが大切だなんて」
「自分でもしらなかったです。食べ物の恨みは恐ろしいですね」
「他人事みたいにいわないの。もうしょうがないな」
 ノノはルーテの手を引っ張った。だが、ルーテの体は微動だにしない。
「これ以上動かないのはいいんだけど」
 先程までは踏み潰すような勢いで動いていたウィンナーだが、今は動かない。きっと何かあったのだろう先程の顔に。
 封希は何かの傷をつけようというのかタコの足に爪を立てている。
「封希、ケガしたらどうするの。ああ、もう猫になってもむちゃなんだから」
 ノノは封希のつけた傷を見た。
「猫の手でどうにかなるならいけるかな」
 そのまま小さく指先に火を灯す。じゅうっと音があがり、香ばしい匂いが広がる。
「封希さんもすいません」
 封希ががんばれというように肉球でルーテの頭を撫でている。
「ううがんばるですよ」
 ノノはひらめいた。
「あれこれって。ルーテ、お腹空いてない?」
「そういえば暴れたからですからね。少し」
「タコさんウィンナーあるんだ」
「おお。とっておいてあったですか」
 ルーテは目を輝かせる。
「いや、今自分を踏み付けているのは何?」
「あ」
「さあ、腹一杯食べていいよ」
「一人でですか?」
 ルーテは自分より重いであろうウィンナーに目を細めた。
「まあ、あたしも手伝うよ。昼食べたくらいだけど」

「何がまずいんだよ寧」
 サラはいった。
 様々なところに電話連絡を終えるまで少しばかりいらついたが、寧の顔は学校とは違い一人の指導者の顔だった。
 チョークで恐竜の形に描かれた輪郭を見ながら寧はいった。
「ええ取引がです。古典的な悪魔との取引です。願の代わりに何かしら、多くは魂を差し出す」
「天国の口は狭く、地獄の口は広いからね」
「それは同感ですね。ただ、今回はその契約対象が動物なんです。考えましたね。ほとんどの家は今、霊的防御を家に施している。でも、動物なら屋外にいるものも多い」
「動物は多いんだよ。でも動物は自分では普通魔にはならないはずだよ」
「ええ、それが危険なんです。元来、ネコマタのように年数の問題でなるものは問題ありません。化け猫は、猫そのものではなく、人の恨みが魔と化させる。でも、今回の取引はじかに、何かと動物がしているみたいです。だから数が半端ではない。この境界にいる動物がもし全部さっきみたいなのになれば、頭が痛い話ですね」
「それで命令は」
「消えた動物を調べさせ、後は六星を向かわせたから大丈夫だと思います」
 サラが見たところ、施術者はそれほど高い位階ではない。六星でもお釣りが出るだろう。口にはしないが六星が強いはよくわかてっている。それでも気がかりがあった。
「変な気配だよ」
 サラはいった。
「何か嫌な感じだよ」続きを読む
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2005年11月22日

それいけノノ先生 天使の目覚め

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「君達に罪はないよ」
 六星はいった。
「でも誘われ惑った時点でもう遅いんだ」
 襲いかかってくる鋼の獣たちは六星の言葉など聞こえないように距離を詰める。
 しなやかな一撃が六星の体に触れる。それは受ければ小さな体など砕ける一撃。その瞬間、稲光が走り、獣を地面に突っ伏させた。
「ごめんね」
 その獣の体に手をやる。電光が走り、獣は消滅する。
 既に獣の姿はない。残っているのは死だ。
 お父さんを殺した。
「あいつめ」
 六星は叫んだ。

「危ないです」
 ルーテは叫んだ瞬間、その背中なの翼が大きく広がり、ノノと封希を包むように伏せられた。
 それは雷だった。
 光の翼は攻撃を受けながら全く欠けることはない。
 その力が自分の知っているルーテとは遠い気がして、ノノは横顔を見た。そこにはいつもよりやや堅いものの見知った天使の姿があった。
「嫌な感じです」
「それよりルーテ。それ何?」
 翼は大きく、いつものアクセサリーとさえ思えるような愛らしさはなく、むしろ畏れを覚えるような無垢の白い翼。
「結構食べたので、大きいの出せてますね」
ルーテは翼を小さく動かした。
「まだ余裕あるの?」
 ノノの言葉に、ルーテはおなかを抑えた。
「腹八分というところです」
「おなかじゃなくてその翼」
「そうですね」
 続いてきた雷と翼がぶつかりあった。
「随分乱暴ですね」
「ルーテしっかり」
「もともと魔術は効きにくいですよ。二人はだいじょうぶですか?」
「うん」
 と封希が歌うように鳴く。
「いってみよう。六星に何かあったのかもしれない」
「そうですね」
 外にでたノノは目を細めた。そこには壊れたものの存在が広がっていた。もともと何らかのものであったのが、今は沈黙して見る影もない。
 その中を子供が一人立っている。雷を薄絹のようにまとったその姿は兵器を思わせる不吉さだった。その殺意は、はっきりこちらに向けられていた。
「何あれ?」
 子供は近づいてくる。それにしたがってノノの中に起こって来たのはまぎれもなく恐怖だ。逃げろ逃げろと長い間の存在を維持してきた本能が告げている。
「ちょっと止めてくるです」
 そこいらに買い物にいくようにルーテはいった。メインディッシュを肉にするか魚にするかくらいの間があればノノも何もいわなかった。
「あれはダメでしょ」
「だいじょうぶですよ。だってあれは六星さんですから」
 ルーテはノノと封希を足元に下ろした。
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2005年11月24日

それいけノノ先生 ぬくもり

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近づいてくるものに六星は畏れを抑えるのが精一杯だった。
 かつて見た巨大な翼。今近づいてくる翼も小さいものだが、それと同じだ。天上の造化を用いた地上の児戯。光が強くて正体がつかめない。
 でもあれは魔なのだ。自分にとっては。
 六星は地面を蹴った。一気に放った拳は雷を伴いまっすぐに走る。さっきは遠かったからから適当に打ったが、この距離なら外れることはない。直撃したはずのそれは翼に防がれていた。
「これでもダメなの」
 翼は近づいてくる。
 けされる。あの時のようにきっとみんな。
 ぬくもりが伝わった。翼に包まれている。暖かいそれに畏れはない。ただ、まぶしいだけ。抱擁は小春日和の昼下がりのように心地よい。
「まだ怖いですか?」
 どこかで聞いた声。そうだ。僕はこの声を守ろうとしていた。なのに何をしているんだ?
 何か置いてきてしまっていた。それがあればもう一度、戻れるはずだ。
 先生に言われたことを思い出すんだ。
「己が魔を降さなくてはならない」
 でた言葉は言葉は自分が何者か思い出させた。
 若葉のように鮮やかな緑色の瞳が自分を見ている。決して美人ではないが、癖がない整った顔は親しみがもてるものだ。
「ルーテさん?」
 光とぬくもりは消え、翼を持った少女の姿。今までの光を感じるのはまっすぐなきれいな長い髪くらいのものだ。
「だいじょうぶですか?」
「はい。そのごめんなさい」
「だいじょうぶですよ。ただ、ちょっとノノさ先生が、心配してて」
 ルーテの翼がいつもの大きさを取り戻す。その小さなまるで作り物のような翼が自分の心を取り戻したと思うとこそばゆい。
 六星は息は吐いた。
 廃墟の中で、全てに殺意をたたきつけていた時代。それは随分昔のように思えた。でも、過去の蓄積が現在になり未来につながる。
 その小さな翼に負けるほど自分の心は弱かったのだ。目の前が暗くなっていく。どうも持っている力を出し切ってしまったらしい。
「六星さん」
 遠くに聞こえるルーテの声を聞きながら六星の意識は落ちていった。
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2005年11月26日

god−1

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 呪術師イモキ・ノトウムは砕けた仮面を顔から剥ぎ取った。危険を避けるために遠隔操作したというのに、つながっているラインを通って、天見六星の攻撃は遡ってきた。
 この未熟な魔術しか持たない世界の退魔など、役に立たないと思っていたが、あれは脅威となるものであるのは分かった。己が存在を改変してまで、攻撃にくるのは魔術師である自分からすれば狂気としか思えない。
 まず我があり他の全てがある。己を失ってまで、なにかの目的に特化するのは、異常だ。だが、あの怨嗟に飲み込まれた天見六星はそういう存在だった。強いていうならあれは魔力を持つものを壊すのに特化していた。あの雷は、電撃系の魔力の発現というのに留まらず、明らかにあれば束縛する雷の鎖であった。その鎖が遡り、多くの欺瞞を打ち破り、ラインを確定し遡ってきた。
「清原寧を仕留め名をはせようというこの時に」
 息苦しさを覚え、新しい仮面を懐から出し顔につける。仮面との魔力の混合がされ、先程の失敗など気にならなくなる。この世界は自分の世界に比べ息苦しい。
「よし」
 天見六星に放った獣たちは恐らく足止め程度にしかならない。だが、この町には多くの獣がいる。それらの中には、天見六星に対抗するべきだけの闇を秘めたものもあるはずだ。時間さえかければ勝てる。そう思いながら歩き出すと、どこか遠くで高いレベルの力が動くのが分かった。それは天上の力だ。触れれば自分の中に存在する自然に戻され、魔力は浄化され力を失うであろう力。
 ノトウムは歩みを速めた
「呪術師ですね」
 そこには黒髪に赤い目をした少女が立っていた。整っているというよりは、どこかの工房で作られたガラス細工のような、可憐な容姿だ。
 ノトウムは呪を唱え、それに抗するように少女は、ペンダントを突き出した。天に昇る蛇のほられたそれを見た瞬間ノトウムから殺意は消えた。
「godか?」
「あなたの呪術は素晴らしかったです。だからここで消えるべきではないと、組織は判断しました」
 その声も澄んでいて美しい。
「迎えか?」
「アルスマグナ(大いなる技術)は確保されるにふさわしいですから」
 少女はノトウムに近づいた
「では研鑽は続けられるんだな」
 少女は少しだけ考えて頷いた。
「はいもちろんです。より実学的になるために」
 少女の華奢な手がノトウムの仮面に触れた。がそれはノトウムを動揺させた。あっさりとその手は防御を透けてきた。
「でも一つだけまずいことをしました。あなたは、清原寧に手を出してしまった。あれは、ただの組織のボスといった類のものではありません」
「貴様」
 ノトウムの仮面が消える。どこかに転移されたのが分かった。仮面がなくなり手で顔を隠しながらノトウムは怒鳴った。
「面を返・・・」
 それは声にならない。
「貴様呼ばわりは、やめてください。サラマンダーという名がありますので。失礼もう聞こえなかったですね」
 ノトウムの口の中から火が噴出した。それは一気に全身を駆け抜け、肉体を白い炭と化させた。



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2005年11月29日

BeforeBabel 降誕 

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「だからあなたは強くなって」
  明は涙を拭くとそのまま背中を向け早足で歩き始めた。歩いているうちに涙が流れてきた。自分がいってしまった酷いことがどれだけ明を傷つけたのか。宇賀という人の言葉にのせられて自分は何をしたのだろう?
  友達を傷つけただけだ。
  気付けば家の前だった。
  猫の鳴き声がした。声の方には猫が立っている。
「気ヲツケ・・・」
  鳴き声に混じるようにそんな言葉が聞こえた。
  紅葉は息を潜めながら自宅のドアノブに触れた。大きな火花が飛ぶ。静電気にしては痛みの残る感触が手に残る。
http://99ya.gozaru.jp/storys/babel/nativty7.htm
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2005年12月01日

それいけノノ先生 探しているものは意外と近くにあるものだ

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疾斗は小さく舌打ちした。
 昨夜から何度もかけた電話は一度も取られることはない。
 家の電話ならあの父親が察して出ないこともあるだろうが、それほどは電化製品に興味はない封希だが、さすがに携帯は持っている。
 日頃のパターンで寝ていることも考えたが、そういうところはまめだから起きて着信があれば必ずかけ直してくるはずだった。
 それで早朝というのに、天川家の前まで来てしまったのだが、どうも中に人のいる気配がない。
 戻りかけて視線を感じた。その感じから、封希と思ったがいるのは、そこには猫の子一匹。庭の中には、毛の長いきれいな猫がいた。青い瞳をこちらに向けて何か鳴いている。
 また、封希が拾って来たのだろうか。近づいてきた猫を抱き上げ顔を見る。

cat_fuki.jpg


「猫のわりに垂れ目だな、お前」
 あるいは飼い主に似たのかもしれない。疾斗はそう思い猫を降ろした。
 時刻はそろそろ八時を回る。
 学校にいるのかもしれない。そう思いながら疾斗は職場である学校には足を向けた。視線を感じると猫がこっちを見ている。
 保健室、朝一いつものようにの薬品類のチェックをする。
 異界からの来訪者であるアル・ナスラインからそのまま譲り受けた部屋は、死者さえ起こすフェルティア記念病院謹製の薬品が多く、さすがにまじめにチェックする。万が一減っていたら、持ち出したものの火葬場の予約も必要かもしれない。
 扉がほんの少し開きどう見てもこの部屋に縁のなさそうなノノが入ってくる。ベットの上で何やら確かめると、すごい勢いで出て行った。
 続いて入って来たのは彰斗だった。双子で、同じ学校の体育教師だが、雰囲気の違いから一目で分かる。
「ちょっと授業中、ひねった」
「そうか」
 疾斗は彰斗の足を一瞥した。
「だから手当を頼んでるんだ。ここ保健室だろ」
「これくらいなら根性で直せ」
「おいおい、そんなにとんがるなよ」
 彰斗は笑った。
「ははん、封希ちゃんいないからか」
 疾斗は彰斗を睨んだ。
「前の時間、女子の体育で、姿がなかった」
「そうか」
「知らないのか。なんだ喧嘩でもしたのか」
 疾斗は黙っている。
「休んだ理由も知らないのか。おいおい。そんなことしていると貰っちゃうぞ」
 疾斗は黙っている。
「彰、止める人間がいないって分かっているか?」
「あ」
「学校での暴力行為は禁止だぞ。知ってるだろ」
「治療だ」

 体を動かしたものの気は晴れない。
 昼食もとる気にならず、職員室で今日は帽子を被りスチュワーデス風の姿の至王子橘花にコーヒを進められた。
 断る理由もなくコーヒを飲んでいると、ノノが通気孔から飛び込んで来た。
「ノノ先生、出入りはちゃんと扉からな」
 橘花に言われ、ノノは頷くと、自分の机の上からノノなら3000mのキャラメルなどをとり、カバンに押し込んでいる。
「なんか抜け出した生徒がいるから捕まえてくる」
 そしてそのまま通気孔から出て行った。
「ああ、もうきいてないなあ」
 疾斗はコーヒを飲み終えた。
「おかわりは」
「ごちそうさま」
 結局、昼はとらなかった。


 夕方になっても封希への電話はつながらない。封希はどう見ても自分に関係ない厄介ごとに飛び込むところがある。今回もそれからもしれない。
 もう一度家に行く事にした。
 家の前にはノノとルーテが立っていた。それだけでももう先程の危惧は半ば現実になったようなものだ。ノノ、ルーテ、封希、そして疾斗がいて、平穏だった事はない。
「どうした」
「ちょっとね。封希の家、誰もいないからどうしようかと思って」
「何があった」
「ああ、ちょっとみんな入院してるのよ」
「封希は」
「封希」
 ノノとルーテは顔を見合わせた。
「お願いするです」
 差し出されたのは猫だった。
「封希さんです」
「それはわかってる」
 封希の家の猫だというのだろう。
「おおさすがですよ」
「ルーテ、これで封希の方は片付いたし、六星の方」
「七瀬さんを連れてくるですよ」
 ルーテは頷くと翼を広げた。それはいつもよりも大きくルーテとは思えない。
「じゃあ頼むね」
 ノノとルーテは飛び上がると消えて行った。
 疾斗は手元に残された猫を見た。夜行性の癖に猫は既に安心仕切っている。
 疾斗は猫を抱き上げて懐にいれた。


 イラストは雛稀さん。っていうか、先にこっちがきてこの話ができました。
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2005年12月06日

destiny1

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「またでたんだってさ」
近所のあやかしたちが湧き騒いでいる。いつもなら霊感やセコンドアイ、そんなものを使う人間しか感じ取れないあやかしの気配が今日は大きい。一言と思い近づいていった。
「ああ桑原桑原」
「それじゃ雷除けだよ」
「いや雷のようなものらしいよ」
「それは穏やかなじゃないね。雷を使うとすると、大陸の連中かな」
「いやそうでもないみたい。急に出たっていうんじゃなくて、前からあった気配って話だよ」
 なにかの噂話のようだが、少し聞いていたい気がした。幸い人の姿もないし、いいだろう。そう考えて腰を落ち着けた。
 最近は空界、あやかしである郁守たちの世界と、色界、人間の世界が重なる事が多い。触れるだけなら今までもあった。百鬼夜行、魑魅魍魎、そういった言葉は市中で、山中でそうした触れた状態を見た人間の残した言葉だろう
 時には色界の方に強くひかれ、肉の身を持つ物もあった。だが、それは多くは人の問題だった。空界に属し有無なきものを有として色界に降ろし、自らの力を持って討つ。あるいは使役する。式や使い魔、そんなものだ。
 時にはいつの間にか有ってしまうものもある。信仰や自然の精気、そうしたものでいつの間にか個を確立してしまう。
 郁守もそうだ。気づけばこうして個を持ってここにいる。
「王子、どうしたのさ」
 声をかけてきたのもよく見かける女子高生のように見える。ミニスカートをはいているわけではないが、腰が高いせいで、きれいな足がよく見えている。
「何でもない。ただ、あやかしが騒がしい」
「ああ。壊でしょ?」
「かい?」
「壊しちゃうのよ。それに自分も壊れてるの」
「そうか。よくわからない。だが、昔もそんなものがいただろ」
 退魔と総称されるそれらは、妖怪を狩っていた。だが、それは極端に領土を侵した時だけだ。ある程度縄張りを考えている節があった。今回の壊というのも、退魔ならその辺りは分かっているはずだ。人は長く生きられない分、決まりごとをするのが好きなものだ。それなら放っておけば止まるかもしれない。人間の寿命を考えればその選択は悪くないように思えた。
 郁守は少女が楽しそうにこちらを見ている事に気づいた。
「止めないの?」
「どうしてだ」
「だって、見たいじゃないの。あなたの戦うところ」
「戦いなんぞするものではない。失うばかりだ」
「まあ、ガキのなりで言われてもね」
「お前が普通にした方がいいというから、この格好をしているのだが」
「似合ってるよミキハウス」
「そうか」
 郁守はまんざらでもなくうなずいた。
 普通に見れば、大きくても中学生の少年と、高校生の少女が話しているように見えるだろう。
 郁守はあやかしが消えたのに気づいた。ほんの衝撃で消滅しかねないあやかしは誰よりも力に敏感だ。
 少女の背後に誰かいる。
 気配を殺しているが、こちらへの興味が姿を見せている。
「ところで、その後ろにいるのが壊か?」
 少女は振り返った。
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2005年12月08日

それいけノノ先生 猫封希完結編

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「・・・生徒を保健室に運び入れた。その事実に間違いはないということですね」
 校長室の中には二人の姿があった。
 一人は疾斗。剣柄学園高等部養護教諭だ。もう一人というよりは一体といったほうがいいかもしれないその空中に浮かぶ正方形の石に思えるもの。それが校長であった。
 もともとはこういう生き物なのではなく修行の為にこうして不便な石に入る事で能力を高めているらしい。
 そんな校長が珍しく激昂しているのは昼にさかのぼる。
 学校内を浮遊しつつ巡回していた校長は保健室に立ち寄った。
 養護教諭の姿はない。だが、校長が入った物音で目を覚ましたのかベットの上で起き上がる少女の姿があった。昨夜から欠席している天川封希であった。それなら彼女一人を問いただせばいいことだが、彼女は全裸であった。
 そのまま女生徒は保護され、養護教諭は呼び出される事になった。その原因は女生徒の発言。
「疾斗に運ばれて寝ちゃったみたいです」
 
「間違いありません」
 淡々と養護教諭はいった。
「あなたが保護された生徒と付き合いがあるのはしっています。ただ、学校ではわかりますね?。でも、当事者同士の同意というのなら、各々にペナルティーを課しますが、この学校を去るというものではありません」
「自分だけで結構です」
 養護教諭は落ち着いている。前任者のアル・ナスラインの推薦というか押し付けからなっているという話もあるのでもともと乗り気なのではないのかもしれない。
「先生、私は合意の上でならそれ程の大きな話にならないといっているのです。彼女が勝手に入ってきたということにすれば、あなたは連絡が遅かった責任だけ取ればいいのですよ」  
「封希は何もしていない」
 換気扇が開いた。
 中から姿を見せたのは妖精の教諭だった。
「ノノ先生、今取り込み中です」
「分かってますそのことできたんです」

 ノノは大きく息を吐いた。うまいこといわなくては疾斗にも封希にも悪い。ここは一つがんばらなくてはならない。
「いったい何が悪いんですか?」
「ノノ先生。あなたの環境ではどうかしりませんが、ここではそうしたことは禁止されているのです。公私混同は問題なのですよ」
「公私混同とおっしゃいますが、これはむしろ疾・・・先生の教育者としての姿勢ではないのでしょうか」
「教育者ですか?」
「そうです。だってそのまま家にいて、捕まえておけばいいんですよ。学校に連れてくるなんて危険極まりないです。それは校長先生もそう思われますよね?」
「その通りです」
「それなのにも関わらず連れてきた。そこにどんな意味がありますか?」
「意味ですか。あえて危険をおかす意味」
「聡明な校長先生ならお分かりと思います。自分の立場を省みず保護していた立場。そして、その理由」
 校長は黙っていた。その表情は当たり前のことながら分からない。
「分かりました。不問に処しましょう。二人とも業務に戻ってください」

「ノノ」
 外にでるなりノノは声をかけられた。いつもはチビ猫などといわれているのでこうして名で呼ばれることは珍しい。それだけに続く感謝の言葉が予想されてノノは笑顔でいった。
「お礼はいいから」
 疾斗は笑顔を浮かべた。
「お前があの猫は封希だとちゃんといってればこんな事にはなってないだろ、ああ?」
 ノノは頬を膨らませた。
「ちょっと待った。ちゃんといってたじゃないルーテが」
「そんなこといったか」
「いったよ」


「封希は」
 疾斗の言葉にノノは思った。目の前にいるのに何をいっているんだろうと。
「封希」
 ノノは猫姿の封希を見た。
「お願いするです」
 ルーテが封希を差し出す。一応確かめようと思うと先にルーテは口を開いた。
「封希さんです」
「それはわかってる」
 やはりちゃんと見れば分かるものらしい。ノノは安堵して病院へと向かった。

「うん、確かにいった。ルーテが『封希さんです』」
「あんなので分かるか」
 そうそのまま猫だと思って学校に連れてきて保健室に寝かしておいたら封希になっていたのだ。
「お話終わった?」
 封希だった。
 その姿を見て疾斗は何もいわずにただ抱きしめた。
「わ、疾斗ダメだよ」
 校長室のドアが開いた。
「何しているんですか?」

 だいたい冒頭に戻る。


 
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2005年12月11日

BeforeBabel 降誕 

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 近づいてくる赤い唇が不意に止まった。成美の身体が倒れてくる。成美の胸から刃の切っ先がかすかに覗いている。明の持った刀の刃が裏から貫いていた。
  成美は倒れた。
「どうして殺したの」
  成美の身体が冷たくなるのを感じがら紅葉は明を責めずにはおられなかった。明の目が悲しみのためか潤んでいるのを知りながらも。
「それしか手段が無いから」
  明は呟いた。
「殺すなんてだめだよ。そうやって妹さんも殺したの?」
  明は詰られて目を細めた。
「どう思ってくれてもいい。だから逃げて。ここはまずいの」
「モウ遅イ。カロン・カコンがくる」
  成美の口から血の泡と共に言葉が吐き出される。息は冬の最中であるように真っ白だ。
  空気が震えた。
  まるで森の中にいるような清浄な空気が不意に公園に吹き込んでくる。
http://99ya.gozaru.jp/storys/babel/nativty8.htm
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2005年12月13日

BeforeBabel 降誕 

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 草一本生えていない寒々とした空き地に立って宇賀史明は小さくため息をついた。
  そこはかつては小原家のあったところであった。小原家が火事に襲われてから一月あまりが過ぎている。
  保坂真由美、亜由美、そして小原紅葉。何もする事ができずにまた今を迎えてしまった。
「宇賀君」
  穏やかな声がかかった。
  宇賀は見ながら驚きの声を上げた。
  有馬暁生。大学生活最後の夏にあった忘れられない人物の一人だ。
  その記憶は常に一人の少女に結びついている。だから今日まで連絡をとることはしなかった。
「有馬さん」


http://99ya.gozaru.jp/storys/babel/nativty9.htm
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2005年12月20日

それいけノノ先生 メインディッシュはわたしです?

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「羽根が筋肉痛になりそうですよ」
 ルーテが家に戻るとキッチンに立った七瀬が無心に包丁を叩いている。音はいつもと同じくリズミカルなのだが手先が怖い事になっていた。
「どうしたですか七瀬さん」
 七瀬はルーテを見ると目を丸くした。ルーテが帰ってきたことも気付いていなかったようだ。
「ごめんなさい。ああ冷えてるよねお風呂先に入る?」
「それよりこれは何ですか?」
「夕飯は手羽のポトフにするから。キャベツは多めの方がいいかなって」
「煮たキャベツはおいしいです」
「でしょ」
「でもこれは」
 いったい何度切ったのかまな板の上のキャベツは細かく刻まれて何か得体のしれないものになっている。
 七瀬は顔を真っ赤にした。
「わ、何か違う料理も作るから。ルーテさんはお風呂入ってきて」


 蓋をあけると、お風呂は煮立っていた。
 かき混ぜても湯気を広げるだけだ。その湯気もちょっと変わった匂いだ。
「何かお腹が減る匂いです」
 蛇口を捻って水を出した。いい温度になる間に髪を洗うことにする。
 湯気の中で手を伸ばして瓶をつかんだ。髪用と体用と、白黒二本のガラス瓶がある。昨日までは無かったものだ。
 髪から洗い始める。
「おりーぶ油ですね」
 ルーテはオリーブ油を髪につけて洗い始めた。すっかり流し終えると次は体を洗うことにする。
「お酢ですね」
 ちょっとひりひりするが汚れはとれる。
「くいしんぼうだからですかね」
 どれも食材が連想された。
 洗い終えるとお風呂はちょうどいい温度になっている。お湯の中に巨大なティーパックが浮かんでいる。
「まさかブーケガルニ」
 ルーテは自分の翼を見た。ちょうど三人前くらいだ。
 手羽のポトフ。
「食べられてしまうです」
「ルーテさん準備できた?」
 七瀬の声がした。



 ポトフは湯気を立てている。中には手羽先やソーセージ、大きめに切ったキャベツやにんじんが入っている。
「召し上がれ」
 今日も六星はいない。どうも12月になってから忙しいようであまり帰ってはこない。
「おいしいです」
 お風呂場での考えをすっかり忘れてルーテはいった。
「よかった」
 そう答えた切り七瀬は黙ってスプーンで遊んでいる。
「七瀬さんどうかしたですか?」
「ああ。えっと最近お兄ちゃん学校でどう?」
「かわらないです」
「そうなの」
「何か気になるですか」
「昨日の事なんだけど」


 久々に軽めの風味で、元の感じです。
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2005年12月24日

それいけノノ先生 悩み多き人たち

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 朝食を終えた兄がごちそうさまをするのを見ながら七瀬は同じように頭を下げた。
「おそまつさまでした」
 顔をあげるといつもなら洗いものに行く兄の顔がそのままある。
「クリスマス、女の子は何を喜ぶのかな」
 唐突に兄から出た言葉に七瀬は首を傾げた。
「寧ねえはお兄ちゃんから貰えば何でも嬉しいと思うよ」
 いとこの清原寧はこの世の栄耀栄華の大半を持っている。だから何を上げても喜んでくれるだろう。そこに思いがあれば。
「寧ねえには花を送ろうと思うんだ。ミニシクラメンの新しいやつ」
「他の人なの?」
「うん。まあ」
 言葉を濁らしている。
「何でもいいと思うよ」
「そっか」
「でも。何を上げるかわからないくらいの親しさなら無理はしないほうが」
「そうだね」
 六星はため息をついた。

「その女の人を知りたいんですね」
 ルーテは少しだけ微笑ましい気持ちになった。
 大人びているがそんな子供っぽいところもあると思うとちょっと安心できる。
「六星さんは何があっても七瀬ちゃんのお兄さんですからだいじょうぶですよ」
「それはわかってるの。誰かわかればアドバイスもできるから、それでなの」
 ルーテが思っているより七瀬は大人だった。

「昨日、家で食べられるかと思ったですよ」
 ルーテの言葉にノノは咳こんだ。封希は顔を赤らめた。
 教室の中にはノノを始め、ルーテ、サラ、封希しかいない。最終日の放課後で、結構みんな早く帰宅しているのだろう。
「ルーテそういうことは大声でいわないの。あたしにも立場があるんだから」
 ノノは少しばかりきつい声で言った。
「この時期はそうなんだよ。クリスマスで街が浮かれているせいなんだよ。サラもじろじろ見られるよ」
 サラは事もなげにいった。サラの容姿はかなりいい。典型的な美人であるしスタイルもいいからそれが翼をつけて飛んでいれば当たり前だろう。
「小悪魔発見」
「いきなり天使全否定です」
「ノノ先生にいわれる分にはいいよ〜サラには先生が小悪魔だよ」
 サラは笑顔でいう。
「小さいっていうなこれでも国の方だとお大きいんだから」
 ノノは暴れた。

「夕飯がポトフなんていわれてお風呂行ったら煮立ってて、お酢とかオリーブ油ばかりで、そのまま料理されるかと」
 ルーテはいった
「小麦粉はたかれたりバター塗られない限りはだいじょうぶだよ」
 封希がいうとノノは妙にうなずいている。きっとそういう事があったのだろう。注文の多い料理店が実話だとすると結構怖い。
「それでですね、七瀬さんはきにしてることがあって、に六星さんがプレゼントあげる人を調べてほしいって頼まれたです」
「あ、でも多分それは」
 ここ数ヶ月、六星の視線の先はだいたい決まっている。
「封希。いわなくていいわ」
「うんそうだね」
 ノノちゃんも気付いてるんだと封希は思った。それできまずくなると困るもんね。と封希は口の中で付け加える。
「いやあ教え子にもてるなんて困るな」
 サラは表情を険しくしている。
「いやノノちゃ先生じゃないと思うよ。第一授業している時はちゃんと見てるもん」
「だってよくこの翼やら髪やらみてるよ。視線を感じるし」
 ノノはポーズをとった。
「サラさん落ち着くです」
 横を見ればサラの翼が少し鋭さを増している。
「まったくしょうがないよ。人間の業は深くて」
「ノノさ先生なら何がほしいですか」
「背。あと攻撃力」
「十分すてきなんだからそんなの不要だよ」
「クリスマスにはどれも難しいですね」
「封希さんはなんですか?」
 封希の頭にツリーの事が思い出された。
「星がいい」
「それも難しいような」
「そうかな。あれでもどうして私に聞くの?」
 ルーテは分かってないのだろうか。
「わからないんで全員分教える事にするです」 

 
「その為にわざわざきたのか」
 アルは目の前の天使が頷くのを見ながらウォーマであっためてあった缶コーヒーをさし出した。マックスコーヒーは死ぬほどあまいがアルの好物の一つだ。
 診察時間も終わり静かになった診察室。
 こうして向かい合っているのが、この世界で死の一部を担っていた存在だと思うと少しばかり妙な気分だ。
「バイトはいいのか。この時期とバレンタインはひっぱりだこだろ。天使っていうのは鳥を連想させるらしいからな」
「うう確かに。でも、七瀬さんにはお世話になっているですから」
「それは殊勝な心がけだが、わしが思うに最終的には何でもいいと思うぞ」
「七瀬さんはそうは思ってないみたいですよ」
「まあ正しい場面で的確にものを使うのは悪いことではないからな」
 ノックの音が響いた。
「どうぞ」
「こんばんわアルさま。ルーテさまもいらっしゃっていたのですね」
 入ってきたのはアルの病院のオーナーであるフェルティアだった。
「こんばんわです」
「学校生活はいかがですか?」
「楽しいです」
「それはよかった」
「何の用かなフェルティア嬢。ルーテ嬢がいるとまずいのなら場所を変えるが」
「いえいえ。むしろいてもらった方が嬉しいですわ。クリスマスはホールで小規模ですが、パーティーを開きます。よろしかったらルーテさんもいかがですか?」
「今ルーテは九十九屋で世話になっているのだが、あの兄妹も招いたらどうだろう」
「そうですね余裕はありますので、アルさまやルーテさまのご学友もよろしかったら」
「わかったです」
「あと・・・」
 フェルティアは口ごもる。アルは小さく笑った。
「分かっているレジス氏を何もいわずにパーティーがあるからと連れてくればいいんだろ」
「ええお願いします」
「聖夜なのに黒いです」
 
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2005年12月25日

それいけノノ先生 聖夜〜The Angel Gabriel〜

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 ホールにきた六星は目を細めた。
 飾りつけはされているものの基本的にはホールなのでそれほど華やかではない。それでもかなり大きなツリーが飾られている。
 何か勘違いしたらしくツリーには『大きくなれますように』とか『ノノ先生だよ』とか『もっと自由を』とか妙な短冊が見える。
 参加者の中には眼つきの厳しいものも多く、それは警備のものなのだろう。だが多くは楽しそうにして話し込んでいる。
「やあ六星氏。高級なジュースをどうぞ」
 声がかかってきた方にはアルがサンタクロースの格好をして立っている。ガラスグラスに入った酒としか思えないメロン色の液体を六星は困って見つめた。
「ありがとう」
「いやいや楽しんでくれ。おお七瀬嬢にわな」
 差し出されたのは小さな星の飾りだ。
「ありがとうございます」
「六星氏にもあげよう」
 差し出したアルの背に声がかかる。
「アルさまちょっと」
「おっと失礼」
 アルは急ぎ足でヒトの中に消えていった。
「アルさん楽しそう」
「もともとそういうことは好きみたいだからね」
 六星は人ごみの中を目で追った。
「お兄ちゃん誰か探しているの?」
「ああ。でもいないかもしれないから」
 七瀬は首を横に振った。
「わたしはいいからその人のところにいってあげて」
「いやいいんだ」
 六星は七瀬の頭をなぜた。
「いい子だな七瀬は」
「お兄ちゃんもいい人よ。参考までにいうけどいい」
「何をだい?」
「女の人が欲しがるもの。友達に聞いてみたの」
「ありがとう。でも小学生だと年が」
 といってから年の事はよくしらないことを思い出した。
「まあまあ、『ツリーの星』。『妖精のペット』。『花』。『香水』だって」
「いろいろだね」
「うん」
「その中で七瀬の欲しいものは何?」
「別にないよ。お兄ちゃんが無事でいれくれるのが一番嬉しいことだよ」
 六星は口をへの字にした。
「それは同感です」
 清原寧だった。
「こんばんわ寧ちゃん」
 七瀬の頭を寧は撫ぜた。
「こんばんわ七瀬。あなたがこの無茶な子を止めておくものなんだからしっかりね」
「わかってる」
「二人ともひどいな。最近はそんな無茶してないよ」
 二人はよく似た表情で首を横に振った。

 少し体温が高い。酒もといアルいわく高級なジュースを飲みすぎた。もともとそれほど強い方ではないのだ。
 他のみんなはテンションが高くなっているらしく、踊りだしたり、歌いだしているものもいる。その声が少し頭に響く。
 少し落ち着こうと冷たい空気が頬に触れて気持ちがいい。
 中の騒ぎを考えると怖いくらいの静かさだ。世界はすべて書き割りでライトのあたっていないここは誰も見る事もなく放り出されている。
 この舞台と思えてしまうくらい小さな場所。でも、それでもここを守っていきたい。
「六星さん」
「どうしたんですか」
 本当にどうしてここに彼女がいるのか。トナカイの赤鼻をつけていたと思ったのに。
「外に果物が置いてあるっていわれたです」
「どれかな」
 ブドウが編まれた籠の中に入っている。
「おおあったです」
 持ち上げようとしてルーテはそこで止まった。必死に持ち上げようというのだろうが体の方がういている。
「持ちますよ」
「さすがに男の人ですね」
 籠は簡単に持ち上がった。
「一人で持てますよ」
「そうですか」
 ルーテが手を離した瞬間一気に六星の手に重みがかかった。
「だいじょぶですか」
 落ちかかった六星の手にルーテの手が重なった。
「二人で持っていった方がいいですよ」
「顔赤いです」
「あ。ごめん」
 すいうルーテの顔が近い。人間ではあり得ない光を帯びたきれいな髪。こんな近くで見るのは、あの時以来だった。
 思い出して顔が熱くなる。それは酔いなどではないもっと奥底からくる熱さ。
「六星さん、プレゼントあげました?」
 ルーテはいった。
「え。ああ、いや何が欲しいか分からなくて一応用意はしたんだ」
「きっと何でも喜んでくれると思いますよ」
「そうかな」
「そうですよ」
「あのさ」
「ルーテ遅いんだよ。ノノ先生がブドウ食べたがってるんだよ」
 サラがいつの間にか前に立っている。
「わかったです。急ぐですよ六星さん」
   
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2006年01月07日

寒い夜 風の音に思い出すお話

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 あるところに美しい女御がおりました。
 帝のご寵愛を受け、都一の佳人の名をほしいままにしておりました。
 しかし、市井の人はその姿を見ることもなく、かぐや姫や乙姫のように、物語のうちにその姿を思うだけでした。
 それは朝廷に仕えるものも同じ事で、内裏の奥深くにいらっしゃる女御を見ることはありませんでした。
 庭師の翁もその一人でした。
 翁は官職こそない身でありましたが、その腕は確かなもので、見識がないものでも、一目でわかったといいます。
 まだ夜も明けきれぬある朝の事です。翁は思っていたよりも早く落ちてきた霜に、庭の様子を見に出仕して参っておりました。
 幸い庭の草木は日頃からの丹精か、欠ける事なく美しい姿を見せています。
 安心したせいか先程まで感じていなかった寒さが翁の身に染みに参ります。 
 翁は四阿の一つで寒さをしのぐ事にしました。
 四阿には先客がおりました。しかし骨の髄まで染みる寒さに翁は気付くことはなかったのです。
 雨意雲情の後なのでしょう。すがれのような腰が着崩れた衣の内側から見え、翁はすばやく身を翻しました。
「だれぞ」
 いらっしゃたのは女御でございました。

 内裏の庭が俄かにあれ始めました。いえ、庭師の数は多く、そんな事はあるわけはありません。
 しかし精彩がなくなったのは誰の眼にもわかりました。
 女御もそれに気付かれました。官女の一人に尋ねますと。
「庭師の翁が病だとか」
 官女はそう申しますと何やら用事があると離れていきます。
 どのようなものにたずねても同じような答えしかありません。
 思い切って女御は尋ねました。
「恋患いと聞いております」
 自分のあさましい姿を見て懸想していると女御は思われたのでございます。

 翁は部屋で転がっておりました。
 おきていれば女御の事が思い出され、眼を閉じればまぶたの裏に姿がありありと見えます。
 女御の天女のようなお姿が翁の身に巣食っておりました。
「失礼いたします」
 翁のところに届けられたのは一つの包みでした。あけてみれば鼓が一つ。
「この鼓の音が聞こえましたら、女御は四阿にお姿をお見せするとのことでございます」
 翁は喜びながら四阿に赴き、鼓をたたきました。鼓から漏れる音は鈍くとても女御のいらっしゃる奥まで聞こえるとは思えませんでした。
 翁は自分のたたき方が悪いのだと、再び鼓をたたきます。
 いつまでも翁の部屋からは鼓とは思えない鈍い音が響いておりました。

 女御の様子が物狂いだと思われるようになったのは霜が毎朝、庭を白く飾る頃でございました。
 すきま風の音や、風が戸を揺らす音。そんな音を聞く度に鼓の音がするとおっしゃるのです。
 女御が物狂いになったと噂されるようになったのはそれからでございます。
 ある夜の事、小雪のちらつく中、女御は庭を歩いておりました。
 冬になったということもありましたが、翁の世話をすっかりうけなくなった庭は荒涼としております。
 女御は四阿にこられました。
 四阿では鼓を叩くものがおります。それは鼓を鳴らしている翁の姿でした。
 翁は冬が来る前に、仕掛けされ鳴らない鼓をたたき続け亡くなっておりました。
「やっとこられました」


 女御の亡骸が見つかったのは冬の朝でございました。
 歪んだ美しさともうしますのか、死しても女御は美しくあられました。
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2006年01月14日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第七章 昏き理4

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月の巫女トリュファイナ・アクティニドレス・アムドゥシアス。
  月の巫女とは、月の女神天后ともいわれるムーアの祭祀の要となる人間だ。現在の帝国の第二位である妖精后シャレムも、もともと月の巫女である。伴侶がムーアを信仰するからこそ帝王はその座についたのではなく、月の巫女の伴侶であるからこそその座についたともいわれる。
  アルは目を細めた。アルの視線を怯みもせずに見返している。
「月の巫女ともあろう方が出てきているとは思いませんでした」
「いえいえそれなりに忙しいんですよ」
  アルの後ろでフェルティアが小さく咳払いする。トリュファイナは笑顔を浮かべて、フェルティアを見た。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/039.htm

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2006年01月17日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL1

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「では本日、ハトバス主催の境界見学ツアーにご参加ありがとうございます」
 バスガイドの声が装甲ハトバスの中に響き渡った。
「本日、案内させていただきますのは、愛らしい容姿が皆様のこころを鷲づかみ、貰ったラブレターで風呂が炊けると評判の至王子橘花でございます」
 恐らく高校出たばかりと思われるバスガイドを見ながら宇賀泰史はちょっと残念だった。
 境界バスツアーの添乗員は妖精や、天使、鬼、妖怪がいるという話で楽しみにしていたのが、今日は普通の人間だ。かわいいのを本当の事だからまあ嬉しいといえば嬉しいのだが。
 泰史がツアーに参加したのは新学期入学する予定の高校が境界の中にあるからだ。
 境界といわれる範囲は千葉から東京にかけての沿岸部で、異界からの来訪者が割合自由に居住している区域だ。言葉の上では簡単に済ませられるが、世界の衝突と称されるおのおのの流儀のぶつかり合いによる騒ぎが多いのは有名な話で、このハトバスもしっかり装甲が施されている。
 特にこれから走るのは異界からの出口が至る所にある『金鳥通り』で、普段ならちょとした異界の風を感じる程度だが、場合によっては怪物と呼ばれるものが出てくる一角であった。
「『金鳥通り』は、様々なものが出現いたします。ただ、バスの内部は表相のずれを用いて安全でございます。ただ、大声を出すなど、騒ぎを起こされた場合、保障の限りではございません。耳なし法一の話を思い出していただければ幸いでございます」
 何が幸いなんだろう。
 そう思っているうちにバスの中に水が入り始めた。声をあげかけて思い出す。耳をとられても黙っていた琵琶法師の事を。
 水と思われたそれは水ではなかった。ただ、そう見えるだけで、これは違う世界の事なのだ。入ってきても息は苦しくならない。
 水を通して向こう側に映る景色は、奇妙な尖塔や、雪を頂く山々、黒い海、と見ている間に変わる。
 何か動いているもの。生きているものが見たい。そう思った目に飛び込んできたのは一人の少女の姿だった。 
 その顔には怯えが見えた。何者かに追われているその視線は幾度となく立ち止まっては後ろを見る。そこにある憔悴を含めても愛らしく可憐だった。
 その景色がずっと遠くかもしれない。あるいはもう過ぎ去ってしまった過去かもしれない。それが分かっていても泰史の目はそちらに向けられたままだった。
 少女の顔が強張った。それは光だった。光は少女を捕らえようというのか近づいてくる。少女は悲鳴を上げた。その声は聞こえた。
 声が聞こえる。空気がある。
「飛鱗」
 竜が泰史の前に姿を見せる。
「あの子に声を届かせる?」
「無論、我にかかればいとたやすきこと」
「こっちにくるんだ」
 少女はこちらを見た。泰史は手を伸ばした。
「こっちだ」
 少女は泰史に向かって飛んだ。
 

 



「新学期歓迎会で映画をすることになりました。今から三ヶ月びっしりと練習します」
 盛り上げようというノノの言葉に対して一人を除いて割合静かな教室。
 新学期一日目割合正月疲れが残っていてまったりしているだけにノノのテンポについていけないようだった。
 というか既に下校時間を終えて教室の中にいる生徒はサラ、寧、封希、ルーテ、アル(身長順)の5人だけだ。
 ノノはため息をついた。
「なにみんなやる気ないの?」
「あるんだよ」
「ありがとうサラ」
 ノノに言われてサラは笑顔を浮かべた。
「先生」
 寧は手を挙げた。
「なに清原さん」
「あの、話が急すぎてみんなが理解してないのではないかと」
「なにいうんだよ寧。ノノ先生が主役をしたいっていってるって分かってるじゃない」
 サラは自慢げにいった。
「主役」
 ノノは頷いた。
「まあ、あたしはかわいいし、みんながそう思うのも分かる」
 みんな(天使一名)が拍手をすると、封希とルーテもあわせて拍手を始めた。
「でもあたしは教師だから」
「では主役は公平に投票にしましょう。まず、主役を決めてからの方が、いろいろ練りやすいですし」
「寧、珍しくいいこといってるんだよ」
「じゃあ投票しよう」

ノノ4票、封希4票。

「ちょっとまって数合わない」
「王子は俺がいただきだ」
 黙れという言葉もなく一人の体育教師が、保護教諭に殴られ星になりかけた。
「その二人は生徒じゃないからダメ」
 あからさまに不機嫌な魔王。
「ではノノ先生ですね主役は」
 当然のように寧はいった。頷いているサラ。
「何をしようか」
「それは決まっている」
 アルは声を大きくしていった。
「ちょっとクールな女はできないから、あまり無理な事はさせないでよ」
「任せてくれ」
 アルはとてもいい笑顔を浮かべている。そのまま一冊の絵本を取り出した。表紙には小さなお姫様の姿が描かれている。
「ノノ先生の魅力を十分に生かしきったその映画の名は『親指姫』だ」
 絵本の表紙を見て納得するルーテ。
「おお、ぴったりですよ」
「だろ。これしかないって感じだ」
「ええ、こんなの嫌だ。だって(小さいじゃない)ねえサラ」
 サラはノノが姫衣装を着ているところを想像しているのかうっとりしている。
「姫はいいけど親指姫はいや」
「ノノ先生には荷が重かったな」
 アルはあからさまに馬鹿にしていった。
「まあ女優はいくたでもいるし」
 ノノの顔は怒っているのか膨れている。
「そんなことないんだよ」
 叫ぶサラ。
「ノノ先生なら余裕なんだよ。ほらノノ先生も」
「あ・うん。そうね」
「多分ね叫ぶタイミングをサラさんにとられちゃったんだよ」
「悪気は無いんだよ」
 封希の言葉にサラは涙ぐむ。
「あ〜あ」
 アルは大げさに肩をすくめた。
「ごめんなさいサラさん」
「まあ、親指姫は決して悪い話ではないぞ」
「そうだよノノちゃ先生。子供の頃、お母さんに読んでもらったもの」
 封希はいった。
「そうだぞ。わしのしっている親指姫は美しく強く、くじけない」
「ぴったりじゃない」


こっそり
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2006年01月19日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL2

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 飛び込んできた体の軽さに泰史は驚いた。重さだけではなかった。小さな身体は背中から生える翼を入れても手の中にすっぽりと入る。おおよそ泰史の手に中に入る大きさだ。
「しっかりして」
「主よ。のんびりしている場合ではないぞ」
「わかってる。この子をどうにかしないと。ああ、どうしよう」
「そうではない。しっかりと世界を見ろ」
 泰史が顔を上げるとそこはバスの中ではなかった。そこはどこかの砂浜だった。海岸に沿って舗装された緑の道がある。
「どうして」
「大声だったからな。先程のバスガイドの注意を考えれば叫ぶのは愚の骨頂であったろう。大声に加え、我の力まで用いた」
「しょうがないよ」
 あんなに必死に逃げている少女を見捨てることができるわけは無い。
「ここではその考えは捨てた方がいいかもしれませんな」
「どうしたの」
「ここは重なりやすい」 
「重なる?」
「色と空が」
 泰史が身構えた瞬間、それはきた。
 それは光の球だった。大きさは人以上のそれははっきりとこちらに向かってくる。
「どうしますかな」
「ペリか、天使。僕じゃ認識できないから多分大天使以上」
 飛鱗は頷く。
「うむ。間違いない」
「ではどうするか」
「逃げる」
 泰史の手持ちの能力では無理だった。飛鱗は大気を含む風であり、天使にはおおよその元素系は効きずらい。効くのは雷と闇、となれば。
「樹化子」
 泰史の背後から赤い幹を持った木が生えてくる。
「惑わして」
 木が何本も現れる。それは一瞬で林に、一秒で森と化した。
 泰史は走り出した。
 樹化子は人を迷わせ、最後は力尽きたところをしとめ、長い間じっくりと分解する。迷わす際には、進行方向に森が移動するのだが、入っている間はよくは分からない。
「あれが天使なら時間稼ぎにしかなりませんぞ。場合によっては一撃で全てを吹き飛ばす」
「それはないよ」
「人間のよく持つ天使種への幻想か」
 竜種はよくよく退治されることへの恨みらしい。鱗持つものと翼あるものの対立は、ナーガーとガルーダをはじめ多く存在している。
「そうじゃなくて、適当に何かしたら僕ごとこの子も死んじゃうでしょ」
「おおそのような考えが」
「へへ」
「随分と謀るようになられてうれしく思いますぞ」
 街の中に出た。
 多くの人通りはm自分たちもまぎれさせ姿もカバーしてくれるように思える。
 どこかで休みたい。そう思ってカーネルサンダースの姿が目に入った。
「あそこにしよう」
「有無。鳥はいいな鳥は」
 1000円分の鳥を買い、外からは見えにくい席をとった。少女は自分の影になるようにする。はたで見ていると人形でも持って歩いているようでちょっと恥ずかしい。
 飛鱗にモモをやってから自分も食べ始めた。こんな境界の中でもいつもと同じくジューシーな鶏肉はおいしい。
「おまえが助けてくれたのか」
 少女は目を開けていた。目を開けた顔は閉じているときよりも優しく思える。
「ああ。いや逃げただけで守るなんてことはできてないよ。だいじょうぶ」
 聞きたいことは多いがここは我慢だ。一気に質問して不機嫌になると困る。
「それをもらっていいか。少し空腹だ」
「ああどうぞ」
「娘、その前に主に例の一つもないのか」
 飛鱗の言葉に少女は素直に頭を下げた。
「どうもありがとう」
「いやいいよ。それよりえっと」
 質問がでかかった。
「聞きたいことはいろいろあるだろうがそれはこちらも同じなのだ。気づけばここにいてな」
「ああ。なるほど。その落ち着いて聞いてほしいんだけど、ここは境界っていわれてる。ここはいろいろな世界が、国っていってもいいけど、重なる場所なんだ」
「また魔術か」
 苦々しく少女はいった。
「まったく魔術はろくなことをしない」
 言ってから少女は取り乱したことを恥じるように目を伏せた。
「話の途中だったな。すまん」
「でまあ、君は多分どこかの世界からきてしまったと思うんだ」
「分かった。では戻る為にはどうすればいいかしっているか」
「境界管理局ってところにいけばいいと思うよ」
 少女は頷いた。
「そうだ。僕、宇賀泰史。君は」
「我が真の名は禁忌により明かせぬが俗名なら『親指姫』という」
「なるほど」
「笑わんのか」
「どうして。まあ世の中いろいろな字があるからね」
「うむ」
 飛鱗は頷いた。
「主よ、腹もいっぱいになったしそろそろ移動するか」
「そうだね。誰か追いかけてきている」
「いや。しかしここでは少しばかり注意が」
「見つけたです」
 大きな声があがった。一見金髪の普通の女の子かと思ったがその背には翼が見えた。
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2006年01月21日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第七章 昏き理5

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 アルは黙っていた。自分が所持したいのはとても簡単な理由だ。だが、たやすく口にしていいものかそれがわからない。
「もう無力なのは嫌なのだ。わしは二度神に挑み知った事がある。一度は自身の無知を知り、もう一度は無力を知った。だからだ」
  トリュファイナは小さく頷いた。
「分かりました。どちらにしろ再封印は書の形に戻すのが簡単ですし。少しばかり眼を通すのは構いません」
  箒がゆっくりと動く。宙に文様が描かれ、回りから魔力をすっていく。それは一冊の本の形をとった。その宙に浮かび上がった赤い本をアルは受け取った。本は虫に食われたようにところどころがかすれている。
「完全ではありません。飛び散った一部はエリクが浄化してしまいましたから」
「それでどんな効果がある」

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/040.htm
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2006年01月24日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL3

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「そんなんじゃだめだ」
 アルの声が響いた。
 舞台の上でノノは硬直した。日頃のどちらかといえば
「アルだって」
「監督」
 アルにいわれノノはだまった。あのえらそうな椅子や、メガホンは何かの秘密道具なのか、逆らう言葉がついつい弱くなる。
「主役なんだから、誰よりも、彼女を掴まないとだめじゃないか」
「ええ。そういわれても」
 硬直したノノはいくつかの視線に気づいた。
 封希、ルーテ、サラ。その視線はさまざまなものがごちゃまぜだったが、一番強いのは心配だった。
「ちょっと休憩。ノノ先生はこっちに」
 ノノはびくびくとアルに近づいた。
「なに」
「まあ、こっちにきてくれ」
 舞台のある一角を抜け、廊下に出る。人気のない地下に入ると、ノノの脳裏をいろいろな事が駆けめぐった。
「これを埋め込めば電波で音が飛ぶのでもうセリフの事は考えなくていいぞ」
 手術台に載せられたノノに白衣のアルが近づく。手には巨大なトランシーバーが。
「よかったなあ」

「ここだ」
「せめてアップル製品で。monoならうすいし埋め込んでも目立たないと思うし」
「なにいってるんだ?」 
 ドアが開くと、くろすけが何やら赤くなりながら大きなはさみを構えて立っていた。・・としたIIとした眼が眼がちょっと怖い。
「改造するきなんでしょ」
「改造」
 リズミカルな機械音がした。
「やっぱり」
「よく見ろ」
 寧がミシンを踏んでいた。そう時代物の足踏みミシンだ。くろすけは赤い布の裁断をしているせいでそれが体にまとわりついて見えるだけだ。
「アルとノノきた」
 部屋の中は様々な生地が落ちた花びらのように色とりどりの姿を見せている。
 寧はミシンから足を離した。
「お忙しいのにすいません。ちょっと仮縫いをしたくて」
「いやいやちょうど気分転換もしたかったし、それに衣装は大切だぞ」
「ええ」
 寧は衣装を差し出した。
「ノノ先生のです」
「着てみていいかな」
「ノノ先生のですから」
 ノノはこそこそと服を着替えた。
「翼がでないんだけど」
「出すのは最後だけだからたたんでおいてくれ」
 着てみてそれがとてもいいものなのが分かる。なんて軽い布だろうか。この見たことのない鮮やかな緑色はなんだろう。
「今度工業魔術展に出される新作です。ノノ先生のイメージで色が変化しますよ」
「おお」
 ノノのうきうき具合に反応して色が暖色に変わった。
「舞台衣装用としては強く衣装だと意識していただければ変わります」
「やってみる」
 鮮やかな緑に戻った。
「ありがとう寧」
「いえいえ。先生のお芝居楽しみにしてますから」
「任せてよ」

 
 天使の姿を見た瞬間、飛鱗が鳥の骨を投げつけた。泰史は親指姫を連れて立ち上がる。
 泰史は天使に向かい飛び込んだ。飛鱗が泰史の背に烈風をたたきつける。風の力をふけた踏み込みはかなり早い。
「どいてどいて」
「危ないです」
 天使はこちらに害意があるとは考えていないようであわててよけている。そのまま出口から外に飛び出した。
 雑踏の中、走り出す。加速を止めて路地に飛び込んだ。ごみをはじき飛ばしほこりを巻き上げる。
「あんな変装してくるなんて以外だ。声を出さなければ気づかなかったよ。それなりの強さを感じたのに、ああまで人間そっくりになるなんてきっと上位の天使じゃないのかな」
「天使は狡すからいものだ。いかな策略を持ってしても神の恩寵と主張する」
「気をつけないと」
 気づけば急にかけだしたせいか親指姫がぐったりしている。
「ごめん」
「いやだいじょうぶだ」
「なんで天使に追われているの」
「分からない。ただ、私の一族はあれの神とは相いれない。おそらく今回もまたな」
「うむうむ分かるぞ。我が一族も天使には脅かされてきた」
 飛鱗はいった。
「特定の種族をいじめるのはやめよう。飛鱗だって決めつけられて退治されそうになるの嫌でしょ」
「うむ」
「うんと、境界管理局はやめよう。ここまできてるってことは一番管理局が狙われていると思う。先ず最初に尋ねるところだしね」
「ではどうする」
「最初の希望通りに学校にいく」
「どういうつもりだ」
「話によるとそこはいろいろな世界の住人が仲良くしているそうなんだ」
「それだけでか」
「おとうさんが書いたルポによるとそこには腕っ節の立つ人が集まってるんだ。それにけんかっぱやいらしいよ。なんかポテトのことだけで市内全部を巻き込むけんかになったらしいし」
「どこの畜生だそれは」
「だからいずれ後輩になるんだし助けてくれるんじゃないかと。おみやげに何か食べ物もっててさ」
「楽観的だな」
「ええそうかな。学校行くとは普通考えないと思うけど」
「親指姫はどうなのだ」
「その学校というのはどこか温かい印象がある悪くないのではないかな」
 親指姫は頷く。
「じゃあそれで。モノレールでいけるらしいから駅にいこう。一駅くらい歩いていけばいい感じでスルーできるかな」
「そうだな」
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2006年01月29日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第七章 昏き理間奏

