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2005年09月06日

After babel(ノノ先生の世界)について

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 1999年に何も起こらなかった。そう思われていた。だが、人が霊長と名乗る時代を終わりを告げていた。
  それは『Magi  Systems 』の発見だった。

 『Magi  Systems 』 は千葉農工大学の真木助教授によって開発された思考を現実化するブラックボックス。真木クリスタルと呼ばれる物体と、人間の思念との共振により、暗在系(存在しているが多くの人間には認識が不能な世界)にアクセスし、明在系(目で見える世界)を改変する。

 『物事を魔法のようにシンプルにする』。それは比喩と思われたが、実際のところ『Magi  S ystems 』は発見ではなく、再発見だった。真木クリスタルは、さまざまな伝承に登場するマジックアイテム『賢者の石』や『丹』の模倣品であり、それを用いて行われるのは魔術や仙術に他ならなかった。

 魔術や仙術が行われた時代は神話や伝説こそが現実だった。
それは 『Magisystems 』によってもたらされた奇跡の21世紀も同じことだった。加速度的に増える幽霊や妖怪、怪異の目撃譚、そして考えられないような漂流物や漂流者たち。

 彼らを受け入れる地区が定められ、その区域は境界と呼ばれるようになり、独自の発達を遂げていく。だが、その背後にあるのはそれぞれの意志。漂流者のあるものは人類との共存を歩み始め、あるものは自分の世界への帰還を願った。そして野望に身を燃やすものもいた。


http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/f.htm
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2006年12月20日

それいけノノ先生冬 1適材適所

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「ここか」
 制服姿の生徒がうろついているという通報を受けたのは30分程前の事だった。
「せっかくのんびりしてたのに」
 ノノは機嫌が悪かった。
 今回はクラスの中にも、担当科目の初級魔術にも、誰一人として赤点がおらず、こたつにはいって冬休みの計画を練っていた最中だったのだ。
 それを電話で呼び出され、寒い中飛び出したのだが文句の一つもあろうものか。
「ああ、でもきてよかったかも」
 しかし、先程の怒りもとい教師魂の発露はおさまり、不安が心の中で渦をまいていた。
 客引きの男たちがうろうろしているし、ビルにはピンク色や、どぎついネオンで飾られ、夜のいかがわしさの想像はついた。
 生徒を見かけたというのはこうした辺りのさらに奥らしい。
 この前、漂着者向けの講習会を思い出した。
「薬じゃないよね」
 魔薬と総称される様々な薬物で、中毒になり、金を失っていくものはいる。でも、生きているのは幸せな方で廃人になったり、そのまま食材にされたという話もあるらしい。
 もし、生徒がそんな状況だと思うと、
「ああ。誰かつれてくればよかった」
 正直、ノノは戦闘力に関しては自信がまったくない。いいところ補助だ。
 しかし、意を決して、ノノは奥に進んだ。最悪、飛んで逃げればいいという算段がないわけではなかったが。
 視界に入ってきたのは古いビルだった。古いというだけで汚れてているわけではないが、そのビルは各階ごとに様々な系統の種族が集まっている店がらしい。
 上から写真と店の名の入った看板が見える。優雅なエルフとのひと時「アバロン」、質の高い時間をあなたにドワーフとノーム「岩窟王」、うつし世は夢妖精「真夏の夜の夢」、天使がいるとこは天国「ヘブン」・・・
「天使」
 何かだまされて働かされていそうな生徒の顔が一名浮かんだ。
『わかりました。するですよ』
「いや、そんなばか、いやお人よしじゃ」
 そのままビルに向かうと、制服が目に入った。
「何してんの」
 振り返ったのは天見六星だった。
「あ先生」
 六星が振り返った。
「いや、ちょっと」
「ああ。また仕事。大変だね」
「そう、そうなんです」
 二人は顔を見合わせて笑った。
「どんなの?」
「守秘義務です」
 そういっている六星は後ろを見つつ落ち着かない。
「六星ってさ嘘ついてると鼻かくよね」
「え」
 六星は鼻に触れた。
「なんだ白状しな」
 後ろで物音がした。その瞬間、ノノは体を掴まれ、ビルの外に飛び出していた。
「襲われる」
「襲いませんよ」
 六星はあわてて首を横に振った。しかし、その手はノノの口にしっかり回されていて、発覚を恐れての行動に見える。
「静かにしてください」
 ノノは頷いた。
 しっかり出口は見えているのに相手からは見えないようなビルの影にノノを抱えた六星は移動している。
「何するのさ六星」
「見てください」
 ビルの出口からルーテがでてきた。
「あ、ルーテ。まさか」
 田舎出の娘が都会の華やかさに身を持ち崩していく様が思い出される。
「あたしの指導がたりないせい。ああ、無理にでも赤点とらせて補習にすればよかった」
「どこだと思いますか?」
 六星は上から順に店を指さす。
「そりゃ天使パブでしょ。なんていうか、才能を生かそうと思ったら」
「才能」
 六星が何とも言えない顔をしている。
「先生、自分はここを見張ろうと思うんですが、ルーテさんを尾行してもらっていいですか」
「任しておいて」
 ノノは追いかけていった。
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2006年12月21日

それいけノノ先生冬 2天網恢恢

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「どうしよう」
 声をかけて問いただしてもいいのだが、問題がデリケートな気がした。
 おおよその事なら寛容な学校だが、さすがにこうした商売はまずいだろう。
ああ、でも教師よりお金がよさそうだな。あたしも翼だし、金髪だし・・・輪はルーテもサラもないし、条件クリア。いやいやそれはダメ。
 それにあたしが声をかけて公になるのはまずいよね。 
 六星は尾行しろっていってたし。
 尾行ってそういえば 尾ってつくけどどういう意味なんだろう。
 ふにゃ
 柔らかいものにあたった。
「ノノさ先生、何しているですか」
「いやちょっと尾行を」
 といってから硬直する。ノノの前にルーテが浮かんでいる。
「ああ大変ですね」
「ルーテ、どうして」
「私とかノノ先生とか翼分高く飛ぶじゃないですか。それで見つけたです。ほらちょっと人ごみの中で周りより浮かぶじゃないですか。こんでいると迷惑みたいなんで、サラさんみたいに消せればいいんですけどね」
「あたしは無理。だってルーテみたいにエーテル体じゃないもん」
「ところで、誰を尾行しているですか」
「だれ?」
 ノノは口笛を吹いた。
 ルーテは何も言わずノノを見ている。ただ言葉を待っているだけなのだろうが、どうも攻められているような気がする。
「ああいいずらいんだけど尾行の、尾ってなんなんだろうね」
「ああ、そうですね。いわれてみれば不思議ですね」
「そうだよね、いったい何の尻尾を探すんだか」
「しっぽを掴むって意味かも」
「おおルーテさえてる」
「でも早くいかないと見失っちゃうですよ。六星さんがいってたです。尾行は気づかれた時点で、追い回しになってしまうって」
 ごめん六星追い回しになっている。
「そうね。じゃあ、あたしいくから」
 ノノはルーテから離れて飛び始めた。
「ノノさ先生」
「な・・・なに?」
「ルーテも手伝うですよ」
「え、いやそれは」
「誰も尾行するですか」
「あれ」
 適当にノノは人ごみの中を指差した。
 もうだめだ。このまま口を割ってしまうか。
『六星に頼まれてルーテ尾行してました。ところで変な店で働いている?』とノノは覚悟した。
「わかったですよ」
 ルーテは元気よく言った。
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2006年12月22日

それいけノノ先生冬 3千産千消

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「ふーう。気づかれないものですね」
「封希に気付かれるわけないって」
 胸を張るノノを見ながら、封希には実は鋭いところもあるのをルーテは思い出していた。
 それにしても封希をこうして追いかけるのはどうしてだろう。
 もしかしたら危ないことをしようとしているのかもしれない。
 封希は一生懸命だ。本人はどうにかなると思っているようだが、どうにもならないようなところに手を出してしまう。
 人間の美質。生存という意味からは意味のないどころか、むしろ不利になるそれ。
「なんか家に帰っていくだけのような気がするんだけど」
 買い物をスーパーですました封希は確かに家のある住宅街に向かっている。
「あのノノさん」
「なに?」
「なんで封希さんを追いかけてるですか」
 ノノは油のきれたような動きでルーテを見た。
「ああ、それね」
 口篭るノノにルーテは事の重大さをのみこんだ。
「何か危ないことをしているですね?」
 それでもノノは答えない。むしろ沈黙が苦痛であるように目をそらす。
「でもいっても諦めないからそれでこっそりしているですね」
「それでいこう」
「?」
「そうなのよ。ほら、封希って止めてもだめな時あるじゃないだからね。疾斗とも付き合ってるし」
 納得してルーテはうなずいた。
「疾斗さんはいい人ですよ。ちょっと、意地悪で冷たいけど」
「いやルーテ、それはいい人じゃないから。いい人というのは、リアさまのような人を言うのよ」
「リアさんはいい人ですね。ノノさんに何も言わないし」
「そうそうあたしにも・・・ってあたし悪いことしてないもの」

 天川封希は買い物かごを片手に商店街を歩いていた。
 季節がら新巻鮭や数の子など、正月に備えた品が目に入る。
「年末になると高くなるから今のうちって気もするけどどうしよう」
 いま家に持っていってもネコたちが黙ってはいないだろうし、さらにお父さんの酒の肴になってしまうかもしれない。
「今日食べるものは今日のものだよね。千産千消(千葉の食べ物は千葉で消費しようの意味。封希は千葉っ子です)」
 スーパーの売り出しのコーナーにいって今日の地の物から考えよう。なおかつ値引きしてくれているとうれしい。
 歩いていると食べ物はおいておいて、お正月より前に来るクリスマスに備えて、街は赤と緑で飾られていてきれいだ。ライトアップされた街路樹はいつもと違う顔を見せて、どこか夢の国へと続いているようにも思える。
 これで雪でも降ればとても素敵なのだが、温かい境界ではホワイトクリスマスは無理だ。その分細かな細工のされた人工の雪が目につく。
「クリスマスプレゼントか」
 クリスマス用にもう手袋を編み上げてある。後は渡すだけで問題はない。その日に渡せるかはわからなかったが。
「忙しいもんね」
 封希は少しさびしくなった。
 疾斗は忙しいのはわかっている。きてもらうのも悪い。でも、仕事先にはきてはいけないといわれている。
 と思うとずっと視界の隅に入ってくるものに気づいた。それは白い翼だった。一つは小鳥にような大きさで、一つは半透明だ。
「ノノちゃ先生と、ルーテさん」
 人ごみの中でその2つは目に付いた。
 買い物でもしているのだろうか。
 声をかけようとしてやめておいた。もしかしたら気づいているのに声をかけてこないかと思ったからだ。
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2006年12月23日