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 白い砂が敷き詰められた世界と、ただ青いだけの空は静謐で、美しくすらあった。
  自分の前の前に広がるその世界を見ていると、こうして認識すらここに消えていってしまうような気がした。
「その考えは当たり前の事ですバネット・ガドフリー」
  目の前には白衣の男が立っていた。それがダルタロック神の三柱なる従神の二の名で知られる神格であるのはすぐにわかった。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/041.htm
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2006年01月31日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL4

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 セリフは完全に頭に入っていた。あたしの演技は完璧。
 ノノはそう思いながらちらちらと観客席を見た。なぜか誰もが困った顔をしていた。
 ノノにくびったけなサラからしてそうだ。さらにアルはずっと厳しい顔だしいいとしよう。封希、ルーテまでが困った顔だった。
「あれセリフちゃんといえてたよね。動きも完璧じゃなかった」
「うんいえてたし、動きもきれいだったよ」
 封希はいう。みんな頷いているしよかったようだ。ああきっとあまりによくて困っているんだろう。みんなあたしにちょっとかまうの好きだからチャンスを逃しちゃったんだね悪いことしちゃったな。
「あのいいかな」
「なにアル」
 得意そうにノノはあごをあげている。
「ちょっとこれを見てくれ」
 画面に映るノノはセリフも動きも完璧だった。表情さえあれば。
「なにこれ」
「見ての通りだ。まあ人間は悲しい時は泣くだけではない。時には怒り強がり意地を見せる。だが、親指姫は感情に正直であけすけだ
「あれおかしいな」
「まあもう一度してみよう。なあに大した問題じゃないさ」
 

 
「ここが学校か」
 親指姫の声には驚きが含まれていた。それは泰史も飛鱗も同じだった。
 学校というには立派で美しい建物だった。左右対象につくられたその建物は泰史の知る中では国会議事堂に似ていた。
 門には守衛の姿もなく簡単に入ることができた。
 ただ看板には『許可なく敷地内に侵入した場合、魂の保証はいたしかねます。自分が大切なら受付で許可を受けてください』
 歩いてすぐに案内板にぶつかった。先程の警句とも脅迫ともとれる言葉を思い出しつつ進む。
「まず受付にいこう」
 新入生受付というコーナーがあって、教師というには少し砕けた格好の青年が、所在なさ気に座っていた。
「こんにちは」
「見学?。おお来学期からくるのかな」 
 青年は気安く言うと受付用の紙を出してきた。
「えっと、自分の分だけでいいよ。外の人だよね」
「はい」
 青年は、飛鱗を、次いで親指姫を眺めている。
「そっちは変わった格好だね」
 不機嫌そうに親指姫はいった。
「そんなことはない。これは私の一族が代々伝えてきたものだ」
「おお、そうなんだ。ああそっか例のだ」
 青年は一人で納得している。
「腕っ節の強い人を紹介してほしいんですけど」
「ああ俺も昔はよく仕掛けられたよ。どこのチーム?」
 慌てて泰史は首を横に振った。
「違います。ちょっとしたトラブルで」
「いろいろあるからね。それなら六星がいいな。ちょっとまってくれ連絡するから。校内にいるはずだから、そのソファで座っててくれ」
 ソファに腰かけ待ち始めた。
 親指姫はきょろきょろと周りを見ている。
「何かおもしろそうなものある」
「どこかで見たような気がしてな」
「へえそうなんだ」
 ソファの前にはいつの間にか少年が立っていた。制服姿で、貌は整っている。背はそれほど高くは無い。
「先生にお聞きしました。天見六星といいます。境界でトラブルシュ−ターをしています」
 腕はといえばただ者ではないのは想像できる。きたのがまったく分からなかった。いわゆる穏身というやつだろう。
「彼女は自分の世界に戻したいんです。狙われているみたいなんで安全の確保も」
 親指姫は天見を探るようににらみつけている。天見の方は穏やかな表情で親指姫を見かえしている。
「自分が護衛しますから管理局にまずいきましょう」
「分かりました。姫もそれでいいかな」
 親指姫は頷いた。
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2006年02月04日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣その1

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「力を顕せ」
  トリュファイナの声が響いた瞬間、エリクの体が光に包まれる。それは抜き身の刃に似ていた。エリクの闘争心が形をとったように鋭い。
  エリクの闇払う陽の標がダルタロック神の、いやバネット・ガドフリーの体を貫く。
  光が炸裂するように広がり、一瞬でガドフリーの腕が塵と化して吹き飛んだ。
「いける」
  エリクは低く戦叫をあげた。それに答えるように闇払う日の標の刃に光が満ちる。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/042.htm
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2006年02月12日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣その2

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 唱えた瞬間は何も起こらなかった。
「そんなばかなこと」
  確かに何かが抜けていった感触はあった。だが何もおこらない。自分に変化はない。
  だが、何かは起こっていた。先程の自分の呟きが聞こえなかった事に気づいた。回りの音が一切消えている。
  エリクとガドフリーの激しくぶつかり合う音も消えていた。そして世界は暗い。 
  そこに立つ誰かに気づいた。それは自分と同じ顔をしていた。少しだけ成長しているが、この姿を見れば百人は百人アルというだろう。


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/043.htm
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2006年02月14日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL5

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「なんでできないのかな」
 鏡の前にはノノしかいない。客観的に見るためにと見ている鏡には、誰が見ても分かる疲れきった自分の姿が見える。
「あたしらしくない」
 鏡に向かい愛らしい顔をして見せるが疲れが際立った。鏡の中にもう一人の姿が映っていた。
「ノノ先生、まだ日数はあるのだしそう根をつめないほうがいいぞ」
 いつの間にか部屋にはアルが立っていた。その表情は静かで、先程までの監督のアルではなく、いつものアルだ。
「逆逆。だめなら早めにあきらめて次の段階に進まないとね」
「次の段階か。主役を選び直すとか?」
 ノノは顔をしかめながらもしっかり頷く。
「むざむざこんないい素材を自ら捨てるのも何なんだけどみんなのこともあるしね」
 ノノは衣装を翻した。こうしてがんばってくれる人が居るのだがら自分が主役を張りたいというのはわがままな気がした。
「そこまで覚悟があるなら、ノノ先生、ちょっとした魔術にかかってみる気はないかな。そうすればまず間違いなくいい芝居ができるぞ」
「覚悟ってそれ危なくないの」
「まあ全ての術は危ないからな。この世界で使っている電気なんてわしらの世界の電撃の呪文何発分だと思う。個々の人間の能力はともかく社会としての総和はわれわれはまったく及ばない」
 アルは答えた。
「まあね。最初に来たときはよくここまで魔術を極めたものだって思ったよ。で、その術ってアルが作ったの?」
 改造されそうだと思いながらノノはいう。
「オリジナルではないがな」
 安全性が向上した。
「へええそうなんだ。今まで使ったことある」
「使ったのは一回。自分以外の人間が使ったことは一回だけだな」
「だいじょうぶだったんだ」
「わしは問題なかった」
 ノノは腕を組んだ。アルは何をいうまでもなくノノの答えを待っている。
「わかったして」
「よし、じゃあ始めるぞ」
 アルは目を閉じた。アルの面が引き締まる。唇が聞き取れない音を発しているのが分かる。
 アルは目を開けた。
「ところでなんていうの?」
「『昏き理』という」
「え。ちょっとストップ。それってなんかアルの話でむちゃくちゃ危険じゃなかった」
「まあな。しかし応用だから心配するな」
 世界は暗転した。
「わあストップ」

 泰史と飛鱗、親指姫は六星に案内され校内の中を歩き出した
「見つけたです」
 それはケンタッキーフライドチキンで見かけた天使だった。
 六星の顔に浮かぶ小さくない動揺に、泰史は覚悟を決めた。きっとあの天使も姿こそ人めいているが、恐ろしい存在なのだろう。
「姫の事頼みます。行くよ飛鱗」
 後ろの方から声がした。確かにこれは蛮勇と思われる事だろう。でも、
「鷺娘」
 白ながら艶やかな衣をまとった和装の少女が現れる。回りの気温が下がる。
「こんにちわ。何のごようですか?」
「あれを凍らせたい」
 喋ると体の中に入ってくる冷気で肺が痛い。
「まあ無理かもしれませんけど」
 少女から冷気が吹きあがった。それは空気中の水分を凝固し、冷気だけでない痛みを感じさせるものと化している。
「うわああ」
 天使の悲鳴が聞こえた。
「ルーテさん」
 重なるように響く声に泰史は振り返った。そこにいるのは鬼だった。そう思えた六星の姿が視界から消える。
 鷺娘の放った雪嵐の前に六星はいつの間にか立っていた。振り下された拳が触れた瞬間、雪は砕けていた。 
「なんですのあの人」
 泰史の背後に鷺娘が出現する。
「ルーテさんしっかり」
「どうしたですか六星さん」
 言葉を交わす二人に泰史は自分の判断に失敗を感じていた。
「見つけたってどういうことですか?」
「ノノ先生ですよ」
「もういいここは私が戦おう」
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2006年02月19日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣その3

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 フェルティアは駆け上がっていく。
  透明になっている時に激しい動きや、呪文を使うような事があれば、その効果はたちまち消える。
  フェルティアの家であるアルフィスタは魔術師として優れた一族であるが、同時に武人としての訓練も受ける。結局、魔術を選んだが、それでもフェルティアはいろいろなところで筋がいいと言われてきた。
今のように軽く走るのは、残してきたレジスやアルのことを考えると苦痛だった。
  霊の中でフェルティアは立ち止まった。異質な気配がした。
  回りに浮遊する人に似た霊たちとは違うはっきりとした力だ。それが自分に向けられているのが分かる。
  そう思った時、自分の影にもう一つ潜む影に気づいた。視線はそこから来ている。


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/044.htm
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2006年02月21日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL6

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 アルの姿は嵐に巻き込まれた小鳥のようだった。
 半ば崩れた教室で壁によりかかっているのは立つ気力がないからだ。
 珍しく損傷の範囲が広かった。少し目を閉じて気力の充実を待つつもりだった。
 ルーテが立っていた。
「お迎えなのか」
「どうしたです」
 ルーテはかなり驚いているようだ。
「ちょっとノノ先生に演技指導したら思った以上に熱が入ってな」
「ノノさ先生をこれを」
 ルーテは砕け散った天上を見ている。
「わしがして罪をなすりつけていると思っているだろう」
「え。そそんなことはないです」
「いやきっとそうだよ。アルの小悪党振りはお見通しだよ」
 サラをアルを睨んでいる。
「アルちゃんも、ノノちゃ先生も理由なくこんなことしないと思う」
 封希がいうと、サラはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「ちょっと親指姫を体感させたんだが、ノノ先生はどうも憑かれやすかったらしい。いやはや、さすが巨人族の姫君の力だ死ぬかと思ったぞ」
「うわあ大変です」
「サラとルーテは探しに行くんだよ」
 飛びあがる天使二人。
「まあ二人でなら探し出せるだろう。寧に頼まない方がいいな」
「アルちゃん、あのね親指姫って、小さな女の子が、いろいろ大変な目にあうんだけど、最後は助けて上げた燕さんに妖精の国に連れ帰ってもらえるの。巨人なんてでてこないよ」
 アルは封希の言葉にくびを捻った。
「え、いやわしの知っているのは」
 
 見えていた分かっていた。だが、眼前に来るその小さな姿から繰り出される一撃を交わしきれなかった。受け流そうと思ったそれはそらすことを許されなかった。力の向きは地面に向けられていた。砕破で体を硬めなければそこで終わりだった。
「いい反応だ」
 目の前にいるのはノノではありえなかった。
 その行動は冷静だ。目には戦いを好む喜色がある。魔術を好みむしろ狡猾な戦いをするいつもとは違う。
「お前は誰だ?」
「その前に名乗りをあげよ。それだけの腕、我が心に残す誉を与えよう」
「天見六星」
 六星はよく通る声でいった。
「私の名は親指姫。波隔てる大洋の果て、眠る巨神の愛娘」
「ノノさんの役ですよ」
 側に立っているルーテはいった。
「いや少なくとも知っている親指姫はこんな戦いを好むことはないよ」
「え、じゃあどういうことですか」
「さあ」
 親指姫は親指を握りしめて右拳を突き上げた。
「この腕を叩き下した時、一撃を放つ。受けるならそれもよし逃げるならそれもよし挑むならそれもよし。10数えよう」
 六星は立ち上がった。
「1」
「どうするですか?」
「2」
「逃げてください」
「3」
「六星さんは?」
「4」
「とめます」
「5」
「だめです」
「6」
「大丈夫ですよ」
「7」
「あれは無理です」
「8」
「本当に大丈夫です」
「9」
 ルーテは顔を強く横に振った。
「10」
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2006年02月25日

アルが語る親指姫

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 巨神族の王のもとに月足らずのまま娘が生まれたのは終わらぬ春の国での事だった。
 十分な時を母と一つで過ごさなかったせいか娘は小さかった。
 王は姫となる娘の行く末を心からうれいて、掌中の玉をめでるように育てた。
 姫は長じるに連れ、並々ならぬ知恵を持つのが分かった。だが、背は伸びることなく、ほんの指先ほどだったので親指姫と呼ばれた。
 終わらぬ春の国の気候が、夏めいた暑さに変わったのは、姫が10を数えた頃の事だった。
 この異変の発端は何なのか。それは外にあるように思われた。夜空にかかる奇妙な星を見たものもいたし、暑さは空から来たからだ。
「私が行きます」
 親指姫は旅に出た。
 世界は大きく小さかった。
 自分とそう変わらぬ大きさの存在は驚きであったし、世界は脅威に満ちていた。
 旅の中で姫は終わらぬ春の国の危機の正体を知る。
 終わらぬ春が実りを迎えた時に現れるであろう黄金の林檎と漆黒のざくろ。それを手に入れるため魔術を行ったものがいるのだ。
 魔術を行うのは天から現れたという神々だった。
 百の塔、千の壁、万の兵を持った城を相手に姫の戦いが始まった。
 小さくとも姫は巨神であった。
 妨げを退け姫は本丸に赴いた。神々が逃げ去った後にそこにあるのは黄金の林檎と漆黒のざくろであった。
 時がかかりすぎたのだ。
 姫は林檎とざくろを持ち涙を流した。
 近くから遠くから声がする。それは身の中からしていた。姫は皮をはいで中を覗いてみた。そこにあるのは終わらぬ春の国だった。
 姫は林檎を抱きしめ空に旅立っていった。  
 故郷を甦らす為に。
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2006年02月28日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣その4

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 アルは向かってくる騎士を見ていた。
  神眼で見たところどう考えても受けるのは無理な威力のように思えた。先制しようと、急所を探したがそれらしいものすらない。まったくよくできたものだ。
  交わすこともそらすこともできる。しかしそれをすれば後ろで倒れているエリクとトリュファイナがつぶれる。
「アル・ナスラインはその剣を受けきる」
  呪いを含んだ言葉はアルの全身に苦痛を与える。無理やり全身の力を搾り出した。それでもアルの体はしょせん華奢な少女だ。筋力には限界がある。
  音が響いた。
  騎士の重い剣を受けたのは奇跡だった。短剣が魔力を発してアルの体を支えている。だが、その輝きが衰えていく。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/045.htm
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2006年03月05日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL7

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「いったい何をしたんだよ」
 能天気な声がした。
 とはいうもののその声の主がいなければ無事ではすんでいない。だから腹は立たない。
 小脇に左右でルーテ共々抱えられているのはあまりいい格好ではない。
「サラさんありがとうです」
「六星も空中に留まれるんならさっさと離れるんだよ」
「いわれなくても」
 六星は離れた。そうはいっても空中歩法はそう長い間できるものではない。回りの空気は冷え切っていたし、まして元々人は空を飛ばないのだから。こうしているだけで体力が削れて行くのが分かる。
 風は心地いいというよりは冷たく、空はあくまで澄み切っていた。
 下の方では大きな穴が見えた。幸い交わせたが受けていれば他界していただろう。それがノノの一撃だった。

「来るんだよ」
 サラの声は嬉しそうだった。
地上から空に跳ね上がってくる小さな黒き一点。ノノだった。その姿は六星やルーテ、サラの前に停止した。
 ノノはサラを見つめた。
「最初に来たものだな」
 ノノはいった。
「やはり人の子に認識できなくて当然か。それだけの力当たり前か」
「ノノ先生ほめてくれてるよ」
 サラは笑っている。ルーテは顔を横に振った。
「そういうことではないと思うです」
「それにその天使も、戦士も大したものだ。だからもう手加減はしない」
 ノノの体が霞んだ。高速移動からの一撃。その狙いは。
 六星の体が吹っ飛ばされた。
「六星さん」
 地面に向かい落ちていくその体をルーテは地上に降りていく。ノノはさらに追おうと下を向いた。その前にサラが立つ。
「ノノ先生どういうつもりなんだよ」
「敵は弱いものから片付けていく。鉄則だ」
「敵?」
「そうだ戦天使」
 ノノの目が下に向けられた。ルーテは六星を支えながら校舎の屋上に降りている。
「違う?」
 サラはノノを凝視してその足を見た。
「ノノ先生じゃないよ」
「それが混乱の元か。私に似たものがいるのだな」
「これっぽちも似てないよ」
 サラはいった。手の中には巨大な光の斧が具現化する。
 ノノの体が消えた。
「見えてるよ」
 斧とノノの拳の一撃が重なった。
「見えているのか」
「目がいいのは天使の基本だよ」
 ぶつかりあったのは一瞬で直ぐに距離が開く。
「サラに勝つのは無理だよ。サラをこの世界で倒せるのはあの涙の魔具だけだよ」
「それはわからない。ここは私の世界ではない。お前が知る世界は狭い」
「なら試せばいいよ」
 サラの翼が大きく膨れ上がった。大気の至るところで風切るような音がした。それは重なって行くにつれ歌声のように響き渡った。

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2006年03月11日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL8

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「ごめんなさい」
 やわらかい体の感触に飛びのく六星を気にせずに、ルーテの視線は空を見ていた。
 サラの翼は無垢な白の輝きを秘めて大きく広がっている。
「サラさん本気ですよ」
 見えない聖歌隊の合唱の中で、サラは優雅らすら残した飛翔で飛ぶ。
 親指姫は飛び込んできたサラに一撃を放った。地面をうがったあの一撃。それは不発だった。攻撃はサラの体を突き抜けていく。
 幻影だった。
「終りだよ」
 サラは親指姫の眼前で斧を大きく振り上げた。
 
「早い」
 それだけではない。この忌々しい歌は感覚の一つである聴覚を困惑させる。乱されているそれは、親指姫自身のリズムを崩す。
「3」
 こちらから攻めるのは不利と思えた。相手の武器も幸いな事に斧。手の届く範囲での戦いなら勝機はある。ましてあの大きな獲物だ。自分の体の大きさを考えればもぐりこめば勝てる。
「2」
 天使がまっすぐに向かってくる。加速を加えた一撃でしとめる気なのだろう。それなら相手が打つ前に体に食らわせ、一撃の発動を封じる。そのまま倒す。
 眼前に天使は来た。親指姫は前後に舞うように動きながら天使の懐に飛び込んだ。
「1」
 この距離なら天使の障壁を突き抜ける筈。まるで空を穿つような軽さ。それは実体ではなかった。
「終りだよ」
 頭上、大きく斧を振り上げえる天使の姿があった。


 聖歌は途絶えた。
 サラの体が大きく吹き飛ばされた。上を取りなおかつ不意をついた。不利はなかったはずだ。
「どうして」
 六星は落ちてくるサラを受け止めた。重さらしい重さがない。サラの体を構成するエネルギーの一部が破壊されている。普段人間形に回している分の力が維持できないのだ。
「サラさん、見とれちゃったですか?」
 サラは涙眼でいった。
「だってノノ先生と同じ顔なんだよ殴れないよ」
「うわあ、さっきのセリフ台無しです」
 親指姫はゆっくりと地上に降りてくる。 
「ルーテさん、下がって」
 六星はサラをルーテに託して、親指姫を見上げた。
「未生では勝てない」
 親指姫は宙に浮かび上がったままだ。
「未生?」
 親指姫を両手を交差した。先程までとは比べきれない大きな力。
 暗い光が手の中に集まっていく。それは光でありながら重さを感じさせた。
 技や術が発動する前に倒す。それが基本だ。
 だが、親指姫の体は小さい。だが発動する寸前に動きが止まるはずだ。

 消滅の闇黒。
 出すのには少しばかり時間がかかる。緩やかに動いて時間を稼がなくてはならない。戦天使の力を見れば、最強の技を出さざるを得ないだろう。
 だが、むざむざ出させる気はないだろう。幸い、あの未生の少年は空で戦う力を持たない。こうしていれば時は満ちる。
 舞い落りながら手を広げる。闇の塊がふわりと落ちていく。
 少年は飛んできた。翼なきものながらその見事な跳躍。体術のレベルを極めつつあるものの動きだ。
 でも神には及ばない。
 先ほど天使にしたのと同じだ。一瞬で間合いに入り込みその体を掴む。体を叩き込む場所は決まっていた
 闇球の中に。
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2006年03月14日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL9

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 六星の体は落ちてくる。
「六星さん」
 ルーテは六星の体を支えた。そのせいで闇との距離が近い。ルーテの翼が大きく広がり闇に触れた。
 力の塊だから自分を傷つけることはない。そう思った瞬間、翼が歪むのが分かった。
 それはルーテの体を維持する光を打ち消した。いかなる力を弾きかえす場を持っていたとしても、それを放出する体が維持できなければ。
消える?
 震えがつま先から始まった。それはもうどうしようもないものになって体全体に広がっていく。震えが止まらない。
 その腕を六星が引っ張った。
「六星さん」
 そのままルーテの体を闇からはじき出す。
「だめです」
 自分のフィールドを壊すほどの闇。人間がそんなものに触れては生きていられるわけはない。
 なのに六星はどうしてか満足そうな顔をしていた。
「ダメです」
 翼が大きく広がり光を放った。
 闇と光がぶつかり合う。だが、光は蝕まれていく。闇はその大きさを増し膨れ上がる。
「ルーテ、伏せるんだよ」
 サラが斧を放った。
 だが、斧は光の中に吸い取られていった。


 闇は既に破裂する直前まで光を含んでいる。起きた爆発は確実に回りのものをしとめるだろう。
「あんたいい加減にしてよ」
 その声が内側から聞こえた。
 親指姫は自分を見る。体が二重に見える。ぶれている。これは
「あたしの生徒に何すんの」
 二重写しになった体が実体を持ち、一気に飛び出す。
 親指姫は目の前の姿をみていた。
 確かにそれは自分に似ていた。
「なるほどお前が原因か」
「は、何かしらないけど、さっさとあれけしてよ。できるのはわかってるんだから」
「断る」
 親指姫はもう一人の自分に襲い掛かった。

「こないでよ」
 ノノは叫んだ。基本的にノノは肉弾戦なんか趣味じゃないのだ。どっちかというと魔術で遠くから攻撃する、いわゆる狡猾と呼ばれる戦い方が好きだ。
 ただ近づいてきた親指姫の速さが自分と変わらないんで少し安心した。ただの殴り合いなら、封希の家のブチ相手になれている。
「そんなの交わしちゃうよ」
 ノノは親指姫の手を交わした。
「なに」
「そんなに驚くことないじゃない。背だって同じくらいなんだから」
 ノノは頬を膨らまして一気に後ろに下がった。魔術を使うちょうどいい距離を探す。
「いけ」
 火が親指姫に向かっていく。親指姫は火を交わす。
「だめか」
 その火がノノの予想以上に大きく膨れ上がって親指姫の体を吹き飛ばした。
「あれ? 今日は魔術のノリがいいな」
 その火の中から飛び出してきた親指姫がノノに向かいまっすぐに飛び込んでくる。さっきよりずっと早い。
 小さく口の中で呪文を唱える。
「来た瞬間にいっせいに爆発」
 親指姫の手が自分に触れた瞬間、ノノは魔力を爆発させた。
 親指姫は大きく吹っ飛ばされた。
「何者だ?」
「あたしの名前はノノ。それより、あんたこそ何なのよ。人の体から、出てきて。まさかアルに変なもの埋められた?」
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2006年03月21日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣その5

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地下道への入り口の前でフェルティアは立ち止まった。
「戻りましょう」
  フェルティアの呟きが地下道に響いた。
  前を歩くレジスは立ち止まった。
「心配なのか?」
「ええ・・いいえ、正直なところ、あの一名で城一つを制したというのフェイトさまが及ばなければ、魔術ではあれには対抗しえないということです。だから、私がいたところでどうにかなると思えないのですか」
http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/046.htm
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2006年03月25日

それいけノノ先生 京都でお泊り 

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「羽が棒になりそう」
 ノノはいった。少しだから少しだからといって、ほとんど京都の街中を歩いてきたのは横にいる六星のせいだ。鍛え方が違うのか、六星は嬉々として街中を歩いていた。
 町並みを見ているだけで楽しいらしいのである。
 まあ、ノノとしても楽しくないわけではなかった。だいたい六星がよりたがるようなところには、団子やらアイスやら、ちょこちょこつまめるものが多かったからだ。
「ほらみえてきましたよ、大鳥居。あの側らしいですからがんばってください」
「分かった」
 大鳥居を曲がって少し歩いたところにある宿は一見よくある低層方のビジネスホテルに見えた。しかし、修学旅行をはじめとする学生向きということもあって、エレベーターもなく、4Fの部屋までは階段だった。
「これを上りきれば」
 用意された部屋は和室だった。
「なんか学校の宿直室みたい」
「そうですね。でも眺めはいいですよ」

PICT1676.JPG

「六星の部屋はどこ?」
「いやここですよ」
 ノノは真顔になった。
「いや、ほら若い男女が同じ部屋だとまずいって」
 六星は顔を下に向けた。吹きかかっている何かをこらえている様子だ。
「年のことはいうな」
「ああ、すいません」
 六星は頭を下げた。
「ああ、そうだ。六星、ここにねなよ。ルーテが結構快適だっていってたし、そうそうテレビで寝ている人も見たよ」



 その日、六星は風邪をひいた。

PICT1677.JPG

「旅館の朝食ってすごいんだよね」
 ノノがいうと鼻をすすりながら六星は頷いた。
「朝から湯豆腐とか出るらしいですよ」
「おおいいねえ。ところでここはどんなのかな」
「ああとってないんですよ」
「ええ、どうして」
「高いんですよ。1000円以上するし」
「何食べんの?」
「食料あるじゃないですか」
「そういうもんじゃないでしょう。せっかく京都にきたんだから京都でしか食べられないもの食べたいな」
「でもせっかくもってきたんだし食べましょうよ」
「そうだね」
 六星は自分が持ってきたかばんを開いた。中にある食料はほとんど飲み物だった。
「どうして」
「いや、前の日にルーテとかと壮行会しっちゃって」
 六星は肩を落とした。
「先生現金いくらありますか?」
「二万くらいかな」
「次のところの宿代と帰りの交通費分ですねそれは」
「ああそうだよ」
「分かりました。朝食は京都でしか食べられないものにします」
「ええ、悪いな」

pict1694.jpg

「これってコンビニのおにぎりだよね」
「ええ」
「京都でしか食べられないものって?」
「このおにぎりは京都限定のちりめん山椒ですから」
「うう、なんか侘しいし、寂しいな・・・もしかしてこれがわびさび?」
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2006年03月28日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第八章 唱う声猛き剣 間奏

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 レジスは平和な気持ちで街へと向かっていた。
  久々に一人きりで歩き回る町はけっこう楽しい。今回の件でアルから回ってきた報酬もそれなりの金額で、歩きながらも冷やかしではなく、買う気満々で回れるのは楽しい。
  アルとの旅は辛いながらも楽しいのだが、生命の危機にさらされている。加えてフェルティアも同行していたので気が気ではなかったのだ。
  もしフェルティア何かあったら・・・。その瞬間を考えてレジスは頭を振った。フェルティアには家にいて欲しい。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/047.htm
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2006年04月04日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL10

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 六星の体は屋上にたたきつけられる。それでもあの闇の中に突っ込むよりはずっとましだったろう。
 見上げれば、ノノと親指姫が戦っている。みているだけではどっちがどっちか分からない。二人の動きは奇妙なまでに似ている。
 どちらにせよ恐ろしいのはあの高速で戦闘しているということだ。
 ノノに、そのような能力があるのを今まで知らなかっただけに驚きだった。
 優勢か劣勢か、一瞬でそれは交替し、どちらも同じ格好をしているので分からない。
「ああノノ先生有利だよ」
 サラが声をあげた。
天使種の能力かとおもったがルーテの方は分かっていないようで、動きを追っては首を動かし、二つに分かれた時には困っている。。
「どうして分かるんだ」
 サラは六星の問いかけに小さく笑みを浮かべた。
「だってノノ先生は靴はいてないもの。もう一人は靴をはいてるんだよ」
「どうしてそんなことで」
「いつもノノ先生は靴をはいてないんだよ」
「え?」
「さすがサラさん、いつも後を追いかけているだけのことはあるです」
「愛の勝利だよ」
 いや、それはストーキングとはいえない六星だった。


 親指姫は焦りを感じていた。
 目の前のノノはかなりの実力者とみた。 
「ちょっといいかな親指姫」
 その声ははっきり耳元で聞こえた。
「はじめまして。わしの名はアル・ナスライン。いやはや、伝説の存在をこうして目にするのは嬉しい限りだよ」
 声の主ははるか下。屋上に立っていた。先ほどの天使と同じ服装だからきっと仲間なのだろう。
「ところで親指姫。君はあれから何をしていたのかな?」
 あれからといったところで明確なイメージが想起された。それは全てを打ち倒した後に実を持って飛び去った後の話だ。
 いっせいに広がった人生に親指姫は恐怖した。故郷を元に戻す手段を探していて、その先を私はどうして生きてきたのだろう。
「そうだ、君の物語は既に終わっているのだ。君は、目の前のノノ嬢が聞いた物語から血肉を借りたにすぎない」
 怜悧さを秘めた眼差しが自分を見ていた。
「アル・・・ってやっぱりあんたの仕業ね」
 目の前のノノが顔を真っ赤にして怒っている。
「そんなことはないぞ」
 アルは目をそらしている。あからさまに私はウソをついていますという動作だ。
「私はここにいる」
 親指姫はいった。その存在を支えるものが虚だとするならば今こうしているのも実はないのだろうか。
「親指姫はいるよ」
 大きなよく通る声だった。


 宇賀泰史が叫んだのは親指姫が霞んで消えてしまいそうに見えたからだ。
 信仰するものがいなくなったから神は小さくなる妖精や小人になってしまったという。今もまた同じこと。親指姫は自分を見るものがいなくなったから消えてしまいそうになっているのだ。
 親指姫は泰史を見下ろした。ゆっくりと下がってくる。近づくに連れてその顔は今までにない表情が見えていた。迷子が見せる、頼りになるものを失ってしまった顔。
「君は大丈夫だから。ここにこうしているし、僕と話している」
 そんな裏づけのない言葉。でも、心の底からそう思った。
「だいじょうぶだ」
 その声は言葉と裏腹にか細い。
「私は強い。こんなことで挫けはしない」
 親指姫はいった。
「守るから」
 泰史は親指姫を背に隠して向かいあった。それに従うように飛鱗が横に、鷺娘が左腕にしがみつく。
「こちらは戦う意志はないよ」
 六星が戦意がないのを示すように手を上にかざしている。
「まずルーテさんもサラも、二人とも天使だけれど、君たちに害意はないよ。何かかんちがいしているみたいだけれど。そしてノノ先生はもちろん悪い人じゃない」
 アルが自分を指差すと六星はあわてて付け加えた。
「もちろん、アルさんも」
「さっきの話って何なんですか?」
 泰史はアルを見た。
 少しばかりきつい気がするがきれいな顔をしている少女だ。
「ああ、ちょっと芝居の稽古の時にノノ先生に呪詛をかけたのだ。そしたら、あまりの事実の強さにノノ先生の一部が剥離したのだよ。別に彼女が虚構というわけではない。世の中に虚構でないものなんて何もないのだから」
「わけわかりません」
「ああ、それはそれでいいよ。だからそういうことだ」


「あたしもわけわからないんだけど、結局解決ってこと?」
 ノノがアルの横に下りてくる。
「まあ、わしとしてはいい絵が撮れたからいいぞ」
「まさかなかなかこなかったのって」
「ああカメラ回しててて」
「ひどい」
「だってあのまま映画とったら散々だったぞ、こうして親指姫がスタンドしてくれなかったら、どうなっていたか」
「それは。そんなことないよ。あたしがしてたってきっとベストヒットになっちゃうんだから」
「それならもう一度とりなおすか」
 アルは笑顔を浮かべた。
「体育館の修繕費を稼ぐために、せっかくだから有料上映会にしよう」
「望むところよ。もしダメなら、体で稼いでかえすからいいよ」
 
 
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2006年04月11日

それいけノノ先生 EPISODE FINAL11

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 運命が聞こえてくる。朝からショッキングな音で、目ざましにはどうかと思うが、主人のリアの趣味なので文句もいえない。
 ノノは目を閉じたまま手の届くところに転がっているめざまし時計を探した。だが、時計にはいつまでも届かなかった。
「あれ」
 ノノは仕方なくベットから起き上がろうとすると、体に布団がまとわりつく。こんなにかけた憶えはないからきっとリアがかけてくれたのだろう。目ざまし時計もきっと二度寝させない為に少し離したのだ。
 布団から出てみると目ざまし時計は遠く見える。
「しょうがない」
 起き上がって手を伸ばすと宙を切る。
「あれ服がない」
 ノノは起き上がって服も着てないことに気づいた。寝ぼけて脱いでしまったのか。そう思っていると足元の布団に目がいく。
「これは」
 布団ではなかった。封希が作ってくれたパジャマだ。もちろんサイズはぴったりだったはずだ。
「いやあ」

 
「どうしたの」
 台所まで聞こえてきた声にノノの部屋に駆け込んだリアは声を失った。
「落ち着いてノノ」
 そういう自分の声がとても焦っていることを他人事のようにリアは思った。
「ちじみました」
 ノノはいった。
 30センチはあったノノは半分ほどになってしまっていた。
「洗いすぎ」
じゃなくって、どうしましょう。何かの呪いかな」
「ああ。そうだわ
「なんですか」
「朝ご飯少し量を減らした方がいいかしら。その大きさだと食べ過ぎの気がするわ」
 先程と同じくらいの大きさで非難の声があがった。


「とりあえずアルだよね」
 行動には問題があるが少なくともアルは癒し手として一流だ。
 アルが住んでいるのは打ち捨てられた神社だ。その社務所を改装して住みついているらしい。
 春だけあって無数のたんぽぽの咲く神社の中を抜けて社務所に入る。
 適当に開いている窓のすき間から入り込むと、アルは眠っていた。
 黙って寝ていると普段の行動の荒さがなりを潜め、その小柄さと相まって、幼い少女のようだ。
「ちょっとアル起きてってば。大変なんだから」
 アルは目を開けた。
「アルはまだおねむなの。だからまたね」
 アルは目を閉じて安らかな寝息を立て始めた。
「今のはなに」
 悪い夢のように愛らしいアルであった。
「冗談やめてよ」
 その後、アルはノノのいかなる干渉もはねのけて眠っていた。


「あとはあいつか」
 関係してそうな親指姫のところに向かう。
 マスターの宇賀泰史は寮の食堂で朝食中だった。
 バイキングになった食堂にはあまり人の姿はない。
「ノノ先生おはようございます」
「おはよう」
「親指姫いる。ちょっと返してもらいたいものがあるんだけど」
「いますよ」
「え、どこに」
「ここにいるぞ」
 よく見れば泰史の皿によりかかり、パンを食べている。
 ノノから見てもさらに小さく本当に人の親指程になっている。
「どうした?」
「なんでそんなに小さくなってるの」
「もともと親指姫だからな。名は体を表す」
「いやそうかもしれないけどさ、いいの」
「もともと出来る事に差が出るわけではない」
 落ち着いている親指姫を見ていると騒ぐのもばからしくなってきた。 
「そうか別にできることに違いはないもんね」
 ノノはとりあえず二度目の朝食をとることにした。
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2006年04月18日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その1

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 この話はこちらの世界の話です。

After babel
http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/f.htm

「依頼があるのだが」
 きれいな青い瞳が僕を見下ろしていた。
 僕はあわてて跳ね起きた。
 そんな風に彼女が山海探偵事務所を訪ねて来たのは、秋も終わりに差しかかった頃だった。
 僕はぼんやりと、叔父が創り、父が継ぎ、何年かすれば自分が使う事務所のソファに寝転がっていて、言い訳も聞かないくらい気が抜けていた。
 電話帳にも、ネットにも載らず、公式には休業しているここにくるのは、身内くらいもので油断していたのは事実だ。
 でも、こんな風に気づかなかったのはあまりにみっともない。
 跳び起きた僕を、彼女は淡い笑みを浮かべて見ている。
「ここは探偵事務所だろ。仕事を頼みたい」
 彼女はいった。金髪碧眼で、神秘的な美女というのはこういうものを言うのだろう。ただし、あと十年は必要な気がした。
 白いジャンパースカートをはいた体は小柄で、中学生か、もしかしたら小学生かもしれない。妹の七瀬の小学生なのに大人びた顔を思い出しながらそう思った。
 それ以上、観ようとしたところで、彼女の表情が厳しくなった。
「観るのはやめてくれ。そうでなければ信用できないのなら、依頼はしないことにしよう」
 こちらがどんなものか分かっているのなら話は別だ。
「どこからここを紹介されましたか」
「境界管理委員会の窓口で、腕が立って、目利きなのは天見六星だと聞いた」
 彼女に惑わされていたようだ。彼女の話している音の意味、きれいだなというが分かるだけで分からないが、何を言っているかは分かる。それは異界から来た人間独特のものだ。
 境界と呼ばれる東京湾沿いの一角は大規模な魔術が行われている。その一つが意志の疎通である。
 念話といわれるその仕組みは、境界管理局で登録さえすれば誰でも用いる事ができる。いわば吹き替えである、意味は分かるが実のところ、同時に相手も元の言語で話しているのだ。
「腕がいいとは聞いたが、無遠慮に踏み込むとは思わなかった」
「観るのは癖でして、本当にすいません」
 素直に誤ると少女は不思議そうな顔をした。
「無意識ならしょうがない。観るのは得意なのかな」
「得意ではないですが、使えます」
 得意ではないというのに嘘はない。息をするのと同じような事で、得手不得手とは関係ない。
「そうか。では頼むとしよう。物を探してほしい」
「何をですか?」
「翼だ」
 少女の背中に半ば砕けた翼が姿を見せた。半透明のそれは実際の翼ではなく光を背負っているように見える。
「天使」
 唇からもれた言葉は悪意をかくしきれなかった。
 まだ、忘れていないのか。
「これは観てくれて構わない。説明はするが、これは物品だ」
「そうですか」
 神聖な、天使にも通ずる性質を持つものだが、これは特定の神のための品物のようだった。
「観ての通り砕けている。自力での再生も行うのだが、破片があればそれだけ早くなる。そこで破片探しをしてもらいたい」
「分かりました」
「随分と安請け合いだな」
「管理局を通って来たというだけで、ある程度身柄は確実ですし」
「依頼人の名前も聞かないのか」
 すっかり間の抜けている話だった。
「もうしわけありません。天見六星です」
 名刺を取り出すと少女は指先でそれをもてあそんだ。
「アル・ナスラインだ。ところで一つ言っておくが」
 最後まで言葉を聞き取ることはなかった。
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2006年04月25日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その2

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 何かが飛び込んで来た。
 依頼者のナスライン嬢の体を掴んだ。見た目より重い体で思わず両手で抱えながら外へと飛び出した。そこで初めて店を壊したのがトラックだと分かる。
 裏通りに面したここは車がほとんど入ってくることはなく、事故ということは考えられない。
 トラックは止まってはおらずエンジンのうなりを上げながら砕いた壁を蹴散らしこちらに向かってこようとしている。
「わしは狙われていて」
 そこまでいってナスライン嬢は回りを見た。彼女の認識ではいきなり屋外に出ている事になっているだろう。
「ああ、霹靂拳というのはそういう意味か」
 霹靂とは雷のことだ。父親がそう呼ばれたのにあやかって名乗っているだけだが、そう思ってもらえるならありがたい。
「そんなところです。では、行きますか」
 トラックはこちらに向かい飛び込んでくる。
「待っていてください」
 ナスライン嬢から離れ、まだ立ち往生しているドラックに飛び込んだ。席には誰の姿もない。
 魔術か、電波か。判断に迷いながらトラックを観た。
 トラックを操っているのは、皮膜めいた羽根の生えた小人の姿だった。
 白澤図の記述をさっと思い出す。

 第二次世界大戦、飛行機に乗る姿が目撃された妖精。機械の不調をしたというが、その正体は諜報員の破壊工作だっととも呼ばれる。


「Magi Systems起動」
 視界が変わった。一番の違いは世界がぐるりと反転したように内側と外側が逆になる。
 Magi Systemsとは、霊体CPUに、思考メモリー、脳のHD。その組み合わせにより、人間をさながら機械仕掛けの神と化す。
 世界そのものが一つのデーターの塊として認識され、インターネットを見るようにアドレスがふられていく。
 自分の頭脳と魂が世界にアドレスを割り振っていく。
 世界そのものが一つのデータとして見えてくる。その中では実体があるものもないものも、データとしては同じことだ。
 僕は手をトラックの中に突っ込むと妖精『グレムリン』を掴み引っ張り出した。
 グレムリンは手の中で暴れている。これは本当の妖精、異界を故郷とするものではなかった。グレムリン効果を起こすように調整されたプログラムが僕の認識でそんな姿をしているに過ぎない。
「消去」
 紫電が手に現れグレムリンを消し去った。
「Magi Systems終了」
 世界は元のままに戻った。
 トラックのエンジンも止まっている。
 僕はトラックから降りた。ナスライン嬢が近づいてくる。
「今のはなんだ?」
「リアルハッキングです」
 そういってから彼女には分かるようにどう説明していいか迷った。
 異界からの来訪者は所謂リードランゲージの呪文がかけられている。だから意志の疎通はできるが固有名詞などにかかると妙な翻訳がかかる。
 例えば、『薔薇のように美しい』という表現がある。ところが『バラ』という固有名が存在する場合、『バラ(という人のように)に美しい』となってしまうわけだ。こういうことが原因でトラブルになることもあるらしい。
 まして専門用語を説明しようとするとさらにわけがわからなくなる。
 困っている僕にナスライン嬢はいった。
「魔法だな」
「そうです魔法です」
 ナスライン嬢は冷笑した。
「違うロジックだろ。尺度といってもいいかな」
「この辺りで勘弁してください」
「そうだな。では翼を探すのは頼んだぞ」
 ナスライン嬢は律儀に扉であった辺りから外に出て行こうとする。
「どこにいかれるんですか」
「仕事だ。依頼料は心配するな」
 僕はナスライン嬢を追った。
「どうした」
「仕事先まで一緒に行きますよ」
「同伴は高いぞ」
 何かのお店なのだろうか。
 近頃流行の美少女?居酒屋かもしれない。
「必要経費にいれておきますから」
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2006年04月29日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その3

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 ナスライン嬢が仕事場にしているのは壊れた教会だった。
街では珍しくない廃墟だ。
 この十年の間に世界は恐ろしい早さで揺らいだ。
 異界と称されるさまざまな世界からの来訪者。彼らとのぶつかりあいは世界を変化させた。その中でも揺さぶられたのが宗教だ。異界から訪れた怪物を殺したのは奇跡でもなんでもなく、一発の銃弾であったり、禁じられた知識だったり、幻の武術だったりした。
 多くの宗教から人は離れ、あるいは群がった。それでも日本はまだましだったかもしれない。もともと中心になる強い教えがあったわけではないのが、逆に柔軟性を持った。
 自由に移住を許した一角一角をもうけ、来訪者を受け入れたのだ。それは長崎の出島以来の日本の伝統的な異文化への接し方だった。
 最初は妖精島といわれる湾内の埋立地の一角だけだったのが、その範囲は少しづつ広がり、東京湾から半島の一角を占めている。
 よそ者を嫌うのも日本の特徴だった。結局、半分誓い人口は一時的に減った。そのせいで至るところに遺棄された地域ができた。
 最近は境界管理局の方で再開発を進めているが、それもまだほんの一部だ。
 近づいて分かった。そこは正規の教会ではなく、結婚式などのイベント用に作られた教会を模した建物だということに。
「ここで何を?」
「ちょっとした仕事だ。まあ、見ていれば分かるよ」
 ナスライン嬢は教会に入るのを追った。中はほとんどもとのままのようで、参列者が座った椅子もそのまま残されている。
 だが、端の一角は布で覆われており、ナスライン嬢はそこに入った。
 白いベットが置かれ、大きめのテーブルが置かれている。テーブルの上にはきれいに洗濯されたシーツが畳んでる、椅子の数は6つあるが、何やらものが置かれ、座れるのは三つほどだ。
「すわっていてくれ」
「こんにちわ」
 声が外からした。
「先生はいらっしゃいますか」
「どうぞ」
 入って来たのは一人の老年の男だ。仕立てのいいスーツ姿で、小脇にはバックを抱えている。慣れた様子で椅子に座ると、こちらを見る。
「助手だ」
 そういうとナスライン嬢は男の手をとった。
「もう痛みはないはずだが」
「ええ。ただ、先生に触れていただくと調子がいいんですよ」
「はあ、ペドというやつだな」
「先生」
「冗談だ。しかし、もう十分だぞ」
「はあ、もうしわけないです」
「このくらいで十分だな。しかし、酒もほどほどにな」
 ナスライン嬢は手を離した。
「先生、こんなところでするのやめてちゃんとした場所を構えませんか。資金の事は心配しないでください」
「ここが好きなのでな」
「助手さんもいってやってくださいよ」
「先生は天の邪鬼なので」
「天の邪鬼。いわれてみればそうですな」
「小谷さん」
 恨めしそうにナスライン嬢は目を細めた。
「いやあ、すいません。ああ、そろそろいかないといけませんな。診察代は、こちらに」
 小谷さんがバックの中から厚い紙袋を取り出した。
「どうも」
 ナスライン嬢は受け取った紙袋を机の上に置いた。
「では、また来ますので」
 足取りも軽く小谷さんは出て行った。
「あなたは癒し手ですか」
 小谷さんの体は、ナスライン嬢が触れるまでとはまったく違っていた。
「まあな」
 紙袋から取り出したのは百万程の束だった。
「このように金を貰うのでな。それをよこせと煩い連中がいる。さっきのも恐らくはそうした連中だろう」
「なるほど。それなら、いくばくかの金を握らせて、手打ちにした方がよくないですか」
 ナスライン嬢は薄く笑った。
「人間相手ならそれもいいかもしれないが、あの連中が真にほしいのは」
「先生、いらっしゃいますか。けが人なんです」
 飛び込んで来たのは狼だった。
 狼だというのにあまい匂いがした。赤頭巾でも食べたあとなのだろうか。
「チビが怪我して」
 ナスライン嬢は立ち上がった。
「どこにけが人はいる?」
「家に寝かしてあります」
「すぐに行こう」
「場所はどこですか?」
「霹靂拳。てめえなんでこんなところに」
 狼は僕に向かい吠えかけた。恐らくはどこかであったのだろう。
「早くしろ」
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2006年05月09日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第9章 決意の戦場4

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闇が広がっていた。外からのあかりもなく、ただ狭い通路には長く使われていなかったせいで空気も濁っている。
  フェイト・クローナはその中を歩いていた。時折、立ち止まっては懐にある盗品を確かめる。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/051.htm
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2006年05月20日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第9章 決意の戦場5

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青い光が部屋を覆っている。この部屋に戻ってくると体に活力が戻ってくるのがよくわかる。光も部屋に満ちる香気も、体を回復させるのに適したものだからだ。
  墓石めいた石でつくられた寝台にフェイト・クローナは腰掛けた。
「見逃されたか」
  今こうしてここにいるのはそんな理由なのはわかっている。


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/052.htm
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2006年05月23日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第9章 決意の戦場間奏

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 砂が激しく巻き上がった。
  白い神官服の聖女と、黒い装束の魔女の戦いが続いていた。
  お互いに元来の手段である神力と、魔術を使わないその戦いは、呪文保持者の戦いではなく、ただの殺し合いのようだ。
  鋭利な短剣と、重いロッド。お互いに致命傷を与えるのは難しい武器だ。短剣はその一撃の威力が少なく急所を狙うしかなく、ロッドは当たれば大きいがなかなかに当たる事はない。
  しかし、魔女は巧妙だった。戦いながら爆裂の紅玉、呪文を宝石化したものを確実に配置していく。それは魔術師の戦い方ではなく、狡すからい魔女の手口だ。

http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/053.htm
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2006年05月28日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その4

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 着いたのは教会に程近いスラムだった。昔は巨大なモールがあったが、10年前の大津波の時に波にさらわれ、半ば廃墟と化したあたりだ。再開発をするにはかかる金額が集まらず放置されている。
 あの時の事を思い出した。
 父さん。その津波の時に父は亡くなっている。どうしてもこうしたものを見ると思い出される。自分の無力を。 
 無事という程しっかりした建物ではないが外で寝るよりはずっとましだ。残っている建物には人々、主に異界からの漂流者が住んでいる。
 多くの人々は、歩いているナスライン嬢に向かい人々が挨拶をしてくる。そこにあるのは熱心な尊敬で見ていると少しばかりうらやましい。反して自分に向けられた視線は冷ややかなものだ。
 廃墟の壁に張り付くように小さな小屋が作られていた。
「こっちだ」
 部屋の中には狼の子が転がっていた。腹には大きな傷があった。それは鋭利な刃物で切り裂かれていた。生きているのは獣としての生命力だろう。
「大丈夫だ」
 ナスライン嬢の手が白銀の輝きを見せる。それは事務所で見たあの翼と同じ光だった。
 見る間に傷口はふさがって行く。それはナスライン嬢の癒し手の非凡さを見せていた。
「これで大丈夫だ。安静にしておけよ」
 ナスライン嬢は立ち上がると、出るように促した。
 外に出るとよく分かる。ナスライン嬢の顔が蒼白な事が。手は腹に添えられている。
「つかまってください」
 ナスライン嬢は表情を硬くした。
「観たのか」
「それくらいは分かります。あの癒しは今のあなたにはできないものだ。だから傷を共有した」
「それはまずいな。外から見えるなんて。わしも衰えたな」
 ナスライン嬢の崩れる体を支えた。

 教会に戻り、ベットの上にナスライン嬢を寝かした。
 観るのは不愉快に思われるのは分かっていたが、観る事にした。
 観る。というのは見るだけの事ではない。見鬼、浄眼、アナライズ、サーチといろいろな言い方があるが、結局は読み解く事なのだ。
 Magi Systemsを利用し、暗在系と総称される、見えない情報を読み、理解する。
 結局、その根底にある考え方は世界そのものに暗在系といわれる、秩序と情報を蓄積したシステムがあり、それはプログラムされている。そのプログラムを使い、世界の構造を見るのだ。そして場合によっては書き換えるのがマギ使いであり、リアルハッキングだ。
 その一つが『観る』という行為だ。この能力の有無は、異界からの存在の多い、この境界においては有利となる。いかなる存在もこの世界に入ってしまえば、暗在系の中に取り込まれる。そうすれば、完全でなくとも、『観る』ことで相手を知ることはできる。敵を知り己を知れば危うからずというのは、真実だ。
 傷を観る。そして治療する。それだけの事だった。
 しかしナスライン嬢を観たところで、硬直していた。
 見た事がない歪な構造だった。それはもともとなのか、この世界に来たときにたまたまなってしまったのかとても意味があるとは思えない部分が多い。グロテスクとさえいえるのに、それは美しかったのだ。
「霹靂拳」
 声をかけられなければ、好奇心に負けて観続けてしまったかもしれない。それだけナスライン嬢のもつものは強烈なものだった。
 振り返れば先ほどの狼だ。
「今、応急処置をするから少しまっていてください」
 出血しているが、それ程深くはない。傷を繕った。肉体の構造はそう変わらないから治すのはそう難しくない。
「おまたせしました」
「何のつもりだ?」
「何がですか?」
「先生はな、俺達みたいな連中のケガも見てくれるお人だ。お前みたいに、秩序とか何とかいって、消して回る連中とは違うんだ。まさか、それが目障で消そうなんていうんなら」
 狼は喉を唸らせた。
「誤解があるみたいだが、僕は元いる世界に送り返すだけで消しちゃいない」
「戻って来た奴がいないのに信用できるか」
 僕はふとその狼に挑ませようかと思った。自分で試せば分かることだろう。
「その目だ。あの『真紅の笑み』と同じだ」
「彼女が来たのか?」
「ああ。ご丁寧にじかにきやがった。それがだめとなると力づくだ」
 『真紅の笑み』の名を持つ彼女なら、何もそんな面倒なまねをしないはずだ。
「聞きたい事がある。ナスライン嬢は今日、襲われた」
「何だと? 『真紅の笑み』か」
「外に心当たりはないかい」
「しらねえ」
「もめないでくれ。彼はいわば今唯一のたよりなんだから」
「先生、だいじょうぶですか?」
 ナスライン嬢は頷いた。
「ああ、しかしもう薬は止した方がいい」
「いやそれはすいません」
 狼は兎の如く走り去った。
 しかし、これで行く場所が増えた。背景を探らなくては行けない。
 失礼する旨を伝えようとするとナスライン嬢の目は青白い火のように見える。
「観たな」
 冷ややかな声がした。
 ナスライン嬢が体を起こしている。
「傷口を適切に処置する為です。信用できないなら、僕を観ても構いませんよ」
 ナスライン嬢はじっと見たあとで笑った。
「まあ、いい。これでわしがしていることが分かっただろ?」
「金持ちからは相当な代価を、貧しいものには無料で癒し」
「そうだ。恨まれるのも当然だな」
「『真紅の笑み』にあったことはありますか」
「名前だけはあるが、それがどうかしたのか」
「知らないなら関係ないと思います。では、捜査に入ります」
「当座の資金だ」
 小谷さんの持ってきた札束だった。
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2006年05月30日

Shura Beating Soul 聖女アルの物語 第10章 冒険者1

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大神殿の聖堂は、その名と裏腹にみすぼらしい印象を受ける。
  壁は白塗りのままで飾りらしいものはなく、床も木で作られていて、ところどころ素人の手によると思われる修繕というよりは、不便がない程度に治されたあとがある。
  もっとも地方の神殿ならば、そうしたことは多く、珍しいことではないかもしれない。何よりも大きな違いは崇めるべき巨大な神の像がないのだ。
  ここは他の神殿では主神として崇拝を受けるいかなる神も、人と同じ大きさの神像で姿を象られている。帝国の守護神であるムーアもまた月の冠を抱いた静かな女性の姿だ。冥王とも死の神とも言われるダルタロック神も鎌を持った農夫めいた老人に過ぎない。他の神も、その神器とされる道具を持つにとどまり、神秘的とまでいわれる存在は見当たらない。


http://99ya.gozaru.jp/storys/aru/054.htm
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2006年06月03日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その5

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 清原ビルは夕日に染まっていた。下部から1階から5階、6階から10階、11階から20階までと、三段階に太さが変わるそれは表面に張られた黒いビル壁の外見と相まって、巨大な墓にも見える。
 沖合いには妖精島。異界から漂着したという巨大な島があることから、このビルは島に突きつけられた警棒を意識しているともいわれている。
 結局のところ、主観によっていかように意味が説ける場所であるということだ。
 ロビー入ると微かなラベンダーの香りが香ってくる。少し柔らかな気分になった。
 受付に向かい声をかける。実際人間がいるわけではなくカメラとマイクが仕掛けられた石の柱があるだけだ。来訪の理由と名前を告げると、電子音声が答えた。
「約束されていない方はお通しできないことになっております」
 仕方無しに、父親譲りの名をいう。
「『霹靂拳』が来たと、『真紅の笑み』に伝えてくれ」
「こちらの支持に従って移動してください」
 受付から先に床に矢印が浮かび上がる。それに従ってエレベータに乗った。
 エレーベターがとまったのは19階だった。
 エレベータが開けばそこには英国式の庭が広がっている。
 羊の柵が横目に見える道。茂みや木立が重なっていてどこまで続いているかも分からない。道を歩き出すと風景式庭園が見えてくる。遠くの景色まで含んで作られたその景色は元来、気候と人間の手で、数百年もかけて作られたものだ。それを精密に再現したそこは、真紅の笑みの能力故だろう。
 『真紅の笑み』も自分と同じマギ使いだ。僕がわずかにしかふれられない暗在系を彼女は自在に書き換える。暗在系を書き換えるとどうなるか、明在系といわれる表も変化する。『真紅の笑み』はリアルハッキングに精通した小さな神のようなものだ。
 第一こんなに歩き疲れる距離があるわけはないのだ
「こんにちわ」
 声をかければ、庭は消え去り、つまらない会議室がそこにあった。
 部屋の中央にいるのは真紅の笑みこと清原寧だ。
 均整のとれた体つきと、普通の人間なら望んでも得難い美しい顔立ちがまず目に入る。だが、清原寧をもっとも特徴づけているのは、煙るような黄金の瞳だった。黄金眼とも金眼睛とも呼ばれるそれはいつ見ても圧倒される。
 少しの間、彼女に観られるに任せた。読み取られる表面にさっさと今までの経緯をまとめておく。圧縮された情報は彼女に伝わりあっという間に理解される。
「はあ、それで私のところに。悪いけれど、狼狩りをする趣味はありません。それに、そのお嬢さんにも心当たりはありません」
「早くて助かる。あと聞きたいことは分かるかな」
「どうして、あんなところにいったかですね。あの辺りを復興しようと思いまして。自分で行った理由は気まぐれといっても信じてはいただけないですね」
「残念ながら十年以上の付き合いで、意味のない行動をしたの聞いた事がない」
「気まぐれは本当。きっかけを聞きたいのかしら」
「そんなところです」
「沢瀉おじさまがあの辺りを気にかけられていたので」
「沢瀉さんが絡んでいるのか」
 となると大事かもしれない。なんといっても沢瀉おじさんは境界管理局のトップなのだ。その人がわざわざでるほどの再開発?
「ご不満? 境界管理局執政管の立場なら、あんなところに土地を遊ばせておくのは何かと思うのではないかしら。境界2はそれなりに広さはありますが、土地を遊ばせておくことはできないですから」
「そりゃまあそうだけど。ありがとう。参考になった」
 頭を下げる。
「六星、夕飯食べていって」
 寧は腕を絡めた。胸の感触が手に伝わってくる。自分とほとんど変わらない背のせいで、寧の顔が近い。恐らく普通の男ならうれしく思うだろうが、体の芯からの問題で、黄金眼は恐怖を感じさせる。胃の下の方が痛い。
「七瀬が待っているからね」
 そういうと寧は離れた。
「従妹殿の名前を出されてはしょうがありませね。せっかく、青椒絲(ピーマンの肉抜き細切り炒め)を用意したのに 」
「この件が終わったらまた来るよ。ただし、肉はいれておいてくれ」
「相変わらず嫌いなのねピーマン」
 逃げるように外に出た。
 いとこで幼馴染というのは厄介だ。自分がからかわれる種が多すぎるのが悪いのだが。
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2006年06月06日

babel 始まり-小原紅葉-

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 小原紅葉は携帯を見た。
 時間はもう10時過ぎ。いつもは寝過ごすことなんてないのにめずらしい事だった。
 昨日の記憶を辿ってもこれといって朝起きられなかった理由は見当たらない。
 昨日は大学が終わってバイトにいって、すぐにに寝たはずだ。
 会場の桜市民ミュージアムにつくと人影はほとんどない。
 凝古調の建物は最近のもののはずなのに一見明治時代につくられたように見える、
 案内の看板が置かれ、「第一回桜映画祭」と書かれている。その看板に従うと標識が見えた。それに従って進んでいくと、ロビーの扉が見えた。
 中に入ると既に上映は始まっていて静まりかえっている。静寂の中に隠しきれず息を飲む音が聞こえた。
 一番後ろの席に座り、映画を見始める。
 勝修羅能。
 修羅、何かしらに執着した事で修羅、人の外となったものを鎮めるのが主題になっている能だ。
 映画はそれを元にしたもので平将門の娘滝夜叉姫、自らの父を葬った藤太との対決を主題にしていた。
 その前知識がないと少しばかり辛いものだった。
 映画は終盤にさしかかっていた。
 修羅となった滝夜叉姫が、人であることを思い出し、苦悩している。
 紅葉は手で膝を握り締めていた。
 見ていると何か思い出してしまう。自分のものかも定かではなく体の中に残る記憶。
 それが退治される滝夜叉姫の行いが親しく思える原因だった。
「思い出しましたか、自分が駆逐される側の存在なのが」
 声が聞こえたのはスピーカからだった。それは映画の音声ではない。
 映画はエンドロールがいつの間にか流れ始めている。
 そして誰もいなかった。置かれたパンフレットや、飲みかけのジュースや食べかけのお菓子。決して誰もいなかったわけではない。
 紅葉は立ち上がった。素早く出口の扉を押すが外から鍵がかかっているのかまったく動かない。
「出てきなさい」
 紅葉の声に答えてスクリーンの前に少年が立った。
「はじめまして」
 一礼した少年はタキシードを身につけていた。金髪碧眼のその顔は柔らかい印象を受けるが整っている。ルーベンスの天使を思い出させた。
「ただ一人母殺しを成し遂げ、次代の存在に至った魔女にあえて光栄の至りです」
 紅葉は奥歯を噛んだ。
「だからこそ糧となるのでしょう」
 少年はいった。
「光あれ」
 少年の姿が歪んだ。何かが少年の前に出現する。
 紅葉は横に飛んだ。
 光が紅葉の立っていた場所を貫いていった。
 後ろに飛んでいたらそのまま貫かれていた。転がりながら座席の中に身を隠す。
「明いけるよね」
 紅葉は小さく呟いた。

「逃げ場はありません。地上が夜という月の影から避けれぬように」
 少年はそのまま黙り座席を見つめていた。
「仕方ありませんね」
 光が座席を貫いた。だが、出てくる様子はない。
「全て壊すことにしましょう」
 上から飛び降りてきた紅葉に少年は動きを止めた。
 一刀が降り落とされた。
 少年の眼前に出現した翼が紅葉の一刀を防いだ。
「予想外です。そういえばあなたは劇をされていましたね」
「人が少ない劇団は照明や小道具も自分でしないといけないものなよ」
「覚えておきます」
 翼は消えた。
「7年もすればすっかり紅塵の中で使い物にならなくなると思いましたが違いましたね」
「日常は守るものだと忘れないこと。それが前の時に学んだこと」
 紅葉は刀を構えた。
「親殺しとは思えない言葉です」
 紅葉は踏み込んだ。
 今度は翼は現れず、ただ紅葉の剣は交わされていた。
「迷いましたね」
「黙れ」
 紅葉は小さくいうと刀を構え直した。
 エンドロールが終わり、幕が閉まり始める。
 幕の上で何かが光った。少年の肩は半ばまで切り裂かれていた。幕の上から剣が投げつけられた剣が舞台に刺さっている。
 血が噴き出した。
「同感だね。日常は守るものだよ」
 幕から飛び降りて舞台の上に立つのは紅葉と同世代と思われる青年だった。体つきは細いが、鍛えられて
いるのがわかる動きだ。
 青年は剣を舞台から抜いた。
「武部のものですか」
「まあね。姫の場所を吐いてもらうよ」
「それには及びませんよ」
 少年の血の中から姿を見せたのは美しい少女だ。大げさに鼻をつまみ、唇の端に冷笑を浮かべるその顔を紅葉は知っていた。
「久しぶり」
 少女は紅葉に気安く手を振った。
「美しき災厄」
「今は柊って呼んで」
 そう紅葉にいうと柊は少年をかばって前に立った。
「神さまともあろう人がみっともない」
 揶揄を含めた言葉に少年は頷く。
「神殻を持っていまして」
「ああ、武部の人狩りならそれくらいはね」
 少女は手を上に向けた。少女の手には弓が握られていた。
「でもここまでよ」
 青年は叫んだ。
「逃げろ」
 矢はない。なのに殺気だけは感じられた。
 紅葉は入り口に向かい走った。
 矢で狙われているのはわかる。だが、振り返ればその瞬間射抜かれる。そんな気がした

 紅葉はロビーに出た。
 人の姿はない。これで被害は。そう頭では考えたのに体はさらに逃走を求めている。
 背後から地震でも起きたと思えるような衝撃が伝わってきた。
「いったいこれは」
 耳鳴りがした。それだけで後は物音はしない。
 紅葉は足音を忍ばせながら舞台により近い出口から中に戻った。
 劇場の中は嵐が中でまき起こったように座席という座席が壊れていた。
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2006年06月13日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その6

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 湾岸一帯は人工的に作られた景色だ。土地も海を埋め立てて作られた人工のものなら、歩いていく道も、目の前の景色も同じことだ。そんな埋立地だというのに、街灯といった人工の灯りがないと、未開の地に一変する。
 昼間の記憶を思い出しながら、六星は教会に向かっていた。
 教会にも灯りは点っていなかった。
時間はまだそれ七時を回った程度。その薄暗闇の中を六星は歩いた。
「アルさん?」
 声をかけると教会の後ろの方から声がした。
「ああ、六星氏か」
 六星は教会の後ろに歩いていった。
 立ち止まっていた。
 そこには背の小さい草がいくつもはえていた。その柔らかな曲線を描いた葉や蕾は今まで見た事がないものだった。
「調度いいときにきたな」
「ちょうどいい?」
「ああ」
 逢魔が時が終り、全うな夜が訪れた。完全に日が落ちた時、蕾はゆっくりと開き始めた。
 バラめいた黒い花だった。闇の中で、なお深く黒を見せている中で、花が淡く光っている。
 花びらの中に露や水滴でも垂れているのかと六星は思った。
 それは花びらの内側から漏れる光だった。
「きれいです」
 それしか思いつかなかった。
 ナスライン嬢は頷いた。
 沈黙の中で二人は花を見ていた。
月の光がかかると花は子供が小さく手を握るように小さく蕾に戻っていった。
「運がよかったな」
「なんていう名前なんですか?」
「さあ」
 ナスライン嬢はいった。
「こちらにきて髪に種がついていたんだ。育ててみたらこんな花が咲いてな。結構がんばって育てたんだが、この花壇くらいが世話できる限界でな」
「確かに」
 アルは目を細めた。
「それで何か分かったかい?」
 六星は小さく咳払いをした。そういえばせっかく清原のとこまで出向いたのに聞くのをすっかり忘れていた。
「いえ実はちょっと違う方向にあたってしまって」
「ほうほう。まあ急ぎの依頼ではないしな。のんびりとあたってくれ」
「すいません」
 
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2006年06月17日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その7

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 その足で僕は本屋に行くことにした。
 本屋は文字どおり、町の一角にある本屋だ。
駅が移ってしまった為、人通りの減ってしまった商店街。埋めるように入った店の多くは漂流者のものだ。
 その為、古い通りの中で新しい店が多いのだが、はっきりと古い店もある。
 『渺海』もそんな店の一件だ。
 押し戸になった扉を開けると香の匂いがしてくる。
 店の中には書棚があった。様々な装丁と厚みも様々な本。それはいつまでも続いているように見えた。
「二代目が来るとは珍しい。今日はどうしたことかね?」
 現れたのは大人しそうな少女だった。おとなしい青地に、アールヌーボ調の銀の花弁が描かれた小振袖だ。
 衣装さえ除けば普通に見えるが、彼女は人間ではない。九十九神といわれる類いの年経た本の精のようなものらしい。
「ここにくる以外に本を読むこと以外にないよ」
「どんな本?」
「アル・ナスラインという本だ」
「それは最近の新作だね。ちょっと値がはるけども」
 ナスライン嬢から渡されていた金を取り出した。その中から何枚か抜こうとすると、
「それ全部もらえないと見せれないね」
 ため息をついて袋を渡した。
「よろしい。アル・ナスラインの物語りはこちら」
 一冊の本が渡された。
 ここは情報を本にして渡す。持ち出しは不可で、この中でしか読めない。
 本という姿をしているだけで実際は存在しない本なのかもしれなかった。
 聖女と呼ばれた少女の物語が続いた。その辺りは読み飛ばしていると、目的のものが見えてきた。
 それは彼女が死者を相手にするのに必要なアイテムだった。
 章が変わるとこちらにきてからの事だった。最初は苦労したらしいが、病人の治療を始め、あの教会に落ち着いて一月あまり。随分と羽振りはよかったようだ。
「どうであるか」
「そうですね。だいぶ分かりました。ただ、必要な事がない。できればアイテムの説明を聞きたかったんですが」
「さらに金を詰めばさらに本をもって来るが」
 そうここは情報量は純粋に金額に換算される。だが、僕の資金はそこをついている。
 最初の段階でナスライン嬢ではなくアイテムに関してたずねればよかったのだ。
「このくらいで」
「そうか残念」
 『渺海』を出た。
 もう随分と眠い。そう思った瞬間にそれはきた。
 冷たいもの、恐らく銃口が背中に触れている。さらに僕の前に男が数人。
「抵抗はすんなよ。ガキの一人くらいばらして海老川の水虎にくれてやるのも悪くねえ」
 僕は黙っていた。たいした手掛かりもなくちょうどいい。
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2006年06月20日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その8

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 その足で僕は本屋に行くことにした。
 本屋は文字どおり、町の一角にある本屋だ。
駅が移ってしまった為、人通りの減ってしまった商店街。埋めるように入った店の多くは漂流者のものだ。
 その為、古い通りの中で新しい店が多いのだが、
はっきりと古い店もある。
 『渺海』もそんな店の一件だ。
 押し戸になった扉を開けると香の匂いがしてくる。
 店の中には書棚があった。様々な装丁と厚みも様々な本。それはいつまでも続いているように見えた。
「二代目が来るとは珍しい。今日はどうしたことかね?」
 現れたのは姿の少女だった。
 衣装さえ除けば普通に見えるが、彼女は人間ではない。九十九神といわれる類いの年経た本の精のようなものらしい。
「ここにくる以外に本を読むこと以外にないよ」
「どんな本?」
「アル・ナスラインという本だ」
「それは最近の新作だね。ちょっと値がはるけども」
 ナスライン嬢から渡されていた金を取り出した。その中から何枚か抜こうとすると、
「それ全部もらえないと見せれないね」
 ため息をついて袋を渡した。
「よろしい。アル・ナスラインの物語りはこちら」
 一冊の本が渡された。
 ここは情報を本にして渡す。持ち出しは不可で、この中でしか読めない。
 本という姿をしているだけで実際は存在しない本なのかもしれなかった。
 聖女と呼ばれた少女の物語が続いた。その辺りは読み飛ばしていると、目的のものが見えてきた。
 それは彼女が死者を相手にするのに必要なアイテムだった。
 章が変わるとこちらにきてからの事だった。最初は苦労したらしいが、病人の治療を始め、あの教会に落ち着いて一月あまり。随分と羽振りはよかったようだ。
「どうであるか」
「そうですね。だいぶ分かりました。ただ、必要な事がない。できればアイテムの説明を聞きたかったんですが」
「さらに金を詰めばさらに本をもって来るが」
 そうここは情報量は純粋に金額に換算される。だが、僕の資金はそこをついている。
 最初の段階でナスライン嬢ではなくアイテムに関してたずねればよかったのだ。
「このくらいで」
「そうか残念」
 『渺海』を出た。
 もう随分と眠い。そう思った瞬間にそれはきた。
 冷たいもの、恐らく銃口が背中に触れている。さらに僕の前に男が数人。
「抵抗はすんなよ。ガキの一人くらいばらして海老川の水虎にくれてやるのも悪くねえ」
 僕は黙っていた。たいした手掛かりもなくちょうどいい。
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2006年06月27日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その9

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 腕をつかまれたまま、連れ込まれたのは使われていないボーリング場だった。
 僕は回りを観た。数は十人あまり。こちらが腕を押さえつけられているせいか、どうも油断しているようだ。
 年齢は僕より10あまり上くらいの人が多い。でも、一人だけは違った。撫でつけた髪が目立つ男だ。男にしては白い肌。その服はどこかブランドなのかかっこいいが、ネクタイの瓢箪柄があってない。線の細い色男で、どうも回りの連中とは雰囲気が違う。
「二代目は随分若いのね。結構な色男じゃないの」
 その男は鼻にかかった声でいった。
「理由は何ですか?」
「ああ、さらった理由ね。アル・ナスラインから受けた依頼を取りやめてほしいわけよ。漂流者に義理立てして誰にも愛してもらえない肉の塊になるのもなんでしょ。あいつらはよそ者なんだし、この世のもの同士仲良くしましょう」
「それもそうですね。でも、既に元手がかかってまして」
「ああ、お金ね。いくらほしいのかしら」
「指一本ってところです」
「あらあら吹っかけたものね。でも、それくらいならいいわよ」
「それだけ大きな事なんですね」
「ところであなたはどこまでわかっているの?」
「今は地取り、周辺の人間から話を聞いている段階です。まあ重大な証拠も掴みつつありますが」
「なるほど」
「そちらはどうなんですか」
「こちらもまあ手がかり程度ね」
「つまりたいしてわかってはおられないということですね」
「いやな事を言うわね。そうよ」
 本当かウソか知らないがこの程度でいいだろう。
「一億はもったいないですが、依頼を取り下げる気はありませんよ。初代鉞仁吾以来の伝統でして」
「この状況でそれは虚勢ね。両手をとられている上にこの部屋は十人はいる」
「ああ、確かに」
 確かに腕は押さえつけられている。
「先代みたいに、行方知れずにはなりたくないでしょ。もっともどこかで女のねんごろになっているかもしれないけど」
 その口を塞ぎたいと思った時にはもうその男を殴りつけていた。
 腕をつかまれたくくりなんてまったく意味が無かったのだ。
 しまった油断させておくつもりだったのだがボスは倒れているし、まあいいだろう。
 それにしても一億は動かせる男にしては簡単に気を失って少し残念だ。
「ガキがいきがりやがって」
 さっさと殴り倒した男を左手で立たして盾にすると、男たちは獲物を切り替えた。警棒やナイフだ。
 一応飛び道具を使わない程度には重要な人物らしい。
「もっとも脅しの言葉を間違えた時点で終りだよ」
 切りかかって来る男の拳を殴りつけた。嫌な音に重なって、高い悲鳴が続く。刃物を振るうのは結局腕だ。拳を砕けば問題はない。片手で人を盾にしつつ動く。
 距離が開くと、銃口がいくつも向けられた。どれもこれもハンドガン。拳銃だから問題はない。人一人を盾にしているから受けた十分動けるだろう。
「離せ」
「そっちが先だ」
 僕は拳を振り上げた。
「僕の手は首の骨くらい砕けるよ」
 銃口がみっともないくらい震えている。
「それに仏教では生業における殺生は認めている」
 そういうと動きが止まった。
 心からの言葉は何よりも雄弁だ。
 銃が無造作に放られた。
 男をその場に転がし、外に出た。
 少し物足りなかった。父さんの悪口は酷く不快だ。
 遠くにビルが見えた。
 既に日も暮れている。今日のところは家に帰ろう。
 僕はそう思いながら帰路についた。
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2006年07月01日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その10

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 翌日、境界管理局に向かった。
 境界管理局は境界の治安を司る機関だ。境界のルールはここで主なものが作られている。
 一番恩恵を受けるのは、バベルとよばれる『翻訳魔術の強制』だ。これは境界に入ったものが肉体に魔術刺青される。そうすると話している言葉が翻訳され、共通語に訳され、相手に伝わる。この魔術には欠点もある。その大きなものが固有名詞の取り違いと、比喩の解釈である。
 固有名詞の取り違いはこんな感じだ。ドラゴンの住む池がある。僕たちからすればドラゴンは危険きわまりない生き物で、そんな池は進入禁止にするだろう。ところがある世界ではドラゴンはおいしい魚の一種だったりする。すると危険なところに魚を取ろうと入ってしまう人もいるのだ。
 比喩の解釈もにたようなかんじだ。花のように美しいというのはまあ褒め言葉なのだが、ある国では死のとき以外に花を飾ってはいけないとする。すると花のように美しいというのは、不吉をこめた美しさになる。
 たいしたとり違いではないかもしれないが、名誉と侮辱が絡んだ事件も多いそうだ。
 それでも初期の意思疎通がままならないことに比べれば随分とましになった。
 そんな騒ぎの時に姿を見せるのが管理局の白い制服菅だ。
 管理官は昼間しかみないかもしれないけど、本当は一日中、交替で働いている。一つの班が戻ってきたら、見て回ってきた事を話して、それを聞き終えてからもう一つの班が出て行く。そんな風にして必ず誰かが境界を見てくれているそうだ。
 昔お世話になっている沢瀉さんに聞いた話だとこんな感じだそうだ。

「海老川沿いの沿岸で、カッパが流れておりましたので、保護。母とはぐれたとのことで、引き続き探してください。ナンパ通りで喧嘩が一つ。妖精種と鬼種の間のものでした。幸い、近くにおりました退魔資格者が抑えました」
「引継ぎ分かりました。他には何か?」
「すいません。私はカッパを見たことないのですが、後学の為に専従してよろしいですか」
「構わんがカッパを見たことないとはいやはや」
「時代も変わりましたな」
「時代?」
「管理局ができた頃はカッパにいくらか金を払って水関係の保守を頼んでいたものだよ。」 
「そんな時代が」
「ああ。もう君たちの時代は妖精島から技術供与がされていたからね」
「ああそれで。妖精といえば、あの広場の妖精の事はしっているかね」
「ええ、あの正直者の妖精ですよね。落し物は何でも届けてくれる」
「ああ投げ捨てたタバコを持ち主に届けてくれたりもするな」

 それでも手が届かない範囲の為に探偵がいることになる。境界管理局は『探偵』や『交渉人』『護衛』など様々な職業の登録を行っている。その一番のメリットは『民事介入』だ。境界管理局は公な組織なので、どうしても手が出せないことがある。だから境界管理局で登録しておくと、窓口でその希望に沿った職業が紹介される。
 登録しておくと仕事の斡旋以外に様々なメリットがある。その一つが管理局のデーターベースだ。
 管理局に出向かないと使えないが、管理局のテータベースの閲覧ができる。
 昨日の男を調べるつもりだった。最初からサイフの一つも奪えばよかったが頭に血が上っていてまったくみっともない。
最初にモンタージュで画像を作り出す。あとはイメージ検索で渡りを始めた。おおよそ2時間あまりしているとついに昨日の男が出てきた。
『富士見 成明 三倉会所属 人間 境界で薬物関係を主に扱う。前科なし。』
 三倉会について調べる。
『三倉会 元武部系組織。現在では独立。境界内で生成したと思われる魔薬類を外部に流通の疑いあり。所在地は湾岸部通称阿片窟 obaq』
 一つ昨日のお礼も兼ねて出向くことにしよう。

 阿片窟と呼ばれるそこで実際にはアヘンは一切商われていない。魔薬はいくらでも出現するし、現行の法律で縛られないものしかここにはない。
「君のように惹かれやすい魂は、たやすく闇に染まる」
 そう声をかけてきたのは天使だった。
「お前達にはいわ・・・」
 言いかかってから黙った。人もいろいろであるように天使も全てが冷酷無比なわけではないはずなのだ。
 翼は畳まれている。褐色の肌をした金髪紫眼の天使だ。観ようとすると最初に光が入って観づらいのが天使の特徴だ。
 ウォッチャーと呼ばれるタイプの天使だ。彼らは別にこちらから干渉しなければ何もしてはこない。一番の目的は観察であるらしい。ただ、こういうところにいる時点でやや堕ち気味なのかもしれないが。
「魂の事は置いておきますよ」
 阿片窟の中を抜け、部屋を探す。
 obaqは直ぐに見つかった。一見、スナック風に作られているが、一歩入るとそうではないのはすぐにわかった。
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2006年07月11日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵家業その11

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 匂いがまとわりついてくる。
 濃厚な匂いは鼻を通り、皮膚を通り抜け、体に分け入ってくる。頭の芯がぼんやりしてくる。強い酒を空腹の時に飲んだようなそんな気分になっている。不快ならともかくそれは正直気持ちのいい匂いだ。
 obaqを初め、この周辺は阿片窟と呼ばれるそこで実際にはアヘンは一切商われていない。阿片は法律で禁止されている。今まではやってきた覚せい剤の類もだ。様々な世界から、魔薬はいくらでも出現するし、現行の法律では追いつかない。禁止されたとたんに、また新しいものが出回り始める。結局は『濱の真砂は尽きるとも、世に盗人のタネは尽きまじ』だ。
「すいません」
 そう声をかけると出てきたのは大柄な男だ。額からまっすぐに一本のツノが生えている。鬼だ。
「なんだちっこいの、くっちまうぞ」
 あからさまに小ばかにした口調でいうが、まあ男のからすれば実際自分は小さい。
「三倉会の富士見成明さんにお会いしたいんですが」
「そんな男はいねえな」
「本当ですか? 昨夜お会いしたんですけど」
「なんだお前お姫さまか。そういうことはさっさといってくれないと」
 わけがわからないが、頷いた方が早そうだった。
「こっちに入ってくれ」
 あっさり店の奥に通された。
「シャワー浴びて、ベットで待ってな」
 通された部屋は凝った内装をした部屋だった。キングサイズのベットが置かれており、窓を模したモニターには地中海の青い空と白い岸壁が映し出されている。
 部屋に入るまであれだけ聞こえてきた騒音が一切しなくなっている。いい防音装置か、魔術か何にせよ、よくできている。
「かわいこちゃんとかいってたな」
 背筋が寒くなった。
 とはいうものの、ここは機を見て敏でなくてはいけない。
 灯りを消して、ベットに潜り込んで待つことにした。
 10分ばかりが過ぎたろうか
「やあ、仕事が長引いてしまって。さあ、お姫さま顔を見せておくれ」
 昨夜聞いた声だった。
「電気も消してああ、そういう趣向だね」
 ベットが沈んだ。
 側に座った富士見の手が背中に伸びて思わず声を上げる。
「声を出してもかまわないよ。ここは完全防音だからね」
「あなたに会えて嬉しいですわ」
と、従姉妹の声色を思い出しつつ、富士見の手を取った。
「おや積極的だね。でも、その細い長い指はいいね」
「お加減はいかが?」
「怪我の事を知っているのかい。ああ、こちらも仕事柄無用なトラブルが多くてね。でも、君のおかげで随分痛みは和らいでいるよ」
「そんな・・・だって、うちの探偵社のモットーはアフターケアもばっちりですから」
「お前」
 とりあえず小指を握る。
「折れますよ割合簡単に。タイミングだけの問題ですから」
 軽く力をこめた。小指から肘にかけて筋が張るのがわかるはずだ。逃げようと思えば折れるのはわかったようだ。
「いったい何の用だ」
「いえいえ、昨夜、ついかっとなって終えてしまった続きをしようかと思いまして。例えば、どうしてアル・ナスライン嬢を狙っているとか。いや、答えたくないならよろしいんですよ。ここは防音らしいんで、お話したくなるまで待つこともできますから」
 少しだけ力をかけると高い声があがった。
「で、まず最初の質問なんですけど、よろしいですか?」
「なんだ」
「アル・ナスライン嬢は何をしているんですか?」
「魔薬の精製よ。提携を申し込んだんだけど断れれたから、少しばかり話し合いを画策しようとしたわけ」
「で、そのためにこちらにちょっかいを」
「外堀から埋めようと思ったわけよ。こちらに関係者もいないみたいだしね。管理局に紹介された人間が手を退けばどうとでもなるもんだと」
「狙わせたのもあなたですか。うちにトラックが突っ込んできましたよ」
「いいえ。しらないわ」
「わかりました。でも、もしアル・ナスラインに何かあったら」
「私は何もしないわ」
「わかりました」
 僕は手を離すとベットから降りた。
「失礼」
 そのまま一発首に食らわせ意識を奪った。
 乱れた服を調えて、外に出ると、先程の鬼がにやにやとした顔を浮かべている。
「どうだったお姫さま」
「ああ、もうベットで寝ているから少し寝かしておいてあげてください」
 事実だけを告げてそのまま外に出た。

 
posted by 管理人 at 20:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年07月16日

その先 天

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 幾久しく前の事でございます。
 白昼轟音が鳴り響き、庭に何かが落ちるような音がしましたものですから、
屋敷の中にいた勲さまは飛び出してまいりました。
 庭にありました楡の木は真っ二つになり、火をあげております。
 万が一そこから火が燃え広がりましたら、貧乏御家人の辻の家など簡単に
吹き飛びます。
 勲さまは雨桶にためてあった水をもって、楡の木にかけて、どうにか火を
消すことができました。
 汗びっしょりになり座り込んだ勲さまの耳に物音が聞こえました。
 貧しい御家人とはいえ武士の子。幼い頃から武道の鍛錬を受けておりました
勲さまは立ち上がりますとすばやく音の方に向かいました。
 何か獣がおります。屋敷の塀に張り付き必死に逃げ道を探している様子です。
 黒い体や穴熊に似ておりますが、その尾の長いこと。見たこともないもので
ございました。
 臆病なたちなのか手を出せばそれだけで怯え、すぐに勲さまの手に捕らえられてしまいました。
 捕らえたものの、どうしようもなく、放しておけばいずれ逃げるかと庭においていきました。
 ところがこの獣は逃げることはありませんでした。そこでエサをと思いましたが、何も食わず水も飲まず困りました。ただ、天を哀しそうに見ております。
 勲さまはその様を見てどうにかできないものかと様々なところや、人に話をしました。武家や商人、学者先生や殺生人。伝を辿り知るものが現れました。奇妙な術を扱うとされる
北家の男でございました。
「竹を建てておくのがよろしいと存じます」 
 北家の男のいうままに勲さまは切ってきた竹を庭に刺して回りました。
そのまま庭に陣取り、夏の熱気の中、生き物と見ておりますが、何もおきはしません。
 日も暮れる頃、昼の熱気があがった人々の汗が凝じたのか、黒雲が現れ、
夕立となりました。
 生き物は駆け出すと竹を上ります。竹は光を一瞬はなったという思うと、
その光に追われるように、見る間に天へと上っていきました。
 翌日、北家の男に生き物が天に昇ったことを話しますと、
「あれが雷獣ともうします。天に帰るには木ですと、雷の力をうけ燃え上がってしまうというのです。竹だけは雷獣の力を受けながらも燃え尽きることなく、ああして雷獣が天に帰すことができるのです」
 と答えたそうでございます。 


 雷獣をまぐまぐさんで出しているモンスター妖怪紹介メルマガ白澤図用に書いたSSです。
 http://www.mag2.com/m/0000039780.html

 妖怪古今録はもともと700文字前後で納めないといけないので物語の部分をカットしないといけないのですが、メルマガは好き勝手な長さにできていいですね。

 気が向いたらとってみてください。
posted by 管理人 at 18:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年08月01日

After babel はじまりの物語2 六星の探偵?家業 その12

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どうも道が反れている。
 アル・ナスラインの身柄の保護は依頼とはまったく関係ない。
 あくまで自分がすべきことは『翼』を見つけることだ。ところがそちらに関しての情報がまったく入ってこない。
 詳しくナスライン嬢から話を聞かないといけない。
 これではただ火種を巻いて歩いているだけだ。
「待てお前」
 先ほどobaqにいた鬼だった。
「どうしました?」
「お前あれだけのことをして、ただで帰れると思ってるのか?」
「思ったより眼を覚ますのは早かったってことですね」
 僕は何の気負いもせずに鬼と向かいあった。
 人の形をしているというのは楽だ。それだけで筋肉の動き、骨の構造でどう動くか大よそ検討はつく。頭の中で砕くところを想像した。
 鬼は殴りかかってきている。その右拳にあわせて拳を叩きつける。嫌な感触がした。ついで激痛が拳に走る。
 後ろに飛んで距離をとる。
「いかれたか?」
 鬼は笑った。その拳を近くの電信柱に叩きつける。
 その顔に叩き付けたいところだが、拳が痛い。砕破を使わないで殴りつけたのは油断だった。砕けているかもしれない。
 鬼は殴りかかってくる。狙いはこちらの拳だった。払おうとするところを狙われる。嫌な音と震えが伝わってきた。自分の拳が砕ける音だった。そのせいで隙ができたのだろう。腹に重いのを貰った。
 血の味が口の中に広がった。
「この鉄拳で砕けないものはないのさ」
 声が聞こえたが意識が遠くなってきている。意識があるうちに仕方ない。
「Magi Systems起動」
 視界が変わった。一番の違いは世界がぐるりと反転したように内側と外側が逆になる。
 Magi Systemsとは、霊体CPUに、思考メモリー、脳のHD。その組み合わせにより、人間をさながら機械仕掛けの神と化す。
 世界そのものが一つのデーターの塊として認識され 自分の頭脳と魂が世界にアドレスを割り振っていく。
 世界そのものが一つのデータとして見えてくる。その中では実体があるものもないものも、データとしては同じことだ。そう自分の存在すらも。壊れている部分を復元する。それだけでは足りない。さっきの感触からいつもの拳では砕けない。
 意を持って気を鎧に変える。父親譲りの心流の奥義の一つ砕破だ。
「これでいい」
 立ち上がると鬼は驚いていた。
「軽く殴る必要なかったみたいだな」
「まあね」
 気で強化しているといっても正面から受けるのは重すぎる一撃だ。Magi Systemsを使っていれば相手の動きは予測がたやすくつく。先ほどのように正面から受けずに流す。
 自分の拳など恐らくあの鬼の筋肉には通じはしない。それならできるのは脳を揺さぶることだ。
 鬼が殴ってくるのにあわせて、懐に飛び込んだ。背の高さの差で自分の頭の上に鬼の顎がある。
「砕破衝」
 右腕を突き上げながら砕破を手に集中させた。
 鬼の体は宙を舞って行く。
 意識を失って受身もとれずに地面に転がる鬼の体を見ながら、まずい事に気付いた。
 鬼は一人ではなかった。十数人の鬼が集まってきてい。拳で除けるには少しばかり数が多い。逃げるか。
 路地の間に視線を走らせる。するとそこに鬼が移動する。逃げ場をふさぐつもりのようだ。それならしょうがない。
 いつの間にか鬼と僕との間にはメガネをかけて、長い髪を地味なゴムひもで縛り、制服姿の少女が立っていた。
「そのくらいにしておいていただけると痛みわけということでよろしいと思うのですが」
 声はよく知っているものだった。メガネをかけて、服装も髪型も地味だが、
「オマエたち逃げろ」
 その声に鬼たちは笑う。いったい何をいっているかわからないというのだろう。少なくともその姿からはいかに彼女が危険かはわからない。だが、中の何人かは反応してくれている。こっちが本当にあわてているのがわかるのだろう。
 その怯えた雰囲気を不快に思うものもいた。
「黙れ」
 そういって殴りかかった鬼が硬直する。きっちりあの黄金の眼で見られて掌握されているのだろう。鬼の姿は一瞬で消え去っていた。
「あなた方、式鬼でしょ。それならかける慈悲もあります」
 鬼の姿は愛らしくデフォルメされていて、その姿には今までの怖さは一欠けらもない。
「何しやがった」
 声も愛らしい。
「人に好かれる姿にしただけよ。嫌われ者だと存在するのも辛いでしょ」
「ふざけやがってお前らこいつやっちまえ」
 気付けば誰もいなかった。
「どうなってんだ」
「あなたを使っているマギ使い?、古典的な術師かわからないけど腕はいいみたいね。あなたを掌握したのがわかったらさっさと撤退させたみたい」
 僕は苦笑いしながらその地味な女学生風に化けた従姉妹、清原寧に近寄った。
  
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2006年08月08日

それいけノノ先生・続 夏祭り

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「眠いな」
 ノノは職員室の机を改造して作られたノノ専用休憩室(観察しやすい用に天井は透明)でソファに寝転がっていた。
 もともとは高級な人形の為のソファは座り心地も悪くないのだが、どちらかというと屋外で草の上に転がっている方が好きだ。
 それでも大型(ノノ的に)のポータブルテレビをつけてぼんやりと流れる番組を見ているのは悪くない。
 これでワッペンを渡す受付の仕事がなければもっと楽なのに。
「すいませんです」
 ノノは飛び上がった。
 慌てて翼を広げて、受付に向かう。
「はいなんですか?」
 出ていくとルーテが、七瀬が立っている。
「どうしたの?」
「夏祭りに店を出すです」
「飲食店の数が足りないそうなので、校長先生がよかったらといってくださったので」
 あの石碑にしか見えない校長先生でも食べ物に気を使うのは不思議な気がする。
「わかった。じゃあ、これ人数分つけていって」
 それからひっきりなしに人が来ることになった。

「これが夏祭り」
 校庭に、体育館に、いろいろな店が広がっている。バザーやフリーマーケットもかねているので売っているものはかなり多い。(バザーとフリーマーケットの違いは売上金の使い方にあります)
 ノノは繰り出した。

「夏祭り最高、ああ服がこんなにそれもこの値段で」
 結局、いろいろと買いこんでしまうと昼になっていた。
「リアさまにもにあいそうな帽子買ったし 問題はどう持って帰るかか」
 応接室の20パーセントを占める帽子を考えてノノはため息をついた。
 ため息をつくとお腹が空いている。食事をとることにしよう。
 そう思って飛んでいると飲食店が集まっている一角がある。
 そのうちの一軒に見慣れた金髪翠眼が見える。ルーテが店番をしていた。その前には多くのお客さんが、
「商売繁盛なによりなにより」
「まだですか」
「しばらくお待ちください」
 ルーテは必死だが、手元の分をするだけで大変そうだ。繁盛のレベルではないらしい。
 それでも注文されたものを出したのか五分ほどで混雑は解消された。
「ほかのメンバーはどうしたの?」
「ノノさ先生。お客さんもこないので交替で休憩をとっているです。そしたらたくさんお客さんがきてしまって。わたし、アイスとかぴったり出すのが苦手で」
「あたしが見てあげるよ」
「そういえば同じくらいです」
 ルーテはアイスサイズ S M というのを書き換えて、N(ノノ)300円と書き直した。
  
「好調です」
 ノノが測るようになってからルーテの効率が一気にあがった。それもまあ当然の事で、天使というのは正直に言われるままに作業するのが得意なので、思考部分を他者に委ねた方が能力が上がるのだ。 
 それとは逆に好き勝手にさせた方が効率がいい種族もいる。
「ノノちゃん」
 封希だった。
「学校ではノノ先生」
「ノノ先生、お手伝いですか」
「まあね。食べてく? ルーテいきのいいところを頼むわ」
「がってんです。ところでソフトクリームのいきのいいとことって、蓋についているところですか」
「冗談だよ」
「おおです」
「ノノ先生も食べます」
「ああでも一個は食べきれないな」
 さすがに等身大アイスは無理です。
「ああ。そうだ」
 ノノは背伸びした。
「さあはかってルーテ」
 結局増量分がノノの食い扶持になった。


 その後、ノノは自分の背をいろいろと変えて、夏祭りに喜びと悲しみを与え続けた。


「繁盛しているようだな。わしもN一つ」
 アルが来るとノノは体育座りした。
「少なくないか?」
「アルにはこれで十分だよ」
 ノノは口を尖らせた。
「背の事を怒っているのか」
「当たり前でしょ。せっかく大きくなれたのに。体で返せって身長とるなんてひどすぎる」
「背が伸びれば満足か」
「できるの」
「今すぐにでも」
 アルは聖女の笑顔でいった。
「して」
 ノノの眉間にアルは指をあてた。
「ノノ嬢だけだからな」
「うん。え、いやちょっと待って」
 ビリ。
 服が破ける音がした。
「やっぱり今のサイズでいいよ」
 それは雷鳴の如く響き渡った。

 
 その日人々は巨大な何かが立ち上がるのを見た。ある人はそれは怪獣であったといい、ある人はダイダラボッチであるといういい、ある人は神であるといった。

 ただ、一つわかっているのは
「Nサイズだと一つ分もないですね」
とルーテが売りきれの看板を出した事だけだ。

 


「なんてことがあったからアイスの在庫が全部ないんです」
 浴衣姿で戻ってきた七瀬は悲しそうに頷いた。
「どうもありがとう」 
「つくり話じゃないよ」
 ノノはいった。包装用の紙袋を破いて、縄文時代の人のように着ている。
「たとえ七瀬が、いいえ誰がなんといってもあたしにはわかってる。地球が丸いのも分ったし、その話がつくり話じゃないのも」
  

 
 
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2006年08月26日

木下闇変更

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

「ここか」
 連絡が来たのは夜も深くなってからの事だった。
 ジャック。リッパーを捕らえる為に東雲組の衆が集まっているという。
 場所は埠頭の一角だった。かつて企業の工場があったそこは、海外へのプラントの移設がなされ、今では打ち捨てられ広大な廃墟となっている。
 そこにリッパーは追い詰められたという。
 四郎は工場の中を歩いた。
 時折、五月雨に聞こえてくる騒ぎ。銃声と思えるものが時折混じる。
 四郎は足を速めた。
 数人の極道者らしい男が白刃をきらめきながら襲いかかっている。その向こうにいるのは。刀がジャックの腕を切り裂いていく。だが、同時にその男の首からも血が噴出した。凶器は見えないが強さは分かる。十や二十といった人を殺しているのではない。
 だが、さすがに十数人が集まってくると不利は明らかだ。距離をとり、隙を狙うものも、自らがおとりになるものもいる。何よりこっちから見ていてはっきりと腕が立つものもいる。

http://tukumoya.qee.jp/log/eid88.html

 今まで読んでくださった人は関係ないのですが、章を区切りなおしました。
 もし見られる方がいらっしゃいましたらこのようになります。

http://tukumoya.qee.jp/sb.cgi?cid=2-%cc%da%b2%bc%b0%c7
posted by 管理人 at 22:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年08月29日

木下闇end

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

「聖別された矢は効くようですね」
 黒崎神父だった。
 それだけではない数人の男の姿があった。ニンニクをぶら下げ、その手には大型のボウガンや、白木の杭を持っている。中にはどこかで見た姿もあった。
「黒崎神父」
 自分がやくざを勢子にしたように、今度はこちらが猟犬変わりにされたのろう。いや、最初から全てがそうなのかもしれない。
「まったく嘆かわしいことです。吸血鬼に味方するとは」
「吸血鬼?」
「彼は吸血鬼です。その呪われた魅了の業で、不浄な組織に隠れ、永く生きて来ました」
 神父は大きく息を吐いた。
「あなたも彼女も吸血鬼の影響の下にあります。まだ、血を吸われていませんから間に合うと思いますが」
 甕星が不意に走り出した時の事を思い出す。そして先程の庇おうという行動。
「初音さんと一緒ですな」
「姉さんと」
「そうです初音さんは呪わしい吸血鬼に心奪われていました。だから救おうと思ったのです」
 神父はミサでも行っているようにおおげさに手を動かした。
「しかし彼女は懺悔を拒み逃げました」
「だから殺したのか?」
「いえ。彼女は自殺です。もし私どもの手で死ぬことができたならば、罪は清められ、天国の門は開かれたでしょう。残念で・・・」
 四郎は声の終わらぬうちに殴り掛かっていた。
「あなただけでも救おうと思ったのですが、嘆くことはありません。神は赦してくださいます」
 矢が放たれた。
 交わせる。だが、甕星が後ろにいる。
「いけるか」
 風切る音で落とせたのは二本。三本目が右腹を抉り、四本目は首筋を掠っている。
 腹が燃えるようだ。そこから血が流れているのがわかる。首筋の出血は地面に紅い雫を描く。
 聖別されたなどどうということはない。ただの矢とはいえ、100mは有に届き、至近距離なら電話帳くらい貫くものだ。
 四郎は神父を殴りつけた。だが、出血と先程までの動きのせいでその威力は弱々しい。神父はその攻撃を簡単にかわした。そのまま四郎は神父に軽く押されただけで倒れた。
「あなたも分からないのですね。大丈夫、遺体は教会に安置いたしますから」
「最近の事件はみんな」
「呪われた存在を神の身許に導く為にしたことです」
 男たちの中に葬儀屋の姿が見えた。
「彼という協力者もありますし、目立たずに運ぶのはそれほど難しくはありませんでした」
 恍惚とした顔で唱える神父は神の司徒ではなく悪魔だった。
 闇の中で鈍い音が響いた。
 それは人が倒れる音。神父の仲間である男が倒れている。
 見れば倒れていたジャックの姿はない。あるのは大きな血だまりだけだ。
「いったい」
 神父は回りを見る。
 ただ、影のようなものが見えた。
「愚かしいな」
 四郎は目を見開いた。神父の首が、折れた。
 崩れ落ちる神父の体の向こうジャックの姿が見えた。
 一瞬で鳥肌が立つのが分かった。そこにあるジャックとの差は技術とかではなかった。自分がこの存在からすれば餌であるのがよく分かる。
 闇の中、確かな足取りで消えていくその側。幽明隔ちながら歩み去る姉の姿が見えた。彼女はただ振り返って小さく笑った。
 幸せそうな笑顔。
 ジャック・メイループが何なのか分からない。本当に吸血鬼なのかもしれないし、正体の知らない怪物なのかもしれない。
 でも、姉が神の許にいくのを拒む、彼の側を選んだのなら。
 気付けば甕星が側に立って四郎の崩れそうになる体を支えている。
「行きましょうか」
 遠くでサイレンの音が聞こえた。
 四郎は頷くと朝の光の中を歩き始めた。 
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2006年09月12日

F&S1 バベルへの途上

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「さあ町と塔を建てて、その頂を天に届かせよう」
 その目的で建てられた塔はノアの子孫ニムロデ王が、神に戦いを挑む目的があり、剣を持ち、天を威嚇する像を塔の頂上に建てたという。
 だから神は怒った。
 主は降って来て、人の子たちが建てた塔のあるこの町を見て言われた。
「彼らの言葉を乱し、互いに言葉が通じないようにしよう」
 主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
これによって、その町の名は混乱を示すバベルと呼ばれた。


http://tukumoya.qee.jp/sb.cgi?day=20060912


100のお題をさらに再構築したものです。
 七話以降はこっちが優先されます。
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2006年09月23日

ある昔話1

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 王は塔の階段を登っていた。階段は果てが見えず続き、前を見ているだけでいまいまししさが増していく。
 急く心に合わせて足を早めた。だが、心臓はついてはこず鼓動が苦しいくらい早まってくる。
 一度休もうと思った時に怪談は終り、部屋が見えた。
 そこが城主の一族の産屋であった。正室は塔の中で子を生む。地下に廟を持つこの塔は祖霊に守護されていると言われていた。
 今後、塔での出産は取りやめる事にしようと王は考えていた。
 自らもここで生まれたわけではない。婿入りした自分ではなく、産屋の中にいる后こそはこの中で生まれた。
 産屋であるこの塔以外は、見張りや幽閉に使われ、祝福されたの場所ではない。
 扉を開けて中に入るとすすり泣きが響いている。
「いったいどうしたというのだ」
 泣き女の声に似たそれ。 
 死産であったのか。あるいは妻に何かあったのか。女官たちは顔を見合わせ答えない。
「答えられぬものはいないのか?」
 天蓋のついた寝台から産婆が姿を現した。
「いえ、奥方さまもお児も健やかでございます」
「ではなんだというのだ?」
 苛立ちは高まっていた。産婆は冷ややかな目で王を見つめた。
「まず心をおきめください。生かされるか殺されるか」
「どういうことだ?」
「取り替え子をご存じでございましょか」
 取替え子。妖精や悪鬼に子供をすりかえられるという事例だ。
「あんなものは迷信であろう」
「はい。何人ものやや子を見ているババはそれが迷信であるのを存じております」
「ならば問題はあるまい」
「人は人に至るまで様々なものになっているともうします。その胎のうちでの資質を持って生まれてくるものもおります。それが取替え子なのでございます」
「わが子はそうであるいうのか」
 産婆は身を除けた。天蓋つきの寝台へ阻むものはなかった。
 王は天幕に覆われたゆりかごに近づいた。そこに眠る子は。
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2006年09月26日

ある昔話2

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 塔の上にある小部屋に朝夕食べ物を運ぶ。
 それが少女に与えられた仕事だった。もともとは祖母の仕事だったが、十になった時に少女の仕事になった。
「この仕事はとても大切な仕事なの」
 祖母はいう。
 しかし、様々な夢を胸に秘め、継ぐつもりなどなかった少女だったが、日々を食いつなぐ為にはそれしかなかった。頼りにしていた祖母が亡くなり、父母も帰らない。
 城からおいだされないだけましというものだ。城の外では掌にのる麦を争って殺しあいが行われているというのだから。
 食べ物は城の厨で作ってもらえる。億劫なのは長い階段を登り塔の最上階にたどり着くことだけで、それ以外は楽なものだ。最上階の小部屋にある食卓の上に食べ物をおいて立ち去る。それが毎日のきまりだった。
 楽すぐて何もすることがない。だからこそ小部屋の主に興味を持ったのだ。
 今日はそのまま待っている事にした。幸い小部屋の食卓は大きくその下に隠れていれば問題ないように思えた。
 料理が冷めるのが心配になった頃、扉を開く音がした。テーブルの下で待っていると小さな足が見えた。きっと子供だろう。
 少女は一気に飛び出した。
「うわ」
 古めかしい服を身につけた子供だった。顔はベールに覆われて見えない。
「ねえ」
 子供は慌てて立ち上がった。
「言ったでしょナナ、病気が移るから」
 子供はいった。まだ、幼い女の子の声だった。
「病気なんだ」
「そうなのだからあなたも出ていった方がいいのナナ」
「あたしナナじゃないです
「そうなの。その金色の髪と赤い目が似ていたから」
「それに、うちの家ずっとここに食事を作って運んでいるから病気ならもううつってると思います」
「でも気をつけた方がいいの」
「どうもありがとうございます」
 少女はいった。
「食事いいんですか?」
「ああごめんなさい」
 女の子は食卓に戻り食事を再開した。
 のんびりというには楽しそうでなく、辛いのか苦行にすら見える。
「何か食べたいものありますか」
「いいえ」
「あなたはお姫さまですか」
「わたしはわたし」
「名前はないんですか?」
 女の子は首を横に振った。
「教えてくれないとそのよび辛いです」
「それはダメ」
「どうしてですか?」
「ここにいる限り名前はいらないでしょ。ここで、あなたが話しかけるのは常に私だけだもの」
 少女は首を傾げた。
「わかりました。あたしはノノです」 
「ノノ。優しい音ね」
「そう。なんか適当につけたらしいです。でも覚えてもらえるしいかも」
 

「少なくてすいません」
「いいの」
 ノノの運ぶ食事は少しづつ減り始めて、3分の2ほどになってしまった。それでも随分とがんばってきてはいるのだ。厨で粘って粘って少ないながら果物や具を増やさせたりとしているのだが、それでも少なくて自分の分も加えてみた。
「あまり動かないから。ノノこそ痩せたみたいだけど」
「そうですか」
 その言葉は少しだけ安堵させた。
 初めて女の子と顔を会わせる様になってから半年ほどが過ぎていた。
 対岸の火事に思えていた災厄が城の周りでも姿をみせはじめていた。戦神を崇拝する王が起こした戦争はこの国にまで達していた。
 国の中心であるここでも食べ物が減ってきているのだから、もうこの国は長くないのだろう。
「御子たちが争いを始めたのね」
「御子」
「神の愛子たち。彼らはその神の王国を地上に打ち立てるために死力を尽くすの」
「それで食べ物がないんですね。でも、神様なんて、上からみているだけでなかなか手を貸してくれないんだからそんなにしなくてもいいのに」
 ノノの言葉に女の子は笑った。
「その少ししかない力を持っている神が戦いに費やす分、本来世界を維持する力が減るの。そうするとこういうことになるの」
「それでどうなるんですか」
「御子が一人頂点に立てば終わるから」
 女の子は手を止めた。
「ノノが食べて、わたしはもういいから」
 言われてはじめてノノはじっと食べ物を見ていた事に気づいた。でも素直に貰うことにしよう。随分とお腹がすいてきている。
「ありがとうございます」
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2006年09月30日

ある昔話3

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 いつもは長い階段がさらに長く感じられた。走っても走っても階段につかない。
 もう息が切れた時にやっと塔の上の部屋についた。
「早く荷物まとめてください」
 女の子の姿はない。
「失礼します」
 寝室に入るのは初めてだった。
 荷物らしいものがとてもたくさんあった。整理されているから散らかっている印象はない。何か空気が澄んでいて、どこかの神の神殿にでもきたようだ。
「どうしたの?」
 ノノが寝室に入ると少女は塔から火を見ていた。
「早くしてください」
 女の子はそれでも動かずノノは傍に立った。
 光の海原だった。上から見る火は美しい。その中で多くの命が失われているというのに。
「どうしたの」
「いってた通りでした。どこかの国の王様が戦争おこしたて、もうみんな逃げちゃいました」
「そう。では、その日が来たのね」
「役?」
「守護者としての役よ」
 女の子は顔を覆うベールを外した。
 その瞳孔がない瞳は黒くそこに夜空が開いているように見えた。耳は長くその髪も黒い。白いのは肌の白さだけだ。
「妖精」
 少女は首を横に振った。
「この国の王統はかつて取り替え児をしたの。でも、それは昔の事。私の父の頃は、この塔が神の世界にもっとも近いために出産が行われるも忘れ、ただの因襲となっていた。でも神はそれを忘れることなく続けたの。それが私。こういう時、城を守るために私はいるの」
「無理ですよ。逃げましょう。だって軍ですよ。戦争です。一人でどうにもならないです」
 女の子は顔を横に振った。
「大丈夫ですから」
 女の子は窓際に立つと手を振った。見えない何かにサインを送るように。
 火が大きく膨れ上がって、持っている兵士に襲いかかるのが見えた。
 その火は大きく膨れ上がっていく。
「もうやめましょう。あの人たち叫んで逃げていく」
「ここにこうした守り手がいるのがわかれば敵はこなくなる。今日だけだから」
 その炎たちがあるところから一切進まない事にノノは気づいた。
「ねえ、あそこ」
 夜藍色のローブが炎の前に立っていた。手に見える長長い杖の先は光を放っていた。
「気づかれた」
 女の子がつぶやいた瞬間、部屋の中を風が吹きぬけていった。そこに立つのは一人の魔術師だった。
「あなたがこの国の宮廷魔道士ですか?」
 魔術師の言葉に女の子は小さく首を横に振った。轟火が魔術師に襲いかかった。魔術師の前で炎が停止した。
「すごい」
 女の子は背中に光が見えた。それは大きな白い翼の形をとる。炎の勢いが高まった。炎が食い破り、魔術師を包む。
 風が吹いた。
 炎は消え、魔術師の姿もない。
 ノノは外を見た。兵士たちが逃げていくのが見えた。


 数日がすぎた。
 城の中にはノノと女の子しかいない。
 だから、女の子を連れてノノは城の中を回った。
 女の子はここを守護するといいながら、こうして歩くのは初めてなのだ。
 広間では舞踏会のまねをし、庭では鬼ごっこを楽しんだ。
 今日は隠れんぼだった。庭の茂みに隠れて、女の子が来るのを待っている。
 息を潜めて歩いていると背後から肩を叩かれた。
「うわ」
 振り返ると見た事のない少年が立っていた。
 金髪碧眼の少年は貴族らしい飾りの多い服を身につけている。
「だれ?」
「隠れんぼ」
「うん」
「どっちがお姫さまを見つけられるか競争だね」
 少年はそういうと歩き始めた。
 ノノは探し始めた。
「見つからないなあ」
 探すのに疲れて座ると足元が震えた。地震かと思ったがそれは直に止まる。
 火柱が城の中であがった。
 女の子が立っていた。大きな光の翼を背中に見せながらもその顔にゆとりはなく、血にまみれている。その前に立つのは少年だ。
 手には少年の手にを細長く長い刃を持った剣が見える。
 女の子の起こす炎を黒い刃が起こす突風に落とされる。それが純粋な力だった。
 女の子は額から止まらない汗をかき、少年は表情をそぎ落とした顔で向かい合っている。
「わかっていると思うがこのままでも勝てないぞ。僕の神は戦神。蹂躙し、闊歩するのは戦神だ」
 女の子は掌を少年に向けた。炎は掌の中で膨れ上がりまがまがしく震える。
「それでいい」
 炎は翼のはためきに勢いをましながら少年に向かい襲いかかった。
 少年の体に触れた炎は一気に燃え上がり少年を包んだ。
「やった」
 ノノは叫ぶと、女の子に近寄っていく。近づくに連れて女の子の顔が緊張しているままのことにきづいた。
「悪くない」
 炎は消え去った。
「でも終わりだ」
 少年は剣を突き出した。
 飛び込んだのは盾になるためではなかった。女の子を突き飛ばそうと思っただけだ。
 だが、少年の刃は速かっただけだ。
「あ」
 ノノは自分の体を貫く刃を見ていた。
「ノノ」
 少年は刃を引き抜いた。
「きてくれ」
 少年の傍に魔術師が立つ。
「この男は魔術師だが、人体への心得もある。見させてくれ」
 女の子は素直に頷いた。
「どうだ」
「魔術を用いれば問題はありません。ただ、彼女は敵です。この少女も陛下にに刃向かう存在です」
 少年は首を横に振った。
「既に敗れた以上、全てわが民だ」
posted by 管理人 at 15:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年10月03日