それいけノノ先生冬 4握髪吐哺

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「まあまあだな」
 疾斗は目の前の青年にいった。
 青年はクリスマスバージョンになり、華やかな店の内装にはまり込むようにいい男だった。
 髪をオールバックにして固め、宝塚の男役のようなメイク。男性としては中背だが、顔が小さいせいでそれ以上に大きく見える。
 ただしいい男は幻想の中にのみ存在した。彼は彼女だった。
 ただ、その豊かな体をきっちりとした白いスーツに包む姿は、女性のものらしいなめかましさがある。
 サラ・ノーマンだった。
 多くの天使の見てくれのよさに関しては、疾斗でも認めざるを得ない。もともと人が好むように作られているのだから当たり前といえば当たり前だが。悪魔も天使も人が好むように愛らしく壮丁されている。
「どうもありがとうだよ」
 サラはいった。ルーテもそうだが口をあけるとおおよそ天使の神秘性は台無しになる。
「そのだよはやめた方がいいな」
「これはサラがわざとしているんじゃなくて翻訳のシステムの問題なんだよ」
「管理局のか」
 どこでも結局、公というのはそんなものだ。
「外見とメイクは悪くない。あとは対応だな」
「わかったんだよ。で、どうすればいいんだよ?」
「基本は癒しだ」
 そういったサラの顔が茫然となる。
「オレサマとは思えない発言だよ」
「あのなあ。いいか、よく聞けよ。全ては方法だ」
「方法?」
「そうだ。物をいかに成功させるかのな」
 少しだけサラは首をひねった。
「封希さんもなんだよ」
「別だ」
 サラが頷いた。
「おおよそ方法なんだよ」
「そうだ。どうして、癒しかというと、ここにそれを求めてくるものがいるからだ」
「ほうほうだよ」
「お前はホストと執事の区別がついてないみたいだが全て接客は、相手の癒しであるべきだ。執事はそれが特定の主人に向けられているようだが」
「そんなことをいう疾斗は不気味なんだよ」
「その思っていること何もかも口に出すのも止めておけ」
 サラは頷いた。
「物を食って金を払うのは食物だけじゃないってことだ」
 サラは頷いた。
 わかっているのかと思いながら疾斗は言葉を進めた。


 サラは疾斗に頭を下げて表に出た。
 サラには服装など関係ないのだが、あまり薄着だと妙なので、皮のパンツに、ダウンジャケットを選んでいる。サラの翼はルーテと違い、完全に消し去ることができるのでこういうときはありがたい。
 天使はこの時期割合売れる。というか求人が多い。という表現は妙かもしれないが、もともとそう多くいるわけではなく、特定の役目を持ってこの世界に存在。だから違う仕事につくものは少ないのだ。
 この店の上の方にある天使バー「エデン」も本物の天使など一人もいないのだろう。
 サラは歩き出そうとして、一つの影に気づいた。それは天見六星だった。
 この場のものはおおよそ無作為だが、六星だけはそうではなく、意思をもってそこにあった。人間としてはともかく六星の持つ場の力は異質だ。それはカインの刻印のように六星の額に見える
「いったい何してるんだよ」
 話しかけると六星は落胆しているのか顔に手をあてた。
「ちょっとね。捜査」
 サラは小さく頭を振った。
 この同級生がそういって危険に顔を突っ込むのをサラはよくしっている。
「最後はみな選別されるんだから六星がここでがんばってもかわらないんだよ」
「そんなのは傲慢だ」
 サラは小さく子羊に向かい笑みを浮かべた。
「やさしさだよ六星。抜き打ちテストをされるより、いつ期末があるかわかっていた方が楽なんだよ」
「それでここでなにを?」
「ああ神の仕事」
「神の仕事」
 いつもそういって行っている行為と今している事の違いにサラは少しばかり眉をひそめた。一くくりにするには離れすぎている。
 六星もそれを怪しいと思っているらしく目の輝きが違っている。
「サラの言葉が信じられないなら、ルーテにも聞くといいんだよ」
「ルーテさんも」
 六星はそれきり黙った。
「六星、いっていいかな」
「ありがとう」
 六星がいうとサラは妙に思えた。
 お礼をいわれることなどしていないのだが。
 六星の携帯がなった。
 サラは六星に背を向けて歩き出した。その時にはすっかり六星の事は頭から落ちていた。
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2006年12月24日

それいけノノ先生冬 5痛定思痛

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 清原寧は携帯を手に持った。モノトーンの基調になった携帯は電話をする道具というよりは、何かオブジェめいている。
 カーテンも同じように黒と白。床も正方形の黒白のタイルにされており、部屋の調度全体も、大きなチェス盤を思わせる。
「六星、進展はどう?」
 向こう側で問いに対して間があった。
 きいているものの進展がないのは分かっていた。
 いい意味でも悪い意味でも六星には触媒めいたところがある。騒ぎを起こしやすいのだ。その騒ぎは波紋となって境界に広がり表立ってしられていない関係性となって寧の耳目に達する。今日に限って何の騒ぎも届いていない。
「これといってない。もしかしたら客になって入り込んだ方がいいかもしれない」
 寧の足元から黒い体に赤い靴を履いた子鬼が現れて忙しく動き始める。
「そうね。そういうのもいいかもしれない」
 足元のクロスケがさっさと意向を察して、ディスプレイに潜入向きの人材の一覧を表示している。そうした潜入めいた仕事に六星は向かない。
「今日はもう少し張ってから戻るよ」
「わかったわ」
 寧は電話を切った。
「おまたせしました」
 モノトーンのソファには沢瀉執政官が座って、部屋には不似合いな湯飲みで緑茶をすすっている。
 どちらかといえば温和な印象を受けるこの男が境界の代表といっても信じる人間は多くない。だが、メガネの汚れを落とす気軽さで障害を排す、その行動の矢面にたったものは総じてこの街を去った。
「六星は相変わらずのようだね」
「そうですね。そろそろ、探偵の真似事だけでなくもっと大きな考えを持ってくれればいいのですけど。手だけでは届く範囲に限界がありますから」
 沢瀉は小さく笑みを浮かべた。
 子供の頃からの知り合いでも、こんな笑いをされると少しばかり不愉快になる。
 上のものに対する子供めいた反応は、父親も母親もおらず、精神的な親離れをせずに育ったせいだ。寧は不毛な自己分析にため息をついた。
「手の中に納まるような、小さな幸せこそ君が求めるものだろ」
 闇の間隙が視界を過ぎる。
「ええ。ただ、それはもう少しこの街が平和になってからです。当面の問題は魔薬の統制ですね」
「取り締まりではなく」
「どちらにせよ流通するなら、いまあるものを制御する方が楽です。境界は入り口が多すぎますから」
「確かに。君がそう思うのだ。まして同じように考えるものが多いだろ」
「賛同は得られませんが。どちらにせよ、力のみが平和を維持できるんです。そこに善悪はありませんから。おじさまもそう思われるから、私に協力していただけるのでしょ」
「それだけではないがね。君が蝶を掴んで理想郷にいったのにもかかわらず、この世界に戻った。あの揺籃を奪った責任が私にはある」
 蝶を掴む。初期値のごくわずかなずれが、将来の結果に甚大な差を生み出す。カオス理論の中でバタフライ効果といわれるものが由来になった言葉だ。
 寧のようなマギ使いは、結果を動かすために原因に干渉する。過剰な介入は、因果の逆転を生み、場合によって自身という結果に至る原因を破壊するのだ。本人は多くの場合この世から消える。
「ただ、もっと人の自由意思に任せるべきだと思うね」
「有馬先生も同じ事をおしゃってました。ただ、私はお二人が思うほど人間が成熟しているとは思えません。魔薬などそのいい例です」
「君のように戻れば魔薬も悪いものではないと思うよ」
「戻れればですね」
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2006年12月25日

それいけノノ先生冬 6夜雨対床

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 沢瀉は表に出た。風の強さにトレンチコートの襟を立てた。
 埋立地にあるせいで風は強く冷たい。しかしこの風があるから人工的なこの地域で、夏場は風が抜けていってそれほどヒートアイランドが進まない。
 境界の官庁やオフィスのあつまる街は、商業地がクリスマスの騒ぎに浮かれているのに比べて静かだ。
 それでもぽつぽつといくつかのツリーが無人の街に彩りを添えているのが見える。
 沢瀉は歩き出した。しばらく歩いていると車道を走る車が多くなってくる。歩いていくと警備員が整理しなくてはないけないほどになっている。
 何かと思うと郊外型の大型のおもちゃ店に車が列を成している。車の中の子供たちの多くは笑顔であり、そうでない子供はこれからの新しい宝物の登場を期待して目を輝かせて、店舗を見ている。
「あの子たちにはむごいことをしている」
 みなしごの二人。
 清原寧と天見六星にはつらい目に合わせている。もともと弱い二人ではないがまだ子供なのだ。
 ほかの同年の子の多くが楽しんでいる日に二人は自らの役目を果たしている。
 だが、余人でできないのも事実だ。
 寧の持つ持つ能力がなければ、境界の妖の力を抑えることはできない。六星の受け継いだ伝説がなければ、抑止につながるものはない。あの二人だからこそ支えあっているのだろう。
 結局のところ、個々の人間の能力に頼り、バランスの悪い平和。
 この状況は、特撮ヒーローの世界を思わせる。ただ、ああしたドラマは決められた期間や、視聴率が悪ければ終わることがある。
 しかし、この世界には終わりはない。 時間をかけて管理局の能力をあげてきたが、システムとして成熟し、人が育ち、完全に二人の役目が終わるのに10年はかかるだろう。
「せめて何か慰めてやれることがあれば」
 