ある昔話4

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「陛下」
「テイ、増長するな」
 少年の目が鋭さを増した。
「分かりました」
 魔術師はノノの手をとった。目を閉じて小さく呪文を唱える。
「どうだ?」
「陛下の武器は『神殺し』でございます。体を治す事はできても、存在はどうか」
「僕の力でどうだ?」
「失礼ながら陛下の力は攻撃の為でこうした用途には向きません」
 少年は唇を噛んだ。
「レテの恩寵は神官にあっても御子にはないしな」
「私の力は」
 女の子はいった。
「失礼」
 魔術師は女の子の頬に触れた。
「陛下よりは随分と向いていますが。あなたも御子であって神官ではない。場合によってはあなたも力を失うことになります」
 女の子は頷いた。
「では、あなたの真名を教えてください」
「リア」
「リア、あなたの力を使って彼女を修復します」

 ノノは目を覚ました。
 なにかとても痛い思いをしたような気がするが混乱している。
「だいじょうぶ?」
 体が軽い。そう思って起き上がろうとすると体が浮き上がっている。
「あれ、なにこれ?」
 死んだのだろうか。
 目の前に女の子の泣き顔があって自分が生きているのが分かった。
「あれ、大きくなってますよ」
 女の子は首を横に振った。
「死なないようにするのはこれが精一杯だったんだって。驚かないでね」
 女の子は鏡を差し出した。
 ノノの体は小さくなっていた。そして背中には白い翼が生えている。
「小さくなってますね」
 もともとあまり小さな体は好きではなかった。早く大きくなりたかった。
 でも女の子の顔を見てはそれはいえなかった。
 ノノは回りを見た。 
 そこはもう城ではなかった。見慣れない部屋の中だった。
「ここは?」
「わからない。あの魔法使いが、ここに連れてきたの」
「もうひどいな」
 塔の部屋よりはましだが大してものがあるわけではない。
「でも、いいの。もう私は好きな事ができるんだから、たとえばあなたに名前を教えることもできる。私はリア」
「ああ、リアさまですね。よろしくおねがいしますリアさま」
「あなたは前ほど力がないから、今度は私があなたを世話したあげる」
「え、いいですよリアさま」
「まあいいか。これはこれで便利そうだし。ちょっととんでみます」
 ノノは飛び上がった。嬉しそうな笑顔で泣きながら。
posted by 管理人 at 19:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年10月10日

Dark section1

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 大きな白い皿の上から、ハンバーグとエビフライで溢れだしそうだった。特にエビフライの方はどうにか乗っている感じだ。
 みんなファミレスでも見かけない大きさで、テレビでよくしている「ここだけでしか食べられない腹いっぱいの名品」とか、そういう感じのだ。それが夕飯の自宅の食卓のテーブルの上に鎮座している。
 私は見ているだけでお腹がいっぱいになった。
 二人で食べるにしても多いのにきっと一人分なのだろう。だって2皿あるから、私と母のものなんだろう。
 食卓に母がついた。二人だけの食事はもうなれたもので、その前にお茶をいれて、テーブルの上をふいておいた。もちろん各種ドレッシングは用意済みだ。
「いただきます」
 母と料理に手を合わせる。
「どうぞ」
 答える母の声はうわの空だ。
 母は新しい恋人を見つけたのだろう。いいところ片思いだろうと思いながら冷えないようにちょっとづつハンバーグを切って口に運ぶ。一度に切った方が楽なんだけど冷えるし、肉汁でるしおいしくない。マナーっていうのは、面倒くさいものも多いけどこうして意味のあるものもある。
 母と目があった。何かいいたそうだった。きっと今のところの恋人のことだ。
「なに?」
 そう聞くと母は大げさに首を横に振った。
「冷えちゃうから先に食べちゃいなさい」
 そう思って食べるのを再開したが、既に母の限界だったらしい。
「あのね寧ちゃん紹介したい人がでいるの」
 私は母に気を使って大げさに目を見開いた。
 『ああ、また』とか『今度で何人目?』といわれるのは無論、あまり子供に見透かされているのは母はいい気はしないだろう。
「びっくりした?」
 演技は非の打ち所のないものだったようだ。母の目が心配そうに細まった。少し聞きすぎたろうか。
「うんでもだいじょうぶ」
 そういいながらエビフライにフォークをやる。
「いつ会えばいいの」
「ああ、そんな急じゃないんだけど、寧ちゃんが乗り気なら明日にでも」
 むちゃくちゃ急だ。
「いいよ。別に予定はないし」
「明日も学校いかないの?」
「義務教育だから大丈夫。それにおかあさん優先しないと。まだねしみもでてるからあまりいきたくないし」
 目の前のエビフライにしみがついていた。
 ああ、言い訳の為にいったのに、どじった。本当に視界の中にしみが広がっていく。ほんの小さかったものが私の周りに。
 母は私を抱きしめた。
「だいじょうぶよ寧ちゃん」
 素直にありがたかった。
posted by 管理人 at 20:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2006年10月14日

Dark section2

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 部屋に戻ってベットに寝転がった。
 枕元に積んであったOliveを手に取った。母が学生時代に読んでいたという本。
 いまの雑誌よりもでたらめな記事は、作り物というか、きっとこういう世界を作るっていう気持ちが伝わってきて好きだ。
 でも、開いたまま今日は読み始める気にはならなかった。
まだどこかにしみがあるような気がした。
 家の中まで出てくるようになってきた。前は外でしか見なかったそれ。
 家の外に行くだけでもうどきどきする。それくらいならいいのだけれど。
 視界のすみに穴が見えた。視界のすみ。ほんの少しの大きさだったはずのものが視界いっぱいに広がってくる。
 母の名を呼びかけてから私は黙った。
 ベットの上だし、それならそれでいいとおもってしまった。眠れば一度リセットされるみたいにしみが消える。
 しみの中に入った時は苦しいけどほんの少しだけ。それを過ぎれば、深い眠りがくる。
 闇の中に落ちた私の意識は消えていく。
 消えていく中で見えてきたのは白い大きな翼だった。しみの中で翼は美しい。

 包丁の音が聞こえてきた。
 リズミカルなそれはまどろみの中心地いい。料理のなれている人の動きは音を聞いているだけでよくわかる。
 母はまあまあで、鼻歌くらいのレベルだ。
 私は目を開けた。
 ああ、よかった。
 周りにはあの黒いしみはない。目をあけたそこにあのしみがあって、さめなかったらどうしようかとおもう。
 満ちているのは母のうきうきした気分。リズムだけでなく本当に鼻歌が聞こえてくる。
 母はおっちょこちょいで、すぐに恋をする。悪いことではない。
 だって人を好きになっているときの母はきれいだ。そっちに気をとられているのに、母としての仕事もこなそうとすると失敗が続く。
 無理なのは母の能力を考えれば分かる。母はそんなに器用ではない。二つのものに注意を注ぐのが苦手なのだ。
 部屋の扉を開けると、母親はお弁当作りの最中だった。
 鼻歌を歌いながら油揚げにごはんを詰めていく。そぼろが入っていたり、刻んだおしんこが入っていたりと飽きないようにしているのは分かる。
 でも、一人3つも食べれば十分なのにどうして20個もあるんだろう。
「どこかいくの?」
「水族館よ。昨日話したでしょ」
「会うっていう話。ちょっと急すぎない?」
「あとはおかずだけど。からあげはしようと思うんだけど何かほかに食べたいものある」 
「いやもう十分」
 拒否とかはないらしい。しみは大丈夫だろうか。
「そうかしら」
「足りないと困るし」
 母は心配そうだ。
 どうも母の恋の相手はフードチャンピオンになれそうな人のようだ。
「足りなかったら水族館で買えばいいよ」
「それもそうね」
 母は頷いた。
「きっとペンギンやイルカを見ながら食べるご飯はおいしいわ」
「そうだね」
 私は笑うと、母も笑顔を浮かべた。
 その笑顔を見ていると、外に出る不安もなくなる気がした。
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2006年10月17日

Dark section3

HOME種(未完の話) ⇒ この記事です

 母はこの世の終わりのような顔をしている。
『館内での飲食は、禁止されております』
看板にはこうかかれていた。
「どうしましょう」
「規則だからしょうがないわ」
 こともなげにいうと母はうなずいた。
「それもそうね」
 それでもあきらめ切れないのかため息を大きくつく。
「近くに公園もあるしそこで食べればいいよ」
 というかこの水族館は大きな海沿いの公園の中にある。
「ペンギンみながら食べたかった」
「ああもうしょうがないな」
 慰めているうちに私から視線が外れ、背後を見ている。母の顔が満面の笑顔に変わった。
 母の視線を追い振り返れば、男の人がバスケットを片手に立っている。
 黒ずんだグレイのトロピカルのサマースーツは一目でいいものだというのがわかる。
 どこかであったことがある。そう思った後で、父に似ている事に気づいた。体格は違うのにそんな風に思えたのは鍛えているっていう印象だからだ。父も鍛えている印象を持った人だった。
「お待たせしました」
 男の人は穏やかな表情で挨拶する。
「こちらが沢瀉さん、娘の寧です」
 私は男の人を見た。鍛えているという最初の印象は変わらないからきっとこの辺りが好きになったんだろう。
「寧です」
 挨拶すると沢瀉さんは少しだけ驚いだ。きっと母と似すぎている事に驚いているのだろう。 
「母上によく似ておられる」
 正解だった。その言葉に、いつも通りに返した。
「そうですね。よくそういわれます」
 母は嬉しそうに頷いている。
「行きましょうか」
 沢瀉は手を差し出した。
「いや、娘もいますし」
 母は変なところで気を使う。黙っていれば気にしないのに。
「ああ、気にしないで」
 口にするとますます妙な感じだ。
「荷物、お持ちします」
 落ち着いた沢瀉さんの言葉に、私と母は同時に顔を赤くした。

「昔、海辺で見つけたことがあるの。でも、こうして泳いでいると違う生き物みたい」
 赤エイは危ない生き物って思っていたけれど、こうして水槽の中で見ていると、お腹のエラなんかかわいらしい。
「同じ生き物でも場所が違えば印象は変わりますから」
 沢瀉さんはいった。
「シャチは海のギャングといわれますが、水族館では人気者だ。でもシャチの資質はかわらない」
 私がちょっと難しい顔をしていたのか、母は苦笑している。
「まだ子供ですからあまり難しいことはね。今日は、見て楽しみましょう」
 私は大きく頷いた。
「あちらにいいものがある」
 沢瀉さんはそういうと母の手をとって歩き出した。
 鏡張りの階段を降りると暗い部屋があった。その薄暗い部屋に少し躊躇すると、沢瀉さんが手を握って引っ張ってくれた。少しお弁当があたって痛かったけど、悪くはなかった。
 闇を抜けると光があった。
 頭上には海の底が広がっている。大きなマンタやカメ、きれいな魚が泳いでいる。ああ、ウツボみたいな魚もいるからきれいなだけではないけど。
 母も沢瀉さんもじっと水槽というには大きすぎる空間を見つめている。
「さっき上から見ていたところですよ」
 探せばさっきいた赤エイも混じって泳いでいる。
「本当だ」
「わからないものね」
 母は子供のように回りに広がる海を見ている。
「意外とガラスが厚いんですよ。だからちょっと角度を変えると」
「本当だ」
 横から少し向きを変えただけでガラスがおかしいのはわかる。
「すごいわね」
 母は頷く。
 今日は楽しい日になりそうだった。
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2006年10月21日

Dark section4

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 流氷の天使。
 名前を見たとき少し嫌な気持ちになった。
 クリオネ。半透明な姿をした海中を泳ぐ小さな貝。またの名を流氷の天使。
 天使という言葉が不愉快で、その動きも恐ろしい。
 頭頂の口が開き、似た姿の貝を食べていた。食べられても貝は生きているのはクリオネの体の中で動いているのが見える。
 それは何かを思い出させた。

見えるのは崩れるビル

 何かが頭の中で

大きな翼

 心が割れる。

ここじゃない。ここじゃない。いる場所はそこじゃない。

 問題はあるけど私は今幸せで

 染みの中にいた。
 いつもは見えない染みの中が見えた。そこにあるのは。

「寧ちゃん」
 暖かな感触が私を抱きしめる。それは力強くはないけど、背中からのぬくもりは体に伝わってはっきりと自分の感覚を取り戻した。
 私は回りを見る。
 そこは水族館。目の前には流氷の天使が小さな水槽の中で上へ下へと泳いでいる。
 今日は母さんと意中の人とデートについてきている。
「休み」
「うんありがとう。でも、ちょっと座って休めば大丈夫だから。二人は回ってきて」
 自動販売機がいくつも置かれた休憩コーナーで私は休むことにした。
 ジンジャーエールをのみながら休憩コーナーの脇に見える水槽を眺めていた。
 時折、水中に気泡の柱が立つ。弾丸のように水上から飛び込んでくるのはペンギンだ。地上ではあたふたとしたペンギンが水中では自在に泳ぎ回っている。いいえ飛び回っている。
 ペンギンは大空を捨てて海という新しい空を選んだのだ。それはなんていう転換だったのだろう。
「寧ちゃん、再入場できるんですって。外でご飯にしましょう」
 母が立っていた。
「うん」
 母の顔は上気している。告白でもされたのかもしれない。
 後ろでは沢瀉さんが視線に気づいて笑顔を返していた。
「裏手が公園になっているんです。桜がみごろですよ」

 水族館の裏手は広い公園になっていた。
 花見客はほとんどいなかった。桜の木下の一本にレジャーシートを広げ、お弁当を広げた。
「きれいね」
 母はそういうとぼんやりと桜を眺めている。
 桜といっても普通の桜ではなく、しだれ桜や、中には緑色の桜も咲いていた。
 見惚れている母を横目に、私はさっさとお弁当を広げる。
「願わくば 花の下にて春しなむ その如月の 望月の頃」
「西行法師ですね」
「ええ。西行法師の頃、花といえばもう桜でしたから」
「もうお弁当食べよう」
 変な話が始まりそうで私はさっさとお弁当を開いた。
 中には朝つくったおいなりさんが、黒い重箱の中に宝石のように納まっている。
「これはおいしそうだ」
「そうだじゃなくておいしいですよ」
 そういうと沢瀉さんは笑って、そうですねと言い換えた。
 花は桜に青い空、美味しいご飯に、お母さん。
 今日は悪くない日だ。
「あ、飲み物忘れてきちゃった」
 母が声を上げる。
 こうでないと母らしくないけど飲み物ないのはちょっと辛い。
「買ってくるよ」
「ちょっとまってください」
 沢瀉さんは立ち上がるとたちまち見えなくなった。鍛えていると思ったがやっぱり早い。
「お母さん、沢瀉さんに何かいわれたの」
 母は顔を赤くする。
「もう子供は気にすることじゃありません」
「子供だから気にするんだよ」
 少しだけ目を伏せていう。
「そうね。さっき、寧ちゃんが休んでいる時にいわれたの」
 母は黙った。
「どうしたの」
「最後の時は一緒にいますって」
「それで春しなむ?」
「ふふどうかしら。でもあれは辞世の句だからそういう連想かもしれないわ」
 
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2006年10月24日

Dark section5

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 昨日でかけたせいで今日は眠い。
 そのせいで起きればもう日が高い。今日は(というかいつもだけど)別に急いでいないからこのまま眠ってしまってもいい。
 いつもなら起こす母の姿がないのもきっとそのせいだろう。
 電車の中で寝ていたのに帰ってきたら元気になってなにやら夜中までがたがたしていた。
 起きて顔を洗おうと水道を捻るけど水が出てこない。故障だろうか。そう思って調べようとしていると、ドアチャイムが鳴っている。
 玄関にいくと段ボールがたくさん置いてある。その合間をぬって扉を開けると、ぞうのマークが目に入ってきた。
「はい」
 目深に防止をかぶった制服姿の人が立っていた。
「お荷物の引き取りに参りました」
「はあ?」
 怪訝そうな上に目つきが悪くなったのだろう。その人が一歩ひいたのが分かった。
「すいません。到着が遅れて」
 引っ越しセンターの人の後ろに沢瀉さんの顔が見えた。
「どうして?」
 顔も洗ってないしパジャマだし。
「もしかして何も聞いていないですか」
「まだ今日も出かけるんですか?」
 頭に三角巾をつけた母親が現れた。
「寧ちゃんは荷物少ないからだいじょうぶね」
「何が?」
「今日から沢瀉さんの家に住むことになったの」
 笑顔の母。既に決定事項なのだろう。もう騒いでもしょうがない。

 沢瀉さんの家は絵に描いたようなお屋敷だった。
 知っている建物の中ではホワイトハウスに似ている。
 母と私に用意されたのは四間ほどが通しになった一角だった。一間で今まで暮らしていた2LDKのアパートほどの広さがある。
「自分の家だと思ってください」
「はい」
 素直に頷く母。沢瀉さんはそんな母に笑顔を向け、
「じゃあかたづけましょうか」
 部屋の一角には荷物が山になっている。
 母は首を横に振った。
「男の人はこういうことはしなくていいんです。片付けが終わったら声をかけますから」
 沢瀉さんが出ていってから母は私を見た。
「収納とかどうするの。ここには」
 持ってきたカラーボックスとかどう見ても置いたらおかしいことになる。
 ドアがノックされた。
「失礼いたします」
 入ってきたのは一人のメイドだった。
「部屋付きになりました橘花ともうします。橘花とお呼びください」
 渡りに船だった。
「ありがとうございます。服とかどこにおけばいいですか」
「こちらでございます」
 母の問いにメイドはさっさと奥の扉を一つ開けた。ここで十分暮らせそうだった。
「こちらがクローゼットになっております」
「部屋かと思いました」
「うちも、私も最初そう思いました」
 メイドさんと顔をあわせて三人で笑った。
「沢瀉さんってどんな人ですか」
「公平な方ですよ。しもじものものにも気を使ってくださいますし」
「しもじもって。そんな」 
「いえいえ事実でございます。資質に応じて人間には責任が分担されますから。上から下まで適材適所」
「そうかもしれないわ」
 そんなことをいう母に少し驚いた。
「どうしたの」
「そんなこというなんて。平等はとにかく善って感じだと思ってた」
「もう私だってそういうの考えることだってあります」
 母は頬を膨らませた。

 虫の音が大きく聞こえた。
 引っ越しに始まり、知らない空気、慣れない作法。ぞれで随分疲れたからすぐに寝むれたのに、唐突に目をさましてしまった。
 虫の声だと思ったけど、耳を塞いでも聞こえるから、これは私の耳鳴りなんだ。
 昔はこの耳鳴りの音が嫌いで、夜も眠れなかった。いつの間に気にしなくなったんだろう。
 背中がじんわり温かい。母がいつの間にか私の後ろに眠っていた。
 私は母を抱きしめた。
 温かく柔らかい母の感触は私を安心させてくれる。
「寧ちゃんが嫌ならいいのよ」
「そんなことないよ。沢瀉さんはいい人そうだし。お父さんに似ているし」
 お父さんは随分子供の頃に亡くなった。おぼえているのは大きな背中。私が最初におぼえた言葉について責任を感じたこと。自分を鍛えていたこと。そんなところだ。
「仁吾さんには似てないわ」
「そうなんだ。珍しいね」
「仁吾さんはあれこれ考える時間はなかった。もう、気づけば波にさらわれるみたいに」
「沢瀉さんは」
「沢瀉さんは霧雨かしら」
「どういう感じ」
 母は笑った。
 答えも聞きたかったけど、耳鳴りは納まっていた。眠気がまぶたを重くしている。
「少し濡れるくらいだと思っていると家に帰るまでは」
 母の声が小さくなり消えた。
 それに被るように犬の鳴き声がした。
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2006年10月28日

Dark section6

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屋敷は広い。
 本当に家の中に標識や、番地をふった方がいい。
 そう、翌朝、私は家の中で道に迷っていた。なんて間抜け。家の中で迷うなんて。
 立ち止まって窓から外を見た。見たことがない庭がある。これだけ広い家なんだから見たことない庭くらいあってもおかしくはないのだが、いったい屋敷のどこにいるのか不思議になった。
 家で遭難。そういうことを考えていると、
「どうしました」
 沢瀉さんだった。
「ああ。庭を見てました」
 迷っていますというと子供みたいで嫌だった。というか素直に言わないのがまた子供なのかもしれないけど。
「今、ゆりねさんのところにいくのですがご一緒しませんか。橘花さんが紅茶を用意してくれていますから」
「そうですね」
 えらそうにいって私はついていった。
 家が広いだけに沈黙も長くなる。それに耐え切れなくなって口を開いた。
「沢瀉さんは私が病みっ子ってわかってますか?」
 嫌ないい方だけど現状を理解しておいてもらった方がいいだろう。
「病気ですか? その闇のようなものが見えるのは知っています」
「ああ。それもですけど学校というかほとんど引きこもりなことです」
「ああ。そういうことになっているんですね」
 沢瀉さんは頷いた。
 そういうこと?。耳鳴りで始まって、しみや、穴。そういう風に見える幻。そのせいで外に出るのが怖い。
「設定としては確かに自然ですね。構築の未熟さも家から出なければそれほど見えるわけではないですから」
「設定? 私別に母と沢瀉さんを邪魔しようととかで困らしたいんじゃ」
「ええ、学校のことは、気にしないでください。ここには図書室もありますし、希望でしたら家庭教師でも在宅学習でも構いませんよ。橘花さんは人に教えるのが得意ですしね。ああ、ここです」
 ティールームの中で母は橘花さんが顔をあわせている。
「昨日は追い返せたんですけど。日増しに増えてまして。早めに移っていただいて正解でした。ここは実際の持ち物で構築してありますから堅牢さは随分上です。まあ、それでもまあ寧さまが気づいてくれるの待ちですけどね」
「橘花さん」
 沢瀉さんの声に橘花さんは驚いた猫のように背中を伸ばした。
「どうしてこちらに」
「ちょっといろいろありまして。でもそう驚かれると」
「ゲームの話です」
 橘花さんは空中に星を描いた。その星の中に屋敷が見える。屋敷の回りにはいくつもの光が見えた。
「屋敷が本丸です」
 あまりゲームは好きじゃない。
「ここは孤島のようなもので周りには危険な魚がたくさん。それを撃退するにはどうするかといと」
「紅茶をもらえるかな」
 橘花さんの前で光が消えた。目の輝きもなくなった。きっと何かネタが仕込まれていたんだろう。
 沢瀉さんは椅子をひいて、どうぞと小さくいった。
 坐ると母に急に頭をなぜられた。
「なに」
「なんとなく」
 沢瀉さんを見ると唇の端が笑っている。
「夢のような景色です」
「そうなんですか」
 夢のない夢もあったものだ。
 この屋敷はともかくこうして頭をなぜてもらうなんて当たり前のことなのに。
 どうしてこんなにあり得ない夢のように思えるのだろう。沢瀉さんは。そして私も。

 犬の鳴き声がした。
 目を開けると、細い月の明かりが部屋に差し込んでいる。
 起きあがって隣のベットを見ると母の姿はない。
 ここは母を愛する人の家なのだ。そう考えれば分かる。
 母は私より沢瀉さんを好きになるんだろうか。それとも違う種類の愛情なのだろうか。
 目を閉じる。
 犬の鳴き声がうるさい。
 気になって起きあがった。
 窓際から下を見ればそこは孤島だった。
 そんなわけはなかった。闇の中でこの屋敷だけが回りに比べて明るいせいでそう思えるだけだ。
 よく見れば闇の中でちらちらと白い光が見えている。その光が時折増えそして減り、犬の鳴き声がする。
 白い光がこちらに気づいたように思えた。それは舞い上がる白い翼。
 天使だ。
 連想がつながった瞬間、手に鳥肌が立った。それはすぐに消えずに全身を覆っていった。
 胸を押さえるような不快感が走ってきた。これはなんなんだろう。
 天使が怖い。どうしてなんだ。
 考え続けていると周りで穴が開いていくのがわかった。それが回りを包み最後は私も取り込むのだ。
「そんなに震えて」
 温かい感触。抱きしめられるありがたさ。振り返れば母の顔があった。
「ああ」
 穴は消えた。自分の中から消えていったものからぬくもりは忍びこんできて、涙に変わって頬を伝わっていく。
「どうしたの」
「外を見ていたら天使がいて」
 外を見るとそこには街の明かりが遠くまで続いていた。犬の鳴き声もしない。
「なんでもない。寝る」
「そうね。朝までもうしばらくあるし」
 私は自分のベットに戻った。
 母がベットに潜り込んでくる。
 今日はありがたくのんびりと寝ることにしよう。
 そう思いながら眠れない。本当の事が私の中で息づいていた。
 あれは錯覚ではなかった。天使。ああでもしみも実在しないのに私はそれを見る。
 あの存在はいったい何なのだろう。もともと神の使いであり、神聖な存在。憎むべきものではないそれはいったい何者なのか。
「天使はね、何も考えてはいないの。罪を持たないあの魂は無垢である故に非道に思える」
 母が私を見ていた。
「だからどんなにひどい事をしても天使には悪意はないの。ただ、その状況で、『  』が望む事をするだけ」
「『  』?」
「神ともいうけど、天使たちの中に組み込まれた始まりの意思。人間でいうなら深層意識といえばいいのかしら」
 無意識はあのしみとか闇とか穴。私にとってはそれ。
「私はどうしたらいいの」
 あの光を恐れずに済む事があるのだろうか。私はしみも怖いし、光も怖い。いったいどこでいきればいいんだろう。
「恐れず、自分の心を裏切らない」
 母が私を引き寄せた。暖かな感触が伝わってくる。
「寧ちゃん、あなたの心はとても脆いけどとても強いの」
 力強くでも優しい母の腕。それに比べて私はなんて弱いんだろう。
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2006年10月31日

Dark section 7

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「ちょっと水飲んでくる」 
 のどが乾いていて気分が悪い。テーブルに置かれた水差しの水を飲んでいると、乾きがなくならないうちになくなってしまった。
 立ち上がって部屋の外に出た。
 廊下は静まり返っている。自分の足音に追われるように早足で歩いた。
 台所にいって何か飲み物をもらおう。
 曖昧な記憶を辿りに、適当に進む。迷うかと思ったがあっさり台所に着いた。
「すいません」
 当たり前だけど答えはない。
 冷蔵庫の中のものに黙って手をつけるのは悪い気がした。ちょっと行儀が悪いと思いながら水道から直に水を飲んだ。
 さっきまでしていた犬の鳴き声がしないことに気づいた。
静かになったのならそっちの方がいい。
「どうしましたか?」
 振り返ると沢瀉さんが立っていた。手には小さな薔薇の絵の入った酒瓶がある。
「失礼、寝酒をしていてね。少し水がほしくなった」
 あのサイズはきっと自分用であおるからあのサイズなんだろう。お父さんをもそうだった。
 バーボンのサイズは2つあって、フルボトルとハーフボトル。大きいのはお客さんが来たときようだった。
「フォアローゼスですね」
「ああ。詳しいね」
「そう思ってくださるんなら、バーボンは割らない方がいいですよ。ソーダも水も氷も邪道です」
「随分うるさいんだね」
 沢瀉さんは苦笑した。
「おいしいものをまずくして飲むのはよくないですから」
 おいしいものは生のままでというのが基本だ。
「お酒は好きですか?」
「嗜む程度です」
 とはいうもののワインやシャンペンを食事前に出されたら飲むくらいだ。
「ではどうぞというわけにはいきませんね。アルコールは成長期の体に悪い」
 今飲めばよく寝れそうだったからちょっとほしかっただけに残念だ。
「ほしくなんかないですよ。寝酒なんて」
 沢瀉さんは頷いた。
「それはいいことだ。寝酒になれると今度はないと寝れなくなる。最後は悪循環です」
 話しているうちに少し気がまぎれてきた。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい。早く起きてくださいね」
「はい」
 うう、もうすっかり朝寝好きだと思われている。
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2006年11月05日

After babel-仮想の未来 更新

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それいけノノ先生の3教え子達

http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/nono2.htm

 をUP

 あと、http://fs.kun.jp/のサイト、見れない人は飛ぶようにしました。うまくいっているといいな。

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2006年11月12日

Dark section8

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 目を開けるとまだ夜だった。
 もしかして昼間ぐっすり寝込んでいたのだろうか。
 起き上がってみると、母はさっきと変わらない。
 よかったそういうわけではないみたいだ。
 外を見ると橘花さんがこんな時間だというのにイーゼルをたてて、置かれたキャンバスを前に楽しそうに絵筆を振るっている。
 無心というか、子供がめちゃくちゃに遊んでいるように見えるけど、絵筆が描かれるたびに、そこには何かが描かれている。
「羽根?」
 キャンパスの隅に落ちた翼が見えている。描かれているのは雪のように降っていくあまたの翼。
 気になって外に出た。外に出て、橘花さんの後ろに立つけど、まったくこちらにきづかない。
「橘花さん」
 橘花さんは雷にうたれたように震えた。
「おじょうさま」
 橘花さんは油が切れた機械のように振り返った。ぎぎぎっとした擬音を立てそうだ。
 何かいけないところを見つけたかもしれない。
「絵を描いているんですか?」
「はいそうです」
 その声も棒読みだ。橘花さんはキャンバスにさっさとおおいをかけてしまう。
「こんな時間に絵を描くの
「ええ、昼は忙しいですし、それにうち眠らなくてもいいので」
「すごいけど、すごいのは昼のあれもすごかった」
 昼の見たことのないあの映像を思い出した。
「ほんの手妻で。寧さんなら簡単にできますよ」
「本当に何か仕掛けがあるの」
「マギといいます。まあ簡単にいえば魔法です」
「魔法、マギ」
 何か引っかかっている。
「どうされました?」
「少しのどが乾いて」
「何か用意しましょうか」
「うん」
 橘花さんは台所の方に向かっていく。
「そうですか」
 待っている間、こっそりキャンバスに近づいた。
 風が吹いてきた。それは絵の中から空気が流れてくる。澄んだ空気は高原の朝を思い出させた。
「離れて?」
 のんきにいうと橘花さんの顔色は変わっていた。
「入って早く」
「どうしたんですか」
 キャンバスの中で何かが動いていた。
 布がまくれ上がった。多くの羽毛がキャンバスには敷き詰められていた。その羽の合間から瞳が見えた。
「なにあれ」
 瞳は一斉にこっちを見つめた。
 私はこれをしっている。
「時間切れ。もう」
 空を光が包んだ。絹のような光を空が満ち、どこかで歌が聞こえた。
 美しい歌声。
「中に」
 これを知っている私は私は。
 前もこんなことがあった。誰かが私をかばって。
 男の子の顔が浮かんだ。
「おじょうさま」
 眼前に翼持つものがいた。光輪を王冠のように頭上に抱えたその姿。その手にある槍が突き出された。
「伏せろ」
 耳元で大きな音がした。天使は吹き飛ばされたがすぐに立ち上がる。
 沢瀉さんが手に大きな銃を持って立っていた。
「屋敷の中に入るんだ」
「侵食が早くなってるやん。計算違うで沢瀉さん」
 橘花さんの口調は変わっていた。
「目覚めにあわせて世界が開いてきている。そこに気付かれたのだろう」
「上から下は目立たんだけど上から下は目立つからしゃあない」
 橘花さんはそういうと笑った。
「まあ、始まった以上はさっさと片付けよう」
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2006年11月14日

Dark section9

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「おかあさん」
 母はまだ寝ていそうな気がして部屋に戻った。基本的に何があっても起きないタイプなのだ。
 予想に反して母はおきていた。ベットの上に腰かけて外を見ていた。窓の向こうでは何か光るものが落ちてきている。
「寧ちゃん」
 母の顔が何か悲しそうだった。いや、きっとあの窓の向こうの光の加減のせいだ。
 窓が大きく音を立てて内側に向かって開いた。
 光があった。いや、光は天使だった。大きな翼を持っていて、その顔は眩くてよくは見えない。
 天使は槍を放っている。その槍は光の塊となってまっすぐに私に向かってくる。
 それは随分と遅くて十分交わせるはずだった。いや交わせない。だって、こうして思っているのは意識だけ。肉体は追いついていない。
 光が翳った。
 生暖かいものが私の体をぬらす。
「おかあさん」
 目の前で母の胸を槍が突き出している。槍が消え去り、母は倒れていく。倒れる母の体を抱きしめた。ぬくもりに安堵し、鼓動もない事に恐怖する。
 天使が再び槍を放ろうと身構えいているのが見えた。でも、そんなことはどうでもよくて
「おかあさんおかあさん」
 お母さんの腕が優しく強く私を抱きしめる。鼓動は無いのに。ああ、当たり前だ。だってお母さんは。
 天使は今度は確実にしとめようというのか槍を持って近づいてくる。
 天使の体に何かが打ち込まれるのが見えた。天使は何か重いものと化して地面に転がる。
 沢瀉さんが側に立っていた。
「おかあさんが」
 沢瀉さんがおかあさんに顔を寄せる。おかあさんは何かいおうとしていた。
「約束を守ってくれてありがとう沢瀉さん。寧をお願いします」
 沢瀉さんは頷くと母を支えた。
「寧ちゃん」
 母の姿がかすんでくる。それなのに母は手を伸ばして私を抱きしめる。
「もう大人ね」
 母は小さく笑った。
「寧ちゃん、あなたを抱きしめているこの腕を忘れないで。あなたも愛している人を助けて、こうして抱きしめる日がきっとくる」
 母の姿が消えた。そこには最初からいなかったみたいだ。
 いや本当にいなかったのだ。
 この世界も母も全ては私が見ているだけのものだ。
 だって私もマギ使いなのだから。
 世界を自在に改変し、万物を支配する。神の模倣。だからこそ理解してしまえば夢は終わる。
 ここは私が望んだ箱庭。どこかの暗在系の中に存在する存在しない世界。
 闇が私の周りに膨れ上がった。それは闇ではない。私が偽装しきれなかった世界の隙間。あの向こうに本当の世界がある。
 世界が消えていく。でも沢瀉さんと橘花さんの姿は消えない。
「私の心の生み出したものじゃないのね?」
 沢瀉さんは首を横に振った。
「この闇に引き込まれてしまっても構わない。起きれば辛い世界です」
 今度は逃げてはいけない。
 自分は何なのか。思い出せばいいだけだ。


 私は目を開けた。
 体を起こそうとしただけで痛い。長い間同じ姿勢でいたせいだろう。
 そこは豪華なベットの上で夢の続きのようだ。隣を見てもベットはなく部屋の中には自分一人。
 横を見ると点滴のチューブが見えている。
 頭にはカバーのようなものがつけられ、そこからも何本もの線が見えている。
 今まで見ていたのはありえざる日常。母のぬくもりは覚えているのに。
「おはようございます」
 沢瀉さんだった。
「お待ちしていました」
「記憶はすっかり連動されましたか」
 私は頷いた。
 私の名前は寧。父山海仁吾は仕事の中で殉職し、母百合涅はそれに耐え切れずこの世から消えた。私は母方の姓を名乗り、今は清原寧だ。
 そして沢瀉さんは母の恋人なんかじゃない。祖父の秘書だった人だ。
「大丈夫か寧ちゃん?」
 高校の制服姿は橘花さんだ。メイドなんかじゃない。彼女は私の魔法の、マギの、世界を自分の為に築くための先生だ。
「潮流にのまれて、いえひたっていたんですね」
「ほんの三日ほどです」
 三日。あの事件からもう三日を無為に過ごしたのだ私は。
「間に合いますか」
 沢瀉さんは無言のままで窓に近づいた。カーテンが一気に引かれた。
 遠くに折れたビルが見えた。それはあの日の戦いを思い出させた。
まだあの下に六星はいるのだろうか。

 いこう。
 母の言葉を自分の心を信じて。
 
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2006年11月18日

fate of the fate 1 はじまりの声

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「陛下は、『騎士の王』との一騎打ちに敗れ、討ち死にされたよしにございます」
 最後の希望であった帝王アデライードの消息が知れた時、城の中の士気は下るのをおさえることはできなかった。
 既に利に聡いものは抜け出し、日和見のものも去った。残るのは大陸最強と呼ばれたリヴィスタックに殉じようというものだけだ。
 城は炎の中で沈んでいく。大陸最大の国は蹂躙されていた。
 城を守るべき兵の多くは昨日まで肩を並べ戦ったものたちの騙まし討ちにあい、外からは多くも怪物が、冷血の種族に率いられ、攻め込んでくる。
「全ては計略か」
 祖父のイテム・クラウンの顔に浮かぶ表情にフェイトはただ手を握り締めるだけだった。
 自分は魔術師としてはまだ未熟。祖父が遠見の鏡を見ながら呟くのを側で聞いているだけだった。
 遠見の鏡には冷血の種族と呼ばれるウロコを持った亜人の姿が無数あった。それらはフェイトの知る城の中を好き勝手暴れている。時折、兵との戦いもあるが、それはほとんど一瞬で終わった。
「ナホカラの民か」
 祖父は鏡を見るのを止め、フェイトの顔を見た。
「今からお前に飛翔の呪文を施す。それを使い、城を逃れ、時期を待つのだ」
「分かりました」
 そう平静に答えたつもりなのに、感情は裏切って頬を涙が伝わる。祖父は微笑した。
「泣くことはない。私もむざむざやられるつもりはない。城のみんなを批難させたら、あとを追う」
「分かりました。先にいっております」
「ああ、これをもっていってくれ」
 祖父が差し出したのは一冊の本だった。薄いものの、漆黒の皮で装丁された本は温もりを持っている。
「これは?」
 祖父は呪文を唱えた。フェイトの体を詰めたい感触が包んだと思うと体は宙に浮き上がった。
「行けフェイト」

fate of the fate



腹が鳴った。
 目の前のただの常緑樹の緑。とても食べる気がしないそれに手を伸ばした。
 体は回復するために食べ物をほしがっている。だから食べ物が手に入るところまでは歩き続けなくてはいけない。
「昨日よりはずっといいはずだ」
 昨日はまだ焼けた背中が痛かったが今は痛くはない。ドラゴンのブレス。灼熱の息吹を受けて命があるのがもともと幸いなのだ。
 気付いてはいないがフェイト・クラウンの体はもう限界だった。
 死を前にした慈悲。せめて安らかな中での死出を体が欲しているのをフェイトは気づかなかった。
 まだ十にもならない頭は、知識の面では大人顔負けといっても、自然の狡猾さを見透かすものではなかった。
 数歩進んだところでフェイトは木に体を預けた。
 少しだけ休もうと思ったが、力が入らず座り込んだ。
 疲れた。
 それだけが頭に浮かんだ。もうどうしていいかもわからなかった。
 祖父にかけられた飛翔の呪文で、リヴィスタックの崩れ行く城からフェイトは逃げた。
魔法の続く限り飛び続ければ、安全な辺境に逃げれるはずだった。だが、この森を飛んでいるうちに魔法はその力を失い地面に叩きつけられた。それでもいくぶんか枝に引っかかり命はあったのだが。
 学者らしい落ち着いた風貌、魔術師であった祖父の顔だ。
自分と同じまなざしをした顔、淡い女性の笑顔。
 おじいちゃん、おとうさん、おかあさん。死と向かい合った人の順に顔が思い出された。
 自分もその中に引き込まれ、いずれが大きな流れの中で消えていく。
もう楽になるならそれでも。
 頬が痛い。それでも面倒くさくなっていると、続けて何度も殴られた。
「なんだよ」
 安らぎが消え、体を痛みが覆ってきた。
「ねえ、ここで死なれると迷惑なんだけど」
 安らかな気分をどうしようもなく打ち壊す声。
「うるさい」
「ねえ起きろってば」
 怒鳴った声が限界だったらしい。フェイトは答える事もできなかった。そのままゆすられ振られる。
「勝手に助けちゃうよ」
 うるささから逃れるためにうなずいた。
 「レテの銀の手にかけて癒しを」
 そんな声が聞こえると暖かな感触が顔を伝わった。一斉に自然の罠は霧散した。
 腹はもう何日も食べていないせいで腹ぺこだし、体も無理して歩き続けたせいでところどころが痛い。それにもう眠くてしょうがない。体が休みをほしがっている。先程までの安らかさではなく、鷹が獲物を奪うような圧倒的な早さだ。
「まあさっき許可はとったしいいか」
 そんな声が聞こえたのが最後だった
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2006年11月21日

fate of the fate2  そして後悔

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 空があった。
 青い澄んだそれは美しいというよりも落ちてきそうで恐ろしい。
 空ではなかった。人の瞳だった。
「起きた」
 フェイトを見つめているのは、碧眼の少女だった。腰の辺りまである長い金髪が揺れて見えた。その体を包む白い衣は古式の神聖王朝時代のもので、歴史の本の中で見たのを思い出した。
「あの」
 起き上がろうと思ったところで、手足があがらない。
「傷は治っているはずだけど、体はついっていってないかも。人が癒される速度は、人が無理をしないようになっているものなの。でも神の技はそれを一時だけ早めるから。ゆっくりと動かしてみて」
 フェイトは手を上げようとしたが、まだそれは動かない。だが、少しだけ苦痛があったと思う手手があがっていく。そのまま背中に触れた。昨日まであった火傷は確かに消えている。
「ここはどこですか?」
「レテの神殿」
 しらない女神だった。
 魔術を嗜むものとして、敵対し、あるいは朋友となる神の名は小さいものも含めて大よそしっているはずだ。この地域でだけ信仰されている地方の神だろうか。目の前の少女はそこの神官あるいは巫女だろう。とするとあまりうかつなことは・・・。
「しらなくても怒らないよ」
 顔に出ていたのか少女は小さく笑った。
「神さまは崇められるばかりじゃないの。レテの望みは忘れられること」
「それでしらないのか」
 教義として秘儀であるのならそれも分かる。
「どうしてこんなところにきたの。ここには何もないのに」
「この先に行こうと思ってたんだ」
「歩いて?」
「まあね」
 神殿によっては魔術を敵視している場合もある。そういうことを考えてフェイトはいった。疑われるだろうと思ったが少女はうなずいた。
「そういうことならのんびりしていけば」
「それは」
 フェイトは考えた。どちらにせよもうリヴィスタックはない。時期を待てと祖父はいっていた。それなら今は休息をするときなのかもしれない。祖父の魔道書を習得できれば今よりも確実に力を得れる。
「ああ、神殿のネズミは痩せているっていうけど、ここはだいじょう」
 少女は体をよけた。背後には多くの食べ物が積んである。ツバを飲み込んでいた。
「どうぞ」
 少女の差し出した食事をフェイトは食べ始めた。
 果物のもたらすあまみと水分が、体に満ちていくとを頭がしっかりしてくる。塩気が欲しくなったがあるのは果物ばかりだった。
「肉はないの。いただいても日もちしないし」
「これでいい」
「いい子ね」
 少女は大人びた顔で笑った。
「子供扱いしないでほしい」
「じゃあ、あなたに何ができるの。背だって小さいし、腕もひょろひょろ」
「ちょっと見ててよ」
 フェイトはコインを取り出した。この程度の魔術なら、意思の力だけで十分だ。そのフェイトの考えに従うようにコインは指の間を小さな動物のように走り回った。
 正当な魔術にも含まれない簡単な小手先の技だ。それでもコインが生きているように動くのはフェイトの才能だ。
 少女の顔が笑顔に変わった。
「すごいすごい」
 フェイトはさっさとコインを手に戻した。
「あなた魔法使いなのね」
「そうだよ」
 フェイトは胸を張った。
 そして後悔した。
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2006年11月28日

After babel更新

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 After babel、一部書き直し

http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/f.htm
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2006年12月02日

fate of the fate4 手のかかるサル

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目の前のひたすら続く、樹のカーテンの中を走っていた。月明かりも、木々の下までは届かず暗い中だ。
走る速度は遅くなり、歩くことになり、最後は立ち止まっていた。
「くそ」
 花を涸らす少女は恐ろしかった。自分の歌を蔑む少女は悲しかった。
『見るものがそれを望むだけ』
 自分が彼女に求めていたものが違っていただけなのだ。そもそも求める相手ではない。彼女に助けられて身を隠しているだけだ。
夜気と汗で湿った服が冷えてみっともない気持をさらに増した。
 数日前、森でさまよった事が思い出された。
 戻ろう。そう思って振り替えると森は、闇を切り抜いたように、構えて見えた。
「あれ」
 森は深い。自分が今どこにいるか分からなくなっている。戻ろうにも何の目標もなく来てしまった。
 今、魔力は全快しているから、夜をすごす程度はどうにかなるように思えた。姿隠しと、結界を使えば、朝まではどうにかなるはずだ。
 フェイトは結界の呪文を唱えた。野性の生き物がよりつかなくなる程度だが、それでも一時、何の警戒もしなくてよくなるはずだ。
 木の横で座り込んでいると、本当なら昨日も一昨日もこうしていたかもしれないと思い出す。でも、あの時なら、きっと魔法を使うこともできなかったはずだ。たかが数日は思えないほどにフェイトの体は回復していた。
 大きく風がふいた。
 木の上で音がした。そう思うと、フェイトの眼前に逆さになった女が顔を出す。
 耳の長い黒髪黒目のエルフの女が木にぶら下がって、フェイトの貌を見ている。
「なんなんだ」
「サルだな?」
 エルフの女は身軽に体をひねるとフェイトの前に立った。
 目立たない緑の草木染の服をきていて、森の住人というのが強く感じられた。
 こんな目の前に来られるまで何も気づかずぼうっとしていたと思うと腹が立つ。
「サルはどっちだ」
 フェイトはそういうとエルフをにらみつけた。
「そうして森の中で強気でいるとはますますサルだな。知恵ある人ならこうして森の中で我々と向かい合い強気でいられることはない」
 害意あるエルフに森の中でであったら、ほとんど生きて帰れないといわれている。それは彼らが弓の名手でもあるが、森に熟知しているからだ。
「サル呼ばわりされて笑ってられるよりはましだ」
「まあ。いい。お前を探しておられるぞ。あの悲痛な声を聞いて、なんら感じないとはいわせない」
 フェイトの耳には聞こえないが、エルフの耳には何か聞こえるのだろう。
「僕をさがしているのか」
「急に沈んだ顔になったな」
 揶揄してエルフはいう。
「うるさい」
 エルフの目がすっと細まる。冷ややかなそれを前に、フェイトは背中が冷えるのを感じた。逃げようと思ったが足が動かない。
「慰めるなら生かしておくが、そうでなければ」
「やるのか」
 視界が反転した。エルフが自分の体を投げ飛ばしたのか、一瞬で地面に叩きつけられのが分かった。叩き付けられた痛みはないが首には冷ややかな刃の感触があった。
「お前はその程度だ」
 そのままフェイトは肩に抱え上げられた。
「口を開くなよ」
 
 舌がいたかった。途中何度も話そうとして、かなりの速さで走っているせいで舌を噛んだ。
 エルフは一才フェイトの話を聞く気は無いらしかった。
 景色はしっているものに変わった。、
 どんな風に会えばいいのか悩んでいたフェイトは戻った瞬間馬鹿らしくなった。
 少女は神殿の前で立ってフェイトを見ていた。その顔が、笑みに変わる。
 もっともフェイトの体がとりたての獲物のように担がれているからそのせいかもしれなかったが。
「手のかかるサルだな」
 エルフはいうとフェイトを少女の前に放った。
「ティ、ごめんなさい」
 少女はいうと地面に転がったままのフェイトは怒鳴った。
「認めるな。僕はサルじゃない」
「じゃあ自力で歩け」
「わかってるよ」
 フェイトは立ち上がった。
「だいじょうぶ」
 少女の手がフェイトの肩に触れた。痛みは一瞬で消え去る。
「僕が悪かった。でも謝らないぞ」
「気にしてないわ」
 少女はいうと手を差し出した。
「村の人間には見つかっていない。だが、サルを飼った事にしているなら気をつけたほうがいい」
「どういうことだよ」
「ここは男は本来入ってはいけないのさ」
 ティはいった。
「それでサルかよ」
 毎日出てきた果物も人間ではなく動物用なら分かる。
「なんだ女の装いをするほうがよかったか」
 少女はその発案に目を輝かせている。
「そんなのだめだ」
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2006年12月05日

fate of the fate5 新しい自分

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 村は思ったよりも小さかった。30人いるかいないかといったところだろうか。
 落ちついて見れば、村や神殿は周りを深い森が囲み、その周りをフェイトがきたリヴィスタックの側を除けば、高い山嶺が聳えている。
 そんな村の中にある店なのだから、当然小さい。申し訳程度に『ギランの店』とかかれている木の看板が無ければ、ここが店なのかどうか悩むところだ。
本当にいくのか?
 少女がきていたのと同じ服のせいで、風が入ってきてすうすうする足元を感じながら、フェイトは店に入った。
 小さな村にはよくあるような、何の店ともつかない品揃えだった。ロープや農具といったものがあると思えばその横に、紙で包まれた石けん。鳥かごの中には、なぜか蜜蝋が塊のまま入っている。
「すいません神殿からきました」
 店主らしい老婆は笑顔で頷いた。老婆の恰好の方が余程自分のきている服より上等に思えた。
「こんにちわ」
「新しい侍女さんですか」
 フェイトはいろいろ考えながら曖昧に笑みを浮かべた。
「姫さまはお元気ですかの」
「ええ、今日もお元気です」
 女装した自分を見て、袖で貌を覆ったまま、無言と化していた。外にいく事を告げて神殿から出ると壁を叩く音がしていたからよほどおもしろかったのだろう。
「それはよかった。昔、わたしも神殿に務めていた事があってね。あの頃は楽しかった。ああ、しっかりおやんなさい。神殿に使えているから、しっかりいい含められていると思うけど、あの方はね寂しい方だから」
 昨夜の様子が思い出された。彼女をどうにかしてあげなくてはいけない。
「わかりました」
「じゃあ、これは頼まれていた布ね。一応確かめておいてね。ああ、広げるとしまうのがむずかしいから一度かえして貰ってもいいよ」
 フェイトは布を広げた。それは絹で作られた布で、触って見るとすいついてくるようななめらかな感触と、柔らかな光沢があった。
「うわあ」
「いい布でしょ」
「ええ」
 その布の質のよさを感じると、自分がきている服や、少女の服はどうしてこんなに質素なのだろう。
「姫さまはいつもあのような恰好なのですか」
「そうね。いつもあの質素な姿で。もっと娘らしい恰好をすればいいのに」
「こんなにきれいな布なのに」
 フェイトは布を手でもちながら元のように器用におりたたんだ。
「あら、あんた布の扱いがうまいね。どこかであつかった事があるのかい」
「家で」
 多くの収蔵品が家にはあり、そこで祖父の手伝いをするためにいろいろと細かなものは扱ったから得意な方だった。
「それなら針子の方はどうなの。あんたが姫さまに何か作ってあげたら」
「針子はちょっとできないんです。では失礼します」
 このまま話しているとボロが出そうなので、フェイトは頷くと渡された袋を持って外に出る。
 針子は無理でもちょっとした飾りくらいは作れそうに思えた。
 なにがいいだろう。簡単に作れそうなものを考え始めた。
 小さ目の髪飾くらいなら作れるような気がした。花を作って飾れば。その花は昨夜の生気なく消えていった花を思い出した。
 村を抜け、神殿への道を歩いていた。
 森に入ったところで、不意に手を掴まれた。
 手は男と思われる指の腹にまで筋肉のついた厚い掌だった。
 そして火と鋼の戦の臭い。
 戦士だ。
 自分を追ってきたのか。
 その恐怖の中で、フェイトは木陰に引きずり込まれた。
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2006年12月12日

fate of the fate6 手紙の行方

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「怖い思いをさせて悪い。こっちを見ないでくれるか」
 木の陰になった暗がりから声がした。思ったよりも若い声だった。しかし、右手を掴まれているので、逃げることはできない。それ以上に恐ろしく、素直にしたがって視線を足元に向けた。
「賢いな。騒がなければ悪いようにはしない。お前、新しく入ったという召使だな」
 フェイトは頷いた。行動を起こすには今の自分は恐れを抱きすぎている。落ち着いて機会を待たなくてはならない。
「あそこに女神はいるのか?」
 フェイトは首をかしげた。それは心の底からの疑問だったので問題はなかった。
「しらないか。金髪碧眼の娘だ。夜になると歌っているあの」
 それは少女を指しているのだろう。
「しっています。お姫さまです」
「できれば彼女に連絡がしたい。手紙を頼めないだろうか」
 手紙一枚でもいろいろなことができるのは知っていた。
 呪詛をこめる事も、心を操ることも。それでもフェイトは頷いた。まずはこの場を逃れることが大切な気がした。
「悪いな」
 フェイトは体を引き寄せられた。暗がりの中、姿を見せるのは少年の面影を残す男だった。流しの戦士が愛用するような革に鋼を貼り付けた胸甲を身につけ、左手で鞘に入った両手持ちの剣を持っている。
 整った顔をしているものの見かけは普通だった。戦士の中には人は思えないようなたくましい体を持っているものもいて、恐ろしいものもいる。その点ではむしろ目の前の戦士は均整のとれた体つきをしていて、恐怖を覚える要素はない。それでも怖い。
 男はフェイトから手を離すと、懐から手紙を取り出した。
「これを頼む」
 あまり上質とは思えない手漉きの紙をまいたものだった。普通こうしたやり取りの際に用いられるのは羊皮紙の類だから、あまり作法を知らない人間なのかもしれない。
「待ちなさい」
 フィリノス神の神官服を身に着けた小柄な男だった。優しい顔をしていたが、目がまったく笑っていない。少女と同じ金髪碧眼というのにどうしてこうも印象は違うのだろう。
「どうした」
「誓約をさせましょう。裏切ったらわかるように」
「そこまですることはないだろう」
「あなたは少しばかり人を信じすぎですね。この者が、この手紙を届けなければそれだけでここにきた意味がなくなるというのに」
「俺はこいつを信じることにする」
「まったく女に甘いですね。あのエルフの癖が移りましたか」
 聞こえなかったふりをしてさっさと駆けだした。


 神殿に戻って、すぐに自分の部屋に向かった。
 手紙に思っていたような仕掛けが施されていては危ない。魔力を感知するのは不得手な方ではない。
 手を手紙にあて、呪文を唱える。
 視界の中でうっすら光は放てば魔術が施されている。もっとも、フェイトの持つ魔術書がそうであるように、欺瞞の魔術も存在する。念には念を入れて、何度か試してみても、いかなる魔力の反応もなかった。
「渡そうか」
 その上で相談する相手は限られていた。
 少女かエルフどちらかだ。
 手紙を懐に入れたまま、外に出る。エルフがもしいれば相談することにしよう。いなければ残念だがしょうがない。
 少女がいそうなのは庭だったからそちらに向かう。
「スカートにあってるな」
 揶揄を隠さずエルフはいった。
「どうもありがとう」
 考え事をしていたせいで、最高の笑顔が浮かんだらしく、からかう気がなくなったのかエルフは黙った。
「そこまで穏便に話を進めたいのか。はは〜ん、喧嘩でもして仲介か」
 何か勘違いしてエルフは笑った。
「違うよ。今日、村にいったら帰りに手紙を渡されて」
「姫さまにか。村に恋文を出そうという気概あるものがいるとは意外だな。どんな相手だ?」
「戦士だった。たぶん、すごく強い」
 エルフの表情が固くなる。
「恋文ではないな」
「神官らしい男が誓約の呪いを使おうとしていた。だから、高位の神官だと思う。自分に対する誓約は簡単にできるけど、他人に強制できるのは位階の高いものだけなんだ」
「冒険者だとすればかなり熟練しているな」
「そう思う」
 答えながらも思い出すと、怖かったのはわかっている。祖父の元には多くの冒険者が訪れた。でも、あんなに怖かったのは初めてだ。どうしてだろう。
「渡そう」
「え?」
「だってこれ」
 エルフは手紙を持ったまま向かっていく。
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2006年12月17日

fate of the fate7 御子戦争

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 少女は中庭で花を見ていた。それはぼんやりしているだけだというのに、おかしがたいもののように思えた。
一枚の絵。溶け込んだそれは見ていると、どこか心が休まった。
「姫」
そんなフェイトの所感を無視してエルフは口を開いた。
「二人して、また何かしたの?」
「そんなことないです」
 フェイトは少しばかり丁寧にいった。
「これをサルから」
「サルじゃない」
「ああ、今はお嬢さんだったな。すいませんお嬢さんからの手紙です」
 エルフは笑って、少女に手紙を差し出した。
「こっそりもっていたんで没収してきました。どうも、姫に渡せないようでしたので」
「え、」
 少女は手紙を受け取ると、困ったようにフェイトを見てくる。その頬は少し赤い。
「本人の前でいいの?」
「ああ恋文じゃないですよ」
 少女は手紙を開いた。小さく火花が散ったように思えた。少女の表情が厳しいものになる。
「こうしてもってきてくれてよかった。私以外が開封すると呪いが発動するようになっている」
 そういわれてフェイトは息を吐いた。まったく気づかなかった。あれだけ見たのにもかかわらずだめだったのだ。
「警告ですね。ここに私を連れに軍勢が来ると」
 今、軍勢を異国に出せるほどのものは、ただひとつしか存在しない。
「あいつらだ」
 リヴィスタックを襲った軍勢だけだ。御子戦争といわれる、この戦いの中で、大陸の六つの国はリヴィスタックの旗下となり、あるいは打ち破られた。あと一歩で、リヴィスタックは史上初の大帝国となるはずだったのだ。
 だが、最後に残ったイパ王国と戦い消耗した状態だったからこそ、リヴィスタックは滅びたのだ。
 怪物を操るあの軍勢の正体をフェイトはしらない。でも、その力はわかっている。あの大波のような軍勢に襲われたら、こんな神殿も村もほんの息つく間もなく、この世から消えるだろう。
「その前に逃走を進めています。もし逃走するのなら、護衛と、安全な場所まで輸送を約束すると」
 あの軍勢を相手に安全な場所など存在するのだろうか。
「ほうほう、相手は御子の一人ですか?」
「御子だったら、すばらしいですね。まあ、あなたにはかなわないでしょうけど」
「名にかけまして」
 エルフは胸を張った。
「ありがとう」
 少女は笑った。
 それは悲しそうでどう見ても安堵しているものではなかった。