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2006年12月26日

それいけノノ先生冬 7水魚之交

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 天見七瀬は今日の売れ残りを見てため息をついた。
 七瀬は公園に屋台を出して、中華マンを中心とした飲茶をうっている。九十九神の自走式屋台源さんと共に、休みの日は朝から出かけ、販売に精を出す。
 暖かい時期ならそれなりに公園に人もいるのだが、今日のように朝から木枯らしが吹いているような日にあまり公園に人はいない。
 飲茶は割合ごまかしがききやすい料理である。生地に使う粉や、中の具。安くしようと思えば果てがない。その分、上もまだ際限がないのだが、
 近在の農家で作ってもらっている小麦粉は契約して作ってもらっている。タマゴは規格にあわないせいで流通には乗らないものをうってもらって安く済ませている。そうはいっても、ファーストフードの常で自転車操業で、薄利多売だ。
「3箱まだ売れ残っているから今日は赤字だね」
 七瀬の作る饅頭は売り上げの二割ほどが収入になる。一日作るのは10箱あまりだから、売れ残りが1箱程度ならどうにかなるが今日はちょっと厳しい。
「ルーテさん、でも食べきれないよね」
 ルーテは七瀬のだすものをどれもうれしそうに食べてくれるので、見ていると何か楽しくなって、ついつい食べ物をご馳走してしまう。それでも3箱分の100近い中華マンは食べきれないだろう。
「アンマンを買いに来た」
 横柄な調子の声がしたから顔を上げるとしばらく姿がみえなかった。よくみればそこには大きな翼を背中にはやした、小さな妖精と思われる少女が浮かんでいる。
「いらっしゃいませ」
「うむ、アンマンを4ついただきたい」
「わかりました」
 さっさと包むと少女に差し出す。
 どう見ても少女の5倍はあるあんまんを片手で持って浮かんでいる。
「よかったら肉まんをサービスしますよ」
「そうだなもらおうか」
 残った片手で自分よりずっと大きい肉まんをとると、少女は半分あまりを一口で食べた。
「いつ見てもいい食べっぷりですね親指姫さん」
「実際、姿はこうだが、もっと大きいのでな。その分空腹になるのだ」
 屋台の源さんにつるしてあった携帯が鳴る。
「もしもし九十九屋です。あ、沢瀉おじさん。注文・・・あ、ぜんぜん無理じゃないです。むしろありがたいです。明後日ですね宴会用。え、そんなにいいんですか。わかりました。明日の夜ですね。用意しておきます」
 天見七瀬は降ってわいた注文に笑顔を浮かべた。
 こうして大口の注文がくるとうれしい半面大変だが、腕の振るい甲斐がある。
「あ、でも今から」
 作るのは七瀬なのだが、問題は人手と時間だ。七瀬がいかに気合をいれても、限界がある。
「お手伝いを頼もうか。ルーテさんは盛り付けの時にお願いして、作る時・・・ああ、材料どうしようか」
 七瀬は目を閉じた。考えること五分あまり。
「よかったら私が手伝おうか」
 親指姫は言った。
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2006年12月27日

それいけノノ先生冬 8玩物喪志

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「よかったら私が手伝おうか」
 親指姫はいった。
 饅頭が熱気を失うほど待っていたのだが、小さな店主は自分の内側に沈み込んで戻ってこなかった。そこで声をかけたのだが、店主の満面の笑顔に少しばかり不安になる。
 このような戦闘能力の高い個体が、まったく離れた技能である炊事を楽しく行う。才能の浪費というよりは、全てが好きな時に好きなことができるこの世界のでたらめさ故なのか。まったく持って、この世界の民は妙なところがある。
「ありがとうございます。助かります」
 この存在に貸しを作るのは悪いことではないように思えた。
「でも、料理できる?」
「任せておけ」
 幸いこの世界の人間用の刃物類は親指姫には大剣のサイズである。故郷である「終わらぬ春の国」で、力に耐え切れるものがあるうちはよく使っていたから、調度いいのだ。
「人手が必要なら、もう少し心当たりがあるが。主に頼んで、鷺娘と飛鱗を出してもらえばどうだろうか。これで私の光熱と、鷺娘の雪花と、飛鱗の風刃がそろうから飛躍的に高まる」
「人手だよね? すごいけどだいじょうぶかな」
「主は小子が困っている時手をかさないようなものではない」
「そうじゃないの。別に戦うわけずじゃないから。そんなにいらないの」
 親指姫は知らず知らずのうちに戦闘を想定して話していた。仮に戦闘だとしても、店主には必要ないだろう。
「店主なら、そのようなものなど無用か。確かにな」
 この能力なら中途半端な助けはむしろ足を引っ張るかもしれない。彼女の兄も、独行で戦うタイプだった。前は庇うものが多かったから有利に運べたのだ。あの際に、彼が何も考えずに、こちらの命を奪うつもりできたなら、状況は違っただろう。天分である殺害者としての力を自覚していないのは、兄妹共にそうなのかもしれなかった。
「無用っていうんじゃなくて、あまり人がいてもね。自分ができることはしたいし、それがお客さんとの約束だと思うの。その手作りだからいつも同じ味とはいかないし。ああ、でも天気によっていろいろかえるのは大切なんだよ」
「わかった。その辺りは店主の好きにしてくれ」
「じゃあ明日家に、大神宮の商店街の九十九屋っていうんだけどわかるかな?」
「あの商店街の端の家だな。妙な気配のする」
 屋台が不服であるように唸った。
「妙な気配って、ああみんながいるから」
「あのお礼なんだけどどうしようか? お金がいいかな。それとも、食べ物にする」
 店主は具体的にいってきた。それは悪いことではない。この境界には魂を狙って、甘言を弄するものがいるのは、よつかどブルース!(注意1)を見てよく知っているということだ。
「礼はそうだな。これと同じものを三回ほどごちそうしてくれ」
 親指姫がいうと、店主はうなずいた。
「ではよろしくおねがいします」

 注意1.よつかどブルース! 
PIX うさぎ王製作のアニメーション。魂の重さについて考えさせられる名品。
PIX http://www.pixlabel.net/ さんのDownroadのPIXDVDvol.3で雰囲気だけは味わえると思いますが、みていただけるとうれしいです。
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2006年12月28日

それいけノノ先生冬 9杯酒解怨

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その匂いを嗅ぐと胃がきゅうっと動くのがわかった。
 家に帰ると肉を煮込む。いい匂いがした。それだけなら妹の七瀬が料理していると納得できる。だが、リズミカルなというか、パワフルな庖丁の音が聞こえてくる。
「これなんだ」
 ダイニングキッチンにいくと、テーブルの上のボウルには山のように練った小麦粉が白い山脈となって乗っていた。
 その小麦粉の影で何かが光った。小さい妖精と思われるものが庖丁を持って動いている。それが親指姫と呼ばれたものであることに気づいて六星は警戒を強めた。一度この親指姫にはひどい目にあっている。
 だが、こうしてもくもくとキャベツを千切りにしている親指姫に害意は感じられない。
「おかえりなさい」
 エプロン姿の七瀬が姿を見せた。その顔は小麦粉がついていして白く、つけているエプロンも作業を示すように白くしみがついていた。
「いっぱい注文が入っていて今仕込み中なの。親指姫さんにも手伝ってもらって。あのね、ごはんは冷蔵庫の中にあるからあっためてもらっていい?」
 七瀬が盛り付けないのは本当に忙しいのは想像がついた。
「わかった」
 サーモンのトマトソースのドリアをレンジで温める。手持ち無沙汰で家の中を見る。
 食べながら横目で見る七瀬は忙しそうにいったりきたりで、ディズニーの小人の動きを見るようで愛らしい。
 温まったドリアをさっさと食べ終え、六星は七瀬にいった。
「何手伝う?」
「とりあえず材料を計量して袋にいれってってもらっていい」
「わかった」
 そういえば明日はクリスマスイヴ。明後日はクリスマス。どこかでパーティーを開く客でもいるのだろう。
 六星は計量カップを振るって小麦粉、水、イーストを袋に入れて縛っていく。
 無農薬で近所の農家で頼んで作っているもので品質は確かだ。それなのに中和や解毒といった作用が強いらしい。焼き上げる窯が七瀬曰く知恵と知識を絞った錬金術師の窯なので、できあがると変質しているらしい。そのせいでよく売れるのだが、最近は売り上げが落ちているようで心配していたのだが、これなら売れるかもしれない。
 六星は作業に集中した。割合、単純作業は好きなので気づけばそれなりの量ができている。
「これくらいで」
 振り返ると七瀬はボウルに手を入れたまま眠っていた。
「あ〜あ」
 親指姫はまるて歴戦の戦士が力尽きながら倒れる事を拒んでいるようで絵画のようだ。
 六星は七瀬の手を拭くと持ち上げてベットに寝かした。そのまま戻って、親指姫を起こす。
「ああすまん。今日は主ではなく、店主に依存しているので力の供給が途絶えると少し落ちてしまうのだ」
「僕のでもいいかな」
「すまんな」
 六星は庖丁で指先を切ると親指姫に手を差し出した。
「この方式でいい。もっとしっかり魔術でしたほうがいいのかもしれないけどしらないんだ」
「これだけ良質な魔力をもつものがどうしてああ白兵にこだわるのだ?」
「アイデンティティかな」
 親指姫は六星の血を皿に誑し上質のシャンペンでも飲むように味わいながら飲んだ。
「寝るなら客間があるけども」
「できれば店主と同じ部屋で頼む。近ければ明日の朝までに供給されているはずだ」
「わかった」
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2006年12月29日

それいけノノ先生冬 10寸進尺退

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 明日七瀬が起きても大丈夫なように片付けを始めた。ボウルや庖丁といったおおよその分類に分ける。続けて飛ぶとまずそうな小麦粉の残りをさっさと袋詰めにする。
「ただいまです」
 片付けを終えた頃、ルーテが家に帰ってきた。運動でもしていたのかその頬は赤い。
「なんかすごいですね」
 ルーテは周りを見つつ、自分の翼でよりちらかさないように注意している。
「夕飯食べました?」
 六星の言葉にルーテは頷いた。
「ノノさ先生と」
 尾行は失敗だったらしい。
「でも、まだだいじょうぶです。六星さんの作るごはんは優しい味がするので好きですから」
「ああ」
 思わず笑顔になってから六星は七瀬に心の中で頭を下げた。
「用意しておきますから手を洗ってきてください」
 冷蔵庫の中のものを見て、一品作る事にした。
 カブをレンジで加熱し、その間に固形のとりがらスープを使って汁を作る。葉の方を細かく刻みスープにいれる。片栗粉でとろみをつけて、冷蔵庫にあったユズを刻んで少しだけ入れた。
 ルーテが戻ってくる頃にはカブのあんかけができていた。味見するとカブのあまみと、葉の苦味がいい感じに混ざっている。
「どうぞ」
 ドリアを口に入れたルーテは満面の笑みを浮かべている。
「おいしいです」
 そうしているルーテを見ているだけで六星も笑みがこぼれてしまう。
「よかった」
「このあんかけもおいしいです。これだけでご飯にかけてもおいしそうです」
「明日はあんかけご飯にしましょうか。イブにはあわないけど」
 ルーテは頭をさげた。
「ごめんなさいです。明日は用があるです」
「ああ。そうだねイヴだもんね」
「そうなんですよ」
 邪気のないルーテの笑顔を見ているとさっきまでの反動のように心が重い。
「ちょうしわるいですか?」
「いやそんなことは。でも、お風呂入ったら寝ますね」
「洗い物はまかせておいてください」
「はいお願いします。」
 六星は笑みを返した。その表情に曇りがないか心配しながら
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2006年12月30日

それいけノノ先生冬 橘花先生の四文字熟語特講1

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 四文字熟語説明


「はい、冬季講習をはじめまっせ〜」
 教室に入ってきた至王子橘花はいつも通りの制服姿だ。ツーテールにした黒髪と、すらっとしているが肉の薄い体は、学校内で人気がある。制服が似合う先生コンテスト七連覇のプライドがそれをさせるのか今日もいつもと変わらない。
 橘花は黒板に字を書き始めた。

適材適所
天網恢恢
千産千消
握髪吐哺
痛定思痛
夜雨対床
水魚之交
玩物喪志
杯酒解怨
寸進尺退


「はいこれやわかる人。ああ、そうそう、どれも今回の『ノノ先生冬』のタイトルや。今回は四文字熟語がタイトルになってんねん」

「まずは」
 適材適所を橘花は指差した。
「意味は当然わかりまんねん。
『才能を持つ者を、それに適した地位・任務につけること』をえぇーまんねん。
 今回の話でゆうと、地上に舞い降りた天使ルーテちゃんが、天使バーで働くのが適材適所とゆう事でこのタイトルや」


「これやは単独で使われるよりは『天網恢恢疎にして漏らさず』で使われる事がよぉーけあるね」
 天網恢恢
「天網とゆうのは神様が世界に張った網で、恢恢とゆうは広くゆったりしておること。それでも悪いことをすると引っかかるって意味なぁ。
 ノノちゃんがルーテちゃんを尾行しておるのがばれるのを示しておるんせやけど、天網と天使がかかっておるわけ。
 あまりひねりないなあ」


「間違っておるって思われたかもしれへんけども」
 千産千消
「もともとは地産地消。その地域でとれたものはその地域で消費しまひょってゆう考え方。きょーびではスローフードの流れもあるさかいえぇーことなぁ。でも千葉県内では地を千に変えて千葉のものは千葉で消費しまひょってゆうのが推奨されていて、この言葉を使うわけ。
 買い物しておる封希ちゃんが安いものを選ぶと大よそ地物になるので、そうゆうタイトル。まあ、封希ちゃんも千葉県生まれで千葉育ちなんで、フサオトメなわけなぁ。
 ちなみにフサオトメはおコメの名前ね」


「じょじょにあまり使われへんものになってきたわね」
 握髪吐哺
「人材を得ようとして努めること。また、すぐ人に会うこと。どないな時にも客人を待たせへん努力。
 これやは儒家の理想の一人である周公旦が、来客があったとき、入浴中であれば洗いかけの髪を握り、食事中なら口の中のものを吐き出し、すぐに客を出迎えた。ってゆう故事からきておるの。この時代は封神演義の時代やから、一人の人材が戦況を一変させるから当然といえるわなぁ。
 サラちゃんが疾斗先生とゆう人材を得るのに努力しておる様と、疾斗先生の説明しておる接客論に関しての意味なぁ。あまり疾斗先生がこうゆう説教みたいなことはいわないからきっと、よほど勘違いしておるのが見えたんでっしゃろーね」
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2006年12月31日

それいけノノ先生冬 橘花先生の四文字熟語特講2

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「のどもと過ぎれば暑さ忘れるの逆ね」
 痛定思痛
「痛みがおさまってから、その痛みを振り返えるちうわけや。シッパイを反省し、今後に備えること。
 寧ちゃんが本日この時までの人生で学んだ苦痛から何を読み取っとるのかっていう説明みたいな話ね。でも。こうしとる辺りどうみても寧ちゃんが悪役なのよね」


「対で床でも男女の言葉やないから」
 夜雨対床
 雨の夜、その音を聞きながら兄弟が床を並べて仲良く寝るさま。 ゴチャゴチャゆうとる場合やあれへん,要は兄弟や親友同士が相思う心情。
 雨の音に耳を澄ましつつ、語り合った楽しい思い出が、詩人蘇軾とその弟の蘇轍の詩がもとの話になっとるの。
 雨は降ってへんものの埋立地特有の強い風が受けて、沢瀉執政官が、六星くんや寧ちゃんを思い出して、かばいあっとる二人を考えたものね。


「ひさびさに普通のがきたわね」
 水魚之交
「蜀の劉備と諸葛亮の交友からきとるの。魚と水は離れることがでけへんように、親しい関係のたとえね。間違えやすいんやけど、魚心あれば水心は、始まる前の状態ね。混同せんようにね。
 やからこれも実際は魚心あれば水心でどエライ混同しとるわね」


「玩具で遊びってことやないからね」 
 玩物喪志
「物をもてあそび、志をなくすことね。ついになる言葉は玩人喪徳。これは人をもてあそぶと徳がなくなるちう意味。
 これは、本来は、一緒にいることのない七瀬ちゃんと親指姫ちゃん二人が暢気に一緒に働いとるために出た言葉ね。まあこういう意味で仲良くしとるのならうちはええと思うけど見方によっては堕落ね」

「酒はええよね」
 杯酒解怨
「杯で酒を飲んで、恨みを解くってことね。まあ酒を飲んでいる間はうまくしてほしいものっていう切なる願いかしら。
 もっともここで味わっとるの酒ではなくて六星くんの血やけども。親指姫ちゃん、あとではいたりしなかったかちーとばかし心配ね」


「365歩のマーチのほうがましね」
 寸進尺退
「寸尺はどちらも長さの単位ね。まあ今風にいえば、一センチ進んで一メートルさがるかんじね。やればやっただけ後退するちう地獄のような話。
 ノノ先生シリーズはもともと六星くんとルーテちゃんの物語なのに、正面きって書けへんものやから生まれたシリーズなの。そういう意味ではどエライ話をしめしとる言葉ね」

「では、これにて特別講義終わり。みなはんよいお年を」
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2007年01月04日

それいけノノ先生冬 11勇往邁進

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「はあルーテにご馳走するんじゃなかったな。うう寒」
 ノノは夜風の中をコートの襟を立てながら飛んでいた。ノノはあまり厚手だと飛ぶのにさしつかえるので冬でもそれなりに薄着だ。魔術ならいろいろと強化できるのだが、ノノは魔術で飛んでいるわけではなく、擬似魔術と呼ばれる生来の魔力の利用で飛んでいるので、それなりに重さ制限がある。
 冬の移動は誰かのフードや、カバンの中が一番だ。それでなければタクシーという手もあったのだが、ルーテとの食事がこたえていて、そのお金もない。
「そういえばルーテに送ってもらえばよかった」
 家についた頃には、もうつららのように冷えきっていた。
「ただいま」
 ドアを開けると暖かな空気が流れ出してくる。体がじわじわと緩んでいくのがわかる。息を吸うと
つららのようになった体の芯にまで伝わってくるようなぬくもりがする。それは甘い匂いのせいだ。
「お?」
「お帰りなさりノノ」
 リアがでてきた。漆黒の髪に、宵闇のような瞳。高貴さを感じさせる顔立ちとあいまって、見るものは多く神秘を感じさせる。
 はずだったが、つけている100均のひまわり柄のエプロンで吹っ飛んでいた。
「はちみつケーキですか?」
 リアがこちらにきて開発したはちみつケーキの匂いだった。
「どうしたんですか?」
 と聞きながら期待に胸を膨らましていた。リアはあまりものを食べないから、きっと一人でほぼ1ホール分食べれるはずだ。
「明日、パーティがあってね。みんなで持ち寄るからケーキをね」
「え、そうですか」
 あからさまに声に落胆が混じっていた。そういえば、リアはもう一つケーキを焼いてくれるかもしれないと、踏んでの事だった。
「ああ、ノノも食べたいのね。でも、もう材料がないの」
「いや、何も期待なんてしてないですよ。いやだなリアさまったら」
「それにノノにも招待状きているわよ」
「やったー」
 飛び上がった後でノノは硬直した。
「それで、あたしも何か作るんですか」
「無理はしないで」 
 どうもリアが作らないと決めつけているようなのだ。それは少しばかりひっかかった。ここは一つ大人になったところを見せなくてはならないと、大人気なくノノは思った。
「度肝をぬくようなの作ってあげますから。キッチン借りますよ」
「どうぞ。材料は冷蔵庫の中にあるから使っていいから」
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2007年01月07日