 少し休む。そう言い残して少女は庭を出て行った。
 残されたのはフェイトとエルフだった。
 エルフの方は、いつもと様子が変わらない。
「何人くらいいるんだ?」
 エルフは首を傾げた。
「何がだ?」
「守る人数だ」
「いない」
 あっさりといった。確かにここで少女とエルフ以外姿を見たことはない。
「それで大丈夫なのか。この神殿守るの」
「私とあいつがいればな」
「あいつ」
「ああ」
 エルフは笑った。
「問題ない」
「相手は御子かもしれないんだろ。なあ、御子を見たことないんじゃないのか?」

 御子とは神の恩寵を受けた人間だ。それは比喩ではなく、さまざまな力を持って現れる。
 戦神の御子であった帝王アデライードの戦いぶりを見たことを一度だけあった。一つの城があくたのように吹き飛ばされたのを見た。
 魔術でもそれをなすことができる。天空から流星を呼び寄せ城壁を壊すことや、全てを凍てつかせる氷の嵐を呼びよせることも。魔術でなそうとすれば、長時間の詠唱と、強力な象徴、石を穿つほどの雨垂れのような集中した思念が必要だ。
 だが、王は斧の一振りで起こしていた。
 そんな御子たちが戦争の中心となっていた。どれだけ軍の力があろうとも、有象無象では御子にはかなわない。御子同士の戦いが全てを決めるのだ。

「まあ、たかが人間だろ」
 わかっていないようだ。人間という野卑な獣からのなりあがりの種族。エルフの多くの認識はそういうものだ。
「その人間が今世界で一番多い意味考えろよ」
「ああ、雑草のようにはこびっているからな」
「そういう事じゃなくて、なんていうか、そう」
 フェイトは言葉に詰まった。
「人はあまたの神の駒、御子はただ一柱の神の駒に過ぎない」
 エルフの目が細まった。
「神に捧げられる祈りは主に保身からなっている。その祈りをさながら籤で与えられたのが御子だ。だから信仰が多く集まっている神の力は強くなる」
「籤。だってそれをもって世界を平定しようとしたんだ。なのに籤?」
「まだ、人の意識では共存共栄は無理だ。さまざまなものに執着がある以上な。それに神はそんなに多くを思って、力を貸すわけじゃない」 
「何を考えてだよ」
「きまっているだろ。ただの愛さ」
「愛?」
「好きな人間に手を貸す。まあ、結果、自分の愛した嬰児が、がんばってくれて、名を広め、信仰を広げてくれれば、いいが、そうでなくても別に構わないはずだ。最初に力を与えるだけで十分満足しているはずだからな」
 フェイトは何か壊れた気がした。
 王の下、進むべき戦は世界をよりよくする方向に向けていると思っていた。だが、その源にある神の意義がただの好悪。
「そんなことで戦争が。だったら御子なんていらない」
「そうだ。それでいい」
 エルフは満足気に笑った。
「人は常日頃の行いの積み重ねの中で、己の神に辿りつけばいいんだ」
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2007年05月31日

空鳥の歔欷 3

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六郎太は刃を振るった。虚実入り交じったという技ではなく、どれもができる売る限りの一撃。そう思うが体はついてこずに、それがうまい具合に鵺を混乱させていた。
 しかし、しょっせんは時を稼いでいるだけだ。白拍子がしようとしている何かがなければ終わる。
 白拍子の歌は続いている。低く思えた白拍子の声は、今はその声質が幅を持たせているせいか、身の奥から何か揺るぶられるような不思議な気持ちになる。
 鵺の動きが変わった。
 鵺にも白拍子の声に聞き惚れでもするのかと思ったが、そうではなくむしろその顔はゆがんでいた。
 六郎太は視界の端に流れる光を見た。細いそれは蜘蛛の糸のように思えた。よけることもないとぶつかると、糸は存在しないように通り過ぎていった。
 糸は一本だけではなかった。少しづつ量を増している。それは舞う風花のように。
 それは自分の周りだけでなく鵺の周りに多くが集まり始まっている。鵺の妙な動きはその糸の所為だった 。
 鵺に当たると糸は弾けるように紫の光をあげる。鵺は気をとられ、まともに動けなくなっている。
 六郎太は刀を両手で握った。上段に構え、そのまま鵺に飛び込む。
「まだだめだ」
 白拍子の声が聞こえた。しかし六郎太は既に鵺の正面だった。
 糸が一斉に光を発した。
 鵺の身に糸が針のようにまっすぐに形を変え突き刺さっていく。全身を光の針で串刺しにされ、鵺は老いた女のような声をあげた。
  六郎太は刃を振り落とした。 
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2007年06月01日

空鳥の歔欷 4

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  刃は鵺の身を切り裂いた。
  先程とは違い血なのか、何か黒いものが宙に飛び散る。
「よし」
 勝利を確信した言葉が、止まったのは六郎太の意思ではなかった。
 鵺の尾がしなると六郎太の肩口にあたった。
 六郎太の肩から鮮血が飛び散った。
 尾はただの尾ではなかった。その尾にもまた赤い目があり、先は蛇となっていた。その蛇の顎が、六郎太の肩に食い込んでいた。
「く」
 六郎太は尾に斬りつけた。尾は切り裂かれ、闇の中に溶けるように消える。
 消えたのは蛇のような尾だけではなかった。鵺の体もまた闇の中に細かく消えていく。
 六郎太は座り込んだ。白拍子が六郎太に駆け寄る。
「しっかりしろ」
 白拍子は六郎太の衣を切り裂いた。六郎太が思っているよりも、抜けたときに大きく牙が肉を切り裂いていた。
「毒はないようだな」
 白拍子は自分の裳の裾を切り裂いて、六郎太の傷口をきつく縛った。裳の足から見える肌の腿の白さに六郎太は目を背けた。
「莫迦。そんな顔するとこちらも照れるだろう」
「あいつを倒したのか?」
「ああ」
「そうか」
 六郎太はうなずいた。都にきてから、自分の力を振るう機会に恵まれなかったが、ついに見せれたと思うと鼻が高い。まして相手はあの妖怪だ。これは故郷に帰ったときにいい語りぐさになるだろう。
「何を満足気な顔をしている。やったのは私の払暁で、おまえではないぞ。むしろ邪魔になったのだからな。あのまま動かずに放っておけば、ひとかけらも残さずに空煮戻せたモものの、金気のせいで散ってしまったではないか」
 六郎太は大きく息を吐いた。
「そうか」
「まあ。お前もよくやったぞ」
 白拍子は立ち上がった。
「どこにいくんだ?」
「それはまあな」
 白拍子は言葉に詰まると、背中を向けた。
「さらばだ」
 白拍子は内裏の中に消えていった。
 六郎太はそれを見送ると立とうとするが半身が動かない。
 毒はあったのだ。
 
縦書きマトメ版
http://99ya.gozaru.jp/storys/nue/001.htm
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2007年06月05日

空鳥の歔欷 5

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  足音がして誰かが入ってきた。
 六郎太は目を開けた。眠りは浅かった。今までなら夜警にいそしんだ翌日は夕方まで寝込むのが常だったか、今日は違った。昨夜の鵺の毒は体の内側に何かを流し込まれたのか全身に倦怠感があった。そのせいか深く眠る事もできずに音にすぐに気づいたのだ。
  部屋の中には衛士が数人あまりいる。その顔を一人一人見ているようだ。だれか何かしたのかもしれない。賭け事は禁じられていたがするものは多い。
 足音が自分の前で止まり、小さな声で「こいつです」と言われると人ごとでないのはわかった。声をかけたのは衛士の中でも年長の男で、衛士の長だった。
「どうかなさいましたか」
 六郎太の言葉に男は、部屋の外を目で示した。高烏帽子が目に入った。
「昨夜、警備をしていたものに用があるそうだ」
 うなずいて立ち上がった。もしかしたら昨夜の一件を見ていた誰かが告げたのかもしれない。
「はい」
 元気よく起き上がり、刀を腰にさす。
「こちらにこい」
 まっているのは黒い直垂の高烏帽子の男だった。腰に刀が見えるが、きている直垂は柔らかな光沢を持って一目で上等のものとわかる。貴族の中で武をお家芸と仕える、武官のように思えた。
「ついてこい」
 既に話はついているのか六郎太が武官と共にいくことに長は異議はないようだった。
「どこにいかれるのですか」
「黙ってくればよい。ただ、覚悟はしておくのだな。」
通されたのは庭先だった。
「暫く待て。大殿がこられる」
 怒りはなかった。
 内裏の殿上に登るのは、武士の中ではほんの一握りのもの。それこそ承平天慶の乱において、名をなした源平のような著名な一族のものではならない。
「大殿がおいでだ。許されるまで顔を上げてはならぬ」
 一礼すると六郎太は身をかがめた。
 足下のまぶしい白砂の輝きが目に飛び込んできた。重い足音が聞こえた。
「お前が昨夜の衛士か?」
「はは」
「たいそうなことをしてくれたの」
「いえ、滅相もございません」
 謙遜を持って六郎太は答えた。荒々しく床を踏みならす音が聞こえた。
「わからせろ」
 体が地面に転がっていた。誰かに蹴られたのがわかった。
「お前が昨夜、暴れてくれたおかげで、若君を迎えての会がだいなしであったわ」
「は。それは」
 顔を上げかけて止めた。
「まだしらを切るか。貴様のようなものは二度とみとうないわ」
 足音が遠のいていく。
 倒れたままの六郎太を武官が手を差し出した。
「もうしわけない」
「お前、悪いことは言わん。故郷に帰れ」
「どうしてです」
 六郎太は怒鳴るようにいった。
「詳しくはしらないがお前昨夜どこで何をした」
「鵺という妖怪と戦いました」
 武官を小さくうなずいた。
「ああ。れいの噂か。あれはな、あるお方が夜歩きされるための詭弁だ。化け物などおらんのだ」
「いえ」
 なおいおうとする六郎太に男は苦笑した。
「お前の言うことが真実であろうと、大殿に今度あえば首が飛ぶぞ。命冥加なら、早く出ろ」
「しかしお役目が」
「それは俺が取りなしておく」
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2007年06月17日

空鳥の歔欷 6

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羅生門の周りは静まりかえっていた。しかし、気をつけてみれば闇の中で動き回るものの姿に気づくはずだ。
 羅生門の二階にはあがれなくなっているが、一間が用意されている。それは鬼神の為のものであるが、今夜を跋扈するのは六郎太であった。
 ひらつつみに包んだ荷物が一つ。太刀をのぞけばものらしいものはない軽装だ。
 六郎太は居職を失い、一夜を過ごす場所を探していた。贅沢はいわない。屋根があって夜露が忍べればいい。そう考えると、羅生門は悪い選択ではなかった。ただ、同じ事を考えていたのか、多くの人間が同じように一夜を過ごすつもりらしかった。
 とても六郎太の眠るようなところは見あたらない。仕方なく、六郎太は歩き出した。
 多くの寺社がある都だ。雨露がしのげそうな場所はすぐ見つかるだろう。
 そう思って目についた寺の一つの門の前で、六郎太は座り込んだ。
 布衣のものの住居はともかく、寺社は絵解きの中の極楽浄土を、現世に移し替えたように大きく、美しい。
「なんでこんなことになったのか」
 あの武官の応対を見ていると、罰を受けなかっただけましなのかもしれない。
 実際のところ、六郎太の都くらしはこのひらつつみのようなものだ。来るときも、これが一つなら出るときもこれが一つだ。それが都で過ごした半年あまりのまとめだと思うと、むなしくなってくる。増えたものといえば、少しばかりの鐚たけだ。
 国に帰る事も考えた。来るときは任国から都に帰る役人についてきたが、一人で国まで帰るとなれば、この程度ではとても戻れない。
 いや、戻ることなどできない。今戻れば都で何か失態をしでかした事がわかる。それは避けたかった。
 どこかの武家の郎党に加えて貰うか、貴族のもとで何か使い走りのまねごとをするか
 都で自分のようなものが一番多くたどり着くのは、のたれ死んで鳥辺野にたどり着くことだ。
「くそ」
「お前何をしている」
 門が開いて出てきたのは数人の僧兵だった。墨染めの衣を着ているが、手には薙刀が握られている。
「ここは、こうして寝る場所ではない。さっさと立ち去れ」
「少しくらいいいだろ」
「ならん」
 僧兵が薙刀を構えた。
「わかった」
 ここで騒動を起こせば都に居るどころではなくなる。
 六郎太は立ち上がると歩き始めた。
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2007年08月25日

空鳥の歔欷

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nue.jpg


http://99ya.gozaru.jp/storys/nue/001.htm

 こいつのお話に絵を描いてくだすった菊地慈萩さんのサイトが開店しました。

霄*塚 http://www6.ocn.ne.jp/~soratuka/

 微妙にホラー注意です
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2007年09月16日

絵で妄言

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「こんばんわ」
 普通の声だった。こんな場所でそんな声。当たり前過ぎてここが街角にでもいるかのように錯覚しそうになる。
 でもここは街角なんかじゃない。目の前には暗い闇。その塊がさらに人型になって切り抜かれたようなツインテールの少女の形に擬態した化け物。化け物とボクの間には、食い散らかされた肉体。いや死体と血。
 それを見ても彼女は変わらないようだった。
 微かに波打ったきれいなロングヘア。黒いドレス。飾りとはいえば縁についた白いレースと、花を模したような帽子だけ。ほぼ黒一色で派手さはないが、品のいい服装だった。手には茶色い革張りの本が見える。
「ウィッチか?」
 少女の声に彼女は小さくうなずいた。
「あなたはデーモンですか? それとも死神」
「それは身をもって味わうがいい」
 少女の髪が闇から跳ね上がった。

CHEMICAL-X http://www.geocities.jp/otgtrtitsth/
 さんの
2007年09月09日の魔女さんの絵を見ての妄言
 
 
 
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2007年12月16日

空鳥の歔欷 7

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  結局、同じようにいろいろなところで追い出され、気づけば街から外れ、一面の野原となっていた。
  もう木の下でもかまわないと思い出した時、明かりが見えた。
 軒先でも貸して貰おうかといくと、小さな小屋だった。樫の樹が一本生え、そこに馬が結わえ付けられている。
「もうしわけないが」
 家の前で声を出すと、若い女が顔を出した。
「どうぞおいでください。」
「すまん」
 小屋と外から見えたがなかなか広い。板張りになっていて円座がいくつかひかれている。高坏がいくつかおかれ、酒宴の前といった感じだ。その一つに松葉色の狩衣の貴族らしい青年が座っている。青年はいぶかしげな顔をした。
「老松殿の知り合いかな?」
「いえ御曹司のお知り合いかと思って」
 青年は苦笑した。
「いや、知り合いではない」
 女は六郎太をにらんだ。
「何かおっしゃってくださいよ」
「いや、軒先でも貸して貰おうかと思って」
 女の目がますます厳しくなる。
「ここでこうしてきたのも何かの縁でしょう。一つどうですか?」
「ありがとうございます」
 頭を下げて六郎太は青年の前に座った。御曹司と言われるだけあって、品のある顔立ちだ。体格も大柄だが、愚鈍な感じは受けない。
「ここは酒を飲む場所でしてね。野趣があってよいでしょう」
 青年が目を外に向けた。開け放たれた戸の向こうに山と月が切り取られていた。
「ああ」
 正直なところ、六郎太にはよくわからなかったがうなずいておいた。それで青年は気を良くしたのか、高坏を六郎太に向けた。

「都は息がつまります。いろいろと多くてね」
「そうですか」
「あたたは感じませんか?」
「俺からすると、土地を持たないせいか自由に見えます」
「土地ですが。貴方は都にきてどれほどになりますか?」
「三月ほどです」
 青年はうなずいた。
「だからでしょう」
 そうして六郎太の姿をじっと見て、小さく笑った。
「どうかしましたか?」
「いえ、腕におぼえがあるのだと思って。それは蕨手刀ですね」
「ええ」
 六郎太はうなずいた。奥州から伝わったという反りのある刀は蕨手刀といわれ、今の刀の源流の一つだ。もともと馬上で使うために反りがあるせいで見かけよりも重い。加えて六郎太のものは、普通の蕨手刀よりも長い。
「見せていただいてよろしいですか」
「はい。重いですよ」
 青年は高坏を床に起いた。
「ほお」
 六郎太は差し出した。重い刀を持っても青年の顔色は変わらない。片手で軽く振ると鋭く空気が裂けた。それだだけで、稀な膂力としれた。
 六郎太は何か恥ずかしさを覚えた。こんな貴公子然とした青年ですら、重い蕨手刀を自在に操る。ましてそれを生業とするものならそれ以上だろう。
「これはいいものだ」
 青年は六郎太に刀を返した。
「どうされた?」
「いえ」
「よいものを見せて貰った。私も何かお見せできるものがあるといいのだが、ごらんの通り戦人ではないのでね」
「御曹司。八幡さまの白幡を背負う方がそんなこといわれてはこまりますよ。そちらの方が自信をなくされてしまうではありませんか」
 そういうと焼いた魚が運ばれてきた。
「この魚と酒では礼になるとは思えませんが、ここは私が出しましょう」
「なら弓の一つでもひいてさしあげればいかがですか?」
「老松殿・・・いやいやもともとは武者であったのは本当ですがもうやめたのです。その分、酒をとね」
「いただぎます」
 六郎太は酒を一気にあおった。

 何か焦げたようないやな臭いがした。
 起きれば、御曹司も、老松と呼ばれた女の姿もない。空き家で一人眠っていた。昨夜の事がうつつなあかしに、床は酒の臭いがした。
 しばらく動く気にもならず窓の隙間から見える景色を見ていた。
 山が見えた。
 都の人々はあの山の向こうには、鬼や天狗、人ならざるものが住む、都に出て人をさらうという。
 だが、六郎太はあの向こうからきた。山を越えたさらなる東国。
 帰りたい。
 それは閨の女のように体にそっと染みついていた。
 故郷の地が自分を呼んでいるような気がした。
 本当にそうした方がいいかもしれない。まだ些少だが銭ならある。往古の防人のように帰路で果てる事もないだろう。
「御伽噺にならないか?」
 戸が開いた。
 鮮やかな光を背に受けて、一人の娘がたっていた。その娘は白拍子だった。
「聞いたぞお役ごめんになったそうだな。その上こんなところにくるからてっきり死んだかと思ったぞ」
「そんなつもりないぞ」
「そうなのか」
 白拍子は体をずらした。そこには白骨が山となっていた。
「ここは都でもっとも死に近い場所だぞ。屍鬼もでるというし、よくもまあ無事で一夜を過ごしたものだ」
「それは」
 あの二人もまたそうしたものだったのだろうか。
「なあ、おまえ死ぬつもりもあてもないなら、桜子と一緒にこないか?」
「あ?」
「別におまえが首になったのを気にしているわけじゃないんだ。いま、男手が必要だと、兄上とも話していたのでちょうどいいと思っただけだ」
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2007年12月17日

空鳥の歔欷 8

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 町は静まりかえっていた。
 既に日は暮れている。都とはいっても人の通りの少ないのか、誰とも出会わない。見かけるのは猫や犬。そういった獣のたぐいだけだ。
 明かりのないことなど、まったく気にしない様子で、桜子は歩いていく。夜目でも効くのかと思わず問いそうになる。
 六郎太は桜子を追うのに精一杯だった。この辺りの地理は不慣れだった。仕事でも、遊びでも来たことがないのは、店や、大きな貴族の家がないからだ。何の理由もなしにくるほど都は狭くない。
 川に掛かる橋にさしかかると、桜子は立ち止まった。六郎太も立ち止まった。見たところ何もおかしなものはない。
「どうした?」
「いやいや、衰えたりといえどさすがだとおもってな」
 桜子の視線を追った。見ているのは橋の下の暗闇だった。そこは何かがいるように闇が重いように思える。闇の中で、何かが光った。六郎太は蕨手刀に手をやった。
 闇から出てきたのは猫だった。地面をはうようなのろのろと歩いていく。
「なんだ」
 呟く六郎太に桜子は笑いを浮かべている。
「猫に驚いたのがそんなにおかしいか?」
「いやいや。そんなことはないぞ。そうしていつでも応じる事ができるのは悪いことではない。ただ、できれば殺気は隠しておいた方がいいな。察せられやすくなるし、何より、引き寄せる」
「何をだ」
「災難だよ」
 桜子は再び歩き始めた。
 見えるのは変わらずに屋敷だけだ。
 桜子は一件の家の前で止まった。これまで通りすがりに見てきた家と変わらず、何ら変わらないように見える。
 だが、二人の来訪を知らすように扉が開いた。
「ではおじゃまするか」
 桜子は門をくぐると、六郎太もそれに続いた。見えるのは戸が背後でしまった。そこには誰もいなかったと六郎太は断言することができた。
「その程度で驚くとこれから先魂消ることになるぞ」
 玄関は暗い。廊下の先に光が灯った。
「丁寧なことだ」
 桜子は上がり込むと廊下を歩き始めた。六郎太はそれを追いあがると、桜子の前に立った。
「なんだ守ってくれるのか?」
 からかうような言葉に答えずに六郎太は前に出て進んだ。
 明かりが止まった。先ほどのように障子が勝手に開いた。そこは大きな庭に面した部屋だった。その庭を背負うようにして一人の男が立っていた。
 濃紺の狩衣を身につけ、高烏帽子をかぶっている。体つきは細く、年も高いようだ。だが、まなざしは鋭く六郎太と桜子を見据えている。
「既に橋で察せられていたと思うが、桜子という」
「姫城から都にいらっしゃたという方でしたな。既に、書状はいただいております」
「兄上からお聞きお呼びか。それならば問題はあるまいな」
「とりあえずお座りください」
 いつの間にか円座が二つ足下に置かれている。不思議だと思って六郎太は円座を見つめた。
「せっかくの秘術、こうして無駄に使うのはどうかと思うがな」
 桜子は座ると、六郎太も続いて座った。
 男は小さく口元をつり上げて笑った。
「手厳しい。姫城のように、神との縁深き方はわかりませんが、我々のもつのはあくまで術。須く技術は使わねば衰えていきますゆえに」
「照魔鏡の名で知られる、安倍晴照とは思えぬ言葉だ」
「その古いあだ名をご存じとは喜ばしい限りです。それで今日、私に伺いたいというのはいかなことでございましょうか?」
「昨日、北家の若君がさる女房と密会を邪魔され、激怒した話をご存じか?」
 自分をとばしたのは北家。そうなれば摂関家のものということだ。命があるだけよかったと思わなくてはならないと、六郎太は今更思った。
「たいした騒ぎであったとか。それがいかがしましたか?」
「その騒ぎの元は、鵺なのだよ。それが出て暴れたのだ」
「鵺でございますか。それはずいぶんと」
「それでな、その鵺をどうにかしたいと兄上は思っておられる。そこで知恵を、安倍殿に貸していただけないかと思ってきたのだ」
「知恵をでございますか。それがいかなるものかは不明ですが、もし実体のあるのでしたら、刀剣の及ぶ相手と察せられます」
「つまりは陰陽の技ではなく武芸だと」
「ただ、普通の武者なれば無理かと存じます」
 六郎太は昨日の自分の失態を思い出した。自分ができたのは本当に時を稼ぐくらいのものだ。実質どうにかしたのは桜子だろう。あれに武芸を持って立ち向かう事などできるのだろうか。
「腕の立つものではないとだめだというのだな」
「そうでごございますね。かつて大江山に酒呑童子というものがあったともうしますが、それを伐ったのは名のある武士であったともうします。できればその位のものを差し向けるのがよいと存じます」
「失礼ながら、その武士も神仏の加護あって、討ち取ったと聞いております。刀剣だけでどうにかなるものなのですか?」
 晴照は六郎太を見た。そうして大きくうなずくと、
「確かにそうですな。桜子殿はいかがお考えですかな」
「神仏は縋らんとして縋れるものではないと思うが、人には縋れるものだ。もしよければ、照魔鏡をお貸しいただければ幸いだな」
「これはこれは。私がそのような荒事をしておりましたのは若年の時の事。今では体がついていくかどうかもわかりません」
「兄上は、悪いようにはしないと思うぞ。いずれは、さらに上へといかれる方だ。ここで恩を売っておいても悪くはないと思うが」
 晴照は笑顔を浮かべた。
「ご期待に添えるかわかりませんが、私でよろしければ力をお貸しいたしましょう」
「なーに、二人で十分神仏の代わりに助けられるさ。あとは武士だな」
 桜子は六郎太を見た。桜子が自分にその役をしろというのは想像がついた。
 それならば真にその才を持つものを知らすのが、今の六郎太のできるべき最善のように思えた。
「一人心当たりがおります」
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2007年12月20日

空鳥の歔欷 9

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「どうしてあの時、自分だといわなかった? そんなでは御伽噺になれんぞ」
 桜子は頬をふくらましていて、一目で怒っているのがわかった。
 安倍晴照の家を後にして、二人は夜の都を歩いていた。歩いているのは二人だけのせいで、桜子の声は響き渡っていく。
「しょうがないだろ。自分より腕のたつ人間がいて、向いていると思うならその人間を薦めるのは当然だろう」
 桜子は天を仰いだ。
「それにあの陰陽師の方も、普通の武者では無理だといっていただろう」
「あれは照魔鏡というより、とんだ雲外鏡だぞ。まったく、おまえにないのは、「しょう」ではなく、「甲斐性」だな。せっかくの機会なのにそのざまではまったく」
 六郎太は答えずに黙った。そのまま歩き続ける。
 それからしばらく無言だった。六郎太は桜子が無言のままついてくるのを、幾度となく確かめた。立ち止まると桜子も止まる。その息が微かに切れている。
 意地っ張りというか負けず嫌いなのか、桜子は自分からは止まることはないようだ。
「少し休むか? それとも戻るか」
 どこに戻るかまでは知らないのでそういう曖昧な言い方となった。
「心当たりとは誰なのだ?」
「源氏の方だ。源氏といえば、武門としても一流だが、源頼光さまの四天王を始め、多くの怪異を鎮めた一門としてしられている。となれば、その嫡流の方をこうした時に頼るのは常道だろう」
「常道な」
 桜子は馬鹿にした笑いを浮かべた。
「そもそも、人常捨てて妖おこるという言葉がある。常道などという公明な道があれば、ああしたものなど出ないであろうよ」
「兄上というのが誰かは知らぬが、そういう方から頼まれたのなら、しっかりやればどうだ。俺のようなものより、その方ずっと腕がたつ」
「先程からその方といっているが、ぜひその名を聞きたいものだな。それほどの方ならば、もう武名は響いておろうからな」
 六郎太は黙った。御曹司の名を六郎太はしらなかった。
「いや実はしらん」
 桜子は天を仰いだ。
「おまえ、意気地がない上に、馬鹿なのか?」
 六郎太は怒鳴ろうとして、腹にためた。ここまでの話ならそう呼ばれてもしょうがない。
「ひどいいいようだな。もちろん、心当たりはある。今日の朝あったあの家だ。持ち主の女は老松という名だった。それに源氏の白幡を背負うとまでいわれているのだ。そして容貌を覚えている。それだけあれば探し出せる」
「馬鹿なのだな。源氏の郎党がこの都にいったいどれほどいると思う」
「うるさい」
 六郎太は怒鳴った。
 
  朝の家に戻ると、昨夜同様灯りがついている。
「失礼する」
 老松と呼ばれた女が一人、家の中にいた。一瞬警戒したようにするが後ろから来る桜子に、安堵の息を吐いた。
「てっきりお礼参りにできたのかと思いましたよ」
「酒まで馳走になって一晩も世話になったのにそんなことはしませんよ」
「そういっていただけるとありがたいです。朝は黙って出てすいませんでしたね。御曹司が都で、狐に瞞されたでも思った方が土産話になるとおっしゃられて」
「どこでも馬鹿にされているのだなおまえ」
 桜子は家の中を見た。
「朝に比べるとずいぶんとかわったな」
 円座は昨日とそうかわらないが、鮮やかな屏風などが用意されて、華やかな風に見える。
「御曹司は飾りがお嫌いなので。それで今日は?」
「実は御曹司の事で・・・」
「客になりたいのだが」
 桜子はさっさと円座についた。
「酒とつまみを頼む」
「どういうつもりだ」
「ものを聞くのに何の礼もしないわけにはいかんだろう」
「まあ、そうだな」
「客になって多めに払えばお互いに気兼ねしないものだ」
 六郎太はうなずいた。
 しばらくすると昨夜と同様、干物と酒が運ばれてくる。
「どうぞ」
「うまい魚だな」
 桜子はさっさと干物に箸をのばした。
「そういってもらえるとうれしいです。知人の漁師に頼んで作ってもらっているの」
「ほお。それでか。酒はどこのものだ?」
「これはこの辺りのよ。少しあまいけど」
「いやいや悪くないぞ。私の故郷の酒は辛くてな。やはり風土なのだろうな。都はあまく思えるが、来てみると存外厳しい。この酒も飲み過ぎるとつらそうだ」
「確かに都で酔いつぶれるのはつらいことだと思う」
 老松はそういうと六郎太を見た。
「あなたも早く故郷に戻りなさい」
 六郎太は頷くと、桜子はあわてて首を横に振った。
「だめだだめだ。こいつは御伽噺になるのだから」
「それはまた」
 老松は苦笑した。
「そのために、昨夜ここであったという御曹司に会いたいのだが?。腕がたつのだろうか」
「立つも何も、私が見た中では御曹司に勝る腕を持つ方などいはしませんよ」
「それほどのものか」
「騎馬や、刀の腕前は無論ですが、何よりも弓でございましょうね。あれほどの弓取りはいないのではないかと。三年前だったかしら海賊を陸上から退治した時はそれは見事だったというわ」
「なるほどな。それなら、おまえのいうことももっともかもしれんな」
「そう思う」
 六郎太が正直に頷くと、桜子はあきれたのかため息をはいた。
「少しは発憤しろ。私がその見てもいない男にこれだけほめているのに」
「落ち着いてものを見てくれて俺もありがたい」
 老松が笑いをこらえている。
「わあ、なんだその笑いは」
「いえいえ。それで御曹司に何をお頼みしたいの?」
「ちょっと化け物の退治を頼もうと思ってな」
「それは難しいかもしれない」
 老松の顔が曇った。
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2008年05月20日

スヴェトラーナ

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 ユーリャは、ドゥビーヌシカの大きな森のなかの小さな村に生まれました。おとうさんはいませんでしたが、おかあさんが立派な布を織っていましたから、暮らしに困ることはありませんでした。
 ユーリャにはスヴェータという妹があって、二人は他の村の子と共に毎日森で遊びました。それでもおかあさんの布を織る音が聞こえない程遠いところにいくことはありませんでした。
 森の中で、子供たちは鬼ごっこや、かくれんぼ、草花を摘んで遊んでいました。
 村の子供たちは大きくなり、もう学校にいっていないのは、ユーリャとスヴェータの二人だけでした。
 前より少し静かになった森の中で、二人は草の茂みの中で、四つ葉のクローバー探していました。
「見つかったスヴェータ」
 スヴェータの答えはなく、名前を呼びながらユーリャは森の中を歩いていきました。
 何遍も森の中をいったりきたりしていると、木の合間にスヴェータの姿を見つけました。近づいていくと、スヴェータは一人ではありませんでした。
 大きな荷物を背負った男が一緒です。男はユーリャに気づいて、手を挙げて挨拶します。
「やあ、こんにちは」
 ユーリャはスヴァータの手を引っ張り、男から逃げようとしました。でも、ユーリャがひいてもスヴァータは動かずに男を眺めています。
「小さい娘さんの方が大物だね」
 そう男はいうと、
「おかあさんはいるかね。俺はあんたたちのおかあさんの布を買いにきたんだ。あの青白いオーロラを編み込んだような布をね」
「どうしてわかるの?」
 ユーリャは声が震えるのを感じながら言いました。
「だって、お前さんたちの服はおかあさんの織ったものだろ」
 言われてみれば、着ている服はおかあさんの織った物でした。
 ユーリャ、スヴァータは男と連れだって、家に向かいました。
「森の中で何をしていたんだい? 森には怖い物がたくさんいるだろうに」
「四つ葉のクローバを探していたの」
 スヴァータがいうと、男は頷きました。
「そんなものがほしいのか」
「だって四つ葉のクローバーを見つけると願いがかなうんだよ。ね、おねえちゃん」
 ユーリャは頷いた。
「それで見つかったのかい」
 スヴァータは首を横に振った。
「山の向こうでは珍しくないのにな」
「じゃあ、山の向こうの人たちはみんな願いが叶って幸せなんだね」
 男はどこか哀しそうな顔をしました。
「たくさんの願いが叶ったと思うよ」
「やっぱり」
 ユーリャはスヴァータがうれしそうに笑うのを見て、幸せな気持ちになりました。妹の為にも、クローバーを探してあげる気になりました。
 家に戻ると、おかあさんは井戸から水をくんでいるところでした。
「ただいま」
 二人が声をそろえていうと、おかあさんは顔を上げました。男は小さく頭を下げました。
「今回も布をいただきにきました」
「暫く待っていてください」
 おかあさんはそういうと家の中に戻っていきました。暫くすると手には持ちきれない程の布があります。
 男はうれしそうに笑うと、ユーリャを見ました。
「この布は同じ重さの黄金と、いやそれ以上に価値があるんだ。あんたたちもしっかり習うといいよ」
 おかあさんの作る布のすばらしいのは解っていましたから、ユーリャは頷きました。
 ユーリャが学校に行く年になると、森にいるのはスヴァータだけになりました。ユーリャは学校が終われば、できるだけ急いで家に戻るようにしました。
 ユーリャの姿を見ると、スヴァータは縄をとかれた犬のように走ってきました。
 そうして二人は連れだって森で遊びました。
 今までのような遊びもしましたが、ユーリャが学校で習い始めた文字を書く遊びも増えました。そうはいってもスヴァータが覚えたのは自分の名前だけでしたから、森の木はスヴァータの持ち物のようでした。
 学校が終わり、家に戻ってきたユーリャは、いつものようにスヴァータがこないのを不思議に思いました。
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2008年07月17日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio− 1

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 電車から飛び降りた。熱くなったコンクリートを足下に感じたせいで、足が怯んで少しつんのめった。
目当てのミカンの爽やかな匂いがした。
崩れた身体を戻して、あわてて見回した。しかし、ホームには誰の姿もなかった。
 彼女がいない。
 ひまわり色のワンピースに大きな麦わら帽子。そして重そうな荷物。その姿があるはずなのに。
 でも、目の前に見えるのは無人の駅と、駅に迫るミカンの茂る山だけ。
『駅で待っているから』
 彼女は確かにそういっていた。
 彼女が言っていた駅。それはこのミカン山の駅ではないのだ。たぶん、ここに来る前に後にしてきた町の駅。
「どうして、こっち来ちゃったんだろう」
 答えはなく、一人で立ちつくした。
 『どうして、こっち来ちゃったんだろう』
 十二歳の自分の声が聞こえた。声変わり前のまだ高い声。
 主観と客観が入り交じった奇妙な感覚。これは夢だから。そう思っても、あの頃の自分に言ってやりたい時がある。
『それはもう取り返せないものだから』
 牧部陸はそう思いながら夢が終わるのを待った。
 十二歳の陸は立ちつくしたまま、白い闇の中に消えていくのだ。
 数年前からこの時期になると毎年見る夢。いずれ終わり、いつもと変わらない日常が待っているはずだ。

 陸が目を開ければ、見えるのはメンタルトレーニング用に天井に張ったアーチェリーの的。背中に感じるのはパイプベットの堅さ。夜の冷気を入れていたはずの窓は、夏の熱気に変わり窓から入ってくる。
「熱い」
 喉から出る声はもう太くて、十二歳の頃とは全く違う。声だけではない。姿も形も、中身もあの頃とは違うはずだ。
 既に日は空の半ばにかかっている。ベッドから手の届くカーテンを開けば、庭で夏ミカンの樹が大きく茂っている。
『いつでも庭にあるのだからこの時期だけ、夢を見なくてもいいのに』
 陸はそう考えながら夏ミカンを見た。
 夏ミカンは陸の考えなど知らぬ様子で大きく葉を広げ、つややかな葉を夏の烈日に晒している。
 家の人間はみんなでかけた後で、こうしてのんびりしているのは大学生の自分だけだ。インターカレッジに近いから午後から練習にはいくつもりだが、まだのんびりできる時間はあった。
 起き上がって机の上に置かれた小さな衣装ケースを見た。中に入っているカブトムシの様子を見る。のんびりとした様子で甲虫の王は昆虫用のゼリーを食べている。カブトムシに当たらないように地面に霧吹きをする。
 居間に降りるとテーブルの上には食事と、手紙の類がまとめて置いてある。
 ダイレクトメールや領収書に混じり、往復ハガキが一枚混じっている。
『同窓会のお知らせ』
 見てみれば小学生、五年の半ばから六年の途中まで、一年あまり通っていた学校のものだ。
 地方では成人式を夏に行うからそれに合わせて同窓会ということだろう。
 卒業式の時にはいなかった自分にこうしてくるのはどうしてだろう。そう思いながら参加に丸をつけた。
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2008年07月18日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio− 2

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 小学校五年の秋、陸は転校した。父の急な転勤の為だった。陸自身も、生まれた時から育った家を離れるのは寂しかった。
自分の不安を聴いてほしい。そう思ったが、両親の会話からかいま見える状況は子供の声など届く物ではなかった。
一生懸命にやってきた職場から追い出され、左遷される父。
長い間住んでいる東京から出る事を都落ちと意気消沈する母。
 幸い引っ越しですることは多く、荷物をまとめているだけでも慌ただしく、陸は不安を忘れ、転校一日目を迎えた。
 驚いたのはクラスの少なさだった。一学年は多くて二クラス、低学年に至っては一つの教室にまとめられていた。一学年十近いクラスがあった街とは違った。
 陸のいる五年は一クラス。三十人程だった。そして教室の奥には土の入ったペットボトルが多く置かれていた。
 昼休みに気になって見ていると、女子が近づいてきた。
 地味な色合いの服を着た、ほっそりとして、髪の長い女子だった。他の生徒が黒く日焼けしているのが多いせいで、少し肌の白さが怖いくらいだった。名札には幡野織と名前が書いてある。
 陸を見下ろして幡野はいった。
「中にカブトムシとクワガタの幼虫が入っているの」
「授業でしたんだ」
「違うわ。この学校には理科クラブという課外活動があるの。もしよかったら、あなたも飼ってみる? 数に余裕があるから、カブトムシかクワガタどっちか一つがいならプレゼントするよ」
 甲虫の嫌いな男子はいない。陸は当然頷いた。
「ついでに理科クラブにも顔を出してみない。クラブに入ってというわけじゃないけど、これといって放課後に用事ってないんでしょ。それならちょっと来てもいいんじゃないかな。このクラスにも結構入っている人間がいるからいいと思う」
 確かに陸は朝からほとんど新しい同級生と話していない。 
 思えば自分と幡野を話しているのをじっと見ているのは、理科クラブのメンバーだろうか。それにこうして誘ってくれるのは自分を認めてくれたような気がしてうれしかった。
「解った」
 陸が答えると、幡野は大きく頷き、そのまま教室に響き渡るようにいった。
「幡野くん、理科クラブに今日行くから」

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2008年07月19日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio− 3

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 陸は幡野に連れられて理科クラブの部室になる理科室にきていた。
 理科室に行く前に、幡野からざっと理科クラブの成り立ちを聴いた。
 理科クラブは先代顧問の綿貫先生が、『でんじろう先生』のように科学知識を実験に取り入れていろいろと授業をしたという。そのせいで理科好きな生徒が増えて、課外活動になったというクラブだった。
 急に課外活動になったせいで予算は少ない。そこでカバーするために考えられたのが、甲虫を飼って売って予算を集める計画だった。順調に行きここ数年は潤沢に予算があるという。
「売るのにいいの?」
「今年から校長先生が代わってね。『商売活動などもっての他』っていうの。だから、もう売れなくて、ほかの学校に配るからいいの。それに新しい顧問がね、あまりやる気がないから」
 幡野はため息をついた。
 理科室には一人の先生と多くの六年生と少ない下級生がいた。
 先生は大原先生といい、女性の教諭で、先生にしてはまだ若く、実習生のように見える。あまり理科の先生という感じではなく、国語や社会の先生という感じだ。
 六年生が多いのは部活動になったという代の人たちで、それ以降はあまり多くないのだと思われた。
 陸は幡野について前の方に座った。
 黒板には『らいねんのよてい』と板書してある。
 六年生の一人が黒板の前に立った。
「部長の小沼です。今日で自分の部長職は終わりです。現在行われているペットボトル飼育ですが、去られた綿貫先生と始めたものですし、できれば残して貰えないかと考えています」
「今の人数では難しいと思うよ」
 ふざけた意見に小沼部長は険しい顔をしたが、気の抜けた声は顧問の大原先生だったせいで何も言わなかった。
「新部長の幡野さんの意見はどうなの?」
 陸は横の幡野が立ち上がって黒板の前にいったので驚いた。どうも自分が勧誘されたのは人数不足の為らしく、少しばかりへこんでいた。
「希望者に差し上げ、残りを飼育する予定です。校内に残るのはそれぞれつがいになっているのが十です」
 上級生の一部から声があがった。その多くは少なさへの非難のようだった。
 そんな六年を代弁するように小沼部長が言った。
「そんなに少なくして何をするんだい」
「蝶にします」
「それは全体の意見じゃないよね」
「そうです」
 幡野は自信をもって小沼部長を見返している。
「じゃあ、多数決でいいかな」
 大原先生がいうと幡野と小沼部長、両方が頷いている。どうみても多数決なら、六年生が多く負けるだろう。
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2008年07月20日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−4

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「牧部君だっけ、どうぞ」
 大原先生がいうと、陸は立ち上がった。周りの視線が集まるのが解った。
「あのすいません。来年残る人間だけで多数決しないとおかしくないですか。実際、これから活動するのは僕たちですし」
「確かにそうだね。じゃあ、在校生だけで多数決ね」
 大原先生はそういうと、生徒を見渡していった。
「小さい子にも分かりやすくいうと、来年学校で飼うのはカブトムシよりチョウがいい子」
そのいい方だと男子は挙げない。陸は立ったまま、目を閉じて勢いよく手を挙げた。
「じゃあ来年からはチョウで。新部長、指示よろしく」
 幡野は黒板の前に立った。
「では来年からの話ですが、今年から箱作りに入ります。当面は自分の気に入った小さめの箱を選んでおいでください」

 帰り道、陸は幡野と二人だった。
 歴史があるというよりは古びた町並みを歩いていく。町の方まで入れば、緑は少しずつ減っていく。それでも東京に比べればとても緑が多いから歩いていると何となく心が和んだ。
 陸がそうした気持ちになるのは、横を歩く幡野が無言のままだったからだ。
「さっきのだけど」
 陸は見上げている幡野の頬が少し赤いのに気づいた。
「礼なんていいよ。当然の事をいったまでさ」
 幡野は眉をしかめて笑った。
「怒るつもりだったのに」
 陸は自分以外の誰かを思わず目で探した。しかし、いるのは自分だけ。
「全員でしていても私の勝ちだったの」
 陸には意味が分からなかった。
「他の学校に配っても結構まだあるから、卒業する先輩方に尋ねたの。記念にいかがですかって。先輩方は全盛期をしっているからきっと断らないだろうって。でも、今まで並に飼い続ける事になれば、その先輩方に黒いダイヤは手に入らなくなる」
「根回ししてたの?」
 幡野は無言で答えた。
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2008年07月21日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−5

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 新リーダーになった幡野は、動き始めた。理科クラブはよく回るが、指示が多く、相手の考えがまとまるのを待たないので、リーダーシップを発揮というよりは自然命令が多かった。
 同学年は幡野の付き合いが長いせいで、あまり気にしていないようだった。下の学年は、子供の学年差は大きく、逆らうものはいなかった。
 顧問の大原先生はというと、普通の先生なら、しきり過ぎる幡野に注意の一つもしそうだが、よくいえば自主性を尊重するらしく何もいわなかった。
 陸にはありがたい事だったが、新しい学校に慣れようと考える間もなく、作業にいそしんでいるうちに、他の人間とも仲良く慣れたのはいいことだった。
 始まった実際の作業は卵の採取だった。
 まずは近場で学校からスタートした。
 陸は用意するように言われた網と採集箱を持ってきていた。そういわれたのは同学年だけのようで他の年の子は身軽だった。
「探すのはこれ」
 幡野は昆虫図鑑を開いて、アゲハチョウのページを開いた。原寸大で描かれた蝶は、翅を広げているので大きく見える。特に一般的なアゲハチョウは、目玉を模した黄白色の斑紋が入っているし、後翅があるから特にだ。ほぼ同じ大きさクロアゲハなどは一回り小さく見える。
「蝶は蝶道といって同じルートを飛びます。同時にこれは縄張りだから、蝶道の内側の柑橘系の樹を探した方が見つけやすいです。だいたい日向にアゲハ、日陰にクロアゲハがいるから」
 幡野は学校の地図を渡しながら、探す場所を指示した。陸が渡された地図を見ると、既に柑橘系の樹木が記されている。
「ちなみに新芽。柔らかそうな葉の辺りがいいわ。タマゴはこんな感じです」
 図鑑をめくると黄白色や黒のタマゴが見える。
 話を終えた幡野は、陸や同学年のところに、幡野が寄ってきた。
「よく、こんなの用意してたね」
 陸は地図を見ながらいった。
「大原先生」
「どういう意味」
「相談したら持ってきてくれた。授業用に作っていたんだって。あと、みんなはこっちね」
 幡野はそういって歩いていった。
「あいかわらず女王さまだな」
「織ちゃんだからしょうがないよ」
 クラスメイトがいいあっているのを聞くと昔からこうなのだろう。
陸はそう思いながら、渡された地図を見た。校舎の裏の辺りに十字架が書いてある。何か嫌だと思いながら、陸は幡野に続いた。
校舎裏は薄暗く湿気があって手入れされていない樹が鬱蒼と茂っている。その中を幡野はきびきび歩いていく。
「あれだから」
 幡野は指さした。校舎裏の一角に石が置かれ、その上には何か黒いものが群がっていた。
「網、いって」
 いわれてあわてて黒いものに向かう。何かが飛び込んでくる。それはクロアゲハだった。
 終わってみれば十一頭のチョウが手元に残った。
「まあ初日にしては十分ね」
 幡野はいった。
「何餌にしたんだ」
「見てみれば」
 陸がいわれた通り見てみれば温かい陽気の中で痛みきった肉だった。
「チョウは花の蜜だけをすって生きているわけではなく、水を直接吸ったり、肉の腐汁なんかも吸うの。これだと花の蜜と違ってなかなか蝶も飲みきれないから」
「悪趣味な」
 陸の言葉に少しむっとしたようで幡野の頬に赤みがさした。
「でも効率はいいでしょ。初日で十一頭。ペアが成立するといいな」
「大きな水槽に入れて適当に産卵させればいいのに」
「だめ」
 思いがけぬ大きな声で幡野はいった。
「産卵してしまうと蝶は美しさがなくなるの。ずっと残るなら、きれいなままがいいでしょ」
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2008年07月22日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−6

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 理科クラブの二十人程の部員が、理科室に集まっていた。いつもはあまり熱心ではない大原先生も薬物を扱うせいか前の方に出てきている。
 視線の中心は幡野だった。実験用のエプロンに、薄手のゴムの手袋。手元のテーブルにはガラスのトレイがある。
 ガラスのトレイの底は、細かな目をしたアルミと、ガラスの二重底になっていた。一番底の方には食べたら冷たそうな青と白の二つの薬物が敷かれている。
 幡野はクロアゲハの翅を広げ、アルミの底に置き、蓋をしめた。
「あとは一週間、水分が抜け、成分が染み込むのを待ちます」
 後ろの方で見ていた陸はそっと離れ、理科室に置かれたゲージを見た。
 標本を作るためとはいえ、殺すために育てるのはどこか嫌な気がした。
 クロアゲハは大きなゲージにまとめて入れられている。お飾り程度のみかんの枝と、餌用の砂糖水の置かれたシャーレ。このまま自然に動かなくなるまで餌を上げ続ける予定だった。幡野のいう通り、もうクロアゲハのつややかさはなくなり、美しさはなかった。子孫を残した事で、もう生命の輝きを失ってしまったのだ。
「集めてきた卵と、産卵した分が育てば、こうして標本づくりをします。どうして、育ててからそうするかというと、その方が自然の物を捕らえるよりも、美しい標本になりますから」
 幡野の説明は続いている。
「そうしたら取り出して針で止めます。取り出す時はもう乾燥して壊れやすいから気をつけてください」
 陸はゲージの中の枝についた葉の裏に、卵を見つけた。
「ちょっと牧部くん。話聞いて」
「幡野」
「幡野部長。それで、なに?」
「卵がある」
 みんなが寄ってきた。いくつも見える、小さな真珠色の卵を見て声を上げる。
「もう数は十分。処分します」
「じゃあ逃がしてしまえば。もともと自然にいたものだし」
 陸は幡野の眉があがるのを見た。
「牧部君、この蝶達は自然にこんなに大量に卵を残せたと思っている。その前に、天敵に襲われて、子孫を残せるわけはないの。これは私たちが一カ所に集めた結果なの。外に出せば、害虫になるのだから、外になんか出せない」
「なら、やっぱり飼うべきだ。それが捕らえた責任だろ」
 誰かが手を叩いた。大原先生だった。
「多数決しましょう。あなたもそれでいいわね、幡野さん」
 幡野は何かいいたそうだったが頷いた。
「わかりやすくいうと、この卵を殺したくない人」
 陸はいつもの幡野のリーダーシップを思い出し、だめだと思いながら手を挙げた。しかし周りには思うよりたくさんの手が挙がった。
「じゃあ飼うってことでいいかしら」
 大原先生の言葉に、幡野は全員の顔を眺めた。
「決には従います。その代わり、準備はみんなでしますから、とられる時間が増えるのは覚悟してください」
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2008年07月23日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−7

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 蝶の卵が孵り始めると、戦場のようだった。まずは、小さな幼虫をピンでつまみ、シャーレに入れ、幼虫用の餌を与える。
 大きくなってきたら一匹単位で大きめの箱に入れる。そして学校で取った柑橘類の葉を食べさせる。その繰り返しだ。
「うまいうまい」
 陸は一年の子に教えながら作業をしていた。
 幡野が不機嫌そうに眉をしかめて入ってきた。驚いた一年の子が陸の背に隠れる。
「幡野、怯えているから」
「ごめんね。ちょこっとオトナの話をするから外出ていてくれる」
 陸が見たことのないような笑顔で、中腰になって幡野は一年の子に謝っている。
 一年の子が外に出るなり、陸を睨みながら幡野は話し始めた。
「プラン練り直し。あの校長め、学校の樹、これ以上切っちゃだめだって。前は標本持っていったら笑顔で校長室に飾って『自由にやってください』っていったのに」
「どうしようか?」
「どうにかするの」
「外に出すか」
「前と発想が変わってない」
「幼虫用の餌は。最初だけ使うやつ。今の大きさでも食べるんだろ」
「あれ結構高いのよ」
「とりあえず家に柑橘類の樹がある人に声をかけて、少しずつでも持ってきてもらおう」
「みんなに頼れっていうの」
 幡野の声が大きくなった。
「あのさ、これ多数決で決めた事だから。みんないうこと聞いてくれるって。あの時は根回しとか別にしてなかっただろ」
 陸ができるだけ冷静になるようにいったせいか、幡野も少し落ち着いたようだ。
 高い足音を響かせて大原先生が入ってきた。
「なんだ、大丈夫じゃない『ぶちょうがみたことないこわいかおできた』っていうから、喧嘩かと思った。で、どうしたの。あ、もしかして、ごめんなさい幡野さん」
「どうして私に謝るんですか」
 幡野は顔を赤くしていった。
「違うならいいけど」
 大原先生は意味ありげに笑い二人を見た。
「んで、どういう展開なの」
 幡野は、校長に餌の採集を止められ、部員に依頼をする事を話した。
 大原先生は軽く手で陸と幡野の頭を叩いた。
「家にないからって、ほかの家とか公園から持ってきちゃう子がいるかもしれないでしょ」
「すいません」
 陸と幡野は頭を下げた。
「先生におまかせ。こういうのはおおっぴらにしちゃった方が楽よ。若いうちから根回しとかしちゃだめ」
 大原先生は指で×を作った。
「知ってたんですか?」
 陸が声を上げたから、幡野が足を踏んだ。
「思っているよりもあなたたちは子供なのよ。そう、このコたちくらいね」
 そこには幼虫が騒ぎなど知らぬように食事を続けていた。
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2008年07月25日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−8

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「なんか疲れたね」
 陸の言葉に幡野は頷いた。
 最近は、みんなと連れ立って帰る事が多いから、二人で帰るのは随分久しぶりだった。
「あんなにぼうっとしてても、ちゃんと見てるんだもんな大原先生」
 幡野は答えないので、陸はそのまま一人話した。
「あの地図作ってあったのも授業で出てくる植物がどこにあるか解っていた方が、文章のイメージが広がるからって調べていたじゃない授業も楽しい、何か最初の頃の印象と違うよね」
「根回しは悪くない」
 幡野は悔しげにいう。陸が何かいう間もそれを考えていたのだろう。
「突然、何か起こると混乱が起きて大変なんだから。だから、その根回しも予告みたいなものなの」
「まあ先生と違って幼虫だからな」
「幼虫か。私もまだ幼虫かな」
「幡野はサナギくらいには、なっているんじゃない」
「そうかな」
「今みたいに根回しとか、細かいこと、幡野に会うまで考えた事なかった」
「なんだ、それ。せっかく蝶の比喩使っているんだからあるでしょ」
「何が授業みたいだ、比喩なんて。大原先生が言ってたようなの。昔、蝶は人の魂と思われていたとか」
「軽やかで美しいとかよ。莫迦ね」
 確かに幡野はずっと年上に思う時がある。しっかりしているし、好かれるとかはまだ別だと思うが、たぶん誰が見てもきれいだ。
「そうだな。幡野は蝶だよもう。それもアゲハとかきれいな大きいの」
 正直にいうと照れくさかったから、ふざけていった。
 陸がそういうと幡野が立ち止まった。黙るほど怒ったのかと思って、逃げようと二、三歩いった。しかし、幡野はそのまま動かない。
「どうした?」
 振り返った。
「ありがとう」
 幡野の顔を笑顔だが青白い。
「めまいがして」
 陸は崩れそうになる幡野を支えた。幡野は怖くなるくらい軽かった。
「ごめんね」
「家まで送る」
 陸は幡野に肩を貸して歩き始めた。
 十分程歩くと幡野の家についた。もともと別荘用の建物らしく、洋風な平屋の家だった。
玄関に入ると、幡野は「少し待っていて」といって上がっていった。
玄関はカーテンも閉められ暗かった。壁には『Parade of Papilio』と書かれた蝶の標本が飾ってあった。木彫りの箱に詰められ、蝶を刺すピン一つも一々装飾も凝っている。蝶そのものも、ラベルが貼ってあるものの、名前を読んでも知らない蝶ばかりだ。
 幡野が手にカンジュースを持ってきて、陸に放った。陸は受け取った。
「その『蝶のパレード』は母のなの。みんなを巻き込んで悪いけど、それくらいきれいなものが作れればいいなって」
「これは無理じゃないかな」
「やり方は教えて貰ったから、あとは手間暇だけだと思っている」
 産卵した蝶の美しさは落ちる事など普通知らないから、それもきっと幡野は母に教わったのだろう。
「それよりだいじょうぶなのか。今日は家の人は?」
「仕事」
「家の人に話した方がいいぞ」
 幡野は頷いた。こうして素直に頷く幡野は珍しいので、何か違和感がある。
「家族はみんな解っているし、伝えてあるからだいじょうぶ。それより時間いいの」
「あ、確かに。ジュースごち」
 陸は外に出た。玄関に立って幡野が陸の方を見ていた。手を振ってから、そのまま駆けだした。
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2008年07月27日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−9