それいけノノ先生冬12 安心立命

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 窓から差し込んでくる光にリアは目を開けた。弱いながら少しばかりのぬくもりを持った光は、冬の昼の空気を写し取っているようだ。いつものように忙しく歩いていては感じることのない幽かな熱気をリアに伝えてくる。
「休みだからいいか」
 昨夜、ノノが遅くまでというよりは、朝早くまでばたばたしていたのでなかなか寝つけなかったのだ。
 だが、一度目を覚ましてしまったせいか、寝付くことはできず、そのままリアはベットを降りた。
 全裸の体を下着と、若草色のチェニックを身につけ、下に向かうと甘い匂いがしてきた。チョコレートの匂いだ。
 キッチンにいくとノノの姿はなく、リアの作った箱に入ったハニーケーキの横に、どこからか引っ張り出してきたのか同じような箱が置いてある。そばにはメモが置かれていて体全体をつかったと思われる大きな字で「持っていってください」と書かれている。
「これだと少しさびしいけど」
 ノノの苦労を考えるとリアはほほえましくなった。
 サイズ的に考えて泡立てるの一つにしても大変な事だったろう。それをしっていて手伝わないのは少し意地悪と思えたが、そこは教育だ。ノノはずいぶん外ではしっかりしているらしいが、うちに戻ると元のままなのだ。
「少しラッピングをしようかしら」
 持ち上げると結構重さがある。
「いったいどれだけチョコを使ったのかしら」
 そう呟きながらリアはリボンと赤と緑のクリスマスらしい包装紙を出してケーキを包んだ。
「結構時間かかったけどこれならいいわ」
 リビングの鳩時計が11回鳴いた。
「いけない」
 待ち合わせの時間だった。
 リアはあわててバスルームに飛び込んだ。顔を洗い、歯を磨き、柔らかいせいで寝癖のつきやすい髪を櫛でとかす。
 そのままリップクリームをすれば、それなりの姿になっている。
「服はと」
 昨夜のうちに用意しておいた若葉色にチェックの飾られたワンピースに着替えれば、もう準備は万端だった。
 あとは朝食をと思ってから、せっかく身につけたワンピースに汚れをつけるわけにはいかない。
「どうしようかしら」
 悩んでいるとドアのベルが鳴った。何度と鳴らすような非礼なまねはせずに一回押されたきりベルはならない。それでも人が待っているのは明らかだった。
「あ、すいません。今出ます」
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2007年01月09日

それいけノノ先生冬 13万劫末代

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 沢瀉はなかなか開かない扉を見ながら、ハミルトンの腕時計に目をやった。
 約束の時間を5分ほど過ぎている。十分ゆとりを持ったつもりだが、エルフの女性を迎えるにはすこしばかり早かったかもしれない。エルフやドワーフといった種族の時間と人間の時間はずいぶん違う。大きくいえば、エルフは循環という植物性の永遠を、ドワーフは鉱物性の永遠を、それぞれ見つめて生きているように思える。そして人は人を見つけいきている。
 時として人の方にあわそうとするものもいる。そう考えて沢瀉は5分前には家の前に到着していた。気分的には10分待っていることになる。
 退屈なわけではなかった。
 こうして個人の邸宅に迎えに行くのは久しぶりだ。
 リアの家は妖精島区域の中央近くにある。
 箱を思わせるその家は立方体で、沢瀉が見ている面には白い壁に、その真ん中に赤い扉が一つついているせいで大きなサイコロのように見える。
 扉が開き、両手で2つあまりのケーキのケースを持ったリアの姿があった。
 リアは見えない階段でもあるように踏みだすとそのまま飛び降りた。
 羽毛が地面に落ちるようにゆっくりと揺れながらリアは着地した。
「驚かせてしまって。ああ、でも私も初めて電話を見たときはそう思いました」
「どうでしょうね」
 リアはそういってから小首をかしげて、頭を下げた。
「お待たせしました」
「いえいえ。この辺りは理由がないと入れませんからね。見ていて楽しかったですよ」
 沢瀉は手を差し出した。
「荷物持ちましょう」
「ありがとうございます」
 リアが差し出したケーキを一つとって、沢瀉は歩き始めた。
「今日のパーティーはどこでされるんですか?」
「剣柄です。講堂が幸い借りられたので」
「そんなにたくさん。足りるかしら」
「それなりに量は頼んでおきましたから」
「今日はクリスマスイヴでしたね。たくさんいらっしゃるでしょうか」
「明日は人によっては祈りの日となりますから、今日にしておきました」
「天使のみなさんですね」
「ええ。できるだけ信教の自由を尊重するのが境界の基本の一つですからね」
「この国はこの世界でも特殊みたいですね」
「その通りです。さすがに子供をさらってささげるような教え、教えというのも忌まわしいものが、蔓延ることはないようですが」
 リアは頷いた。
「はこびるといえば、魔薬の件は今年中に片付きそうですか」
「撲滅は無理ですがどうにか量だけでも制御できそうです」
「よかった」
 リアは頷いた。
「講堂に行く前に頼んでおいた食材をとりにいきたいのですが」
「わかりました」
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2007年01月11日

それいけノノ先生冬 14掛取万歳

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「あと少しだからがんばろう」
「わかった」
 親指姫は頷いた。
 七瀬の顔は小麦粉で白く汚れていたが、その奥から紅潮した頬が覗いている。
 一夜しっかり寝て元気になった七瀬は、空が白んだ頃から作業にいそしんでいた。
 親指姫も手伝ってはいたが、準備段階は既に終わっていて、既に味付けといった繊細な作業に移っているせいで、できるのは箱づめを始めとした梱包くらいのものだった。
 七瀬の動きは実に無駄がなく見ていると、姿勢を正して見なくてはならない気にさせる。その成果は目の前にきれいに並べられた10はまりの箱となって現れていた。
「できあがり」
 七瀬は深く頭を下げた。
「ありがとうね姫。これで今年は逃げなくてもよさそう」
「逃げる」
「年末のしめ日を逃げることができれば来年まで払わなくていいんだって。すごいよね。学校できいたの。かけとりっていうんだって。昔の話みたいだけど」
 親指姫は頷いた。
 こちらに来て一年あまり。いろいろな仕組みがあるものだ。それなら年末みんながあれほど金を使うのもわかる。享楽に励み、その代価を払わずに持ち越せるとかなんといういい仕組みだろうか。
「でも車でとりにきてくれるのかな。できるなら、蒸すところとかこっちで面倒見てあげた方がいいかも」
「そこまですることはないのではないかな。契約の問題だ。作るところまでではないのかな」
「でもね、姫がせっかく手伝ってくれたこれ本当においしい
「それは私が手伝ったからではなく、店主の力だ」
 七瀬は箱を見つめた。
「ありがとう。確かにおいしいと思う。でも、人の口に入るまでにまずくなっちゃうんだよ。そうすると、九十九屋のこれがまずいってことになっちゃうの」
「なるほどな。それならわかる」
 名前に瑕がついたときの対応は知っているものを全て倒すか、それを覆い隠すような功名を得ることだ。汚名を濯ぐためにはいかに大変かはわかっていた。
「では同行させて貰えばいい。もちろん微力ながら手伝おう」
「ありがとう」
 そういって手を取り合う二人。
「おはようございます」
 親指姫は振り返った。
 六星が立っていた。それにまったく気づかなかった自分に親指姫は少なくない驚きを覚えていた。
「おはようお兄ちゃん」
 七瀬の言葉に答える六星の笑みは弱々しい。
「もしかして用意で疲れちゃったの。ごめんなさい」
「違うから大丈夫だよ。ちょっとね」
「朝ご飯作るから」
「悪いね」
 六星は椅子に腰かけた。その動作すらおっくうなようで、深い疲れが見える。
「失礼だが休んでいた方がいいのではないかな。今のあなたからは疲労しか感じられない」
「そう? でも姫がいうのだからそうなんだろうね」
「今、茶を入れよう」
 親指姫は置いてあった急須にさっさとお湯を入れた。その間に湯飲みにもお茶を入れて、くるくると回した。
 そうしてお茶を出すと六星は笑顔で頷いた。
「ありがとう」
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2007年01月13日

それいけノノ先生冬15 拈華微笑

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 七瀬がおにぎりを皿に盛った。手の大きさからあまり大きいのは作れないから、小さめのを6個。親指姫用に小さいのを2つ。
 今日の兄は元気がないようだから、奮発して兄の好きな錦松梅にしてみた。きれいな有田焼の入れ物に入ったそれは六星の好物だ。
「おにぎりです」
錦松梅だ」
 匂いでわかるあたりさすが好物だ。
「いつもののりたまもおいしいんだけど」
「確かにうまい」
 親指姫は持ち上げるようにしておにぎりを食べている。小さめのを一つさっさと片づけている。小さいのは余計だったようだ。
 自分が小さいのを食べようと思うと、六星が既に食べていた。
「誰か来たな」
 親指姫にいわれて七瀬は立ち上がった。そのまま戸をあけると、店の前にローバーのワゴンが停まっていた。リアウィンドウが開き、運転席から降りた沢瀉に七瀬は頭を下げる。
「おはよう七瀬」
「おはようございます。今運びますね」
 七瀬が振り返ると既に六星と親指姫が箱を持ってきている。
「ではこちらに」
 リアが開いたラゲッジルームに六星と親指姫は箱をおいた。親指姫はそのまま七瀬の後ろに移動する。
「いわなくていいの」
「あのもしよかったら、一緒にいきたいんですけど」
「それはありがたい」
 沢瀉は頷いた。そして六星を見た。
「学校で夕方からパーティーをするんだ。もし都合がいいなら、夜から顔を出しなさい。何なら友達を誘ってもかまわない」
「わかりました」
 六星を七瀬の目の高さになるように腰を低くした。
「七瀬、気をつけてな」
「おにいちゃんも無理しないで」
「だいじょうぶだよ」
 六星は明るく笑った。それが疲れている時に見せる笑顔なのを七瀬は知っていた。
「わかった。楽しんできなよ」
 だから七瀬は精いっぱいの笑顔を浮かべて見せた。