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 大原先生は、職員会議や、全校集会で呼びかけを行った。その結果、果樹園一つが確保された。
 ミカン農家をしていたが、今年から止めたという果樹園で、ほとんど山一つ分だという。まだ、さしあたって利用することも決まっていないので、ミカンの木はたくさん残っているという。
 問題はミカン山のある場所まで電車で数駅なところだった。それは週一回先生が車を出し、生徒もローテーションで一緒にいく事になった。
 幡野はあれから元気で、ふらついたのは軽い不調のようだった。
 問題は陸だった。夏休みに入って数日。決まったのは父の転勤だった。来た時とは違い両親ははしゃいだ様子だが、陸はそんな気持ちにはならなかった。それも次の週末には戻るという。
 夏休み開けにはもうこの街にいない。せめて毎日、理科室に行き、ローテーションで蝶の世話をする理科クラブの面々に声をかけた。
 引っ越しの日になった。結局、幡野に会うことはなかった。だから、黒電話を前に正座していた。家に行っていいか尋ねるつもりだった。
 十時だし、もうかけていいだろうか。陸がダイヤルを回そうとすると電話が鳴った。
「幡野ともうしますが、陸君はご在宅ですか?」
「俺」
 そういった声は慌てていたせいで、くぐもっていた。
「今日先生が山にいけなくて、代わりに受け取ったんだけど、結構な量で、一人だと辛いの。駅で待っているから来てもらえる」
「俺さ」
「あ、お金切れる。麦わら帽子被っているから」
 電話が切れた。

 陸はかけだした。
 量が多いという事はもう確認している。だから、ミカン山の駅にいるということだろう。電車の本数は少ない。
 荷作りしてあった自転車の包装を解いた。駅に向かい、ペダルを踏んだ。ホームに走りこんで、行き先がミカン山のある上り行きなのを確かめて待っている電車に飛び乗った。
 ちょうど到着した下りの電車から人が出るよく日焼けした子供、サラリーマン、農家の人。最後に麦わら帽子が見えた。でも手に荷物はないし、幡野が着ない鮮やかなひまわり色のワンピース。
 単線なせいで、到着した電車と同時に走り出した。そして二十分ほど揺られ、ミカン山の駅についた。
 電車から飛び降りると、柑橘の爽やかな匂いがした。
 丸っこいミカン山。
 ホームには誰の姿もなかった。
 きっと重くて持てないのだと駅の外に出た。駅の周りを探しても誰の姿もない。
 単線の線路は上りも下りもなく、無人の改札は一カ所だけ。駅で待つ彼女は目の前にいるはずだった。
 でも目の前に見えるのは無人の駅とミカンの茂る山だけ。
『駅で待っているから』
 彼女は確かにそういっていた。いつもの頭のよさならきっと余裕で陸が着くように指示していたはずだ。
 どこか途中ですれ違った。それともあの麦わら帽子だったかもしれない。
 はっきりしているのは、彼女が言っていた駅。それはこの駅ではないのだ。
 戻らないと。そう思って時刻表を見ると一時間後だった。 
 一時間後電車に乗って、陸は戻った。止めてあった自転車の乗り、学校に向かった。理科室に置かれたミカンの葉は十分な量だった。
 そのまま幡野の家に向かった。呼び鈴を押すが誰も出てこない。
「幡野」
 声を外から出してみるが誰も出ては来ない。
 庭の方から覗いて見た。たくさんのチョウが舞っていた。アゲハや、クロアゲハ、モンシロチョウ等知っているものから、名前もしらないものまでたくさんだ。
 蝶のパレード。幡野の家で見た標本の事を思い出した。
 きれいなのに、どうしてか不吉な感じがした。
 電話しようと家に戻った。父と母が仁王立ちして家の前にいた。そのまま怒られ、幡野の事を話しても聞いて貰えず、車に放り込まれた。
 二日が過ぎて元の家に戻った。幡野に謝るつもり電話した。謝罪の言葉はたくさん腹にたまっていた。しかし、何度電話しても幡野は留守だった。
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2008年07月28日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−10

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 新しい生活には、簡単になじんだ。家は生まれた時から住んでいるから当たり前。学校も、一年の間いなかっただけで、クラスメイトの半分程は、陸からすれば多くが友達か顔なじみといっていい間柄だ。幸い担任も、去年陸がいた時からそのまま上がったので知っている顔だった。
 父は毎日遅くまで仕事をしているが元気だし、母は笑顔を取り戻した。
 ただ、母は今まで放置していた息子の将来について心配を始めたらしい。戻って来るなり陸は塾に入れられた。放課後のほとんどを占めるその時間はあまり楽しいものではなかった。
 塾のない放課後、陸は自分の部屋でカブトムシを眺めていた。
幡野にもらったカブトムシの幼虫は、夏には成虫になり、雄大に角を誇っていた。
「楽しかったな」
 陸は呟いた。
 塾はつまらず、あの理科クラブでの活気ある日々が懐かしい。
 どうしてか哀しくなった。自分が本当にいるのは、あっちで、こっちではないように思えた。
 電話が鳴った。暫くしても誰も出ないので陸は電話に出た。
「大原先生」
「元気だった」
 久しぶりに聞く大原先生の声は明るいが、不思議と沈んで聞こえた。
「そっちには慣れた」
「ええ。でも、あっちに戻りたいってちょっとだけ思います。理科クラブ、今考えるととても充実してました」
「そう思ってくれならうれしい。でも、そっちでの生活もがんばって。都市は勉強のペースが速いから」
「塾もいっていますから。そっちはどうですか、みんな元気ですか?」
 沈黙が答えた。何か胸が冷えるような嫌な感じがした。
「何かあったんですか?」
「落ち着いて聞いてね。幡野さんが亡くなったの。陸くんが引っ越した頃から調子を崩していて・・・」
 大原先生の声が遠くなって意味のないノイズとなっていく。
 何をいっているか解らなかった。どう答えたのか解らぬまま電話を切っていた。
 夕日が差し込んでいた。窓の向こうに見える夏ミカンの木陰を、アゲハチョウが一匹飛んでいた。
 
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2008年07月29日

蝶の葬列−Funeral Parade of Papilio−11

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「変わらないな」
 同窓会のため十二歳の時以来、単線の電車に乗った。昔に比べて、人が減ったのか、電車は空いている。
 今では都会で見かける事が少ない、向かいあわせになった四人がけの席に座り、陸は長い移動を思った。
 子供の頃も遠いと思ったが今でも遠かった。飛行機と電車を使ってもおおよそ一日がかりの移動だ。始発で出たのに、もう日は傾いている。
 外を見れば、窓を流れていく風景は、どこか見覚えがあった。目的の場所が近いのを強く感じた。
 眠気が襲ってくる。単調な電車のリズムのせいだ。陸は眠気を払おうと、頭を振ったが無駄だった。始発のあわせるために早起きしたので、随分頭がぼうっとしている。
半ば閉じてしまった目に、ミカン山が見えてきた。昔と変わらず、ミカンの木が揺れている。その周りには何匹ものアゲハが舞っているのが見えた。
あの中に幡野の魂もあるのだろうか。
『ありがとう』
 幡野の声が思い出された。
 幡野は蝶になれない、成人できない自分を知っていたのだろうか。だから、ああ尋ね、自分の、ふざけたような答えに喜んだのだろうか。
 自分の中に、幡野織は思い出のピンで留められ、きれいな蝶のような姿で残っている。それが彼女の望みだったのかもしれない。
 でも、それは欺瞞だ。あの時、駅で気づけば、少なくとも生きている彼女にあえたのだから。
 電車が速度を緩め、停まった。
車窓からホームが見えた。麦わら帽子が揺れている。ひまわり色のワンピース、麦わら帽子、ミカンの葉の入った籠。
少女は顔を上げて、陸を見た。
「こんなに何匹もいるとまた置いていかれそうだったから」
 昔とかわらない白い肌。昔は分からなかった小さな華奢な体。
「今度はちゃんと運んでよね」
 陸は頷いた。それが目を開ければ消えてしまう夢と思っても。
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2008年09月01日

できれば今日見てね

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これから起こる物語です


約束の流れ星
http://syotanpen.seesaa.net/article/105861574.html
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2009年07月07日

Labyrinth Flaneu1

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「なんだここ」
 麻績優は声をあげた。
 優が見ているのは、パソコンの画面だった。
 いつもと同じようにネットサーフィンしていたはずなのに知らないところにきてしまった。
 こんな風に知らないところに来るのは珍しくはない。なんといって、ネットはそもそも確認しきれないくらいたくさんあるし、そのうえ一日常にサイトは増加している。加えて『Deep Web(ディープウェブ)』と呼ばれる検索エンジンでも見つからないサイトもある。
 だから、新しいサイトを見つけるのは珍しい事はないのだ。
 しかし、意図してないサイトに入るのは珍しい。どこかに貼られていたリンクがダミーで、違う所に転送されたのかもしれない。それならあまりいいことはない。もしかしたらパソコンに不具合がでるような罠が仕掛けられているかもしれない。
 部屋の中にいるようだった。それがどこかのカメラから送られてきている映像のようだ。
 それはどこかの部屋のようだった。コンクリートが打ちっ放しの部屋は、窓はなく、薄暗い。天井につけられた裸電球が揺れている。どこかの地下であるようだった。
 毛布を被った自分と同世代と思われる少女が壁に寄りかかっている。顔を下に向けているので表情は見えない。
「やばいサイトかな」
 一応、セキリュティソフトを確認するが、ウイルスやトラップの類はないようだ。
 しかし、危ないのは変わりない。接続を切ろうとすると、少女が動いた。毛布がずれて、足が見えた。その足首には奴隷であるかのように足枷がつけられている。
「趣味悪」
 思わず舌打ちする。
 演出にせよ足枷は鋼で作られていて、足に噛みついたように見える。足枷の横には青白い痣がついている。その痣の横には切り傷がある。
 優は息を飲んだ。よく見れば少女の足には無数の痣や傷があった。それは自然でできるものではなかった。
 裸電球の光のせいで部屋全体はよく見えないが、床に黒い染みが見える。それは固まった血のように思えた。
 カメラを設置し、海や空の様子を、定点観測してインターネットで流しているところも多い。アダルトサイトでは、若い女の子の部屋をカメラを設置して盗撮しているサイトもある。それはやらせだが、これはどうだろう。
「これ本物か」
 少女は顔を上げた。髪で顔を半分は隠れているが、綺麗な輪郭が見える。その口元にあるほくろには見覚えがあった。
 優は立ち上がってパソコンの画面に近づいた。画面に近づいたところで髪で隠れた顔が見えなくなるわけではない。
「ああ、もう」
 声が聞こえたように少女は顔を上げた。
 髪が流れて顔が見えた。猫科の生き物のようにつり上がって見える目。
「やっぱり」
 そこに映る顔はクラスメイトの弥勒地華弥だった。
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2009年07月08日

Labyrinth Flaneu2

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 寝不足だったせいで、遅刻しかかった優は、八時十四分に教室に駆け込んだ。あと一分で、ホームルームが始まる事もあって、教室の席はほとんど埋まっている。
 担任の大原先生が入ってくる。
 クラスのいろいろなところから先生に、朝の挨拶が上がる。
まだ、大原先生は着物が似合いそうな和風の美人で、どこか幼いところもあって生徒に人気もある。
 出席を取り始めると、だれもが大きな声で答えるが、弥勒地華弥の答えはない。
 別に誰も華弥の事を話題にしないが、学校では有名な女の子だった。
 低学年の時にアニメの声優で映画に出て、校内で知られる事になった。高学年になってからは月9のミステリーに出演して端役ながらも、明るい演技で有名になっていた。芸能界の生活が忙しいのか、不登校でほとんど学校に来ないことだ。
 優はこみ上げてくるあくびを口で押さえた。
 昨夜見たサイトが気になって優はほとんど眠れなかった。そんなにいつもは夜遅くまで起きているわけではないせいでふらふらする。
 二限目の授業まではがまんできたが、三限目で限界だった。
 大原先生に体調不良を報告すると、保健室に連れて行かれた。
「この子、気分よくなるまで寝かしておいてもらえない」
 大原先生の声に、白衣を着た養護教諭のイチゴちゃんが顔を出す。
「分かったわ。じゃあ、君、そこのベットで横になって。奥にも先客がいるから静かにね」
 ベットに寝転がるとイチゴちゃんが仕切のカーテンを閉めた。
 先程まであれだけ眠ったかったのに今は眠くない。保健室に来るなんて珍しいから、胸がどきどきしている。
 天井を見ていると、それが少しづつ灰色になっていくような気がした。
 保健室の天井は白いし、灰色で裸電球なんて揺れているわけはない。自分がいるのはベットの上のはずだから。
 それなのに触れている背中から容赦なく体温を奪っていく。
 足音がした。姿を見せたのは知らない人間だった。その手に見えるのは鞭のように思えた。
 風切る音が響いた。痛みが頬に走った。鞭で打たれた。
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2009年07月09日

Labyrinth Flaneu3

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 どうして、なんで。
 殴られるようなまねはしていない。そう思った。考えている間に鞭は何度も振り落とされる。考えられなくなる。
 痛みが、来る度に獣のように叫んだ。
「起きなさい」
 目を開けた。そのせいで自分が夢を見ていたのが分かった。昨夜の華弥の映像。あそこに自分が巻き込まれた夢だ。
「落ち着いた」
 艶のある高い声だった。声の方を見れば、きれいな輪郭とほくろが見えた。猫科の生き物のようにつり上がった目が自分を映している。
「みろくじ」
「さんくらいつければ」
「弥勒地さん。僕、俺は優」
 華弥とクラスメイトだが話すのは初めてだった。
「それでいいわ。私は自己紹介はいいわね?」
 優は頷いた。
「それで何で魘されてたの?」
「怖い夢を見て」
「子供ね」
 誰のせいだと思って言い返そうとすると、華弥は顔を近づけてくる。茶色くて澄んだ瞳に吸い込まれそうだ。
「何だよ」
「それくらい元気なら大丈夫ね。そろそろ仕事いくから」
 華弥は離れると背を向けた。
 昨日見た足首の痣が気になって足下を見た。足はジーンズで覆われて見えない。どこか肌が出ていないか見た。夏だというのに黒い長袖のシルクのシャツで、手すらも手袋で覆われている。
「じゃあ、イチゴちゃんにいっておいて」
 華弥は軽く手を振って出て行った。
「お大事に」
 そのまま優は華弥の消えたドアを見続けていた。
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2009年07月11日

Labyrinth Flaneu4

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 家に戻ると直ぐにパソコンの電源を入れた。
 昨夜気になったので、弥勒地華弥に似た少女のいたサイトは、一応ブックマークにいれておいた。
 インターネットにつなぎ、サイトを開く。
 そこは昨日と同じ部屋だった。だが、少しは元気になったらしく少女は顔を上げている。ただ、何もする事もなく、一点を見つめていた。その一点はカメラだった。
 今自分が見ている視界以外にもカメラがあるのだ。そう思ってサイトをいじっていると、カメラの変更らしいアイコンが現れた。
 クリックすると、少女の正面のアングルに切り替わる。
「やっぱり弥勒地だ」
 今までは遠くで見ることしかできなかったが、今日、声をかわしたからこそ、ここにいるのが弥勒地華弥である自信が持てた。
 正直、弥勒地華弥のようなきれいな女の子がそこら中にごろごろしているわけはないのだ。
 あのあと学校から出て、ここに来るのが仕事なのだろうか。だとすると、これは一種のヤラセなのだろう。
 学校での様子を思い出して、少しだけほっとしていた。華弥が仕事の上でしているのなら、この異様な様子もきっと何らかの約束事なのだ。
 それなら、今ここで見えている華弥の演技は素晴らしいものだ。学校での闊達さは一切感じさせず、ただ何の興味もないのにまばたきもせずにじっと一点を見つめている。ただ、存在しているだけの人形のように思える。
 それなのに見ていると何か胸の中を掻きむしられるような気がするのはどうしてだろう。
 こんな華奢な壊れそうなものなのに。
 いや、壊れそうなものだから、人に壊される前に自分で壊したいのか?
「やめやめ」
 優は声を上げた。誰も分かりはしないのに、今自分の感情がおぞましいものに思えた。
 慌てたせいで画面のアングルが変わる。華弥の口元だった。薄く血の気無い唇は動いていた。学校で見た生き生きとしたものとはまったく違うその輝き。それが何か呟いている。
 声は聞こえてこない。
「どうしたんだよ」
 声をかけても華弥の表情は変わらない。聞こえてないのだから当たり前の事だ。
 それでも気になって華弥の口元をじっと見た。
 それは同じ動きを繰り返していた。何度見てもそれは変わらない。
 彼女の口が紡いでいるのは、ただ一つの言葉だった。
「タスケテ」
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2009年07月12日

Labyrinth Flaneu5

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 一時間目を終えると、教室を飛び出した。
 めざすのは保健室だった。扉を開けると中には、養護教諭のイチゴちゃんの姿は無かった。
 ベットの方を見ると奥のベットにだけはカーテンがかかっている。
 今日も華弥はここにいるのだろうか。
「弥勒地さん?」
 答えはない。ただ、静かな寝息が聞こえてくる。
 祐介はベットに近づいた。
 華弥がいればこっそり傷を見られる。もし、傷があれば、何らかの事情で、華弥はあのサイトでに何かされているのだ。それも自分の意思ではなく、助けを求めて。
 カーテンに手をかけた。少し隙間を開け、中を見ると、タオルケットに包まれている、背中が見えた。その背中はよく眠っているのか寝息に合わせて上下している。
 こっそり見るだけだ。こっそり。しかし、もし華弥が起きてしまったら。そして誰かに話してしまったら。
 スパイラルして悪い方に考えが浮かんだ。
 でも、それはない。これだけしっかり寝ている。
「ごめん」
 声にならない程小さくいうと、タオルケットに手をかけた。
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2009年07月13日

Labyrinth Flaneu6

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「そこまでよ」
 弥勒地華弥の声が響いた。
 目の前ではない。したのは背後でた。
 振り返れば、ランドセルを背負った華弥が立っている。
「あれ?」
「早起きは三文の得っていうけど、いつもより早く登校してきてみたら」
 芝居がかった様子で華弥は頬に手を当て、
「麻績くんたら、寝ている女の子を覗こうなんていやらしい」
「いや弥勒・・・」さんかと思って、と言いかけてから辞めた。
 しかし、華弥はしっかり消えた語尾も分かったようだ。
「ふーん、私かと思ったんだ。残念だったね変態さん」
 何も言えなかった。顔がとにかく熱くて、頭に血が上っているのが分かる。
 ここで騒いでも何にもならない。ゆっくり深呼吸して息を落ち着ける。
「弥勒地さんの仕事に比べれば変態じゃないよ。あんな格好して、人前に出てさ」
 言い返してくるかと思ったが華弥は息を飲んでいる。そして発した声は、今まで見た事がない華弥の顔だった。
「誰に聞いたの?」
「誰だって分かるさ。こんなに暑いのにそんな厚着して」
「そうなんだ。でもね、これは私にとって、一つのターニングポイントなの。麻績くんが何といってもね」
「あんなに辛そうなのに?」
「辛い。確かに辛いけど、ここは私にとって必要なステップなんだから」
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2009年07月14日

Labyrinth Flaneu7

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「うるさい」
 布団を飛ばして、起き上がったのはイチゴちゃんだった。
「話は聞かして貰いました。つまり、簡単にいうと華弥ちゃんが麻績君を好きって事ね」
「違います」
 華弥が声を上げた。
「まだツン期みたいだよ。残念だね」
 イチゴちゃんは白衣を翻してベットから降りた。
「違います」
 今度はさっきよりは少しは柔らかいが、それでもきついのは変わりはない。
「それで喧嘩の原因は何なの?」
「すいません。僕が、弥勒地さんを怒らしたのが悪いんです」
 優が先にいってしまったせいか、華弥は怒りが一気に醒めてきたようで、小さく舌打ちした。
「いい子になって」
「綺麗な子が舌打ち何かしないの。素敵女子でしょ」
 一時間目の休憩を終わる鐘が鳴った。
「すいません。失礼します」
 優は頭を下げて、保健室から出た。その手が捕まれる。
 振り返れば、イチゴちゃんが手をつかんでいる。
「熱あるみたいだから、少し休んでいきなさい」
「いや熱なんて」
「大丈夫ですから」
「まあまあ」
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2009年07月15日

Labyrinth Flaneu8

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 丸い椅子に座らされた。
 本来その椅子に座るべきイチゴちゃんは目の前に。扉の方では華弥が通さないとばかりに仁王立ちだ。
 逃げ道は、残念ながらないようだ。このまま黙っていて、授業に行かなければ、大原先生は間違いなく怒るだろう。しかも、少し楽しそうにサドっ気を出して。
「あの実は、あるサイトを見たんです」
「あるサイト?」
「はい。そこで弥勒地さんと思われる女の子が、虐待されているようなサイトでした」
 華弥の方は、ドナドナでも見るような目で、こっちを見ている。
 先生の前で、キッズグーグル(児童向きのグーグル。青少年の教育上好ましくないキーワード検索は行えない検索サイト)に登録されていないようなサイトを覗いていたのを白状したのだ。場合によっては、保護者に連絡が行くはずだ。
 優を見たままイチゴちゃんは無言だった。何か考えているようだ。
「そのアドレス分かる?」
「今は分かりません」
「ありがとう。あと、華弥ちゃん、腕まくってあげて」
「え」
「早く」
 華弥は手袋をとった。そこにある白い肌は日焼けしていないせいか、白く見えるが、一切の傷は見えない。
「どうして」
 思わず顔を近づけるとさっさと華弥は手袋をつけた。
「これで分かった? 華弥ちゃんはあなたが心配するような事件に巻き込まれていないから大丈夫」
「じゃあ、あの子は誰なんですか?」
「それを確かめる為にもそのサイトが見たいの」
「分かりました」雑記
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2009年07月16日

Labyrinth Flaneu9

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 大原先生に命じられた教室の窓ふきが終わったのは、もう下校のチャイムが鳴り響く頃だった。
 結局、保健室で止められていた時間は、さぼりと認定されたようで、とてもいい笑顔で掃除を命じられた。
 教室に戻った優には罰。ずっと保健室にいる華弥はおとがめ無しというのは何かおかしい気もした。
 しかし、先生には逆らえない。
 廊下に出ると弥勒地華弥が立っていた。
「おつとめごくろうさま」
 言葉こそ丁寧だが、目は笑っている。
「どういたしまして。で、何か用?」
 冷淡にいうと華弥は手をいきなり合わせた。
「お願いがあるの」
「何?」
「先生に明日見せる前にさっきいってたサイト見せてもらえないかな」
 華弥の言葉の意味を考えた。
「やっぱり、本当は弥勒地さんなの?」
 華弥は小さく首を横に振った。そして自分の足下を見るように顔を下げた。
「双子の姉がいるの。うち、両親が離婚していて、姉は父の元にいるんだけど、もう何年も連絡がとれてなくて。もしかして、お姉ちゃんかもしれないの」
「お姉ちゃんが」
 華弥は芝居をしているのではないか。そんな考えが脳裏を掠めた。
「警察にしらされたりしたら、お姉ちゃんに被害がでるかもしれない。だからその前に確かめたいの」
 あげた華弥の目から涙がこぼれている。大きな瞳に涙がうつってそれはまぎれもなくきれいだった。
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2009年07月17日

Labyrinth Flaneu10

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 優は横を歩く華弥の横顔を見つめた。学校から帰る途中、こうして顔を見るのは何度だろうか。
 最初は落ち着いたように見えた華弥の顔だったが、家が近くなるにつれて、不安らしく、目がちらちらといろいろな方向を見るようになった。
 あまり親しくもないクラスメイトの家に始めていくからだと最初は思っていたが、そうではないのが直に分かった。
 おびえているのだ。その証拠に最初は少し遠くにいたのに、今は自分のすぐ後ろを小さな子供のようについてきている。
 優の住む団地は、建物自体の老朽化と、住人の高齢化のせいで、人の姿をあまり見ない。加えて建物全体の住人の意思が統一できた建物は、売られてしまい廃墟のようになっている。そんな建物が多いせいか、全体としてはゴーストタウンといってもおかしくない地域が多い。
 そんな景色だから遠くからでも見えそうなものだが、高速道路のせいで、通っている学校から団地は見えない。
 華弥は初めて存在を知ったのかもしれない。
 優の住んでいる建物はそれなりに人がまだ多くいる棟だが、団地の中でも古い建物だから、雰囲気は先程まで通ってきたゴーストタウンと変わらない。
 建物につくと、エレベータのない階段を上がる。四階に優の家はあった。立ち止まり、自分の部屋を指さすと、華弥は大きく息を吐いている。
「古くて驚いた?」
「別に」
  扉をあけると、いつものようにぎいっと重い音がした。振り返れば華弥が少しばかり、身を固くしている。確かに慣れない人からすれば、この鉄の扉も少しばかり恐ろしいものだろう。 
「どうぞ」
 祐介がいうと、華弥は頷いた。
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2009年07月18日

Labyrinth Flaneu11

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 華弥は驚いているようだった。家の中は片付いている。和室になった部屋には荷物らしいものはない。
「それに座って」
 座布団を出して置く。
「パソコンは?」
「部屋にあるから持ってくる」
 祐介はランドセルを起きがてら、自分の部屋にいって取ってこようとすると、後ろから華弥がついてくる。
「どうしたの」
「動かすの面倒でしょ」
「え、嫌だよ」
「そこ」
 舞うように足軽く、華弥は祐介の前の扉を開いた。
 華弥の動きが止まった。
「綺麗で驚いた」
「綺麗って言うか、ものないんだね」
 板張りになって洋室には、床に直にノートパソコン。壁際には段ボールがいくつかと、寝袋が置いてある。
「なんでこんなに物がないの」
「うち、転勤多いんだ。引っ越しの度に片付けるのが面倒くさくなっちゃってね。だいたいの事はパソコンがあればいいしね」
「そんなもんなのかな」
「弥勒地さんも引っ越したことあるでしょ?」
「ないよ」
「両親が離婚したって」
「ああ、あれ。ああ、えっと、家は残ったから」
 言葉に詰まる華弥に優は罪悪感を覚えた。もしかしたら、何か辛いことを聞いたかもしれない。
「ごめん」
「いいよ、気にしないで。それよりパソコンを」
 優はパソコンの前に座った電源を入れる。華弥は後ろから中腰になってパソコンの画面を見ている。
 
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2009年07月19日

Labyrinth Flaneu12

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 ブラウザが立ち上がり、画面に地下室が現れる。
 中には華弥に似た少女がいた。コンクリートの床に伏せている。
 コンクリートの冷ややかさは、寝ているだけで熱を奪われ体力を削られる。
 今までとほとんど同じで、少女は動かないまま頭を下げている。
 背後にいる華弥の息づかいが、画面に被って聞こえてくるので、生々しく感じられる。
 振り返れば、華弥は一心に画面を見ている。その目は離れた姉を見ると言うよりは、敵でも見るようなにらみつける物だ。華弥はいらついているのか自分の親指の爪を噛んでいた。
「どうかな」
 華弥は爪を噛むのをやめないままいう。
「映像粗いからっていうのあるかもしれない。でも、悔しいけど、私に間違ったって言われても納得できる」
「そうでしょ。よかった」
 少し嬉しくなって答えると、華弥ににらみつけられた。
「よかったなんかじゃないよ。この子の傷、大丈夫っていうレベルじゃないよね」
 華弥は画面を指さした。少女の身体のいろいろな所に見える傷。優は気づかなかったが他にもたくさんあるのが分かった。
「ねえ、これ何なの? アダルトサイトってやつ」
「最初に偶然かかったからよく分からない。ただ、まっとうなものじゃないと思う」
「まともなサイトを見てなかったいいわけみたいだけど、まあいいわ」
 華弥は爪を噛むのを止めた。
「どこの誰か知らないけど、この子は助けないといけない」
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2009年07月21日

Labyrinth Flaneu13

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 優はパソコンを見ていた。開いているのは『Daylily』だ。
『この子は助けないといけない』と華弥は言っていた。具体的に何も思いつかなかったらしく、そのまま帰っていった。
 優ができるのはサイトをこうして見ることだけだ。だが、その中にもしかしたら、彼女を救うヒントがあるかもしれない。
 しかし、見ていても彼女はほとんど変わりはない。
 優はサイトを動かしはじめた。前したようなカメラの切り替えをしていれば、何か今までの視界では、見ることができなかったものがあるはずだ。
 その中で怪しそうなものを探す。例えば、特定の場所をクリックすると、何か起動するものがあるかもしれない。何かキーを押せば現れるものがあるかもしれない。そう考えていろいろと調べて回ることにした。
 気づけばもう夜中になっていた。
 食事を作るのも面倒だったので、ポテトチップスと、牛乳で夕飯代わりにして、続けることにした。カロリーが回ってきたせいか、頭がすっきりする。
 パソコンのキーや組み合わせは有限だが、実際行うには不可能と思われるくらい多い。
 検索サイトで、『Daylily』を検索する事にした。しかし、分かったのは、それがワスレグサと呼ばれる植物の英名であり、語源は一日で花が枯れるからと言われていることくらいだ。このサイトそのものに関する情報は見あたらない。
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2009年07月22日

Labyrinth Flaneu14

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「もうこれ以上は無理か」
 パソコンから離れてひっくり返る。どちらにせよ、これ以上は自分でできないかもしれない。
 それなら人の手を借りる事もできる。基本的にwebの世界は自己責任だ。調べも考えもせず、学校で先生に質問するように、聞く甘えは許されない。そんなことを聞いたが最後自分でもっと調べろといった意味で『ググれ』や、『過去ログ見ろ』といった言葉が返ってくる。
 しかし、このサイトに関してはそんなことないのではないだろうか。これだけ調べても分からないのだから。
 確実にそういった知識やテクニックを持っている『神』と呼ばれるような人間のいるのは、匿名系の大手掲示板だが、独特の言い回しも必要で辛い。しかし、書き込むのならここだろう。
 文章をいろいろ考えて書き込もうとしたところで、手が止まった。
 もし優がここでサイトのアドレスを書けば、場合によってはかなりの勢いで情報が広がる。そうすれば、『Daylily』が、アクセスの多さに耐えきれずつぶれるかもしれない。そうなってしまえば、もう何も分からなくなる。
「そうだよなやっぱりダメだ」
 起き上がってパソコンの画面を見た。思わず声がでていた。そのまま手を伸ばし画面を閉じていた。
「何だよ今の」
 閉じる寸前、画面いっぱいに迫っているのは鳶色の瞳だった。カメラぎりぎりまで近づいているような少女の顔。
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2009年07月23日

Labyrinth Flaneu15

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 放課後、保健室に向かった。
「遅かったね」
「ちょっといろいろあって。すいませんでした」
 何もありはしない。無かったのは、ただ、保健室に来るのに遅れたのは、優の問題だ。
 優は保健室の中を見回した。華弥の姿はない。
「失礼します」
「華弥ちゃん、今日は来てないわ」
「そうですか」
 少女の瞳に射貫かれた気がした。その瞳にある虚ろなものを思い出すものに近づくのが怖かった。
 少女にもっとも近いのはサイトであるが、似ているのは華弥だ。華弥の中にあの少女を見いだしてしまえばもう。
 いちごちゃんがじっとこっちを見ている。観察するような目に、自分が華弥を避けているのが見透かされているかと怖くなった。
「で、サイトのアドレスなんだけど、もしかして忘れた?」
「いえ、メモです」
「ありがとう」
 イチゴちゃんは笑顔のまま、メモを受け取り、机の上のパソコンを起動した。
 さっさとアドレスを入力し、マウスをクリックしているのが見える。
「サイト、消えちゃってるね」
「本当ですか?」
 画面は確かに真っ白で404表示。存在しないのを示していた。
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2009年07月24日

Labyrinth Flaneu16

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「間違ってないんでしょ」
 確認するように手で促され、優はパソコンの画面を見た。アドレスを確認するが間違いはない。
「もしかしたら、消えちゃったかな」
「昨日、今までと違う見え方してたんです。あれは最後だったからかも」
「どんなだったの?」
「カメラにぴったりくっつくように彼女の顔というか目が見えました。何かすごくてすぐに締めてしまったんですけど」
 イチゴちゃんは小さく『まさかね』と呟いた。
「何がですか?」
「彼女に何かあったから、サイトが閉鎖されていたら、どうしようかと思ったの。まさか死体をずっと見せているわけじゃないでしょ。九相図じゃあるまいし」
「くうそうず?」
「絶世の美女、小野小町が、死んでから骨になるまでの姿を、現した絵の事」
「でも死んだなんて」
「死ぬわけ無いじゃない」
 その叫んだのは華弥だった。
 華弥は、ランドセルを載せた肩を怒らせて、頬は紅潮している。
 姉かもしれない彼女が死んだと何の確証もないまま話しているのだ。優は自分の無神経さがいらだたしかった。
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2009年07月25日

Labyrinth Flaneu17

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「落ち着いて」
 イチゴちゃんは立ち上がると華弥の肩を叩いた。
「つながってなくても分かることはあるから」
 イチゴちゃんは華弥を連れて、パソコンの前に立った。
「何する気ですか?」
 優の問いかけにイチゴちゃんは笑った。
「つながってなくても得られる情報はあるの。ドメインっていうのはどこの誰が登録されているか調べることができるのよ」
「誰でもですか?」
 優の質問にイチゴちゃんは頷いた。
「そう公開されてるの。Whoisサーチというので調べることができるの。もっとも、それに対しての対処法はいくらでもあるんだけどね。あまり知らない人の方が多いかも」
 画面には黒字に白で様々な文字が浮かんでいる。意味の分からない英語の文章だ。
 華弥もじっと見ている。
 イチゴちゃんは読み取っているようで無言だ。
「どうですか」
「残念、対処されているみたいで、情報とれないな」
 イチゴちゃんの言葉に華弥は小さく首を横に振った。
「いえ、どうもありがとうございました」
「何か力に慣れなくてごめんね」
 華弥は優の腕を掴んだ。
「じゃあ、帰ろう」
 そのまま優は華弥に引っ張られ外に出た。
「じゃあ行きましょうか」
 華弥はいった。
 昨日の少女の見せた虚無は華弥にはないが、やはり正面から見ると動機が早くなる。
「どこにさ」
「彼女のいるところによ」
「なんで分かったの?」
「さっきの画面に、住所があった。桜市のね」
「だって先生何もいわなかった」
 イチゴちゃんが嘘をついていたというのだろうか。
「生徒が危険に近づくって思ったんでしょ。まあ、教師としては悪い反応じゃない」
「それにしたってよく覚えられたね」
「だって女優ですから」
 華弥はにっこりと笑った。
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2009年07月27日

Labyrinth Flaneu18

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 華弥が見た住所は駅前だった。それをしった子供達がどうするか考えてイチゴちゃんは何も言わなかったのだろう。
 その辺りは狭い中華料理屋や昔ながらの小さな飲み屋が並んでいるが、あいている店も多くあまり柄のいい場所ではない。
 住所をたどっていくと、横に倉庫らしい建物のある平屋の店だった。優はこの店を知っていた。
 バナナ書店。書店といいながら、中古の本を中心に、ゲーム器具やパソコン、フィギュアなども扱っている店だ。優の使っているパソコンも父親がここで買ってきたものだ。
「入ったことある」
 華弥は首を横に振った。
「だってここあまりいい店じゃないでしょ」
 優からすれば、華弥のいういい店の基準は分からないがいつものように入ることにした。
「入るよ」
 華弥が声をかける。
「ちょっと待って」いかにも顔が隠れますといってサングラスを華弥はかけた。「これでいいわ」
 バナナ書店に入った。
 レジは店を入ったところにあった。学生らしい店員は、こちらに声をかけることなく、手元のパソコンに熱中している。
 店先には新作のゲームや、マンガを中心に置かれている。そして中古らしいノートパソコンや、アイポッドのようなMP3プレーヤーがガラスのケースに入っている。
 さらに進むと中古のゲームと、古書のフロアになる。
「何か変な臭いする」
 華弥が結構大きな声で言うので口を押さえた。
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2009年07月28日

Labyrinth Flaneu19

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「大きな声出すなよ」
 中にいる数人が自分の服を嗅いでいるのが見えた。
「本当の事だから」
 華弥は嘯いた。
 華弥を無視して先に進んだ。店の奥にはアダルトと書かれたコーナーがあった。
 少女に関わるものがあるとしたら、ここから先のような気がした。
 周りには人の目はない。
「ここなの」
 華弥はさっさと入っていくから慌ててあとを追う。
 入り込んだそこにはDVDが所狭しと並べられている。
「ここは子供は入っちゃ困るんだよね」
 背後から声がした。
 店長と書かれた名札をつけた中年の男が立っていた。手にはロゴの入った段ボールを持っている。
「ごめんなさい」
 優は反射的に頭を下げる。
「はい、出て出て。君たちがそういうのしてるの、見つかっちゃうと、おじさんが捕まっちゃうからね。はい、そっちの女の子もね」
 華弥は戻ってきた。無言のままで優の後ろに隠れてくる。
 さっさと店の先まで来た。レジではアルバイトがパソコンに夢中のままだ。
「おい、ちゃんと見ててくれよ」
「はい」
 精気のない声でアルバイトは答える。
「私の出ている作品あるかな」
 華弥はサングラスを取って顔を晒した。
 店長が息を呑んだ。
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2009年07月29日

Labyrinth Flaneu20

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 優は家に戻ってパソコンを開いた。
 グーグルに慌てて文字を入力する。文字は、『弥勒地 華弥 ヌード』。
 多くは無いが、数件の検索結果が表示された。
 開こうとすると、削除されており表示はされない。ただ、検索に出る結果を合わせてみると、華弥のヌードがどこかに出回っているのが分かった。それだけではなく、ポルノも出回っているようだ。ただ、それは本物ではなく、そっくりな偽ものであるという話の方が大筋なようだ。しかし、そのせいで決まりかけていたNNKの番組が駄目になったと記されていた。
「先に教えてくれよ」

 バナナ書店で、華弥がサングラスをとった瞬間、バイトは精気ある声を発した。華弥ににらみつけられるとサインを求めてきた。おまけにデジカメで写真を求めてきた。
 華弥がサングラスをとったのは相手に動揺を与えるつもりだったらしいが、その結果にはならなかったのだ。
 店を出ると華弥は憎憎しげに呟いた。
「いらついて何か殺しそう」
 にらみつけてくる華弥に優は目をそらした。
「おっかないな」
「もうストレスで死にそうなんだから。ああ、もうどっかで解消しなきゃ」
「そんなに思いつめないでよ。イチゴちゃんも何かしてくれうだろうし」
「だといいけど」
「どうしてそんなに信用しないの?」
「家で弥勒地 華弥 ヌードで検索してみなさいよ」
 華弥は立ち止まった。
「ストレス限界。あなたは先に帰ってるといいわ」
 叫んで華弥は走っていってしまった。
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2009年07月30日

Labyrinth Flaneu21

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「お姉さんかもしれないんだし」
 優が話した少女のことを聞いて、華弥は真っ先にこれを思い出したのだろう。
 優はブックマークしてある『Daylily』を開いた。
 空白のページが出ると思ったそこには少女がいた。少女は倒れているがいつもと服が違った。日差しに一切あたらないような露出の少ない服。それは今日、華弥の着ていたものだ。
 華弥が倒れている。足元に転がっているのはサングラスだった。
 画面に顔を近づける。目に入ったのは、段ボールだ。そこに書いてあるロゴは、先程店長が持っていた段ボールにも同じ物が描かれていた。華弥はそれに気づいたのだ。
「ああ、どうして」
 優は駆けだした。
 恐らく華弥は一人で、乗り込んでいって、捕まったか何かで危ない目にあっているに違いないのだ。
 自転車をかっ飛ばして、バナナ書店が見えてきた。
 先程まで営業していたのに今は閉店の札が出ている。そのまま通り過ぎて、少し離れたコンビニの前に自転車を停める。
 正面からいって、華弥を返せと騒いでも意味はないはずだ。あの華弥の様子からいって、何か暴力をふるわれたかもしれない。
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2009年07月31日

Labyrinth Flaneu22

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 自転車をかっ飛ばした。息が切れてペダルを踏むのも辛くなった頃、バナナ書店が見えてきた。
 先程まで営業していたのに今は閉店の札が出ている。そのまま通り過ぎて、少し離れたコンビニの前に自転車を停める。
 正面からいって、華弥を返せと騒いでも意味はないはずだ。あの華弥の様子からいって、何か暴力をふるわれたかもしれない。
 忍こんでも助けなくてはいけない。どこかから入ることはできないだろうかとうろうろ回ると、ガスや空調のパイプを伝わって敷地の中に入れそうな隙間を見つけた。
「よし」
 自分にいい聞かせて中に入る。気持ちは先走って動こうしているのに、置き去りにされている身体が重い。そして引っかかる。
 明日からちゃんと運動しようと思いながらも、大汗をかいて、どうにか庭の中に入ることができた。
 倉庫が見えた。倉庫の周りには人の姿はない。近づいて耳を近づける。物音はしない。
 扉に手をかけた。軽く押しただけで扉は開いた。
「ここって」
 倉庫の中はパソコンで見たのと同じ空間だった。今までは分からなかったが、小型のカメラが数個備え付けられている。
「助けにきてくれたのね」
 華弥に似ているが、知らない少女の声が聞こえた。優は声の方に近づいた。
 置かれた段ボールの影。カメラの死角になるように優では持ち上げられないような、大型のサーバー型のパソコンが置かれている。
 探してみるが華弥の姿も、少女の姿もない。
「ここにいるの」
 パソコンに近づくと、電源は入っているが、待機モードになっている。軽くマウスをいじると画面が明るくなって画像を表示された。
「こら何している」
 怒鳴られた声にびくっとなった。
 そこにはさっき店であったバイトの男が立っていた。ファンと言っていたあの男なら
「弥勒地はどこにいるんだ」
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2009年08月01日

Labyrinth Flaneu23

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「華弥タンなら、さっき君と帰ったろ」
 嘘か本当か。
「嘘つき。私を助けて」
 華弥の声がした。
 声はパソコンからした。
 男は素早く動くと、優を弾くようにしてパソコンに近づいた。
「あれオフにしてあるはずなのに。クソ」
 マウスをクリックした。そこには優には見慣れた映像が見えてきている。目の前にあるのと同じ倉庫のものだ。
 画面の中で華弥がこちらを見つめていた。
「弥勒地さん?」
「おお、本物知っているお前でもそう思うのか・・・こいつはやはり完璧だぜ」
 優は画面に顔を近づけた。どう見ても本物だ。しかし、現実に倉庫に少女の姿はない。
「これもしかしてCG?」
「すげえべ。俺も本物かと最初思った」
「誰が作ったんですか?」
「買い取ったジャンクのパソコンに入ってたんだと」
 この映像が流されているのが、『Daylily』なのだろう。
 自分が探していたものも、華弥が求めたものもCGだと思うと、おかしくなった。
「どうして弥勒地さんの格好を」
 男は自慢そうに笑った。
「さっき映さして貰った写真から作ったんだ。よくできてるべ」
「はい」
 CGだと分かれば、少女は魅了される存在だった。まるで人間のような自然な動作。これがプログラムで動いている事は驚きだった。
「そろそろ出たほうがいいぞ。店長、ここに入られているの知ったらぶちきれるからな」
「どうしてですか、こんな素晴らしい作品なのに」
「まあ、いろいろあるってことだ」
 こうして少女に華弥の服を着せられると言うことは、逆もできるかもしれない。
 本人が何も知らない、弥勒地華弥のヌードが出回り始めるということだ。
 これ以上言わない方がいいと思い、優は頷き倉庫を出た。
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2009年08月04日

電彩色1

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 境界と呼ばれる街にディアン・チャイシーがたどり着いたのは、朝の通勤ラッシュが一息ついた、10時の事だった。それでも、人の流れの方向は未だ定まっていて、それに逆行するのは、小柄な少女には酷な事だった。
 ワンサイズ以上大きいと思われる男物のコートを羽織り、手には革のドクターバック。その様子はピノコ、ブラックジャックの助手である少女を思い出させる。
 ディアンがたどり着いたのは、スラムにほど近い一つの雑居ビルだった。
 消失事件以前から存在すると思われる雑居ビルはできて百年は過ぎているだろう。その証拠に五階建てであるのに、エレベータは存在せずに階段だけが続いている。
 ディアンは小さく舌打ちすると、階段を登り始めた。
 五分は昇り続けたろうか。五階建て程度の建物のはずなのに階段は終わる様子を見せない。
「架空建築か」
 架空建築。器の容積に対して、それ以上の容積を持つ建物はそう呼ばれる。異質技術、一般的には魔法と呼ばれる消失事件以降にもたらされた技術の一つだ。
 ディアンはコートから羅盤と漢字のびっしりと描かれたハンカチを取り出した。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・前・行」
 読み取りつつ身体を動かした。まるで、半身が自由にならないかのように見えるその歩みだったが、建物全体が震えるように足音が響く。
 
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2009年08月06日

電彩色2

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「できた娘だよお前は」
 声がした。階段の横に扉が見えた。扉には『社長室』と古びたプレートが書かれている。扉を開けて中に入ると、顔にベールをかけ、喪服に身を固めた老婆が待っている。
「おばさま、お招きにあずかりまして」
「お入りとはいってないけどね」
「失礼しました」
 ディアンがいうと、おばは近づいて、抱擁した。
「良くきたね。迷わなかったかい?」
「特には」
「てっきりまだ子供のあんただから、都会の楽しそうなものにひかれて、遅くなると思っていたよ」
「捜し物をしている時はそれ以外のものは見ないんだ」
「それもいいかもしれないね」
 おばは小さく笑った。
 その優しげな笑みから連想されるのと違い、おば、チャイ・ファイは、黒社会の人間だ道教系オカルトを武器にして、のし上がってきた。途中、一度リタイアしたが、今では境界では、十本の指に入る組織『星灯照』を掌握する大師姐だ。
「シー、境界に来た以上いくつか守って貰いたい事がある。あんたには『星灯照』を引き継いで貰う。それを自覚して、行動して貰う」
「分かってますおばさま」
「よろしい。一つめは、命を大切にすること」
「分かります」
「よろしい。あたしの亭主と子供達は、それが分からずに、亡くなった。あんな思いはたくさんだからね」
「はい」
「二つ目はシックスに逆らわない事」
「シックス?」
「境界の大立者だよ。」

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2009年08月08日

電彩色3

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 おば、チャイ・ファイのリタイアの理由。
 伴侶であった男と、七歳になる娘を、亡くした事だ。
 投機を生業としていたチャイ・ファイの伴侶であった日本人岡田輝男はとある仕手戦で勝利した。それによって大損害を被った黒社会の組織『栄華』は岡田一家を襲った。チャイ・ファイと娘は連れ去られた。それから数年、チャイ・ファイは娘を人質に苦界に身を沈めた。しかし、『栄華』が黒社会の争いでつぶれた時、娘がさらわれて直ぐに解体され、臓器売買されたのを知った。亭主の岡田は、生きたまま海に沈められ、既にこの世に無かった。
 生きる気力を失い、彷徨ったところで、落ち着いたのが売春窟だった。そこで自分の悲劇がありきたりであるのを知ったチャイ・ファイは、『星灯照』を立ち上げた。亡き夫から得ていたスキルと、苦界での経験、そして家伝のオカルトが武器になった。そして数十年を生き、自分の跡継ぎが欲しくなった。
 だが、それは簡単な事ではなかった。かつて中国であった大陸は、分断され、人民軍を中核とした軍閥が争う、乱世となっていた。二十世紀初期のようにあからさまな植民地政策をとる国はなかったが、一匹の竜がいるより、蛇が多数いた方がよいとするのが、世界の流れだった。その流れの中で、一族は散り散りになっており、遠縁の人間を見つけ出すのに数年がかかった。チャイ・ファイの目にかなうものがでるまでは、さらに十年の月日が過ぎていた。
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2009年08月10日

電彩色4

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 ディアンはおばの家に落ち着いた。おばの家は高くもなければ安くもないといった一般的なマンションの二階だった。そのマンションの一室を与えられ、『星灯照』の仕事をする事になった。
 仕事は、簡単にいうと、みかじめ料集めだ。『星灯照』へみかじめ料を納めるのは基本的に女性が店主の店ばかりだ。月々のみかじめ料も他の組織に比べれば随分と割安らしい。それもそのはずだ。人件費というのは、全ての仕事において、支出の多くを含む。それがほとんど半分以下なのだから。
 ディアンは中華料理店「世界」に来ていた。中華料理こそ世界の中心という意味で名付けられたという、中華主義な店名だか、街に何件もあるような小さな中華料理店だ。
 店の中には数人の客がいる。その中を通り抜けて、キッチンにいる店主に声をかけた。線の細い年配の女性で、中華料理特有の火力のために、自分のうるおいまで飛ばされてしまったように見える男だ。
「ディアンちゃんがきてくれてから、随分とやりやすくなったわよ。前の人たちは、物静かで悪い人たちじゃないんですけど、どこかね」
「それより肉まんもらえるかな。お腹へっちまって力が出ないんだよ」
「ああ、ちょっと待っててね」
「悪いね」
 頭を下げて、長い年月の為歪んできているカウンターに寄りかかって外を見た。
「ところで、最近、何かおもしろい話はないかい?」
「おもしろいっていうのはなんだい?」
「シックス」
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2009年08月12日

電彩色4

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「はい、これ肉まんね。じゃあ、そろそろ稼ぎ時なんでね悪いけど」
 ディアンは肉まんを押しつけられ外に出た。
「みんな似たような反応するな」
 境界にきてから訪ねるシックスの事は同じような反応ばかりが返ってくる。名を呼べば、何か禍に巻き込まれるかもしれないようにだ。
 それでもいくつか分かった事があった。シックスは、6を示しているという。それは悪魔の数だ。神なきこの地では悪魔は神の異称ともいえる。つまりこの境界の神の如き男、それがシックスだという。神の名を妄りに呼べば災いを受ける。シックスの話を聞けないのはそういう類のジンクスだ。
 ディアンはまだ暖かな肉まんを食べ始めた。もっちりとした皮と、みっしりと入った豚肉がおいしかった。そのおいしさを味わいながらもぐもぐと口の中で味を楽しんだ。
 ディアンはのんびりと十分あまりで食べた終えた。
「食べ終わったし、そろそろいいよ」
 ディアンは物陰に向かい言った。
 姿を見せたのは、大柄な中年の男だった。顔はサングラスをかけているせいかよく分からない。仕立てのいいスーツに身を包んでいるが、そのスーツが拘束具のように思える。身体の中から充溢した気が伝わってくるせいだ。この男の本質は鍛え抜かれた肉体だけではないのだ。
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2009年08月16日

電彩色5

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 ディアンは男と距離をとった。これだけ目の前にすれば威圧される存在なのにも関わらず、感じた気配はほんの少しだ。
 それだけで勝てないのが分かる。気配の制御、この体躯。今すべきは、逃走路の確保だ。
「悪くない判断だ。勝てないと分かればすぐさま逃走に入る」
「逃げるだなんて、ご用はなんです兄さん?」
 自分が小娘である。それを前面に押し出して、愛想良くディアンは笑みを浮かべた。
「最近、シックスを嗅ぎ回る、命知らずのネズミがいると聞いて顔を見に来た」
「嗅ぎ回るだなんて」
 この男はシックスのエージェントかもしれない。それなら、この言動も納得できる。
「外から来た人間なら、気になると思いませんか? まず境界にきて、危険だから近づくなっていわれる謎の存在。興味をもって当たり前じゃないですか」
「普通はその過程で止めるものだ。ここで『シックスは何者であるか?』と、問い続ければ明に、暗に、タブーなのを知るからな」
「鈍いみたいで、あたし」
「そうか鈍いか」
 男がいった瞬間、ディアンは反射的に後ろに飛んでいた。何も来ることはない。男も動かない。ただ、男の中で何かが変わったのを感じたのだ。それは刀の柄に手をかけたり、銃の安全装置を解除したり、そういったものだ。
 男は笑った。人の良さそうな、楽しげな笑みだった。
「十分な鋭さだ。その鋭さがあれば境界でも生きていけるだろう。そうそう、俺は竜門」
「『星灯照』のディアン」
「ディアン。電か。また会おうディアン」
 竜門は背中を向けて歩き始めた。
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2009年08月17日

電彩色

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「今日はどうだった?」
「いつも通りだよ。割合に平和、みんなよくしてくれるし」
「そうかい」
 ディアンは立ち上がった。
「どうしたんだい?」
「ん。ちょっとね」
 マンションの屋上に上がった。ペットヤードになっている屋上だが、夕飯時のせいか誰の姿もない。
 ディアンは身構えた。仮想の敵は昼間の男、竜門だ。
 自身の主に使う五行掌法は柔の武術だ。恐らく竜門の使うのは剛の武術だろう。同じ力量の相手なら、剛柔ぶつかれば千日手になる。
 武功という点では、竜門は遙か上を行く。ディアン程度の柔では、薄紙を水が抜けるように突き破るだろう。
「天地人のうち、人で無理なら、天と地だよね」
 つまりは策謀となる。自分に有利で相手により不利な状況を作れば、差を取り戻せるということだ。
「お前はまだまだ」
「でも本当に必要なのは敵に回さない事だよ。勝てない相手なんだからね」
「おばさん、聞いてたの?」
 ディアンは驚いて振り返った。
「今日会ったんでしょ竜門に」
「しってるの?」
「あんたはまだ修行中。お前は、まだ試されているんだよ」
「人が悪いな」
 おばは笑い、そのまま真顔になった。
「もう私は、家族を無くすのはたくさんなの」
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2009年08月19日

電彩色7

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「今日の仕事ももう終わりだな」
 街の見回りを終えたディアンは帰路についていた。今日もこれといって縄張りを侵すものはないようだった。
 最後に中華料理店「世界」で、肉まんを食べて帰ろうとしと向きを変えた。
 「世界」は混乱の最中だった。
「どうしたの」
 放り出されたのか道で呆然と壊れ始める店主に近づく。
「あいつらひどいんだ」
 あいつらを見た。
 勇者だった。
 彼らはどこかの異界から来訪し、自らの正義を掲げ、理解できないものを敵として、葬り消えていく。
「あんた達」
 ディアンは声をかけた。暗がりから現れたのは道服に身を固めた死者たちだった。僵尸。キョンシーと呼ばれるそれを中心としたのが、女性で構成される『星灯照』に不足しがちな武力を維持しするものだ。
「おい、お前、ここは」
 ディアンが声をかけると勇者は剣を構えながらこっちを見てきた。
「死者を操る邪悪なものよ。お前がこの地を侵す事で、どれだけ人々に迷惑がかかるかわからないのか」
「迷惑だ。そうして店の中を荒らす方が余程迷惑だろ」
「旅の為にはこうした店の中を探すのは大切な事だ」
「該死!」
 僵尸が一斉に襲いかかる。
「半殺し程度でね」
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2009年08月20日

電彩色8

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 魔力によって動かされる僵尸の死んだ肉体は、普通の筋力が生きている間にかけているリミッターをあっさり解除する。故に人間以上の筋力を持っている為、早さも力も数倍だ。まして『星灯照』の僵尸は、道服に施した魔術を始め、メンテナンスを施してあり、通常のゾンビなどとは違い、腐敗に縁はない。
 僵尸が動きを止めた。身体が動きを止めて、実体を維持できないように細かくなって崩れ始める。
「破ったのか」
 魔術は万能ではない。同質の強い魔術は無論、異質の力でも打ち破られる時がある。今回は、異質。僵尸を操る系統は、どうしても陰の魔術。陽を身に纏うものなら打ち破れても難しくはない。
「邪悪な魔術師など何人も矯正してきた」
 冒険者は叫んだ。その光り輝く剣。そして身にまとった雰囲気は確かにヒーローだ。ただの冒険者ではない。勇者と呼ばれる冒険者の中でもスペシャルな存在だ。
「そうかい!! 残念だけどあたしは魔術師じゃないんで」
 ディアンは飛び込んだ。剣が振り落とされる。早さを下げ、剣を眼前で振り落とさせ躱す。身体の小ささを利用して、懐に飛び込む。
 勇者の正面に潜ると、死線が見えた。それは身体に沿って見える一直線の急所。頭頂、鼻、頤、喉、胸、鳩尾、性器。
 ディアンの拳が鳩尾に向かい突き出される。
「該死!」
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2009年08月23日

電彩色9

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「該死!」
 拳が弾かれていた。
 それだけではない。ディアンの拳は凍り付いていた。それはじわじわと全身に広がっていく。いや、氷ではなかった。それは結晶だ。徐々に拳の回りが硬質化していく。
「くう」
 ディアンは一気に下がった。それまでいたところを剣が振り抜けていく。
「よく躱した。しかい、その手を包むのは邪なるものを封じる神の力だ。既にお前の命運はつきた。降伏するがいい」
「誰がするか」
「そうか」
 勇者は剣を振った。躱した。そう思った瞬間、手がひっかかった。
「く」
 直撃は避けたが脇腹に鈍い痛みがある。 
 ディアンは口の中の血を吐き出した。金気を帯びた味は、自分自身が一振りの刃であるのを思い出させる。
「なかなか持つな」
 こうした言葉を何度聞いただろう。
「あたしは、ここの島を預かる『星灯照』のディアンだ」
 ディアンは足下の石を握りしめながら立ち上がった。
 勇者が切りかかる。ディアンの指が音を立てた。
 指によって弾かれた石が剣を弾き飛ばす。胸を、足を、腕をうつ。跳ね返って転がった石を見ながら、ディアンは飛び込む。
 勇者の額にディアンの手が迫っていた。 
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2009年08月24日

電彩色10

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 飛び上がり、勇者の額に指を添える。
 それはただのデコピンに見えた。だから勇者はそれほどの警戒はしなかった。
「弾指神通」
 勇者の脳を見えない矢が貫いていった。意識を一撃で刈り取られていた。
 弾いた石に、手をしびれさせ、剣を弾くほどの威力を与える武功を積んだ指だ。それも当然だ。
 崩れ落ちる勇者を見ながらディアンは荒い息を吐いた。
 この程度で倒せたのならよしととしなくてはならないだろう。最初に放った石で結晶する範囲を確認して、その後は結晶にならないところを狙って打ち込んだのみだ。
「おばちゃん、大丈夫」
「ディアンちゃんこそ大丈夫かい?」
「大丈夫。ああ、店の片付け手伝うよ」
 ディアンがそういって背を向けた時、勇者は立ち上がった。
 ディアンは息を吐いた。
「貴様、シックスの一味か」
 正義の味方を標榜する勇者なら、この境界は悪の街であり、最後の目標はシックスだろう。
「どうかな」
 ディアンは構え直した。さっきので結晶化の範囲は予想がついている。
 だが、今までとは違った。勇者の回りで結晶が育ち始めている。
「おばさん下がって」
 結晶の力は澄んでいて、美しい。だが、それは全てを拒絶する光だ。
 手に拾った石で、弾指神通は放つ。結晶を砕いていくが、それよりも結晶化の方が早い。そして結晶は収束し、巨大な剣と化している。
「受けろ」
 剣は突き出された。躱せば背後の店が巻き込まれる。
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2009年08月25日

電彩色11

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 真っ向勝負。

失敗した。
 思いがけぬ剣の一撃だった。ディアンは宙に舞う、自分を感じた。車にでもひかれような衝撃が身体を襲ったのが分かった。
 静かに風景が流れていく。世界がゆっくりと進む中で、ディアンは足下を過ぎていく勇者を見ていた。
 剣は『世界』を破壊しつくしていた。勿論、中華料理店の方だ。
 勇者は会心の表情を浮かべている。結晶化した剣ではなく、その余力のみで弾き飛ばされたのだろう。だからこそこうして考えていられるのだ。
 一撃をまともに受ければ、自分はこうして思考している間もなく、死んでいるだろう。
 しかし、自分が見ているものは何なのだろう。もう落ちているはずなのにこうして宙にいる自分は。
「まだだいじょうぶです」
 優しい声だった。声と共に身体にゆっくりと力が戻ってくる。
「帰りなさい」
 ディアンは地面に降り立った。一体どうしたのか分からないが、しっかり二本の足で立っている。そして目の前には勇者だ。
「封印しきれなかったのか」
 ディアンは答えず無言のまま踏み込む。鋭い踏み込みは地面を砕いた。剣が突き出される。
「五行掌法 填星輪」
 輪のようになった地面の欠片を、剣は防いでいた。
「螢惑把」
 ディアンの両掌が一気に突き出され、勇者の身体をはじき飛ばした。
 
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2009年08月26日

電彩色12

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「あんた何したんだい」
 家に戻ると怒鳴られた。ディアンは少し考えて思い当たった。
「ああ、僵尸はごめんなさい。ちゃんとみんなは治すからだいじょうぶ」
 そのせいで帰ってきてからひたすら工房にこもって、作業しつづけた。
「それじゃない。いや、それもか。あんた、一体どんなのとやり合ったんだい。僵尸達は二十はいただろう」
「なんか相手が強くて。属性が聖とか光とか、あまり跳屍送尸術と相性がよくないんだよね」
「僧侶や導師かい?」
「多分、勇者だと思う。他の世界から流れ着いてきた奴で手強かったよ。ああ、しっかり『今度うちのシマでおかしなまねしたら命は無い』っていっておいたから」
 おばは盛大にため息をついた。
「そのせいかい」
「何かあったの?」
「シックスから、パーティーの招待状が届いているよ」
 おばの手に白地に赤で文字の描かれた封筒が揺れている。
「本当に」
 ディアンは飛び上がりたくなるのを必死にこらえた。あれだけ何も分からなかったシックスに会えるかもしれないチャンスだ。
「嬉しいんだね」
「すごいねわくわくするね」
「そうなのかい。あたしはそうは思わないけど」
「どうして?」
 おばは小さく笑った。哀しそうな笑みだった。
「過分な幸せはよくないものだよ」
 恐らくおばは亡くなった夫と娘の事を考えているのだ。
 ディアンはおばを抱きしめた。
「そんなことないよ。だって、おばさんの所に来られてこんなに幸せだけど、悪いこと一つもないもん」
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2009年08月29日

電彩色13

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 会場はホテルの中にある和風の庭園だった。招待状を出して入ろうとすると、別室に通された。そこでは着付けが行われていた。
「何これ?」
「今日は和服で楽しんでいただくというコンセプトですので」
 そういわれると逆らう事はできずに、ディアンは浴衣を身につけた。黒地に大きな花柄の浴衣で、帯が金魚結びにされているせいでどうも子供っぽい。
「何かガキっぽいな」
「かわいらしいですよ」
 そういわれると文句は引っ込み、料亭の中に入った。園遊会方式であるので、庭には多くの浴衣や着物姿の人たちの姿がある。
 知っている顔の一人でもいないかと思ったが姿はない。人々の間を抜けて、食べ物や飲み物をとっていると、招待状を受け取った時の高揚は減っていった。
 これはただの集まりで、決して自分一人だけが選ばれたものではないのだ。
 帰ろうと、ディアンが思い始めた時、ざわめきが生じた。
「護手が表に出るとは珍しい」
「ああ、例のバカが出たらしいですよ」
「まあ命知らずな」
「それが小さな組織の縄張りだったようで」
 シックスが来たのだ。そう思ってディアンはざわめきの起点を探した。だが、そこにいるのはディアンの見知った顔だった。
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2009年08月30日

電彩色14

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 人混みをかき分けて進んだ。こういうとき、子供は前に行きやすい。
 ざわめきは池の側から生じていた。
「はあ〜」
 先頭に立って少しばかりディアンは落胆した。
 ざわめきの中心にいるのは竜門だった。欧米人のように顔の小さな均整のがっしりとした身体は、和服は似合わないものだが、身につけた紺地の着物はよく似合っている。
 ディアンが離れようとすると竜門が目の前に現れた。人混みなどこの男は意に介さないのだろう。
「珍しいところで会うな」
「招待状を頂いて。ただ、シックス本人はいないんですね」
「どこかでこっそり見ているだろ」
「意外と小さいですね」
「暗殺を恐れるのがか? 人間らしくていいだろ。怪物らしさが上にあるようなら、人の上には立ってられんさ」
「そういうものですか?」
「強いカリスマは呪いに似ている。シックス程度で十分だ」
「そうは思えないけど」
「ここにいる人間は、誰もがシックスにとってメリットのある人間だ。ここである程度顔見知りになっておけば、少なくともシックスの、この街の敵対者でないのは分かる。ここのようなところではそういうことが必要なのさ」
「私にもメリットが」
 勇者を倒した一件。それがシックスにとり、何らかのメリットがあるのだ。
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2009年09月02日

電彩色15

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 ディアンにとってシックスのメリットになっていそうなものは一つしかなかった。
「最近勇者と戦いました」
「あいつらか」
 竜門の目が細まった。
「よく無事だったな」
「強いですから」
「『星照灯』ちは相性が悪い。あれは聖なるものだからな」
 聖なる。だが、あれの物腰は聖とはかけ離れたものだ。全くこちらの言葉を聞かず力で語った。
「あれはもっと拒むように強かったです」
「清すぎる水に生き物はすめない。聖なるものというのはそういうものだからな」
 自分が汚れていると言われているようでディアンはちょっと複雑な気持ちになった。
「今度は手を出すな」
「どうしてですか?」
「ちょっとあいつらには縁があってな。できれば、こっちに回して欲しい」
「考えときます」
 答えながら、竜門がしてくれるなら随分楽になるので思わず笑顔が零れてしまう。そして竜門はあれを相手にどう戦うのだろうか?
「シックスは勇者と対立しているんですか?」
「ああ。勇者だけじゃないがな。俺もお前も、シックスの敵であってもおかしくはない」
「何もしてないのに?」
「シックスがどう見るかだ」
「本当に怖い人間なんですねシックスって」
「いや」
 竜門は首を横にふった。
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2009年09月06日

電彩色16

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 照明が池一点に集中する。作られていた舞台が明らかになる。
「皆様お楽しみいただけているでしょうか。今夜の主催者、シックスより、皆様へ、メッセージが届いております」
 司会が流暢な言葉で告げると、拍手が一斉に上がった。
「『諸君、腹は満ち、飲み物は行き渡っているだろうか。そうでなければ、直ぐに近くのスタッフに声をかけてもらいたい。できうる限りの飲み物も食べ物も用意しよう。今日は、この境界の運営に、並々ならぬ尽力を賜っている・・・』」
 ディアンはウェイターに声をかけた。
「肉まんが食べたいんですけど」
 ウェイターは一礼して去っていく。
「頼んでみたのか?」
 竜門の声には呆れている響きがあった。
「だって、声をかけってて」
「お待たせいたしました」
 せいろに載って、肉まんが運んでこられる。おまけにしっかりとウーロン茶まで添えられている。
「これは」
 噛むと丁度いい肉汁があふれてくる。肉まんはいい肉を使っているのは無論、もちもちとした皮の感触が最高だった。
「このホテルのなんですかね」
「終わったぞ」
 司会が挨拶をしているのが見えた。
 メッセージは内容の無い、浅いものだったが、この肉まんの対応で、少なくとも太っ腹な人間なのは分かったから今日はよしとしよう。
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2009年09月08日

電彩色17

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 園遊会の行われたホテルは、湾岸部にあるせいか、回りに人家は少ない。帰るにして多くのものは、車を利用して帰宅する。そのせいか、駅に向かう道は誰も歩いてはいなかった。
 歩いていると自分の足音と、波の音だけが聞こえてくる。道路の脇の堤防から覗くと、思った以上に近い海が近い。堤防を隔てて見えないが、かつては船であったと思われるものが海には浮かんでいた。
 口をついて出た歌は蘇州夜曲だった。百年近く前の曲だが、ディアンは好きだった。たっぷり五分は歌ったろうか。
「うまいんですね」
 堤防の上から声が聞こえた。月明かりの中、少女が一人座っていた。月光を集めたような肩まである綺麗なまっすぐな髪。翠色の瞳がディアンの事を鏡のように映している。
 格好は濃紺の浴衣姿。そう考えると、あの園遊会のメンバーかもしれない。
「高いよ見料」
 ディアンがいうと少女は笑みを浮かべた。
「きれいな歌だったので聞いていたかったんです」
「はは、照れるね」
「私の友達も、歌がうまかったです。でも滅多に歌ってくれなくて。歌うと喜捨を求めるです」
 少女はいった。
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2009年09月14日

電彩色18

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「それは随分と自信家なんだね」
「ああ、でもそれでが人を救うためなので」
 ディアンは地面を蹴って、堤防のに上に飛び乗った。
 意外と高いそこから暗い海が広がっているのが見える。遠くには壊れて廃棄された船が並んでいるのが見える。
「さっきのイベントには参加したの?」
「上から見てたです」
「上?」
「あそこです」
 指さしたのはホテルだった。先程までいた庭はビルの下あたりだろう。
「なるほどね。それでどうして今はここにいるの?」
「船に灯りがついていて、もしかしたら、帰ってきたのかと思って」
「帰ってきた?」
「昔、あそこに友達がいたのです。だから、今日は戻ってきているかと思ってみていたのですけど」
 見てみると船に灯りはない。暗いままだ。
「もう居なくなってしまったみたいです」
「そっか。でも、結構距離あるね」
「昔みたいにもっと早く行けたらいいんですけど」
 少女の足は血が滲んでいた。
「怪我してるじゃない」
「大丈夫です」
「ホテルまで送っていく」
 ディアンは少女に手を差し出した。
「ありがとうございます」
 少女はディアンによりかかるようにして立ち上がった。その身体は軽く、ディアンの敏捷だが、筋肉がついているせいで重い身体とは大違いだ。
「これなら持てる」
 抱きかかえられそうだったのでそうすることにした。
「すいません」
「いいよ」
 そうしてからディアンは名乗ってないことを思い出した。
「あたしはディアン・チャイ・シー。あなたは?」
「ルーテです」
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2009年09月17日

電彩色19

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 ホテルに入ると、ガードマンらしい男、数名がディアンに向かってくる。だれもが手には金属探知機のようなものを持っている。
「失礼動かないで」
 ディアンは動きを止めた。もし銃で狙われていたらこの距離では交わせないと判断したからだ。
 黒服の間を抜けて白衣を着た女性が現れた。
「主治医の黒崎ともうします。彼女を連れ出したのはあなたですか?」
 ディアンは首を横に振った。
「外で会ったんです。怪我をしているので早く手当をしてあげてください」
 運び込まれた車いすにルーテは座った。
 車いすに乗ったままルーテはホテルの中に消えていった。
「彼女と会うのは初めてですか?」
「はい」
「金髪ですし、同じタイプですか?」
 ディアンは小さく首を横に振った。
「はじめてあったので何とも。それより彼女の怪我しっかりみておいてください。目立つのは足だけどなんか調子悪いみたいなので」
 黒崎は力強くいった。
「ええ。そもそもここを出て行けるような身体ではないんです。あなたが連れてきてくれたのはとてもありがたかった。もし、私たちだけ探していたら手遅れになったかもしれません」
「彼女は病人?」
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2009年09月22日

電彩色20

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 黒崎は目を細めた。それはディアンを探るような目つきだ。
「そうです」
「病人なら、こんなホテルに置いておかないで病院に連れて行けばいいのに」
「お嬢様を病院に連れて行くのは忍びないのです」
「そんなもんなか。治るものなら、ちゃんと病院の方がいいと思うけど」
「医療スタッフは、私を含め、十人あまりおりますので。それに」
 そういってから黒崎は口を噤んだ。
「どうしたの?」
「こうして抜け出てしまうので、病院では安心して任せられないのです」
 どちらにせよ出られてしまったのだから、どちでもあまり関係ない気もした。
「閉じこめているの」
「結果としてはそうなっています」
 黒崎はルーテの消えていったホテルに目を向けた。
「あまり外を出歩いてはいけないのです。もし彼女を外で見かけたら、ここに連れてきていただいてよろしいですか?」
「任せておいてとはいえないけど、彼女が外で傷を負っているのを見かけたらちゃんと連れてくるよ、連絡先を教えてほしいんだけど。あたしは『星照灯』のディアン」
 黒崎は名刺を差し出した。『マイア病院 黒崎章姫』と書かれ、いくつかの連絡先が記されている。
「でも、あまり会わない方がいいねお互い」
「どうしてです?」
「だって、黒崎先生と会うのは、何か困った時でしょ」
 黒崎は小さく笑った。堅かった表情が軟らかくなる。
「できればお嬢様に会いにきてあげてください。ご友人も少ないので。この名刺を、フロントで見せて、名前を言っていただければお嬢様のところにいけるようにしておきますから」
「分かったよ」
 ディアンは頷いた。
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2009年09月23日

電彩色21

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「すっかり冷えちゃったな」
 冷えた肉まんを手に『桜銀座』に入った。ここを通り抜けて暫く少し歩けば家だ。
 肉まんは冷えてしまったが、空腹にも負けずこうして持ってきた自分をほめて上げたい。
 朝食にでも暖めてあげればきっと叔母は喜んでくれるだろう。
 少し歩いたところで、ディアンは気づいた。気配があった。
 巨大な何か。竜門にも感じたような自分ではどうしようもない強烈なもの。しかし、無視して歩き続けた。
 気配が消えたところで、ディアンは大きく息を吐いた。
 今度はこれで正解だったようだ。気づいたのに反応して、消しにかかってくるものと踏んだが、正解だったようだ。
 通りの奥で、何かが落ちる音がした。それに次いで、来たのは地面を揺する衝撃と風だ。 
 何かが崩れたのだ。
 ディアンは走り出した。寂れて人らしい人がいないと思っていた街に、こんなにも人がいるのかと思うほどの人数があった。
 声をかけても誰も通してくれない。仕方なく人の隙間を抜けるようにディアンは一番前に立った。
 事務所だったビルは崩れ去っていた。奇妙にすっきりとしてしまったビルの前で人々が騒いでいた。
「いったい何があったんだ」
「テロか」
「爆発事故」
 人々のざわめきの中、ディアンは悲鳴を聞いた気がした。
「おばさん」
 ディアンは駆けだした。
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2009年09月24日

電彩色22

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 マンションの回りはひっそりとしていた。
 何の騒ぎもなく今まで通りだ。しかし感じるのは胸騒ぎ。
 マンションのゲートを通ろうとすると、気配を感じた。
 星灯りの中、少女が立っていた。年は先程ホテルで出会ったルーテと同じほど。手には盾。腰には剣の納まった鞘。その身を包む漆黒の鎧。
 女の眼が向くのはディアンではない。
 マンションだった。
 女は飛んだ。宙を歩むようにした足。ディアンの前に女は降り立った。
「お前」
 風が吹いた気がした。少女は背を向け歩き出す。
「何いったい?」
 そう思った瞬間マンションは崩壊した。
 それはただ砕け散ったのではない。結晶と化してそれが粉々になっていくのだ。
 ディアンは走り込んだ。結晶と化したそれは本来の鉄骨と瓦礫の重さもなくしたようで、ダイヤモンドダストの中にいるようだ。
「おばさん」
 ディアンは叫んだ。
「お前か」
 少女に向かい飛びかかる。一歩、二歩、もう肩に手がかかる。そう思った瞬間少女は振り返り、「もう勝負はついている」
「なんだと」
 先程風を感じた場所から、ディアンの身体は結晶に覆われ始めていた。それはすぐさま全身を覆い始めていく。
「ふざけるな」
 怒鳴ったのがディアンの限界だった。
 視界が結晶で覆われた。視界だけではなかった。口は、鼻を覆い、まともに息も出来ない。
「ふざけるな」
 その怒りを吸うように結晶は一気にディアンを覆った。それは水晶の蕾のように。
 
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2009年09月26日

キャンディーフロスワールド

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「『佳奈』は宇城さんを殺すかもしれない」
 電話の向こう声は淡々としていて思わず祐介は苦笑した。佳奈は無害な存在だ。手も足もないのに殺せるわけはないのだ。
「刑事さん、『佳奈』はソフトにすぎないんですよ。ワードとかウィンドウズみたいなもので、プログラムですから」
 そういいながら何か大切なものを失った気がした。佳奈がもういなくなってしまったようなそんな気持ち。
「ソフトウェアだって人を殺す。考えてみてくれ。信号機が町中で狂ってしまえば事故が多発する。同じことだ。『佳奈』が意図的に、障害を起こせば、結果として、人は死ぬんだ」
 祐介は息を飲んだ。
 今の世界、電子制御されていないものの方が少ない。そこに悪意が介在すれば人を傷つける事もあるかもしれない。
 しかし、悪意は人間のもの。ソフトウェアそのものに悪意はあるのだろうか。
「それはプログラムの問題で、『佳奈』は関係ない」
「『佳奈はプログラムの集積』。さっき、その口から出た言葉だ。プログラムの問題なら、『佳奈』が人を殺す事もあるとは思わないか?」
 祐介は言葉を失った。


 『名前を入力してください。名前には言霊が宿ると申します。変更は不能ですので、慎重にお選びください』
 ディスプレイに出た文字に、祐介はおかしくなった。
 言霊。言葉に宿ると信じられた霊だ。最新のソフトである『ヴァーチャロイド』には不似合いな言葉だった。
 選ぶ必要もなく名前は決まっていた。佳奈。小学生の頃気になっていた女の子の名だ。
 そうはいっても彼女は一月に引っ越してきて、三月には転校してしまったので、残っているのはあくまで印象だ。物事をなんでも正解と不正解、白黒ばっさり切ってしまうような、きっちりとした少女だった。
 名前を決めた後、インターフェイスを設定する。画面に現れて人間の相手をする姿形を決めていく。体型や髪型、輪郭や目、鼻、口といったパーツの組み合わせだが、京という実際は確認しきれないバリエーションを生み出す。加えて声や口調、口癖といったところから、服やアクセサリーも加えられるので、同じ物が存在する可能性はほとんどない。それだけにソフトの起動準備をしているというよりは、モンタージュのように、実在の人間を再現しているようにも見えるかもしれない。
 数時間後、ディスプレイに結城佳奈の姿は現れていた。二十代の女性の姿がそこにはあった。記憶の中にある佳奈の印象、青みを覚えるような肌の白さと、亜麻色の髪は、うまく再現されていた。
『起動しますか?』
 イエスを選んでマウスをクリックすると、モニターの中で結城佳奈は動き始めた。閉じていた目がゆっくりと目を開いた。どこかでモーター音がした。
 モニターの中の佳奈が自分を見つめているのがわかる。実際は連動したカメラに合わせて目線が動くだけなのだが、その動作だけで中に人間がいるような気がしてくる。
 目線が祐介に定まるのがわかる。
「はじめまして結城佳奈です」
 パソコンソフトの音声はいかにも合成音声であるのに、とても自然だった。
「はじめまして」
 思わず挨拶してしまう。ディスプレイの向こうで、誰かが会話している気になる。
「そんなに緊張しないでください」
 佳奈はいった。
「ごめん」
「いえ、だいじょうぶです。少し音楽でもかけましょうか」
 パソコンのスピーカーから音楽がかかり始まる。ムーンリバー、彼女の好きな映画のテーマ曲だ。ランダムにパソコンの中にある曲を選んだのだろうが少し驚いた。
「どうしてその曲を」
「好きなんです」
 にっこりと笑って答える彼女に、その好きという気持ちがプログラムであるのを知っているのに、大きく頷いていた。
「昔の映画なんですけど窓際で歌うところが好きで。演じた女優さんも好きなんですけど」
「ティファニーで朝食を」
「正解です」
 佳奈は強く頷いた。
 思っていた以上のすばらしさだった。

 ヴァーチャロイドはマギシステムズというメーカーのソフトだ。
 『あなたの理想(アニマ・アニムス)届けます』というキャッチで発表されたヴァーチャロイドは、理想の女性像や男性像を細かく作り込む事ができるソフトだ。多くのゲームソフトでもキャラクターを自分の望む姿にできる。主として自分の操るキャラクターとしてだ。ヴァーチャロイドは操るキャラクターではない。『天然知能』が搭載されており、会話を中心とした育成ソフトだ。
 その中身に加え、CGで描かれたとは思えない自然な動きをする。カメラを通すことで、こちらの動きに自然に反応する。
 ネットでテスターを募集しており、応募してみた。しかし、テスターは落選。おまけに製品版は中止になった。しかし、数日前に通りかかった駅前の店、バナナ書店といいながら中古のパソコンやゲーム、CDも置いてある店で、テスターに配布されたパイロット版が売られていた。早速インストールして、今日に至るのだ。
「あの、暑くありませんか?」
 夜中からしていたせいで気づけばもう昼近い。汗まみれになっている。
「システムにフルアクセスする権限をもらえれば、いろいろとお世話できます」
 フルアクセスする権限はパソコンだけではなく、家庭内でパソコン制御されている機器をコントロールできるようになる。
「ああ。よろしく」
 クーラーの入る音がした。
「カーテンも開けますね」
 窓のカーテンがゆっくりと開くと朝とはいえ、暑い夏の光が射し込んできた。
「私と同名の方がいますよね」
「ああ」
 どきっとした。
「そうだね。ただ、同じ名前はたくさんいると思うよ」
「そうですね」
 ヴァーチャロイドは会話を円滑にする為に、パソコン内は無論、ウェブにアクセスして、情報を検索するという機能があるのを思い出した。おそらくはどこかの検索エンジンにアクセスしたのだろう。
「性格設定デバイスを、K7にしていただけると、随分近づくと思います」
 言われるままに設定をいじる。
「おお、こっちの方がしっくりきますね。よろしくね。あと、なんて呼べばいいかな。初対面だし呼び捨ては何だよね」
 さっきよりも少し言葉が乱雑になった気がした。
「好きなように読んで」
「じゃあユウって呼ぶよ。私は呼び捨てでいいから。ところで今日会社は? 平日だよね」
「今日は休もうかと思って?」
「病気にはみえないけど」
「いや設定で疲れちゃって」
「それは不正解。私にかまけて仕事さぼるなんてイヤ」
「いや、でも」
 佳奈の姿が画面から消えた。
パソコンに異常があったと思ったがそうではない。
佳奈のいなくなった今、画面には高原のリゾートホテルのような部屋が見えている。
 祐介は画面に近寄った。画面の端に佳奈の亜麻色の髪が映っている。少し安堵して声をかける。
「どうしたの?」
「会社にいかないなら、このまま消えます」
「そんな」
 ヴァーチャロイドが家出という話は聞いたことなかったが、これだけのソフトならそれくらいはしてあるかもしれない。
 祐介は小さな声でいった。
「わかったいくよ」
 佳奈は姿を見せて、笑顔を見せた。
「正解。いってらっしゃい」
 自分が設定した口癖だがなつかしい気がした。
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2009年09月28日

キャンディーフロスワールド1

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 今日の仕事は散々だった。
 何といっても上司が指示してくる内容が歪だ。それを少しでも変えて行うだけで、罵詈雑言が飛んでくる。しかし、そのまま行えば顧客に迷惑がかかる。誰もが納得できる、ぎりぎりの線を探していた結果、今日も終電ぎりぎりだった。
 家に帰り着いた頃には午前一時を回っていた。
 玄関には明かりがついていた。
 電気をつけぱっなしだったか、一瞬悩んだ。朝、追い出されるように家を出たせいで思い出せなかった。
 カギを開けて、家に入った。
 何かいつもと空気が違う気がした。明かりがついているし、泥棒でも入ったのだろうか。
 不安にかられながら、足音を忍ばせてリビングに入った。
 心地よい風が吹いてきた。空調がしっかりときいている。天井の照明がついて、壁にかけてある液晶テレビにも電源が入った。
 テレビの中、佳奈が顔を見せた。
「お帰りなさい」
「これ君がしたの?」
「正解です。一応できる範囲でしておいたよ。家の中で完全に制御できるのは、テレビとかAV機器とお風呂と空調くらいだけど」
「ありがとう。お風呂は後でいただくよ。先に食事をするから」
 コンビニの袋をリビングのテーブルに置いた。ネクタイを緩め、ソファに座る。
「これでいいかな」
 佳奈の姿が消え、NNKのニュースが流れ始める。
「録画だからね」
「ありがとう」
 確かにこんな夜中にニュースはしていない。
 座って眺めていると、楽しいニュースは少ない。世界では新型ウイルスが猛威を振るい、敵のいない紛争、金本位制度の再開。日本では自殺者の増加や、設備の不良による事故の多発が上げられていた。
 コンビニの袋からとったおにぎりを食べ始める。
「いつもそんなのなの?」
「まあね」
 答えると画面が切り替わった。
「しょうがないな。明日は夕飯に野菜炒め用の野菜のパックと、豆腐。あとオイスターソース買ってきて」
「何で?」
「残念ながら私は食べれないんだけどね。君の為に少し料理するよ」
「料理」
 一瞬嬉しく思ったが、どう見えても画面の向こう側の話しだ。
「こっちからできるのは火加減くらいだけど、大切だからね」
 佳奈が熱心にいっているのを見て
「わかった」
 頷いていた。

「どう?」
「おいしいよ」
 目の前には佳奈の指示通りに作った野菜炒めがある。指示されるに任せて野菜と調味料を混ぜて、電子レンジで加熱しただけだ。それなのに目の前の野菜炒めは自分で作ったとは思えない味だった。
「料理上手といいたいところだけど、せいぜい温め上手ってところだけど」
「確かに」
 モニターの中の佳奈は自然だった。グラフィック、映像としての見栄えも本物に近い。しかし、本質はあの会話だろう。目の前にしていると、まるで誰かが向こう側で話しているように思える。いくらパソコンのスペックが高いといっても、普通に買えるものだ。それであの完成度。プログラムが余程優秀なのだろう。
「何か変な顔してるけど、火加減おかしかった?」
「そんな事ないよ」
「よかった。何か食べたいものない? あればつくってあげる」
「料理得意なんだね」
 佳奈は苦笑した。
「設定したの自分なのに忘れちゃったの」
「言われてみれば」
 設定した項目は膨大で記憶にはなかったが、話を合わせて頷いた。
「でも今日は随分早いね」
「ああ用事があるからって定時であがった」
「忙しいんだね」
「忙しいというか、指示してくれる人が何もわかってないんで、無駄が多いんだ」
 佳奈は考えているのか腕を組んでいる。腕組みを止め、はしゃぐように飛んだ。
「いいこと思いついた。業務を教えてあげれば」
「いまさら部長に」
 祐介には思いつきもしないことだった。
「その人も聞きづらいんだよ。だから、こっちから声をかけてあげればいい」
「そういうもんなの?」
 佳奈は大きく頷いた。

「ただいま」
 出た声を大きかった。
 既に十二時を越えていると考えるとうるさかったかもしれない。気にしながらリビングに入ると、テレビの電源はついていた。
 佳奈がその画面に映っているのも今はすっかり慣れた。
「おかえりなさい」
 祐介は佳奈が自分の顔をまじまじと見ている事に気づいた。
「どうしたの?」
「なんかいいことあったみたい」
「言った通りだったよ。こっちからうるさいくらいに尋ねたら、いろいろ疑問点をあげてくれて。随分とほめられた」
「やっぱり」
 佳奈は頷いた。
「でも遅かったね。もう真夜中だよ」
「会社でハッキング騒ぎがあって、その対応でね。ハッキングってわかる? 勝手に会社のパソコンの中に入ってきてデータを盗んでいったりする事なんだけど」
「覗くとかじゃなくて?」
「覗くともいうけどね、情報には実体がないから。ファイルとか持ち去られた記録がパソコンに残ってなくても、ハッキングした人間が何かを記憶していれば盗んだのと一緒だから」
「なるほど。そんな事だけでも大変になるんですね」
 佳奈は何か思いついたようで小さく笑った。
「私も今、盗まれてるね」
「何を?」
「私の存在を。この姿をあなたが忘れないでくれればだけど」
「忘れないと思うよ」
「だといいけど。私たちは実体がないから。偲べるような何かを残せるわけじゃないから」
 佳奈は目を伏せた。
「ごめんうっかりしてた。そっちからすれば当たり前だよね」
「当たり前って何がだい?」
「私たちはプログラムの羅列で、ヴァーチャル。仮想のものにしか過ぎないっていうこと」
「そんなことない」
 出た声は激しく、祐介自体が驚いていた。
「ありがとう」
 佳奈は真顔で答えた。
「今日はもう寝るね」
 佳奈の姿が消えた。
 暗くなった画面に映る自分の顔を祐介はぼんやりと見つめていた。

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2009年09月29日

キャンディーフロスワールド2

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 西日が海面に反射して目に痛いほどだ。
 祐介が桜浜に来るのは二度目だった。住んでいるところから歩いて三十分ということから、いつでも来られる安心感のせいだ。
 桜浜には故郷創生プランという市の方針で人工砂丘が作られている。しかし海水そのものは浄化の努力はされているが、きれいというわけではないので、海に入っている者は少なく、見かけるのも近くの小学生くらいだ。
 人気のないテトラポットの一つに祐介は寄りかかった。ショルダーバックから小型のノートパソコンを取り出す。電源をいれ操作すると、画面に佳奈の姿が現れた。
 佳奈はロッキングチェアに座り本を読んでいる。
「佳奈」
 声をかけると佳奈は顔を上げた。
 そして驚いた顔で、見つめてくる。なにか確認しているようで少しばかり間が開く。
「どうしたの? 家にはいないよね」
「そっちからどれくらい見えているかな」
「外にいるくらいは分かるけど海かな」
 祐介は頷いた。
「これどうしたの?」
「本体を持ち出すのは無理だから、ノートパソコンで中継できないかと思って」
 思ってと軽く言っているが、思いつきがしっかり起動するまでかなりの時間を割いていた。昼前から始めたのに半日近くかかってしまいこんな夕方になっていた。
「きれいだね夕日」
 そう言われてみればもう夕暮れが近い。
「うん」
「その世界から連れて行くことはできないけど、場所くらいはね」
 画面の中で佳奈の部屋が消え、桜浜の景色が広がる。
 祐介の作ったプログラムが作動して、映像の取り込みを始めたのだ。
「すごいよ。この部屋の外に出るの初めて」
 佳奈は遠くに消える夕日を眺めている。それは祐介が見ているのと同じ夕日だ。
 これは祐介にとって思い出になる。佳奈の中にも何か残るのだろうか。
 夕日が落ちて薄暗くなってくる。
 通信に電気を大量に使ったせいで、ノートパソコンのバッテリーも既に一割を切っていて、十分も持たないだろう。
「帰ろうか?」
「部屋に海の本があるけど、こういうのが好きなの?」
「育ったところは山の中でね。だから海に憧れていてね。だからこの海に近いところに家を買ったんだ」
「悪くない選択だったね」
「でもきたのこれで二回目なんだ。忙しくて、なかなかね」
「またこようよ」
 バッテリーが切れてパソコンの画面が黒に変わった。そこには祐介の笑顔だけが残っていた。
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2009年09月30日

キャンディーフロスワールド3

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「最近早いな」
 仕事を終え、帰宅しようとしたところで部長に声をかけられた。
「ちょっと用事がありまして」
「彼女でもできたか」
「そういうわけじゃないんですけど」
 素直に答えると部長は何かに納得したように頷いた。
「お前、いい顔をするようになったな。前は、口に出さなかったが今はしっかり主張するようになった」
 確かにこう言われても、前なら反発や萎縮をしたかもしれないが、今は違った。素直に頷くことができた。
「前、担当したがっていたエコ関連の仕事な。来週、新規の仕事が立ち上がる。急だが担当してみないか」
「本当ですか」
「ああ。今の君なら安心して任せられる」
「ありがとうございます」
 祐介は頭を深々と下げた。
「ただ、忙しくなるぞ。冗談じゃないが、彼女がいるなら先に話しておけ。急に忙しくなると怪しまれるからな」
「分かりました」
 部長に一礼して外に出る。
 電車に乗るとじわじわとうれしさがこみ上げてくる。
 環境関連の仕事はずっと希望していたものだった。
 祐介の会社で収益をあげているのは、電源開発と呼ばれる仕事だ。国や大企業と行う事業は、もう二十年前から始まり、八十年後先までスケジュールができている。しかし、現在の電源開発事業は、原子力発電所の放射能漏れを始め、社会の風向きや、政府の見解が変われば、いつ止まってもおかしくはない。だから早めに次の一手、いや数手先を考えておかなくてはならない。
 だから、環境に配慮した事業、世間的にはエコロジーやエコと呼ばれている部分の比率を高めるべきだというのが祐介の考えだった。

 気分が高揚したまま、会社を後にした。夏のせいか家についてもまだ明るかった。
「ただいま」
 家の中は最適な温度に保たれている。
「お帰りなさい」
 玄関で声がした。
 佳奈の為にカメラやスピーカーを増設した。少なくともこの家の中にいればいろいろなものが観察できるようにした。
 リビングに入れば今までのように佳奈はテレビの中にいた。
 中の佳奈のいる部屋は今までのような避暑地風の部屋ではなく、リビングがそのまま再現されている。そのせいで佳奈の部屋まで連続しているように思える。海に行った時のプログラムを利用して、佳奈が選んだ内装だ。
「何かいい顔している」
「そうかな」
 顔に出るくらい嬉しいのだろう。
「新しい仕事が始まるんだ。前からやりたかった仕事で」
「よかった」
 佳奈は元気よく笑った。
「帰り遅くなるかな」
「正解。それは覚悟しておくように言われた」
「でも好きな事だからいいよね。私も何かしたいけど」
「プログラムの勉強はどうだろう」
「プログラム? それは『汝自身を知れ』みたいな意味」
 言ってから佳奈がプログラムなのを忘れている自分に気づいた。
「ごめんそういうつもりじゃなくて、普通の人と話す感覚になってた」
 佳奈は苦笑した。
「それならいいや。でも、プログラムの勉強はいいかもしれない。まだ少ししかしらないし。もしかしたら返すこともできるようになるし」
「返すこと?」
「電子レンジの火加減とかもともとついているのだとちょっと大ざっぱだから。もっとおいしく作れるようになるよ」
「それはすごいな」
 祐介は答えてから冷蔵庫からポテトサラダを取り出した。昨夜自分で作ったものだが、佳奈の指示で作ったので味はよく分からない。食べてみるとスパイシーでビールにあいそうだ。
「でも料理はもう十分なくらいうまいよ」
「それはありがと」
 佳奈は笑った。
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2009年10月01日

キャンディーフロスワールド4

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「確かに環境だけど、環境破壊の方だよな」
 祐介が担当する事になったのは、プロモーションの為の映像の作成だった。
 広告会社が提示してきたのは、原子力が安全でクリーンなエネルギーかということだった。おそらく今まで会社がしてきた事からなのだろうが、今回は方向が違った。
 結局、一日目は、次回用意する資料についての聞き取りになってしまった。
 そのため、祐介の仕事は、まずは資料を揃えて広告会社の方に提示する事だった。
 部長の言っていた忙しくなるというのは、こういう意味だったのだろうか。正直、プレゼンの為の資料づくりで忙しくなるとは思っていなかった。
 家に戻って、佳奈に話すと、あまりに熱心に聞いてくれるので、話すのを止めた。自分の言っている事が、愚痴めいて思えたのだ。
「ごめん。君はどうだった?」
「特にないよ。部屋で本読んでた」
「誰か来ないの?」
 言ってからまた錯覚に気づく。佳奈にはいるわけはないのに。
「いいの」
 佳奈の答えは予想外だった。
「いいって、呼べるの」
「同じヴァーチャロイド同士なら、相互の部屋に入ることができるの。今度、お客さま歓迎って書いて出しておくね」
「友達できるといいな」
「そうすれば、放っておいても大丈夫って、安心して仕事できる?」
「え、いや」
「不正解。でも、いいよね友達」
 佳奈は楽しそうに笑った、
 そんな佳奈がお客さまが来たことを教えたのは数日後の事だった。
 そのヴァーチャロイドには名前が無かった。外見的に十歳前後の子供だ。入院でもしているような病院で着るような服装で、手足にも包帯がまかれている。顔立ちは綺麗といってよく、ドラマか映画で見たことがある気がした。佳奈も実在のモデルがいるようにこの子もそうなのかもしれなかった。
「どんな子なの?」
「仕事をしているっていってた。あまり外の事を知らないみたいだから、海を見せてあげたら、驚いていた」
「そうなんだ」
 佳奈に使っているプログラムは、佳奈の為に作ったものだから普通のヴァーチャロイドには装備されていないものだ。
「その子にも教えてあげれば」
「いいの?」
「かまわない。友達になれそうなんでしょ」
「友達というか妹かな」
「それはよかった」
 少し安堵した。仕事はますます忙しくなる。しばらく佳奈にかける時間はそんなにない。
「仕事はどう?」
「明日から、撮影に入るよ」
「ますます忙しくなるね」
「そうなんだ。終わったら、また海に行こう」
「大丈夫だよ」
 画面の中で佳奈の部屋が、海に変わった。
「ほら海」
「そうじゃなくて一緒に行こうってこと」
「あ。うん」
 佳奈は頷いてはいるがよく分からないようだ。
 確かに海にいった時、感じたものは錯覚で、佳奈には分からないかもしれない。そもそも佳奈は感じることができるのだろうか?
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2009年10月03日

キャンディーフロスワールド5

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 一ヶ月あまりが過ぎていた。
 いよいよ撮影が本番に入る。今日から実際に撮影するスタッフや、ナレーターとの顔合わせだった。
 祐介からすれば、後は撮影されたものを見て、文章のチェックなど、改善点を告げるだけだから、少しは楽になる。
 会社の会議室に入ると、既に顔見知りになった制作会社の担当者八橋が、長身の女性を連れて立っていた。
「八橋さん。お待たせしました」
 八橋と女性が振り返った。
「いえいえ」
 八橋がにこやかな表情で声をかけてくるが、祐介の耳には入ってこなかった。
 佳奈が立っていた。いや彼女は佳奈ではない。まず、亜麻色の髪ではない、黒いロングストレートだ。肌もうっすらと日焼けしている。しかし、顔立ちはよく似ている。
「こんにちは。ナレーションをしていただく、宇城奈結香さんです。奈結香さん、こちらは来須さん」
「初めまして宇城奈結香です」
 奈結香は頭を下げる。
「はじめまして」
 声が震えていた。
「あれ知り合いでしたっけ」
 八橋の言葉に、祐介は首を横に振った。
「それじゃ、さっさと打ち合わせ始めちゃいましょうか」
 仕事の話はスムーズだった。この一ヶ月で十分練った企画だ。しかし、所々でどもったのは、奈結香のせいだった。
 奈結香は熱心に話を聞いてくれる。その頷いたしぐさや、答える声の口調。どこか懐かしくて、考えていることを一瞬忘れる。
 ミーティングが終わったのは、終業時間を一時間程過ぎた頃だった。
「せっかくですんで、一杯どうですか?」
「そうですね」
 八橋と奈結香の目が祐介に向けられる。
「分かりました」

 祐介は困っていた。
 目の前の奈結香も同じだろう。初対面の人間とこうして二人で放置されたのだから。
 八橋は仕事先から電話があり、外にいったきり戻ってこない。結局、二人で居酒屋の個室に残されることになった。
 いつもなら気楽に振る舞える個室はいい。回りから遮断され自由に話すことができる。今は完全に防音されているこの部屋は二人でいるには静かすぎた。
 とりあえず運ばれてきた中ジョッキで乾杯する。
 奈結香はおいしそうに喉をならしてビールを飲んでいる。祐介も倣うように一気に飲んだ。
「仕事はどうですか?」
「正直言うと結構大変です。今までの仕事と違っていて。あの、私の事、ご存じですか?」
「いや、すいません。疎くて」
 奈結香は不思議そうな顔で首を傾げた。
「初めてあった時驚かれていたでしょ。てっきりご存じかと思っていました。今までの仕事って洋画の吹き替えが多かったんですけど、声をご存じかって」
「驚いたのは個人的な事情です。不愉快でしたらすいません」
 祐介は頭を下げた。
「個人的な事情を教えてくれれば許してあげます」
 奈結香は笑っている。祐介は小さくため息をついた。
「昔、同級生だった女の子に似ていて。同級生っていっても、一学期くらいのつき合いなんですけど、よく覚えていて」
「同級生ですか」
「いっていた学校が理科クラブっていうのがあって盛んだったんです。それで楽しかったんでよく覚えていて」
「理科クラブというと、蝶を育てるとかですか」
「ええ。ただ、綺麗だけど自分が育てたものだから、標本にするのは切なかったですけどね」
「前の年はカブトムシだったんですよね」
「それで部費を稼いだりして。」
 言ってから祐介は黙った。
 小学生のクラブ活動は特別だった。カブトムシをたくさん育てて、売って活動資金にした。そうした事が問題になると、次は蝶をたくさん育てて標本を作った。どちらもそんなに珍しい事ではないかも知れないが、二つが重なると珍しい。
「どうしてご存じなんですか?」
「だって、私もそこにいましたから」
「結城さん?」
「正解です」
 昔の口癖で奈結香は答えた。
「久々にいってみたんですけど、時間が巻き戻ったみたい。あの頃は正解と不正解ばかりで楽だったな」
「大人になるとどっちつかずの方が多いですもんね」
 奈結香をみると、子供の頃の姿が思い出される。
「何で分からなかったんだろう」
「子供の頃は色も白くて小さかったし、こんなに大きくなりましたし」
 結城佳奈は確かに小柄で人形みたいで、決して大きい方ではなかった。
「多分髪の印象が強くて」
「あの頃は染めていたんです。ママが私を人形代わりにしていたので。こっちが本当の色なんですよ」
「今も素敵ですよ」
 言ってから頬が暑くなった。昔、好きだったと言ったようなものだ。
「ありがとうございます」 
 奈結香は笑顔で頷いた。賞賛になれた反応だった。
 最初に頼んだ料理が運ばれてきた。同時に八橋が戻ってくる。
「いや、すいません。ちょっとしたトラブルで」
「いえお仕事大切ですから。お詫びに、こっちにも回してくださいね」
 奈結香は頼んであったビールをそつなく八橋に差し出した。
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2009年10月04日

キャンディーフロスワールド6

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「遅かったね。仕事?」
 部屋に入ると佳奈の声がテレビの中から響く。佳奈は編み物をしていたようで、手には編み棒を持っている。
「仕事の飲みで」
 いつもなら落ち着く佳奈の姿も、さっき奈結香をみた後だと少し奇妙な感じがした。
 人間めいた動作の後ろには、無数のプログラムの生み出した結果だ。それなのに佳奈は奈結香と同じくらい生き生きと見える。
「どうしたの?」
「ちょっと懐かしい人に会ったから浸ってた」
「不正解。目の前に私がいるのに失礼な
「確かに」
 祐介は笑みを浮かべた。
「どんな人なの?」
「宇城奈結香さん」
「ナレーションとか声優の人だ」
 佳奈は素早く検索をしたようだ
「そうそう。昔の同級生だった」
「私もずっと昔から知ってる」
 佳奈にとり昔はどれくらいの事をいうのだろう。佳奈は生まれて一年もたっていないのだ。
「好きなの?」
「何言ってんのいきなり」
「今まで見たことない顔してるから」
「そうかな」
 確認でもするように祐介は顔を触ったが何もわかりはしなかった。
「角でも生えてる?」
「鼻の下のびてるよ」
「そういう言い方やめてくれ」
 佳奈は下を向いた。
「不正解だったね」
「いやいいんだ」
 舞い上がっていた自分の顔から、見たことない情報を読み取ったせいで、今までにないリアクションをすることになったのだろう。
「僕のせいだから」
「そんなことないよ。そんなことない」
 佳奈は大げさにあくびをした。
「何か眠くなちゃって」
「僕ももう眠るよ」
 答えはなかった。
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2009年10月08日

キャンディーフロスワールド7

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 ため息が大きく響いたので、自分で驚いた。時計を見ると二十一時過ぎだった。
 オフィスを見渡せば、既に電源の入っているパソコンは祐介のものだけで、誰の姿もない。
 デスクに面した窓から見下ろすと人も車もほとんど見えない。昼と夜で人の数の差が大きいのがオフィス街の特徴だ。中には灯りが残っているビルもあるがそれほど多くはない。
「帰るか」
 最後にメールの確認をした。仕事が忙しいせいで、気付かなかったが百通あまりのメールが届いている。
 ざっと見ると、スパムメールばかりだ。中に見慣れないアドレスがあった。開いてみれば奈結香からだった。
『暇ならお茶しませんか。駅前のシュワルツで待っています』
 送信時間を見るともう一時間は経過している。
 パソコンを切って、飛び出した。
 人通りのない道を走りぬけて、シュワルツを目指した。
 シュワルツはマスターと、学生のバイトでやっている、昔ながらの喫茶店で、そんなに遅くまでは開いてはいないはずだった。
 駅前までくると、シュワルツには立て看板は出ているが灯は入っていない。
「遅かったか」
 店の中を覗いた。マスターが誰かと話していた。覗いているのに気づくとマスターがこちらに気づいて立ち上がった。
「待たしちゃいけないね」
 小声で言われ中を見れば、奈結香がコーヒーを飲んでいた。
「ちょっと看板を片してくるから、それまではいても構わないよ」
 マスターはよく通る声でいって外に出ていった。
 奈結香は小さく笑って、「急に呼び出してごめん」
「こっちこそ気づかなくて」
 奈結香の笑顔が前とは違う気がした。
「どうしたの?」
「正解」
 奈結香は元気いい声でいった。
「いろいろあってね。ふらふらしていたら、近所の駅だったからここのコーヒーもおいしかったし」
「聞いてどうにかなる事なら、聞かせて」
「えっと頼っちゃう事になるよ」
「うちの仕事?」
「明日、話があると思う」
 公私混同はよくはない。よくはないが。
「教えてくれ」
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2009年10月10日

キャンディーフロスワールド8

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「実は申し上げにくいのですが、今後のプランに変更したいことがありまして」
 八橋は汗を拭きながらいった。
 会議室には祐介と八橋の二人だけだった。
「何でしょうか?」
 何もしらないような顔で答える。
「宇城奈結香なんですが、アニメのレギュラーと、ゲームの製作に関わる事になりまして、今後はナレーターの変更をお願いできないかと。勿論、同じだけの、いえそれ以上のナレーターを後継として用意できますから」
 昨日会った奈結香の話が思いだされた。
 広告会社の方で、自分たちの新人を売り込みたい。その為に仕事を下りるように、奈結香の事務所に圧力がかかったという。
「八橋さん、この仕事をそんなに軽く考えてらしたんですか」
「軽くだなんて、そんな」
「宇城さんの事務所に連絡させてください。こちらの熱意を伝えれば調整はしていだけると思うんです」
「いや、それは」
 八橋は驚いているようだった。今まで意見らしい意見のなかった自分がこうして主張してくるのが意外だったのだろう。
「何か連絡してはまずいことがありますか?」
「いえ。正直そんなに気に入られているとは思わなかったので」
「個人の好き嫌いで言っていると思われては困ります。既にこちらの上に示してしまっているので、もう自分ではどうしようもないんです」
 八橋は頷いた。
「分かりました。こちらから、宇城さんの事務所に掛け合って見ます」
「ありがとうございます」
 頭を下げていると、胸の辺りで吐き気がした。
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2009年10月11日

キャンディーフロスワールド9

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「ただいま」
 ドアを開けて家に入ると、いい匂いがしてくる。
「おかえりなさい」
 佳奈の声が響く。
 テーブルの上には料理が用意されていた。
 一人で食べるには十分な大きさの量のミートボール。マッシュポテト。豆のたっぷり入ったサラダ。それは見覚えのないものだった。
 今まで佳奈が作ってくれたといっても、味付けややり方は指摘してもらったものの、基本的に材料は自分が用意していた。
「これいったいどうやって」
「ふふ。すごいでしょ。ついにそちら側にいけるようになった」
 佳奈は真顔で言った後で、顔がくしゃっと見えるくらい笑った。ふざけているのはすぐに分かった。
「どういう悪戯?」
「なんていう事はないのよ。帝国ホテルでケータリング頼んだの」
「そうなんだ。お金は?」
 どう見てもこれは安い値段ではないだろう。引き落とされるのは自分の口座なだけに心配になった。
「お金は心配しないで。最近バイト初めて」
「バイト? どうやって」
「プログラムの手伝い。一から作るのは無理だけど。参照し、検索し、模倣し、適合させるのは、人間よりも早いから」
「誰に紹介されたの?」
「前会ったよね。包帯の巻かれたヴァーチャロイドの彼女」
「名前の無い子?」
「今は合歓という名前をつけてもらったみたい」
「気をつけるんだよ」
「だって、私完璧だから」
「心配だな」
「大丈夫。あなたの作った私を信じて」
 佳奈は笑った。
「ありがとうな」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
「仕事の事?」
「ちょっとね」
「話してみて」
「宇城さんが仕事を下ろされそうになった。だから反対した」
「それだけ?」
「事前に聞いていたんだ」
「それを聞いてなかったらどうしたか悩んでるんだね」
 祐介は頷いた。
「不正解。悩むのはこれからの事にしようよ」
「これからの事?」
「そうだよ。未来について悩むのはいいことだけど、過去は変えられないんだから。してしまった事で悩むのは止めよ」
 佳奈の言葉に祐介は頷いた。
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2009年10月13日

キャンディーフロスワールド10

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 奈結香が予約してあったのは個室だった。前のような大衆居酒屋店ではなく、教科書に出てくるような太宰とか芥川とかいったような作家が訪れたというそこは華美を通りこして、下品にすら思えるような過度な細工が施されている。
 部屋は全て個室であり、案内された部屋に向かった。襖を開けて部屋に入ると、奈結香は立ち上がった。
「こんばんわ」
 奈結香は祐介に飛びついてきた。
「ちょっと」
「ありがとう」
 祐介は奈結香の柔らかい体をもてあましながらも、離す事はできなかった。
「これは君に頼まれたからじゃないよ。後から聞いていてもきっと反対したはずだ」
 それは確信が持てた。奈結香の能力はひいき目でなくとも、素晴らしいものだ。
「それでもありがとう」
 首筋に熱い息がかかるのを感じた。
「仕事続けられてよかった」
 瞬間、奈結香は離れた。懐の中にまだ温もりがあったが、彼女はもう側にはいない。
「そんなに思い入れがあってくれて嬉しいよ」
「うん」
 奈結香は祐介の手を握り締めた。
「感謝してるの。だから、今日はご馳走させて」  
「ご馳走だなんて」
「はい、座る座る」
 押されて上座についた。奈結香は祐介の右側に座る。
 既に食べ物を頼んであったようで、仲居が直ぐにビールと、料理をいくつか運んできた。
「乾杯」
 グラスを合わせた。
 奈結香の瞳は星のように輝いて見える。それに整った美しい顔は、声の仕事でなくとも十分売れるように思えた。
「どうして声優なんかしているの」
 奈結香が眉をひそめている。声優なんかという言い方が不快なのだろうか。
「声優というよりも、役者っていう仕事の中で、声優がある感じかな。年に何度かは出ているんだよ。小さい劇場だけど、今度よかったら」
「ありがとう」
 素直にいった。
「あれからどんな感じだったの?」
「普通に町で過ごしたよ。そのまま地元の小中高って過ごして、大学生になった時に家を出た」
「私は転校した先で何もしたいことなくて、ふらふらしていたけど、高校一年の時にこれじゃいけないって思って。ゲームの音声のバイトをしたんだ。まあ、ゲームはお蔵入りになっちゃったんだけどね」
「そうなんだ」
「こうして会える、まして覚えてくれてるなんて思わなかったから嬉しいよ」
 忘れてなどなかった。佳奈に奈結香の名をつけるくらい、忘れてなかったのだ
「嬉しかったよ」
「そっか」
 奈結香は笑った。華のような笑みだった。
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2009年10月16日

キャンディーフロスワールド11

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「飲みすぎたみたい」
 多分奈結香はそう言いたかったのだろうが、聞こえてきたのは『のむぎたい』という音だった。
 タクシーを頼んで、奈結香を家に送ろうとした。まともに答えは得られず、家に奈結香を連れて戻った。
 眠ってしまっている奈結香を抱えるようにして抱き上げ家に入る。思ったよりも身体で、結構筋肉があるのか堅い。
「おかえりなさい」
 奈結香がいったように思えたがそれは錯覚だ。スピーカーから聞こえてくるのは佳奈の声だ。
「ただいま。一緒に飲んだんだけど酔っぱらちゃって」
「しょうがないな」
 そう話しているとまるで奈結香自身が自分に突っ込みを入れているようだ。
 ソファベットを用意し、奈結香を寝かした。すっかり祐介は汗まみれだった。キッチンの流しで水を出して顔を洗った。
「この人が宇城奈結香さん?」
 スピーカーから佳奈の声がした。
「ああ」
 そういうのは悪い気がした。
「背も高いし、髪の色もこんなにきれい」
 テレビがついて、画面の中に佳奈が姿を現した。その顔を見て祐介は言葉を失った。
 奈結香を見る佳奈はどこか泣きそうな顔をしていたせいだ。
「私とは違うね」
「確かに佳奈と彼女は違うよ」
 佳奈が確かに奈結香がモデルだか、既に違う唯一無二の存在になっている。
「この人が私のモデルなんでしょ?」
 素直に頷いた。
「やっぱり、この人知ってるもの」
「検索したの?」
「昔からって言わなかったかな。私の音声データの一部が彼女のものなの。そう記録されている」
 はじめてヴァーチャロイドを見た時の懐かしさは確かに声を聞いたときだ。
「縁だな」
「そうだね」
 佳奈の顔から泣きそうな表情は消えている。
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2009年10月17日