  七瀬は後ろの席にくると腰をつけないで、窓の向こうの六星の姿を見ていた。
 兄は小さく手を降っている。七瀬は大きく手を振り返した。
 車が走り出し、六星の姿は少しづつに小さくなっていく。
 角を曲がり、姿が見えなくなると、七瀬は家のほうを見るのをやめて、行儀よく席におさまった。
 革張りの座椅子は体が適度に沈む硬さでちょうどいい。
「六星、疲れているようだね」
 運転席の沢瀉の声に七瀬はうなずいた。
「どうにかしてあげたいなって思うんですけど」
「七瀬。君がそうして無理をしてしまえば六星もそれを感じてしまう。君は自然のままでいなさい」
「こうして七瀬さんが考えるのも自然なことだと思います。それはきっと六星さんにも伝わると思います」
 リアがいうと、親指姫がうなずいている。
「ノノがそうなんです。あの子は、大変な時ほど笑顔を浮かべようとします。困ってしまうような空元気なんですけど、私はそれで本当に元気が出るんです。がんばらないとって」
「ノノらしいな」
 親指姫はうなずいている。
「きっともう少ししたら大人になって、お兄ちゃん以外にもあまえる人が見つかると思うんです。だからそれまでは」
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2007年01月14日

それいけノノ先生冬16 画脂鏤氷

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「だいじょうぶかな」
 キッチンを片づけながら六星は七瀬の笑顔を思い出した。
 ああした笑顔をするときの七瀬は何か心配事があるときだ。七瀬は表情豊かなのだが、整っているせいか、無表情に見える。そのせいでいつもの笑いは本当に小さいものだ。
 朝からはりきっていたようだし、疲れているのかもしれない。でも、今日は沢瀉が同行しているので安心だった。
 それに夜のパーティー。
「おはようございます六星さん」
 ルーテが立っていた。
「おはようございます」
 世界が明るくなったような気がした。
「おにぎりでいいですか? 七瀬が作っていってくれたんです」
「おにぎりもいいですよね」
「インスタントだけと吸い物用意しますから」
 席に座ってルーテは朝から楽しそうだ。
 インスタントの吸い物だけだと寂しいので、お正月のお雑煮用のハバノリを少し椀に乗せる。
「どうぞ」
「この赤いのなんですが? 海の香りがしますね」
「ハバノリっていって、人によっては苦手なんですけど」
「おいしいですよ。このおにぎりもおいしいです」
 ルーテが幸せそうに食事を食べているのを見ると心が和んだ。
「今日はイヴですね」
「そうですね。街がきれいで飛んでいても楽しいです」
「それはよかった」
「今までサンタさんとあったことないんですよ。この世界のお話は本当の事とうその事が混じっていて」
「どうなんでしょうね。これだけたくさんの人が信じていれば姿を見せてもおかしくないですね」
「それは自我系の暗黒なのですよ」
 ルーテはおにぎりを食べ終えると、名残おしそうに残っている味噌汁を飲んでいる。
「あの今日夜パーティーがあるんです」
「こういう日はひっそりと大切な人と過ごすのもいいですけど、パーティーもいいですね。今日だときっとメインは七面鳥ですね。ああ、でもはりきって食べてると共食いとかいわれちゃうです」
「前でしたっけ、うちが注文の多い料理店だと思ったのは」
「そんなこともあったです。でも、あの日は本当に食べれるものばかりで」
「もしよかったら、いきませんか」
 ルーテの楽しかった表情が曇った。
「わたしですか。今夜はちょっと用事があるのです」
「そうですよね。急に誘ってすいません。ほんと気にしないでください」
「ごめんです」
「あ、ちょっと仕事があって洗いものをお願いします」お
 そういって六星は立ち上がった。
「まかせてください」
 六星は自分の部屋に向かう階段を上がりながら思った。
 今日彼女が一緒に過ごす人は誰なんだろう
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2007年01月16日

それいけノノ先生冬17 心意把功

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「さあいよいよ本番です。がんばるです」
ルーテは自らを鼓舞して叫んだ。
「張り切るのはいいけど皿を割るのは簡便だよ。ごろが悪い」
「ごろ?」
「自分の名前を叫ばれているみたいでいやなんだよ」
「おおサラに皿ですね」
「せっかくこんなにしたのに、ルーテが壊したら問題なんだよ」
 店の中は綺麗に飾りつけられていた。
本日と明日、2日しか開店しないとしてはずいぶんとこっているように思われた。
 白を中心に飾られている。ツリーも白ならほかのものも雲とも雪とも見立てられるラメの入った白だ。どれも素人の作品にしてはかなりできがいい。
 何やかんやらいってサラは凝り性なので、こういうことには労力を惜しまないのだ。
 そしてルーテもサラもきれいに飾りつけられていた。ルーテは髪を束ねて、半ズボンにシャツにベスト。小柄で細身の体のせいで少年めいて見える。サラも純白のスーツだ。髪を固め、オールバックにし、長身の体にぴったりとしたスーツを着ていると怪しい魅力がある。
 店の中で一人黒なのは疾斗だけだった。黙々とキッチンでアイスピックを片手に、氷を球になるように削っている。
「ルーテ、ちゃんと憶えた?」
「ばっちりです。お客さまが入ってきたら『おじょうさま、お帰りなさいませ』」
「違う」
「痛いです」
 サラに顔をつねられた。
「入ってくる人はお客さまじゃないんだよ。みんなおじょうさまなんだよ」
「おお。おじょうさまですね。わかったです。うわあ本当に痛いです」
 ルーテは盛大に声をあげた。
「おい。そろそろ開店だ」
「わかったです」
 ルーテは店の入り口にある看板を運ぼうと持ったがそのまま固まる。
「疾斗さん動かないです」
「サラが動かすよ。こんなの思いっきりひっぱれば動くんだよ」
 サラの思いっきりの危険さにルーテがとめようとすると、
「まて。俺がする」
 疾斗が来て何度か横に動かすと看板は外れた。どうもひっかかっていたらしい。
「おお」
「出すからちょとどけ」
「ドアあけるですよ」
 ルーテはドアを開けるとそのまま立ちどまった。
 白い光が飛び込んでくる。
 揺れ、風に舞い、降りてくるのは雪だった。いつから降っているのか街は白銀に包まれていた。
「うわあ」
 雪に見とれたせいで、ルーテはそのまま転がった。半ズボンのせいで足が寒い。
「ごめんなさいです」
 疾斗は無言で看板を横に置いて立っている。今ルーテが転がっているところが看板の場所なのだろう。
 ルーテはあわてて立ち上がった。店の中の高い温度のせいで水混じりになった雪はさらに滑るようになっていた。 
「ああ」
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2007年01月19日

それいけノノ先生冬18 一触即発

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 疾斗は看板に手をかけながら雪景色を見ていた。境界の中は風が寒い事はあってもそう雪は降らない。
 封希が気づけばきっと喜んでいるだろう。電話をしようと思ったが気づいていないわけはない。
 しかし店に飾られたヤドリギの緑の上に積もった雪はここが街の中であるのを一瞬忘れさせた。
 激痛がみぞおちには走った。思わず崩れた体勢のところに、さらに顎に襲われる。
 油断していたか
 確かに封希の事は油断かもしれない。
 殺気がない攻撃は避けにくい。それが疾斗が実感している事の一つだ。
 そう考えている間に目の前が暗くなる。
 いったいどいつだ
 これだけ鮮やかな手並を持ったやつは。目に入ってきたのはルーテの頭に見える天使の環だった。ルーテは崩れる疾斗の体を支えている。それに礼をいいかけて、疾斗はルーテの額に赤くなっているのを見つけた。
「お前か」
「わざとじゃないんですよ」
 殺気も何もないわけだ。ただ、立ち上がって、転がって、また立とうとしただけなのだ。
「疾斗さん顔色が悪いです。だいじょうぶですか」
 誰のせいだといおうとした時、視界の隅に入った後ろ姿。
 角を曲がるそれは。
「封希」
 走ろうとした瞬間むせかえった。
 目を開ければ封希の姿はない。封希のいた角に来るときれいにラッピングされた袋が落ちている。
「封希」
 ルーテが店から出てくる。
「ちょっと調べろ」
「わかったです」
 ルーテは羽を一枚とると何か呟いた。羽が散り、路地に亀裂が入る。
「お前何した?」
それはどう考えても追う過程での術ではない。
「いやちょっと調べようとしただけです」
 現れたのは数人の男たちだった。
「我々の聖夜計画を調べ出すとは。魔薬からここまでたどり着くとはさすがだ。だが、既に主要部に設置は終わっている」
 男たちは叫んだ。顔を覆うムンクの叫びを思い出させる奇妙な面。ベレー帽。黒い短いマント。
「おまえたち境界の犬をここで消せば問題ない」
 叫びと共に男たちは襲いかかってくる。
「今来るのは危ないですよ」
 疾斗は手を宙にかざした。宙から今までなかった黒い大剣が生じていた。剣が一振りされると路地は廃墟と化した。
「いないぞ」
「封希さん変な速さで移動してて見つかりにくいですよ」
「なんだそれは」
「なんていうかぼんやりしている感じで。困っちゃうですよ」
「ですよじゃなくてさっさとしろ」
「店はどうするんだよ」
 疾斗は黙って頭を下げた。あくまで軽く首を曲げた程度だが、その珍しい行動にルーテは硬直する。
「そうですねそういうこともありますよね。ここはわたしとサラさんに任せて封希さんを探しにいってください」
「お前がいないと収集がつかないだろ。いいからこい」
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2007年01月20日

それいけノノ先生冬 19 遠慮会釈

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雪は強さを増していた。
 埋立地からの冷たい風を諸運から受けながら、その寒さを感じることなく、封希は走っていた。