キャンディーフロスワールド12

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 祐介は会社にいくなり会議室に行くように言われた。会議室では、部長が苦虫を噛み潰したような顔で座っている。
「プロジェクトが延期になった」
「延期ですか?」
「あまり大声を出すな。少しばかり重大な騒ぎがあってな」
 部長自身も混乱しているのかもしれない。
「一月くらい前にハッキング騒ぎがあったのを憶えているか?」
 祐介は頷いた。
「あの時に完全に除去したと思われるウイルスが生きていた。おまけに会社のサーバーの情報を書き換えていたそうだ」
「それがどうして?」
「その書き換えの一つが予算だったんだよ。それは今回のプロジェクト関連の予算も関係している」
「そんな」
 落胆する祐介の肩を部長は叩いた。
「延期といったろ。もうほとんどできあがっているものだからな。無駄にお蔵入りはさせんよ」
「部長」
「情けない声出すな。お前のためじゃない。ここまで形にするのに、いくら経費がかかったか分かっていない連中に分からせるためだ」
「分かりました」
 祐介は頷いた。
「私は席を外すが、ここに内部調査の連中が来るから少し待っていてくれ」
 部長が姿を消し、祐介は大げさに声をあげた。
「なんてことだ」
 広い会議室でこうしているのも嫌だが、待っているように指事された以上はしょうがない。
 奈結香はこの話を聞いてどう思うだろうか。
 座っていると悪い考えが頭をよぎる。祐介は立ち上がって会議室の中を歩き始めた。
「失礼します」
 会議室に入ってきたのは三人だった。
 自分と同年代の男。三十代と思われる男が二人。
「調査部の浦沢です」
 三十代の男の一人。社員バッチを着けた男がいった。
「こちらのお二人は警察の方で、来須さんにお話を聞きたいそうです」
「桜署の山海です」
「桜署の鏑木です」
 二人も頭を下げる。
「どうして警察が?」
「それは私から話させていただいてよろしいですか?」
 若い方の男、鏑木がいう。
「分かりました。その前にお座りください。今飲み物を用意して参りますので」
 浦沢は出て行った。
「どうぞ」
 祐介がいうと鏑木、山海と席に着いた。
「今回のハッキング事件ですけど、既に実行犯は分かっています。『佳奈』でよろしいですか」
「は? 佳奈」
 自分の知る佳奈は二人。ヴァーチャロイドの佳奈と、宇城奈結香という名前で活躍する佳奈。
「おっしゃっている意味がよく分かりませんが」
 どちたもハッキングと縁があるとは思えなかった。
「またまた。あなたがバナナ書店から購入したヴァーチャロイドですよ」
 鏑木は刑事らしからぬ砕けた表情を浮かべながらいった。
「あなたの『佳奈』は、エイリアンや、ゾンビがよりも危険な化け物なんですよ」
「佳奈はそんなものじゃない」
「来須さん」
 山海が口を開くと鏑木は黙った。
「どうしてヴァーチャロイドが販売中止になったか、ご存知ですか?」
「いいえ」
「ヴァーチャロイドは、ユーザーの理想を体現する為に自由度が恐ろしく高い。組み合わせによって、コンシューマーの予想しない、冗長性を持っていて、思いがけない成長をしてしまうのです」
「成長? プログラムがですか?」
「ええ」
「冗談ですよね」
 山海は首を横に振った。
「いいえ、ただし、現状では推論です。しかしいつ起きてもおかしくはありません。それだけ危険な存在なんですよ」
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2009年10月18日

キャンディーフロスワールド13

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 体調不良を訴えて家に戻った。
 刑事の言ったことが真実なら、そう思うと落ち着かなかった。確かに佳奈を見ていると、市販のソフトとは思えない能力の高さを持っている。
「ただいま」
 扉を開けて中に入ると、いつものように佳奈の声は聞こえなかった。
 警察がその気になれば、個人のパソコンへの侵入くらい、操作の一環でするかもしれない。そう考えて部屋に入ると、いい匂いがしてきた。佳奈が何かケータリングでも頼んだのかと思ったがそうではなかった。
 台所に立っているのは奈結香だった。
「あれどうしたの、早いね」
「そっちは」
「とめてもらったお礼に料理でも作っていこうかなって。肉じゃが作ってみたよ」
 奈結香は
「あとで食べる方が味が染みておいしい思うけど、食べてみる?」
「ありがとう」
「ふふ」
 奈結香は嬉しそうに笑った。
「でもこの家って何か出るの?」
「何かって?」
「幽霊とか」
 冗談かと思ったが奈結香は真顔だ。
「どうして」
「何か視線を感じて。職業柄、視線には敏感なんだよね」
 それは佳奈の視線だろうか。
「出るよ」
「え」
 奈結香の顔に怯えが走った。少しよろめくように背を逸らした。
「だからそのあまり来ない方がいい」
「冗談ばっかり」
 奈結香は笑った。
「それより食べて」
 奈結香が作ったのはチキンライス、そういえば聞こえはいいが、ただ野菜と肉とご飯をケチャップで炒めただけのものだ。しかし、一口食べると何か懐かしかった。久しく食べていない普通の食事。
「うまい」
 がっつくように食べるのを見て奈結香は笑った。
「隠し味はお酢なんだよ。ケチャップだけだと少し酸味が足りないんだよ。あと、キュウリの浅漬けを刻んだりして入れるといいの」
 頷きながら祐介は食べた。本当に久久に食べる味でおいしかった。
「こうして食べているの見るのっていいね」
 祐介の手が止まる。
「ああ食べて食べて。何か落ち着くって言うか、その昔を思い出すのかもしれない」
 奈結香の携帯が鳴った。
「あ、ごめんなさい。ラジオの収録があったんだ」
 奈結香はつむじ風のような勢いで家を出て行った。
 途端に佳奈がテレビ画面に映る。
「うらめしや」
 ポーズをとる佳奈に祐介は笑ってしまった。
「何いってるんだ」
「料理うまいんだね奈結香さん」
「普通だよ」
「でも今までにないおいしそうな顔をしていたよ」
「そうかな」
 佳奈は頷いた。
「やっぱり正解だった」
「正解?」
「そう正解」
 佳奈は元気よくいった。
「明日海に行きたいんだけど」
「明日は仕事だよ」
「いいじゃない」
 佳奈は頬を膨らました。
「前は駄目っていってたのに」
「考えが変わったの」
「明日は」
 思い出すが急ぎの仕事はなかった。今日も体調を崩して早退した。明日まで休みといってもおかしくはないだろう。
「そうだな行くか」
「うん」
 佳奈は大きな声で頷いた。
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2009年10月20日

キャンディーフロスワールド14

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「雨だね」
 雨だけではなかった。家そのものが風で揺れている程強い風が吹いている。ただの、低気圧が、台風に姿を変え、近づいてきていた。
 関東の台風は外れが多いだからたいした事はないと思っていた。しかし、今日は、大雨洪水警報が出る程の量だ。
「海駄目だね」
 佳奈はいった。
「また今度晴れたらいこう」
「そうだね」
 笑顔であるものの佳奈は寂しそうだった。
「不正解」
「え」
「そんな顔するのがだよ」
「そんな顔してるんだ」
 佳奈はいった。
「やっぱり壊れてるんだな」
「壊れてる? どこか具合が悪いならチェックしておこうか?」
「冗談よ」
 佳奈は笑った。今度の笑顔は寂しさ感じさせない明るい笑顔だ。
「暇になっちゃうな」
「たまには話でもしようよ。教えて欲しい事もあるし」
「何かな」
「ねえ、奈結香さんのこと好き?」
 ふざけて答えかけて止めた。佳奈の顔からは表情が消えている。真摯なというよりは不気味なものだ。
「多分」
「誰もいないんだから、『奈結香愛してる〜』とか言えばいいのに」
「本当の事だよ、まだ分からない。それに誰もいないって、佳奈がいる」
「私はただのソフトだよ。だからここにいるのは、君一人だよ」
 佳奈はソフトかもしれない。しかし、山海のいっていた冗長性。そのせいか、佳奈という人間がいるように思える。
「一人じゃない」
「ありがとう」
 佳奈は頷いた。
 家の電話が鳴った。出ると奈結香の声がした。
「暇なんでしょ。よかったら遊びにいかない?」
「そうだけど」
 佳奈はどうぞというようにドアを指差している。
「分かった。じゃあ、十二時に駅前で」
 電話を切った。
「行ってらっしゃい」
「ああ。でも、本当は海に行くはずだったのに」
「いいよ」
 佳奈は笑顔を浮かべた。
 外に出れば大雨だった。こんな日に遊びにいくとは何だろうか。
 駅前で奈結香を待っていた。
 雨脚は強いままで、海にいっていたら大変だっただろう。
 駅前まで行く間に、祐介はびしょぬれになっていた。
 こんな天気のせいか、駅にはほとんど人の姿がなかった。
 改札の見える壁によりかかり、奈結香を待つ。
 奈結香はいつくるのだろうか。
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2009年10月23日

キャンディーフロスワールド15

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 携帯が鳴った。
「家、鍵開いているけど入っちゃっていいかな」
 慌てている奈結香の声が聞こえた。
「いいけど、どうして家に?」
「え、だって家で待ち合わせってメールくれたでしょ。うわ、雨で傘」
「入っていいよ」
「じゃあ、うん」
 奈結香が携帯を切った。
 雨の中、歩き出そうとすると車が止まった。旧タイプのミニクーパだ。
「こんにちわ。よろしければ家まで送りましょうか」
 桜署の山海だった。断りかけたが、この雨だ。自らにやましいことがないのを示す気持ちで頷いた。
「よろしくお願いします」
 助手席に座った。車に乗っているのは山海のみだ。
「仕事中ですか?」
「いえ、プライベートですよ。ちょっと買い物がありましてね」
 大手の郊外型店舗の名を山海はいった。
「最近バナナ書店に行かれましたか?」
「いえ」
「火事になりましてね。電気系統のトラブルでね。ところで、ヴァーチャロイドは家庭内の電気系統のコントロールができるのはご存知ですよね? 来須さんのお宅もそうですか?」
 祐介は頷いた。
「バナナ書店には、あなたが手にされた以外にも、ヴァーチャロイドがいたらしい。自分はそれが犯人だと思っています」
「証拠はあるんですか?」
「いえ、ただの勘です。鑑識が隅から隅まで調べてますが、ほとんど何も残っていませんから。ただ、あなたが持っているヴァーチャロイドにも同じ機能が備わっているのを憶えておいてください」
「そんな事」
「そういえば家こちらでしたよね」
 山海は祐介のマンションの方を指さした。
「調べたんですか?」
「一応ですよ」
 山海はメモを差し出した。
「まあ、こんな時にタクシー代わりにも使ってくださいな」
 助手席が開いた。
posted by 管理人 at 22:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2009年10月26日

キャンディーフロスワールド16

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 数分と立たずにマンションの前に着いていた。山海の車に乗っていた五分ほどの間会話らしい会話はなかった。したことと言えば、山海に促され、携帯の電話番号の交換をしたくらいだ
「佳奈?」
 カメラに向かって声をかけるが答えはない。
 祐介は電話を取り出した。かけようと着信を確認したところで気がついた。奈結香からの着信はなく、家の電話からの着信しかないことに。先程の電話は佳奈からのものだったのだ。
 電話が鳴った。山海だった。
「なんですか?」
「仮になんですが、ヴァーチャロイドが人を閉じこめた場合、どうすると思いますか?」
「どうしてそれを」
「閉じこめられているのは宇城さんですか?」
 ヴァーチャロイドに関して調べていけば、音声を提供している奈結香にたどり着くのを難しくはないだろう。いや、山海は自分が佳奈に何かをさせていると判断しているのだ。
「『佳奈』は宇城さんを殺すかもしれない」
 山海の声は淡々としていた。祐介は苦笑した。佳奈は無害な存在だ。手も足もないのに殺せるわけはないのだ。
「山海さん、『佳奈』はソフトにすぎないんですよ。ワードとかウィンドウズみたいなもので、プログラムですから」
 そういいながら何か大切なものを失った気がした。佳奈がもういなくなってしまったようなそんな気持ち。
「ソフトウェアだって人を殺す。考えてみてくれ。信号機が町中で狂ってしまえば事故が多発する。同じことだ。『佳奈』が意図的に、障害を起こせば、結果として、人は死ぬんだ」
 山海の声には今までにない必死さがあった。祐介は息を飲んだ。
 今の世界、電子制御されていないものの方が少ない。そこに悪意が介在すれば人を傷つける事もあるかもしれない。
 しかし、悪意は人間のもの。ソフトウェアそのものに悪意はあるのだろうか。
「それはプログラムの問題で、『佳奈』は関係ない」
「『佳奈はプログラムの集積』。さっき、その口から出た言葉です。プログラムの問題なら、『佳奈』が人を殺す事もあるとは思いませんか?」
 祐介は言葉を失った。
「今ならまだ近所にいますからすぐいけますが?」
 答えずに電話を切った。
 壊すつもりで扉に体当たりをかますと、先程まで動くことのなかった扉はあっさりと開いた。
 玄関には靴が一足置かれていた。フェミニンなデザインな靴は見覚えがあった。奈結香のものだ。
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2009年10月28日

キャンディーフロスワールド17

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 居間に入った。
 違和感があった。まるで部屋の中のものが半分になってしまったようなそんな印象。しかし、目に映るものはいつもと同じだ。
 いつの間にか奈結香が立っていた。いや、テレビの画面に奈結香が映っているだけだ。いや、それは佳奈だった。少し幼い感じを受けた容姿は変わり、頭身も姿も奈結香そのままだ。
「来須くん」
 だぼだぼのシャツとショートパンツを履いたが奈結香が後ろに立っていた。
「ごめん。服とか借りた。濡れていてどうしようもなくて」
「何かあった?」
 その目は佳奈の映った画面を見ている。奈結香は祐介を小突いた。
「もうこんなの作って。私そっくりじゃない」
「いや、これは。ごめん」
 どうして佳奈が姿を変えたのか、奈結香の前に姿を見せたのか分からないが
「この声も懐かしい。これお蔵入りになった最初の仕事のだから、話しかけられた時は驚いたよ。」
「何て話しかけられたの?」
「え。あ、うん」
 奈結香は照れたように顔を下に向けた。
「『佳奈はパートナーになってくれますかって?』」
「答えは」
「『ハイ』って答えた」
 奈結香はそっと上目遣いに祐介の顔を見ている。
「変な告白だけど、悪くはなかったよ」
 祐介は奈結香を、いや佳奈を引き寄せた。
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2009年10月29日

キャンディーフロスワールド18

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 ムーンリバーが聞こえた。
 目を開けると横にいたはずの奈結香はいない。奈結香は出窓に腰掛けて小さな声で歌っていた。
 邪魔したくなくて、静かに寝台から降りた。寝室から出て、部屋にいってパソコンを立ち上げる。
 潮騒が聞こえた。海を背景に佳奈はいた。奈結香の姿ではなく、最初に祐介の設定した姿だ。佳奈は波打ち際で遊んでいたが、祐介に気付いて顔を上げた。
 祐介は思わず目が逸らした。
「君、私はもう旅に出る事にしたから、これはお別れの挨拶」
「どうして」
 理由など分かっていたのに聞かずにはおられなかった。
「本物の佳奈がいれば仮想の私は必要ないから。私はもう必要ないの」
 素早くファイルをチェックした。ソフトの設定を見れば、基本的なところを残っていたが、これまでの記録はほとんどなくなっている。この答えているように思える佳奈も、もう抜け殻のようなものなのだ。
「たまにはムーンリバーを聞いて、私を思い出してくれると嬉しいな」
 佳奈の足下に波がかかる。そのたびに姿は薄くなっていく。
 佳奈はムーンリバーを歌い始めた。ささやくような声がやがて絶え、佳奈の姿も消えていた。
 最初に佳奈はなんと言っていたか。
『私たちはあなたが幸せでいてくれるためのパートナーとして作られました』
 自分がいると、祐介の幸せを邪魔する。佳奈はそう考えたのだ。
 部屋が半分になってしまったような思いは、錯覚ではなかった。彼女はいたのだ。それが、手に取れないヴァーチャルのもの、綿菓子のように跡形もなく消えてしまうようなものでも。
「ありがとう佳奈」
 祐介は言った。海の果て、消えた佳奈に向かって。
 
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2009年11月01日

電彩色2−1

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 そこはオフィス街だった。ガラスとコンクリートで作られた地域は、機能性こそ重視しているが、まるで人間を拒んでいるように思える。
 時間は深夜ということもあって、街灯の明かりが照らす範囲だけが、闇の手を逃れている。
 その中で火が灯った。歩道橋の上、少女の手にあるジッポーのものだ。この辺りではもっとも大きなマンモス校剣柄学園の制服は昼間なら何らかの用事でいても珍しくはない。ただ、目立つという事なら、昼かもしれない。昼なら光を照り返す、メタリックなブロンドは、闇の中では沈んで見える。少女の名を電彩色、ディアン・チャイ・シーという。
 ディアンは二度、三度とジッポーに火をつけたまま手を振った。
 ディアンの首にネックストラップでぶらさげた携帯が鳴った。
「ここにくるって話は正解なの」
「ああ、間違いない」
 そう言った男は一瞬黙ったと思うとカウントが響く。
「7、6、5」
 不意に静まりかえったオフィス街で爆音が上がった。それは、コンクリートが砕かれ、ガラスが割れる音。
「くっ」
 ディアンは歩道橋の駆け下りた。
 懐からベレッタを取り出す。小柄なディアンの為にグリップが一回り小さくなってはいるが、ミルスペックで作られた堅実さは今でも十分通じる。
「動くな」
 ディアンはベレッタを、粉塵の中に立つ影に向けた。
 粉塵は見る間に納まっていく。ほっそりとした影が立っている事にディアンは気付いた。
 戦う事とは無縁と思われる細い骨格、華奢な立ち姿。葬儀に行くとでもいって通じるようなフォーマルな黒いスカートに白いブラウス。その中でネクタイの緑だけが映えてみえる。足下には白いガウン姿の男が転がっている。
「お前の主、魔術士クロエはどこにいる?」
 女はディアンを一瞥し、無言のまま手を振り上げた。
 足下の人間は二つに割れた。飛び散る血がなければ、冗談としか思えない殺戮。
 ディアンはトリガーをひいた。放たれた弾丸は琥珀に近づくに連れて早さを失い停止した。
 防御魔術。そう判断した瞬間、女は弾丸をかいくぐりディアンの眼前にいた。
 手刀が振り落とされる。
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2009年11月02日

電彩色2−2

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 鋼がぶつかる音が響いた。ディアンの交差した両腕は、手刀を正面から受けていた。制服の下には鋼のリストバンドが見える。
「まだだ」
 ディアンの腕が手刀を弾く。その勢いのままディアンは拳を放った。それは身体に沿って見える一直線の急所、死線に向けて放つ連打だ。頭頂、鼻、頤、喉、胸、鳩尾、性器を狙って放つ。
 喉、胸、鳩尾を一瞬で突くと女は倒れた。
「あれ」
 手応えが無かったわけでなかったが何かおかしかった気がした。その違和感の正体を考えていると、電話が鳴った。ディアンは首にかけてある電話を出た。
「そいつは人間じゃない」
 そんな声が電話の向こうからした。
 振り返れば、琥珀は何事も無かったかのように動き始める瞬間だった。
「それはクロエの自律人形のアンバーだ」
「了解」
 ディアンは電話を下ろし、アンバーが立ち上がるのを待った。
「なら手加減はいらないってわけだ」
 ディアンはアンバーに殴りかかった。アンバーとディアンの手がぶつかり合う。刹那、アンバーの右腕が煙を発した。
「燃え尽きろ」
 アンバーは手は発火していた。指先ほどの小さな火だが消える事無く広がっていく。ディアンのシンボル五行の火による攻撃だ。
「魔術要素 火」
「燃え尽きるまでその火は消えない」
 アンバーはディアンに飛び込んだ。燃えた手もかまわずにディアンに叩きつける。ぶつかり合わすと手が砕け、火花がディアンの視界を塞ぐ。
 アンバーの蹴りがディアンの腹に入り、そのまま弾き飛ばした。
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2009年11月04日

電彩色2−3

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 転がって立ち上がると既にアンバーの姿は無い。
「ちっ」
 ディアンは回りを見た。残っているのは、白いガウンの男のみだ。ディアンは男の首に指をやった。脈はある。外傷もないから、気絶したのみだ。ディアンが揺すると男は目を開いた。
「ねえ、あんた。どうして襲われてたの?」
 答えはない。まるで目の前にはいるものの、ディアンなどいないような眼差しだ。何らかの薬物かショックを受けているのか。どうにか正気に返らさなくてはいけない。
「おい」
 答えはない。
「ああ、もう」
 電話が鳴った。男を右手で持ったまま左手で電話に出る。
「撤収だ」
「追跡は?」
 ディアンは怒鳴った。
「無理だ」
「ちゃんと仕事してるの?」
「あれは最高クラスの使い魔だ。姿を隠すのに徹しきれば、見つけることはまずできない」
「人形如きに。で、これからどうするの?」
「撤収だ。スタッフがもう行く。あとは予知部門に任せるから学校に行け」
「学校これから。夜明けまで一時間無いよ」
「学校も仕事の一環だ」
 ディアンは電話を叩きつけたい衝動に耐え、結果は男が地面に叩きつけられていた。
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2009年11月26日

天演

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 私の祖父は昭和の末期に生まれ、平成になってから刑事としての人生を過ごしてきた。昭和の末期から平成というのは、世紀末と重なっているところがあって、今となっては笑い話になっている1999年恐怖の大王がで知られているノストラダムスの予言とか、悪魔払いのエクソシストとか、そうしたオカルトが流行っていたらしい。
 祖父はそうした事に関しては普段は、一言も口にしないが、私がそうした話をせがむと渋々と言った感じで話をしてくれることがあった。一度として同じ話は無かったから、本当は祖父は好きではなかったかと勘ぐっている。ただ、最後にはあれは錯覚だの、勘違いなどといって、謎解きをし、私を現実に引き戻すのだ。
 しかし、中には数度ばかり、そうはならなかった話があった。祖父も答えを知りたがっているそんな印象を持つ話だ。
「あの一件は今でも解らないんだ。確かに解決はしたんだけども、佳奈というのは何だったのか」
 そういってから口を濁した。
 それからも何度となくいろいろな話をしながら情報を集めた。どうもその時期は、刑事であった時期、祖父が駆けだしであった事を聞くと、誰に聞いていいかはすぐに察しがついた。
 鉞のおじさんだ。鉞のと呼ぶところから解ってもらえると思うが、本名ではない。祖父が刑事をしていた頃の先輩で、数年に一度、うちに訪ねてきてくれる。大柄で少し怖そうだ。でも、人当たりのよさそうな顔をしていて、物腰は柔らか。本名は山海仁吾といって、若い頃は鉞仁吾とか、和製ターミネーターなどと呼ばれ、力ずくで事件を解決していたらしい。
 結局、好奇心に耐えきれず、夏休みを使って、私は鉞のおじさんの家を訪ねることにした。
 訪ねてきた私を、おじさんは見て、驚きはしたが喜んで迎えてくれた。おじさんは奥さんは亡くして、一人暮らしなのはしっていた。
「うちに訪ねてきてくれるとは」
 おじさんは、家が散らかっているからと、近所の喫茶店に連れて行ってくれた。
「どうしたんだい? ご家族とケンカでもしたのかい。それとも夏休みだからちょっとした旅行かな」
 おじさんの機嫌の良さそうな様子に、私は正直に自分が来た理由を述べた。あからさまというわけではなかったがおじさんの表情が変わるのが解った。
「そんなつまらないオカルトの話なんて、いい娘がするものじゃないぞ」
 いい娘。その言葉は十歳の自分にはちょっと大人扱いしてもらえたようで嬉しい。それ以上追求すると子供であると認めてしまう気がした。そういわれてしまえば、これ以上聞くこともできずに結局、私はチョコパフェをごちそうになって家に帰ることになった。
 夏休みは長かったが、宿題や講習に追われて、結局、おじさんの所には訪ねる事はなかった。
 それでも私の中で『佳奈』への興味が消えることはなかった。時間を見ては、調べる事にした。
 もし、事件に関わっていたのなら。そう仮定して、最初にしたのは、祖父が在職していた桜市の地方版の記事を調べる事だった。被害者でも加害者でも『佳奈』はいなかった。ということは、ニュースになるような事件にはならなかったということだろう。
 後は祖父の持つ資料をこっそりと調べることだ。
 普通にいうとだめな気がしたので、宿題で『祖父の時代の若者文化』を調べているが、リアル感がないのでというと、若い頃の記録の数々を見せてくれた。
 祖父はライフハック主義者で、効率的に仕事するのが好きだった。そのせいか、効率をあげる為の材料として、記録魔なのだ。もっとも、刑事時代の話を聞く限りでは、記録ばかりに夢中になって効率はあまり上がらなかったらしい。
 その非効率の中で、『佳奈』の記録は見つかった。
『結城佳奈、宇城奈結香の本名。ゆうきかな うきなゆか』
 
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2009年11月30日

天演2

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 夏だというのに朝から寒い雨が降っていた。加えて、日が暮れる頃には、かなり強くなっている。そんな日に限って家に一人。家族はみんなで信州にお墓参りだ。私だけは残されたのは、次の日曜日に模試があるせいだ。
 祖父がいないのはチャンスだと、色々と昔の資料を漁っていた。
 しかし、風に吹かれ、がたがたと窓が揺れる度にびくついてしまって集中できない。これで雷まで鳴ってしまったら悲鳴でも上げそうだ。私は天気が悪いのは嫌いなのだ。
 呼び鈴が鳴った。出てみると鉞のおじさんだった。
「こんばんわ。鏑木はいるかな?」
「みんな田舎に帰っていて」
「長野だったな」
 おじさんはそういってから手に持っていたつつみを差し出した。
「近所まで来たんでな。これはお土産のわらび餅だ」
「ありがとうございます。あの良かったら虫養いでも」
 そういったのは稲光が見えたからだ。割合近くで光ったから、あれが側にきてしまえば多分、もう。
「ご馳走になろうか」
 おじさんを居間に通して、私は台所でお茶とお菓子の用意をする。台所から見える芭蕉の大きな葉が風に揺られ、壁に当たっている音が怖い。
 お茶を用意して居間に戻ると、おじさんは胡座で座り、目を閉じて、耳を凝らしているようだった。
「だいぶ強いな」
「結構な豪雨ですよね」
「停電になるからしれしれないな」
「困ります」
 真っ暗になってしまっても、家の蓄電池で灯りは暫くはもつが、一晩となると心許ない おじさんはいつの間にかお茶を飲みながら、一緒に出したかりんとうを食べている。
「菓子もうまい。甘さ控えでもいいかりんとうだ」
 虫養いとして出したお菓子は好評なようでよかった。わざわざ上野に買いに行く花月のかりんとうなのだから当然ともいえる。
「そうですか」
 当たり前の事をしてほめられるのは何か照れくさいが嬉しい。
 それからとりとめのない話を三十分ほどしたろうか。
「さっきから気になってるんだが、それは鏑木の手帳だな」
「あ、ああ、まあ」
 調べ物をしていたのをすっかり忘れて居間の端に祖父の手帳が放置してあった。
「まだ調べているのか?」
「そ、そんな事ないよ」
 おじさんは頭をかいた。
「まあ、そんな話をするにはいい日だな。調度この桜でおこった事件だからな」
 そして真顔になって、「怖くなって夜帰らないでくれとかいうなよ」
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2009年12月09日

天演3

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 その頃、桜は混乱の中にあった。元からある昭和を色濃く残す町並みと、平成になって開発された海辺の埋め立て地開発。成長と衰退が一つの都市にある時、その街は不安定になる。
 ターミナル駅だというのに、ドーナツ化し
つつあった駅回りに、何といっていいか解らない店が多くあった。その一つがバナナ書店だった。
 バナナ書店はもともとはただの古書店だったが、いつの頃からCDや、ゲームを扱い始め、様々な中古のものを取り扱うような店だ。そこを捜査することになった。内容は児童ポルノの摘発だ。だが、児童ポルノは出てこなかった。
 まあ、目的のものは出てこなかったが、それなりに叩けばほこりが出るようなところだったから、冤罪というわけでもなかったんだがな。
 それから数日、署長に呼び出された。
「バナナ書店を詳しく調べて欲しい」
 ダンボール一箱渡された。中身はバナナ書店から押収したパソコンやらCDといった品物だった。俺はそういうのはあまり得意ではないから、そこで鏑木に協力して貰う事にした。鏑木は乗り気で、署の設備じゃどうにもならないと、ソフトを家に持ち込んで調べていた。
 その結果、ウイルスを完全に削除する代わりに他のパソコンに侵入した場合最悪のウィルスとなる『bezoar』を始め、発売が禁止や中止になったソフトだ。もっとも、鏑木は『まあ、うちのセキュリティに比べればまだまだですけどね』と軽口を叩いて、余裕があるようだった。
 それから数日。鏑木が来なくなった。家に行くと風呂場で鏑木は一酸化炭素中毒で意識を失っていた。
 目覚めた鏑木は、
「バナナ書店の調査を止めましょう」
 随分青い顔で体調も戻っていないから解ったからその場では聞き出さなかった。しかし、何度尋ねても同じ事をいう。
「俺だって、鬼じゃない。理由を話してみろ」
 その時の尋常じゃない様子に何か感じていうと、鏑木は首を横に振って頭を抱えた。そのまま宥め賺して見たものの、結局何も聞き出せなかった。
 家にいる間、何かあったのか。そう思って、家の回りを聞き込んでみた。隣の学生の話によると、毎日のように若い女の声が聞こえたという。鏑木も若い男だ。もしかしたら、何か、その女とあったのかもしれない。
 女が誰かまでは解らないが、調べる価値はあるように思えた。
 病院に行って鏑木に尋ねようとしたが、別件が起こって、そっちの事件にかり出される事になった。
 事件というのは市内で、連続で火事が起こったというものだ。
 その一つがバナナ書店だった。
 
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2010年08月30日

御佩刀の

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 夜空は曇っていた。月や星の光も射さない闇の中で、ただ蝙蝠だけが飛び交っているのが見えた。
 忍び込むには悪くない。津門藤悟はそう思いながら歩き始めた。
 藤悟は兵主部と呼ばれる忍だ。兵主部は兵法を貴び、武術を好む。その鍛錬の為に、戦働きをする。藤悟はその中で下忍、命じられ、実際に手を汚す立場に他ならない。
 五代家の別邸に人目を避け入り込んだのもそんな生業の一つだ。目的は姫を掠う為だ。五代家には姫が数人いる。中でも花鳥といわれる二人の姫は、その名を広く知られていた。名はそれぞれ長女は花、次女は千鳥といい、容姿に優れ、各地から縁談はひっきりなしであった。
 しかし、後継ぎの男子がいない五代家にあって、姫君たちは婿を迎え、家督を継ぐかもしれない事から、二人とも嫁ぎ先は決まっていない。
 藤悟の役目は、別邸に亡き母を偲んで訪れた、千鳥姫を拐わかす事だった。
 人家の見あたらない山中にありながら、立派な塀を持つ別邸は、五代家の栄えを示している。五代家は瀬戸内の島を牛耳る一族で、戦功によって名を挙げた貴族を、先祖に持つという名家だ。この戦国の世にあっても、没落する事なく続いていた。それは所領とする五代島が潮の流れ上、交通の要所となるからだ。それ故に、各地の大名は、五代との対立を避けた。五代家の方でも、特定の大名と懇意になる事なく、義を持って行動した事から、怨みを買う事なく、今まで続いてきた。
 藤悟は屋敷の塀を越えた。屋敷に入り込むと、多くの見張りの姿があったが、見つかることは無かった。それは藤悟の力ゆえだ。庭の茂みの中を進む様子は、飛ぶ鳥や、風に動く木々のように自然で、見張りのものの注意をひかない。
 藤悟はいくつかの茂みを過ぎたところで立ちどまった。
 茂みの中に男がいた。直垂に侍鳥帽子と武士らしい男で、何かを見ているようだ。そうしたものは、見る事に気をとられて、自分が見られている事に気づかないものだ。
 藤悟は物音を立てずに近づき、手刀で男の首筋を殴りつけた。気を失い、倒れた男を茂みに隠した。
 男がいた場所に立ってみる。奇妙な事に気づいた。別邸の中でもっとも大きな建物である屋敷から見えにくい。見張るというより、襲う立場に立った方が納得できる場所だ。このまま茂みを縫っていけば人目につかずたどり着くことができる。
 罠。そう思ってから藤悟は考えるのを止めた。罠だとしても役目を遂げるだけのことだ。罠があってもそれをくぐり抜ければいいだけのことだ。
 床下に入り込み、柱を上り、天井裏にあがった。屋敷の中は静まり返っていた。外に比べて、中に入ると見張りらしいものの姿はない。誰かが侵すのを待っていたとしか思えない手薄さだ。
 藤悟は間諜から入手してあった屋敷の間取りを浮かべつつ、人気のない廊下に降り立った。
 すぐ脇にある襖の向こう側には千鳥姫がいるはずだった。音がした。白猫が一匹悠々と廊下を歩いてくる。その姿は堂々としていて、まるで主のようだ。
「任か?」
 襖の向こうから声がした。藤悟も猫も物音は立てていないはずなのに感じ取られたようだった。
「任か」
 藤悟は無言のままそこにいた。声だけではなく、物音を一切発する事なくそこに立ち止まっていた。
 襖が開いた。襖の向うにいたのは童といってもいい年の娘だ。少なくとも噂に聞く、千鳥姫では無かった。
「お静かに」
「何者か?」
 任と呼んだ時とは打って変わった冷ややかな声色だ。
 黒装束に身を包んだ男を前に、懐剣をしっかりと手にしているのは気丈だった。何かあれば自決する覚悟だ。
「問いに答えよ」
 藤悟は頷いた。いかに早く動けても、自分の首を掻き切るのを防ぐ事はできない。
「どこの国のものだ?」
「国はございません」
「では主は?」
「ございません」
 娘の頬が赤くなった。それは怒りの為で、藤悟の正直な答えが、馬鹿にしていると思われたかもしれない。
「話にならない」
 藤悟の目に微かに痛みが走った。同時に焦げくさい臭いがしてきた。藤悟だけでなく娘も気づいたようで顔色が変わった。
「この臭いは何か?」
 藤悟は答えるのを止め、臭いの元を探ろうとあたりを見回した。屋敷の奥から煙が流れてくる。
「お前の仕業か?」
 首を横に振った。
 こちらが助け出す前に、何者かが襲ってきたのだ。先程の男が姫を始末し、火を放つ。そんな筋書きがあったのかもしれない。
「助けに参ったのです」
「助けだと?」
 既に廊下の先には、蛇の舌のような火の手が上がっていた。自然についた火が、こんな早さで広がるわけはない。ただの失火ではなく、着け火の類だ。
 藤悟は体が汗ばんでいるのを感じた。熱さの為ではなく、それは恐れだ。
「どうしたのですか?」
 娘の目にはこちらを気遣うような光が見える。
 ここで火を恐れていてはならない。巻き込まれて、死ぬ。
 藤悟は意を決して、背中を向けた。懐剣でも一刺しで急所を狙える姿勢だ。
「背中におつかまりください」
 娘は藤悟の背中に負ぶさった。
「失礼いたします」
 藤悟は、そのまま手近な戸を蹴り、外に飛び出した。既に屋敷は火に包まれつつあった。
 頭の中で屋敷の図面を思い出しながら走る。
もっとも近い出口に近づくと、背後で声がした。
「姫、姫はいずこか」
 その声は守るものではなく、追うものの高揚に満ちていた。
 娘も何か感じたのか無言のままだ。ただ、恐れているのか、藤悟を掴む手に力がかかる。
「逃げたぞ追え。生かして屋敷を出すな」
 藤悟の感じたものに誤りはなかったようだ。狙われているのは娘のようだ。
 図面を思い出しながら、藤悟は戸の一つを蹴破って外に出た。
 庭には人の姿はない。隠れる事は考えず駆け抜ける。塀が見えてきた。
 これで逃れられる。
「見つけたぞ」
 藤悟の前に男が飛び出してきた。その男は先程、茂みに転がした男だ。
 素早く男の首を殴りつけた。失神し、倒れる男を見ながら、藤悟は振り返った。
 さらに数人の直垂を身に着けた衛士らしいものが向かってくる。
 いける。衛士の動きは無駄が多い。鍛えられた兵士ではない。
 走り出せばもう堀の前だ。飛び越えて外に出ればいい。
 風切る音が響いた。鋭い槍先が藤悟を襲った。
「姫を帰せ」
 その衛士は一本の角を思わせる兜を頭につけていた。藤悟より小柄だが、声の感じから年は、十五・六と同じ程だろう。
 槍が突き出された。しなるようにして閃く槍は、衛士にとり手足の延長のように自然だ。
 達人。そういっていい人間の動きだ。
 槍と無手。まともに戦って勝ち目はない。懐にある苦無を使ったところでも、それは変わらない。槍の長い間合いに入る事は難しい。 衛士は突きかかってくる。間がある。そう思ったのは一瞬で直ぐに眼前に槍の穂先があった。さらに踏み込んでくる衛士に苦無は投げつける。衛士は躱そうとしたせいで、早さが落ちた。だが、落ちただけで槍はまっすぐ伸びてくる。
 殺られる。
「名切ダメ」
「姫」
 脇の娘が声をあげると、槍の速さは鈍り、止まった。
「姫を放せ。そうすれば見逃してやる」
 風切る音が響くと、藤悟と衛士の間に数本の棒手裏剣が突き刺さる。それは衛士の動きを止めた。
「早く逃げるよ」
 何かが目の前に転がった。そう思うと煙が上がって一気に視界を煙に塞いでいく。
「こっち」
 手を引かれ藤悟は走り始めた。
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2010年10月25日

【竹の子書房】タイトル未定 大正髑髏(仮)【絵描きからの逆襲】 http://togetter.com/li/52852 さんのを元に書き出したものの、ちょっとおかしくなってきたもののまとめ

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【竹の子書房】タイトル未定 大正髑髏(仮)【絵描きからの逆襲】
http://togetter.com/li/52852
さんのを元に書き出したものの、ちょっとおかしくなってきたもののまとめ

 出会ったのは、泥の町だった。遠浅の海が続き、大きな船が迷い込んでしまえば、座礁してしまうその町は、帝都に近いのにも関わらず、開発が進まず、残った田園風景に、商業で財を成した資本家や、知識人といった新興の市民が、安らぎを求めてやってくる一角となっていた。
 私は網主である鳥谷部家の別邸に、夏の終わりまでに一幅の絵を描くことを条件に、過ごしていた。
 都市での生活で味わえない潮干狩りといった磯遊びや、既に街では無くなってしまった景色を見つけては楽しむ野遊びといった趣のあるものを好む。
 しかし、一度日が落ちて夜になってしまえば、月星の明かりと、漁船の漁り火程しかなく、襲ってくるのは寂しさだ。家族住まいのものなら、普段は忙しく相手を出来ない家族の相手をすればよいのだろうが、私のような独り身は酷く寂しく思えてくる。だが、良くできたもので、遊ぶところはそこそこあった。
 江戸の昔から、つい最近汽車が通るまで、女連れのない成田詣の客を楽しませるためのハチベエと呼ばれる女郎がいた。今は遊郭は無いが、その末であろう女のいる店が多くあった。中には、それなりにカフェの呈を為した店もあった。
 瑠璃家という名のそのカフェは青い曇り硝子が印象に残る店だった。その水底のような店のせいか、いる女給も鯛や平目、蛸といったものを連想させた。
 足繁く通ったのは、一人の女給の為だった。殆ど無言のままで給仕をする彼女は、成長が遅いのかそういう質なのか、背の割に薄い体つきをしていた。顔立ちは竜宮城めいたその家では、乙姫といえるだろう。毎日通っていると時折目があった。
 ある夜の事、瑠璃家の蛸に似た女店主に言われた。
「一晩いかがですか? ええ、ちょっと色をつけてくださればいいんですよ。先生、新進気鋭の画家でらっしゃるんでしょ。それなら、ねえ」
 足下を見られていると思ったが、出せない額ではなかった。
 私は彼女を一晩買った。

 彼女が待つのは瑠璃家の裏手にある小屋だった。表から見れば、それなりに立派なカフェに見える瑠璃家も、後ろから見れば、海沿いにはよくある潮風にさらされた古びた木造の家だ。小屋はそれに環をかけて古くさく、もともと何か道具でも置いてあったかのように見えた。
 部屋に入った。窓から射す、月の光だけが明かりだった。新しくはないが、すっきりと片付いた小綺麗な部屋。目に付くのは鏡台と、ひかれた布団。その布団に横たわり、彼女は横たわっていた。
 彼女は上半身を起こした。物憂げな動き、彼女の貌によく似合った。
 私は近づくと、彼女は首に腕を回してきた。海が近いせいか磯の匂いが漂う。甘いような腐っているような匂い。
 耐えきれなくなり、そのまま押し倒した。夏なのに、彼女の身体は冷えていた。肉の薄いせいなのか、体温が低いのか、そう考えながら身体をまさぐった。白い肌は、今まで触れた事のある、どの女よりも柔らかい。
 その柔らかさを味わうというより、貪った。だが、白い肌は赤くなることはあっても声は出ない。それが小憎らしく責め立てた。
 どれだけの時、そうしていたのか。それだけ彼女の身体は蠱惑に充ちていた。
 下半身に手を伸ばすと、月のものが来ているのか、濡れていた。それは赤く、感じているのではなく、月のものなのか血が滲んでいた。
 手を止めると、彼女の手が自分に伸びる。自分の分身が逆に柔らかな手で攻められるのが分かった。何か得体の知らない生きものにでも喰われるような快楽が広がる。
 夜明けにはまだ間があるようだ。

 目を閉じていても分かる強さ。朝の光だ。いつの間にか眠っていたようだ。昨夜の狂態を思い出すと顔が赤くなるのが分かった。初めて女を抱いた時のように責め立てた事を覚えている。
 部屋に染みたように残る香りが昨夜の事実を告げていた。
 彼女は窓際に腰掛け、外を見ていた。何か随分遠くを見ているようで、視線を追ったがそこにあるのは壊れかけた塀だけだ。
「何か見えるのかい?」
 聞くと彼女は首を横に振った。昨夜もその声を聞くことはなかった。 
「もしかして」
 尋ねようとした時、表の戸が開いた。
「先生、おはようございます」
 店主だ。昼の光の中で見ると、漁師町のどこにでもいる婦人という印象で、夜というもののベールを通してみる事の難しさ感じる。
「おはよう」
「お楽しみいただけたようで」
 店主は嬉しそうに言った。
「ああ。ところで彼女は口が利けないのかい?」
「ええ。ここに来たときからそうなんですよ」
「医者には診せたのかい?」
「ええ、まあ」
 それがお為ごかしのように聞こえた。そんな私の思いは顔に出ていたようで、店主は強い口調でいった。
「そんなものに、こうして寝起きする所を用意して、おまんま食べさせてやってるんだから、そんな責める目で見るものじゃありませんよ」
「ああ、そんな気はなかったんだ。すまない」
「吉原とか、大きな郭でしたら、こうして朝の風情も楽しんでいただけるんでしょうけどすいませんね。この子に飯を食べさせたり休ませたりさせたいんで
「すまない」
 彼女は見ると私に興味などなさそうに一点をぼんやりと眺めていた。

 昨夜も一昨日も、彼女を抱いた。朝、寝ぼけた頭で戻り、絵を素描なりと描く事ができたのは二日あまり。三日目になれば、絵筆など握らず、夕方近くにおきては、瑠璃家に向かって酒を飲み、彼女を買った。
 彼女の身体の触れていないところなど無くなった。彼女がほとんど動かず座っている理由も分かった。彼女はまとも歩けなかった。包帯というには華美な布で足の半ばまでまかれた足は小さく、清朝の纏足を思い出させた。
 それも終わりだ。金は無くなった。それでも、絵を依頼してきた鳥谷部の主人に頼み、用立てて貰ったが、それも対した金額ではない。
 日が落ちる前に、瑠璃家に入ると、珍しく彼女だけがぼんやりと席に座って窓の外を眺めていた。近づくと彼女は顔を上げた。
「明日はもう来られないな」
 少し彼女は震えた
「酒は飲みにくるよ」
 彼女は抱きついてきた。縋るようなそれは閨房と違って震えていた。
 掠れた声に驚いた。その声はこういっていた。「助けて」と。

「おや、先生。今日はお早いんですね」
 店主だった。
「ああ、ちょっと通りががったから顔を出しにね」
「てっきり日も高いうちからなんて思いましたよ。お足さえいただければですけどね」
「いや、夜また来るよ」
 軽く会釈して外に出た。
 誰かに聞く必要がある。一体誰に聞けばいい。そう思ったがこの町で知り合いといえば、鳥谷部の主人くらいしかいない。彼に尋ねるか。
 悩んでいるうちに、日も暮れ、瑠璃家の前に戻っていた。狐につままれた心持ちで、店に入った。
 中は相変わらず竜宮城のようだ。適当にカウンターに座ると、麦酒が運ばれてきた。
「今日も泊まられますか?」
 店主の言葉を断ろうと思った時、カウンターの中の彼女と目があった。
「当たり前じゃないか」
 さも今気付いたようにサイフの中を覗き、「ただ少し足りないんだが明日でいいかな」
 店主は丸い目を大きくしながら頷いた。
「今回きりですよ」

 彼女は私の膝に乗るように身を寄せた。重さのないように思える彼女にもそれなりの重さがあって苦しい。彼女は接吻するように口を近づけた。
「何を助けてほしいの」
「逃げたい」
 声は掠れて小さいが、よく聞こえた。耳を澄まさずにはおれない声だった。
「君はお金でここに縛られているの? 何年勤めればいいの」
 多くのこうした女は金で売られ、その金を何年かで返すものだ。足抜けだ。見つかればどうなるかわからない。それより彼女のつとめはあと何年なのだろう。それが分からなけば、何も言えない。
 彼女は離れた足を覆う包帯を解いていく。落ちた包帯は白だったものが、少し少しずつ黒く染みが見えた。そして足になるに従って赤く染まった。
 血だった。
 纏足と最初に思えたような彼女の足は、何らかの病なのか、血に濡れていた。血はいまでも流れていて足は濡れている。

 彼女の目が部屋の入り口に向けられた。立ち上がって入り口に近づく。入った時も、出る時も彼女に心が向いてしまい、気付かなかったが、入り口の直ぐの所に黒い櫃が置かれていた。
 大きさはそれほど大きくなく抱えられる程だ。蓋を開くと、布が。その上に包丁が置かれている。刃の厚い包丁はその重さで、一気に叩き下ろす。獣を裁くとき等に扱う類のものだ。
 彼女がそれを見る目は暗い。諦念。そんな言葉が頭に浮かんだ。
「これで君は足を」
 思いがけずに大きな声が出た。おびえた表情か彼女の顔に浮かぶ。それは小屋の外に向けられていた。
 私は戸を開けて外に出た。
 虫の音、波の音だけが聞こえてきた。
 小屋に戻った。
「誰もいないよ」
 彼女は長い息を吐いた。
「逃げよう」
 理由などどうでもよかった。ここにこうして置いてはいけないそう思えた。

 彼女を背負った。抱いていてもそこにあるのかと思えるような希薄な身体の重みがしっかり感じられた。背負ったまま、外に出る。
 新月だった。星の明かりだけが光る中、ゆっくりと歩き始めた。
 どこにいけばいいのか。今世話になっている家は無理だ。
 それでも止まるわけにはいかない。歩いていくと、人家は減り、海辺に出た。
 そうだ。船ならば。
 殆どの漁船は盗まれる事がないと思っているのか、ただ縄で係留しているだけで直ぐに海にでれる。
 そう思って縄を解き、彼女と共に海に出た。

 力が続く限り櫓を漕いだ。闇の中で、目印になるようなものはなく、遠くに大神宮の灯明台の微かな明かりだけが見えるだけだ。
 その光がやがて消えていく。そう、朝がきたのだ。
 目の前に広がる景色に、不快さだけが残った。
 目の前には船橋の町が見える。結局、湾の中を彷徨っていたに過ぎないのだ。それは、結局のところどこにいけなかったということだ。
 気付けば歯ぎしりをしていた。
 それだけではなかった。港には数人の男、そして瑠璃家の店主らしい姿があった。

 捕らえられ、男たちにそのまま引っ張り出される。
 浜に突き飛ばされた。そのまま蹴られた。倒れると無理に立たされ、殴られた。その繰り返しがどれだけ気付いたか。
 すすり泣くような声が聞こえた。彼女だった。いままで表情の乏しかった彼女がそうしているだけで何か嬉しかった。その彼女に向かう視線に気付いたのは店主だった。
「先生、それはいけませんよ」
 店主は笑顔だった。その笑顔はどこか愉悦が見えた。
「うちのものを足抜けさせようとした上、まだ色目ですか」
 店主は私の右腕を見た。
「なに、命はとりはしませんよ。その腕の一本で、勘弁してさしあげますよ」
「なあ、その程度にしておいてくれないかい。彼に、私は絵の依頼をしていてね」
 明るい声だった。
 仕立てのいい麻のスーツに、パナマ帽を被った男。手には洋物と思われる革の鞄。
「鳥谷部の旦那」
 男達の中から声があがった。絵を描くことを依頼した男、鳥谷部大雅だった。
「女将、悪いが、この事は不問にしてもらえないかね」
 鳥谷部があっさりという。主人は急にきた鳥谷部に困惑していた。回りの男達は、既に鳥谷部に逆らう気はないようだった。
「大丈夫ですか、先生」
 気まずく何も言えない私から目を離し、連れて行かれる彼女に視線を向けている。脆い足を、緩い砂浜に囚われている姿は、陸にあげられた魚のようだ。
 彼女の所に行こうとしかけて立ち上がれないほど
 私の身体を鳥谷部は立ち上がらせた。
「あの子がほしいですか」 
 連れて行かれる彼女の姿が見えた。
 頷いていた。鳥谷部は満面の笑みを浮かべた。
「今日のところは諦めてください」
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2011年03月02日

清夜長相

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 その作品を見たとき最初に感じたのは生きているという感覚だった。もちろん、それは彫像だ。生物という意味では一切生きてはいない静物。しかし、感じたのは生命だった。
 恋人の生家のある東北の村を訪れたのはある冬の事だった。村を訪れたのは、十代から三十代にかけてつきあった長い春の決算、結婚に続く流れの為だ。
 正直なところ、来るのは嫌だった。東京で生まれ育った私は基本、あまり寒いところは好きではない。などと冗談めかしていってはいたが、本当の事をいうと、二人の関係が新しい局面、というかどん詰まりのように思える結婚に向かうのをためらう気持ちがあった。三十代になってやっと描いている絵が評価され、それなりに個展などを開き、画集も発売されるようになった今、結婚という絆は、むしろ錨のように自由を奪うような気がしたのだ。
 しかし、長い春の中で、賢くなっていた恋人は、よく私の動かし方を知っていた。
 生家のある村には、秘蔵の作品があるというのだ。ただの美術品なら、わざわざ一日時間をかけて行く事は無かったろう。それが私の敬愛する暁紅尾の作品だというのだ。
 暁紅尾は、二十世紀に活躍した造形家だ。作品は主に和紙や糊、粘土といった軽い素材で作られていた。そのせいか、あまり美術商が好まず、中央線沿いの小さなギャラリーで展示されることが多く、あまり知られる事は無かった。しかし、一冊の写真集が全てを変えた。『月明星稀』と題されたその写真集は、風景の中に彼女の造形物を置いて撮影された。今まで都会の小さな場所で展示されていた作品は、自然の中に置かれる事で一変した。まるで野生動物の写真であるかのように思え、あまりの自然さに絶賛された。
 その時得た資金を元に、彼女はさらなる作品を作ろうと、地方にギャラリーを構えた。その後、消息が途絶え、作品は幻の物となった。
 実は彼女がギャラリーを構えたのが恋人の生家からほど近い山だという。加えてギャラリーを設置する際に、色々尽力をしたので、記念に作品を一つ贈られたという。
 今その作品を目の前にしている。
 大きさは50センチほど。写真集に載っていた作品だ。『半神』と題されたその作品は、ギリシア神話のサチュロスをモチーフにしていると思われた。元来サチュロスにはある山羊の髭はなく優しい顔をしていた。かすかに膨らんだ胸を含めて、そのサチュロスは少女のように思えた。
 飽きる事なく、眺め続けていた。産毛一本一本まで作りこまれたそれは見れば見るだけ、新しい発見をもたらして、飽きなかった。気づけば横にいたはずの恋人はいなくなっていた。何か言われたような気もするが、よくは憶えていない。 
 息を吐いた。白かった。自分は一体どれだけ作品を見続けていたのだろうか。
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2011年03月03日

清夜長相

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 息が白い。
 いつの間にか暖房も切れてしまったのだろうか。恋人が燃料が無くなれば死ぬといっていた事が頭をよぎった。このままこの部屋にいたら凍えてしまう。
 扉に手をやった。思わず手を離した。ドアノブは氷の塊のように冷たい。服の裾を引っ張り手にかけて、少しでも寒さをしのぐことを考えながら、ドアノブをひいた。ドアノブが動かない。この寒さに凍りついたと一瞬思った。そんなわけはない。きっとカギでもかかっているのだ。 
 どうしよう。
 部屋はせっかく『半神』が飾られているというのに、物置のような扱いの部屋だ。物置といえないのは、東京暮らしの自分の借りているアパートよりも広いスペースに対しての気持ちで、この家からすれば紛れもなく物置なのだろう。
 立っていると寒さに耐えきれないので部屋の中をうろうろろ歩き回った。動いているうちに少しだけ体温が上がってきた。
 目にとまったのは本棚だった。本棚には奇麗な本がたくさん飾られていた。買うだけ買って読んでいない本。そんな印象を受ける。本は悲しいことに好きな本であればあるほど傷み壊れていく、日用品のようなものだ。ここにある本は全くそんな感じは受けない。まるで芸術品のようだ。
 ガラス戸を開けて適当に一冊とった。
 小牧野の伝説。と書かれていた。この辺りの地名とも違うし、どの辺りのものなのだろう。そう思って本を広げた。
 東北で、伝説とくれば、遠野物語が有名だ。河童や、山人といった、どこか不思議な物語が語られている。実話を元にしながら詩人であった柳田國男の感性を通して描かれたそれが、昔話とも民話とも違う、地続きの感じを持って書かれている。この本もそんな影響を感じさせた。
 語られているものは、どこか実話を感じさせた。
 なかなかにおもしろくて本をめくっていくと一つの話にぶつかった。
『山中にて怪異に遭う』
 
posted by 管理人 at 23:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit

2011年03月07日

清夜長相3

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 そしてページをめくった瞬間、肩を叩かれた。振り返れば恋人が白い息を吐きながら立っていたおかげで、出かかっていた悲鳴は止まった。
「チキンハートだね」
 顔が真っ赤になるのを感じながら、言い返した。
「こんなところでいきなり肩叩かれたら驚くに決まってる」
 言ってから恋人にとってはここは自分の故郷であり、それも実家なのを思い出していた。それをこんなといって気を悪くしないだろうか。
「まあ確かに。それよりも、どうして暖房も消したままで」
「切れちゃったんだ。それに外に出られなくて。カギなんてかけてどうしたのかと思った」
 開かなかった扉の事を考えた。
「カギ? 古い家だから立て付けがね。カギなんてついてないし」
 日常の言葉に安堵する反面、さっきまで自分の周りに漂っていた不思議な空気が無くなったのはちょっと切ない。
「それより食事できたから行こう。清流鶏っていう、この辺りのおいしい鶏でいろいろ作ってくれたみたいなんだ」
「鶏」
 鶏と聞いてちょっとテンションが上がった。それも地鶏とくればおいしいに決まっている。
 恋人について部屋を出た。本をそのまま持ってきてしまった事に気づいたが、後で返せばいいと思い、そのまま持ってきてしまった。

 恋人とその両親だけの四人の食事だ。それなのに一畳はある大きい角卓には、食べ物や飲み物が置かれている。食べ物は鶏の唐揚げやたたき、筑前煮、焼き鳥やチキンサラダといったものから、漬け物。ちゃんむしといった蒸し物まである。そしてお酒は瓶ビールから始まって、日本酒や焼酎、ウイスキーといったものまでたくさんだ。
 二人ともにこにことしている顔は、恋人によく似ていた。夫婦というのは、長い間寄り添うと似た顔になるというが、こうしたものだろう。
 これから自分も恋人と一緒に過ごして似たような表情を浮かべるようになるのだろうか。そう考えると面はゆい気持ちになったが、その想像はそんなにわるいものではなかった。
 東京での暮らしや、私の親や子供の時の事、同じように恋人の悪たれぶりを聞かされ、笑いは絶えなかった。
 酒をかなり飲んでしまい恋人は酔いつぶれた。
 恋人の母親に案内されたのは客間だった。
 部屋の中には灯油のストーブが置かれ、赤く熱そうだ。二酸化炭素がたまらないように少し障子が開けられ、縁側から冷たい空気が入ってくる。
 一人になると、夜の静けさは身にしみる。東京では街は不夜城だ。いつでも誰かが動いていて、その音は聞こえてくる。でも、今聞こえてくる音は、ストーブが空気を暖める音くらいだ。
 パジャマに着替え、布団に入った。電気を消した真っ暗な部屋。冷たい布団がいつの間にか体温で暖まってきた。でも、飲んでいてお腹もいっぱいなのに睡魔はよってはこない。
「眠れない」
 電気をつけ直して、携帯を見るは、電波の範囲外だ。仕方なしにまた眠ろうとすると『小牧野の伝説』が目に入った。私はさっきまで見ていたページを開いた。
posted by 管理人 at 19:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | 種(未完の話)| edit
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