 だからきちゃだめだったんだね

 封希は走っていく。
 今日のうちにプレゼントを渡して帰ろうと思った。
 でも店に入れなくて、行ったり来たり。
 そして何十度めかの逡巡の果て。
 雪の中で抱き合う黒と白の一対。
 雪混じりの風は顔に、髪に、体に張り付き、封希を白く染める。
 前もこんなことがあった。
 あの時は寒い雨で、でもノノちゃんがいて。今の方が寒いのは雪のせいだけではなく、誰もいないからだ。
 封希は倒れた。足がもつれたのではない。もう、走れないくらい胸が苦しい。胸を少しでも楽にしようと仰向けになった。
 黒交じりの灰色の空から雪が降ってくる。落ちてくる雪の欠片はこんな時でもきれいだった。
「しっかりしてください」
 体が助け起こされた。
「はや・天見くん」
 助けられた事よりも、助け起こしてくれた相手に封希は茫然とした。疾斗ではなかった。
「大丈夫ですか」
 六星の手からハンカチが差し出される。そんなに泣いていたのかと思うと急に恥ずかしくなった。
「体、雪がすごいですよ」
 六星が雪をはたく。
「ありがとう」
 立ち上がろうとすると、足首が痛い。転がった時にひねったようだ。
 それでもどうでもいいと思いかけたが、目の前で心配している同級生を見ると困ってしまう。
「どこかで手当を。そうだ今日、学校でパーティーがあるんです。そこにいけばきっと手当てができますよ」
 封希の腰に六星の手が絡む。
「失礼」
 魔法のように封希の体が立ち上がった
「力あるんですね」
「コツなんですよちょっとした。じゃあいきますよ」
 封希は歩き出したが、数歩歩くと足に痛みがくる。
「ちょっと気を伝えますね」
 六星の触れた手から何か冷たいものが流れてくると痛みが緩和するのが分かる。それどころか体が妙に軽い。
 そのまま六星に肩を掴まれたまま封希は歩き出した。
 雪が弱まった気がした。
「もしかしてどこかにいくところだったんですか」
「どうしてです?」
「うっすらメイクが。いつもされてないから」
「あの、いいんです」
 クリスマスイブに大切な人が幸せなら、それでいいと思えた。
「イヴが大切な人と過ごす日ですから、もし力になれるなら」
「気持ちだから」
 声色に含まれた刺が自分で言ったのではないみたいだった。
「それでも、応えてくれるといいですね」
 それが封希にいったのではなく、自分自身にいっているように思えた。この人も好きな人がきっといるんだな。
「そうだよね」
 このおせっかいな同級生の為にそう信じてみるのもいいと封希は思った。
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2007年01月22日

それいけノノ先生冬 20 口蜜腹剣

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 寧はテーブルの間をふらふらと歩いていた。
 本来は会議室であるし、学校なので、飾りらしいのはツリーくらいなものだ。もっともツリーはトレントの子供たちで移動していくので結構見ものだ。
 あまり気合の入った格好だと、浮いて恥ずかしいかもしれない。そう思っているうちに学校だからとついつい制服にしてしまった。もともと寧はスクールガールスタイルが好きなので制服も嫌いではなかった。
 手に持った皿の上には、料理がたくさん乗っている。
 どれもが個人個人の好きなものを持ち寄っているので、いいものが多い。
 ただし、一部食べあわせの問題があるものもあって、硬直しているものもいるが。ある種族には致命のものが他の種族の好物だったりするのだ。
「コレハ危険ダ」
「ウマソウナノニ」
 そういって話しこんでいるのは寧が使っている子鬼たちだ。見ている料理は豆を使ったものた。もともと寧がデザインした存在だが、彼らは彼らで個性を持っている。おそらく節分、鬼、豆苦手という思考なのだろう。
 外に見かけるのは剣柄の学生。そして境界管理局の制服だった。
 こんでいるのは七瀬のコーナーだった。沢瀉おじさま
と、リア秘書、そして親指姫の四人で切り盛りしている。
 サラ、六星という二人を相手に一歩もひかなかった魔性だというのにずいぶんとかいがいしい。
 観ようと思いかけてやめておいた。脅威とみなす相手の情報収集は必要だが、今夜はやめておこう。
「寧ねえ」
 七瀬がこちらに気づいて笑顔を浮かべている。
「盛況ね七瀬」
「うん」
 七瀬は嬉しそうに頷く。
「やあ寧」
 沢瀉は額に汗を浮かべて蒸し機を運んでくる。
「きてくれてありがとう」
「随分急でしたけど不幸な事に仕事でしたので。後回しにして推参しました。見たところ管理局の方が多いですわね」
「まあ忘年会も兼ねてね」
「職権乱用ですね。それで九十九屋で料理を頼むなんて」
「いやいや。七瀬の料理は誰でも食べれるからね」
「こっちのテーブルに料理がきれた」
「今運ぼう」
 そうしている姿を見ていると心が和む。こうして仲良くしてくれていれば、いつか、この街も平和になるだろう。
 冷たい風が吹いた。風と共に姿を見せたのは六星だった。
「六」
 いいかけて絶句したのは六星がクラスメイトの天川封希と入ってきたからだ。気遣うようにする様子は今まで見たことがないものだ。
 その六星の視線が自分に向けられ、笑顔に変わった。
 六星は天川封希を椅子に座らせ、寧の方に向かってくる。
「あら六星、女性をまたしていいのかしら」
「そうだね」
「じゃあこちらにこないでどうぞ傍にいて差し上げたら」
「天川さんけがしてるんだ。途中で見つけて運んできたんだけど」
 なるほど。寧はそう思いながら頷く。
「任せておいて」
 いい機会なので少しこれまでの状況を観させて貰うことにしよう。
「六星は七瀬の相手をしてあげていて、私が治療しておくから」
 寧は綺麗な笑みを浮かべた。
「こんばんわ天川さん」
「こんばんは清原さん」
「少し観させてもらうね」
 意識して足をといわずに寧はいった。マギ使用時は言質一つで結果が大きく変わる。
「お願いします」
「走って捻ったのね。これくらいなら代価はいらないわ」
 薄暗い好奇心を満たしてくれるのだからむしろサービスをしよう。
 寧は封希の足を観た。ただ捻っているだけだ。これなら一瞬で治る範囲だ。
「六星、ばかなことしなかった」
「優しくしてもらいました」
 やさし〜く。
「そう、慣れてないから天川さんに何か失礼をしたかなって」
「いえ。雪で転んでしまって助かりました」
 助け起こしたところから六星の記憶が見えたところで、寧は足を修復した。どう見てもただ困っているから助けたというとても六星らしい過程だ。
「魔法みたい」
「ナスラインさんのは代謝を一気に進ませるけど、マギは時間を早回ししているようなものだから。過程の分の代価はしっかり消耗されているから。はい立ってみて」
 封希は躊躇なく立ち上がった。
「どうもありがとう」
 封希は腹を抑えた。
「でしょ。だから思いつく範囲ならだいたい代価を用意しておけば問題ないわ」
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2007年01月23日

それいけノノ先生冬 橘花先生の四文字熟語特講3

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「はい、冬季講習第二段〜」
 教室に入ってきた至王子橘花はいつも通りの制服姿だ。ツーテールにした黒髪と、すらっとしているが肉の薄い体は、学校内で人気がある。制服が似合う先生コンテスト七連覇のプライドがそれをさせるのか今日もいつもと変わらない。
 橘花は黒板に字を書き始めた。
  

勇往邁進
安心立命
万劫末代
掛取万歳
拈華微笑
画脂鏤氷
心意把功
一触即発
遠慮会釈


「よく邁進は使う気がするけど、あまり漢字では書かんよね」
 勇往邁進
「意味は目的に向かって、恐れることなく勇ましくどんどん進むこと。まあ、これはノノ先生の困難に立ち向かう様子を描いたものね。ああ、ノノ先生料理でけへんわけやないのよ。ただ、サイズ的に人間のものはね。
 え、親指姫? 
 そうね、親指姫はスーパーロボット大戦でいうトコのオーラーバトラーで、ノノ先生はボスロボットっていえばわかる」

「なやろかか動揺せんリアはんの雰囲気を示しとる言葉ね」
 安心立命
「天命に身を任せて心を動かさず、煩悶もないこと。いやろかる場合にも心が落ち着いとること。余計なお世話やけど安心っていうのは仏教用語なのよ。
 リアはんの一族は先祖記憶を引き継ぐから、代々のリアはんが蒙ったノノ先生の被害状況をわかっていて、範囲内に収まっておるからこないな安心してられるのね。さながらお釈迦さまの手のひらの孫悟空のように」


「とても長い時間やね」
万劫末代
「永久の後。万世の後の世。後世まで永久にわたって。まあ、未来永劫のようなものね。人間ちうのは行き急ぐ種族ちう認識がされとるのだけれど、実際はいろいろにシフトする可能性を秘めとるとうちは思うわけよ。
 ドワーフとかエルフとか、人間と時間感覚がちゃうのを沢瀉はんは感じとるようやけど、個人の遅刻はまた別問題だと思うの」

「そもそも四文字熟語やないね」
掛取万歳
「これは落語の話で年末に演じられる事が多いから、話をすればきっとしっとると思うわ。
 昔、どないな店でも掛取りやった頃に、盆・暮れの年二回が商店の人が代金を集める時やったの。その日に払わなければまた半年後っていうことになるから、いろいろな手を使って先へ先へと伸ばそうとしたのね。
 掛取万歳は、それを利用して、狂歌好きな人は狂歌好き、つり好きな人ならつり好きっていう感じに、いろいろ好きなものの話をして取りに攻めて来よった商店の人を返してしまうちう演目。
 余計なお世話やけど七瀬ちゃんがどうもうやむやに語っとるのは寧ちゃんが教えたせいなのね。
 ああ、寧ちゃんお笑い好きなのよ。懐かしいトコだとてるとたいぞう」



 クロスケたちが現れ、橘花を縛って消えていく。

「でね、噺家さんの力量によっていろいろなバリエーションができるわけね。雷門獅篭はんのとか見たいな。
 大佐が尋ねてきて赤いものとか、艦長がきて弾幕とか・・・」

 そして声も消えた。
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2007年01月28日

それいけノノ先生冬 21 意中之人

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 封希はすっかり壁の花だった。
 足は寧に修復され痛みはないが、気持ちまでは治ってはいない。
 壁際に置かれた椅子に座って、他人事のようにパーティ−を眺めていた。
 そんな封希の気持ちに気づいたのか、六星も寧も、はじめに食べ物と飲み物を渡してから、近づいてこなかった。
 気を使ってくれているのだろう。
 どう見ても最初に六星と会った時の自分がおかしかったのはわかるから、そういう対応をしてもらえるのはありがたい。
 同じ落ち込むにしても、暖かい屋根の下でのほうが体にいい。。
「封希さん」
 ルーテが立っていた。
「ルーテさん?」
 何をいえばいいのか。
 おめでとう
 なにかようですか?
 無視
 ぐるぐるといくつもの行動が心の中でぶつかって消えた。
「きてください」
 いつも通りに振舞っているように見えるが、ルーテの目も少し潤んでいるように見えた。でも立ち上がる気もなくて座っていると、ルーテが脇をとる。
「きてください」
 仕方なく封希は立ち上がった。
 ルーテが案内したのは廊下だった。明かりのついていない暗い廊下は、積もった雪の光だけが中を照らしている。絡めていた手をはずすと、ルーテは逃げるように走り去る。
 疾斗が立っていた。歩いている間についたと思われる雪が、室温で溶け重い水となって全身を濡らしている。
「疾斗」
 封希はそれだけいって黙った。
 暗がりに目が慣れてくると疾斗の顔が怒っているのがわかる。
 胸が痛い。自分はなんていえばいいのかもうわからない。
「これはなんだ」
 疾斗は何かを押し付けてきた。それは封希が落とした紙袋だった。
「これ疾斗にあげようと思って」
 紙袋を受け取って、今度は両手で差し出す。
「お前から渡してくれ」
「メリークリスマス」
 そのまま封希は引き寄せられた。
「だめだよ」
「信じろ」
 疾斗の腕が背中に回され、手の中に封希の体はあった。全身にぬくもりが広がる。
「疾斗」
 小さく名前が呼ばれた。
 それで幸せだった。
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2007年01月30日

それいけノノ先生冬 22 運否天賦

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「よかったです。ああ、でも早く帰らないと」
 二人の姿を見てからルーテは廊下を静かに飛び始めた。
ちょっと涙ぐんでいるのがわかったが、それが二人が仲直りしてくれた事がうれしいのか、先ほどまでの封希捜索のためにいろいろなところを引っ張りまわされた時のダメージの残りか、はたまた鼻をくすぐるおいしい匂いに背を向けなくてはいけないせいか、自分にも理由はよくわからなかった。
 昇降口に出て、ルーテは翼は広げた。ガラス越しに雪が強さを増しているのが見えている。
「いきます」
 自分に言い聞かせて、外に向かう扉を開けた途端に、雪が目に飛び込んでくる。
 すぐに扉を閉める。
「痛いです」
 開いた翼に雪がくっついてくる。
「うう、バランスが」
 ルーテは翼を震わせて雪を落とした。
「ルーテさん」
 声を振り返ると六星が立っている。
「六星さん」
 六星がどこか痛いのか顔をゆがめている。
「どうしたんですか?」
「いやルーテさんこそ今日は用事があるって」
「ちょっとサラさんのところで手伝うはずだったんですけどお店してたんですけど用があって飛び出してきてしまって」
 いってから怒っているサラの顔が思い浮かんだ。
「きっとサラさん怒ってるですよ」
「ノノ先生に一緒にいってもらうというのは。サラはノノ先生のいうことはききますよね」
「それですよ。会場にいるですかね」
「探しましょう」
 ルーテと六星は会場に戻った。
 ノノの姿はないが、一緒にいる時の多いリアを見つけて近づいていった。
「こんばんわルーテさん」
 リアはお酒を飲んでいるようだったが、顔色は変わっていない。周りで付き合っているらしい管理局の職員数人がつぶれている上にひどく酒くさいのでそうとわかる程度だ。
「リアさんノノ先生は」
「今日は朝から見てないけど。
 どこかに遊びにいってしまったのかもしれない。けっこうきまぐれだから」
「そうですか」
 ルーテは背中を向けた。
「私でできることなら」
 リアの言葉にルーテは首を横に振った。
「ありがとうございます。あの友達が怒ってるかもしれないので、ノノ先生に一緒に行ってもらおうかと。ノノ先生大好きな人なんですよ」
 リアはうなずくと、ケーキの包みを差し出した。
「それならこれを持っていってあげて。ノノがつくったものなのだけれど、本人がこなくて出せなかったから」
「いいんですか」
「ええ。もう出すタイミング逃してしまって」
「ありがとうです」
 ルーテはケーキの箱を持った。後ろでは六星が待っている。手回しよく傘が二本握られている。
「この雪だと飛べないですよね。おくります」
「ありがとうです」
 ルーテは頭を下げた。
 外に出ると雪は降り続けている。
 ルーテの体が温かくなった。六星がコートを肩にかけてくれている。
「ありがとうです」
「いえいえ。それじゃいきますよ」
 ルーテは外に出た。
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2007年02月03日

それいけノノ先生冬 23 意気揚揚

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 凍えるような空気が吹きつけてきた。
六星はコートの襟を立てた。鍛えているといっても人間の身ではちょっと辛い。
「だいじょうぶですか?」
 ルーテの言葉に頷いてから、ルーテは寒そうなのに気づいた。
 コートで覆われていても、裾から除く素足は寒そうだ。ルーテはほとんどいつもスカート姿なので、こうした格好は珍しい。髪も結ってあるせいで、天使らしい性別を感じさせない雰囲気が表に出ている。少年のように見える。
「サラさんだとこのくらいの雪なら関係なく突っ切れるんですけど」
「ああ。よくすごい速さで空飛んでますね」
「こういう時に思うんです」
「何をですか?」
「わたしはどうして人の形なのかって」
「不便ですか?」
「いいえ。この世界でみなさんと一緒に暮らしていくにはこの姿が一番いいです。食べ物もおいしいですし」
 ルーテは笑った。
「ルーテさんはおいしそうに食事を食べてくれますからね」
「本当においしいですから」
「きっとそれが理由なんじゃないですか」
「ああそれはいいですね。なんか納得ですよ」
 答えながら満足気だ。
「あまいいい匂いがするです」
「チョコケーキでしょうか」
 ルーテは目を輝かす。
「ああそれはいいですね。サラさんをなだめれるくらいのだといいんですけど」
 店についた。
 意識から遠ざけていた映像が浮かび上がる。
 疾斗が眠るように安堵して、ルーテにもたれかかっていた。
 あれから何があったかわからないが泣いているルーテに聞くことはできないでいた。
「何か車がいっぱいです」
 騒ぎがあったらしく管理局の職員の姿が見える。
「何があったですかね?」
「さあどうでしょう」
 店の前には看板が出ていた。
 
 天使の執事バー イブ限定

 狭い店の中はさらに空間が無くなっていた。
「お帰りなさいおじょうさま」
 さわやかな声が響く。
「ああ。ルーくんだ」
「ルーくん」
 ルーテも何やら表情を変えている。
「ごめんなさい今、用意しますから」
 ルーテはきりっとしたまなざしでカウンターに入った。
「六星はこっちにくるんだよ」
 サラにいわれ入ると、キッチンではオーダーがたまっていた。
「手伝ってほしいんだよ」
 注文伝票が数枚たまっている。
「このオーダー出せばいいんだね」
「うん」
 ルーテはカウンターでOLらしい客と話しこんでいる。
「ルーくん、かわいい」
 客の一人がルーテの頬にキスをする。
「なにするんです」
 声を出しかけて六星は押さえた。
「この木の下ではキスするのよ」
 ヒイラギの飾りをOLは指を指している。
「落ち着け俺」
 持ち前のまめさが目の前のオーダーの束に発火した。
 六星はキッチンの中を見た。氷が綺麗に削ってあって、酒のそろえもいい。おまけに生のライムまでそろっている。おつまみは熱を通さないものだけだから、すぐに対応できそうだ。
 オーダーを見ると、お任せが多い。とりあえず人数分のグラスを出し、ライムを絞る。氷をいれ、ウォッカを入れて、ソーダを足せばできあがりだ。
「ウォッカ・リッキーです」
「そういうのじゃなくてもっと執事っぽいの頼むんだよ」
「執事っぽい」
 サラの言葉に六星は頭を抱えた。
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2007年02月06日

それいけノノ先生冬 24 気炎万丈

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「いってらっしゃいませおじょうさま」
 そういって最後のおじょうさまを送り出すとサラは息を吐いた。
 今日はかなりのおじょうさまがお帰りになられたせいで、ルーくんはぐったりしている。
あまりきりっとしてないルーテがきりっとしつづけているのは結構大変な事だろう。
 六星は黙々とたまったグラスや皿洗いをしている。
 何もいわなくてもしっかり口紅のつきやすい縁をしっかり洗っているのが、慣れを感じさせた。
 たて看板をしまいサラは倒れているルーテの横に座った。
 ルーテは起き上がった。
「あのサラさんごめんなさいです。疾斗さんに力づくで」
「本気を出せば抵抗できないわけないんだよ人間程度に」
「うわあ疾斗さんは多分人間じゃないですよ」
「言い訳はそれで終わり。さあ懺悔の時間なんだよ」
「ああ。そうだ、ノノさんのケーキ持ってきました。クリスマスプレゼントなんですよ」
「そんなことでごまかされないんだよ・・・で、それはどういうことなんだよ」
 六星がさっとサラの前にケーキの箱を置いた。
「いい匂いなんだよ」
「あけるです」
 ルーテがケーキの箱を開けるとサラは硬直した。
「すごいんだよ」
 中にはノノの形をしたチョコレートの飾りのついたケーキが入っていた。
「うわあ、かわいくて食べれないんだよ」
「切り分けますね」
 六星が包丁を持って立っている。
「切らないで」
「切っちゃだめだよ」
「このノノさんの部分はサラさんにあげるですから」
「それならいいんだよ」
 ケーキはカットされた。
「おいしいです」
「ノノ先生がつくったんだから当たり前だよ」
「出して」
 ノノの声がした。
「?」
 サラはケーキに触れた。軽く触るとチョコが砕け、肌色が目につく。
「ノノさせ」
 叫びかけたルーテの口をサラが塞いだ。
「えっとこれはサラへのプレゼントだったんだよね。サラは疲れたんで今日は失礼するよ」
 サラは皿を持つとそのまま外に向かい走り出した。

「あれノノ先生だよね」
「そうですよきっと」
 店の外に出ると雪が降っているのも無視して、光となって飛び去っていくサラが見えた。
「あれじゃ声も聞こえない」
 音速以上で飛んでいるサラには音は届かない。
「あ」
 ルーテが急に声をあげた。その視線の先には雪の飾りのついた柊が見える。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 ルーテが飛び込んでくる。
 六星の頬にルーテの唇が触れる。
「どうしてそんな」
 思いっきり逃れる六星にルーテはあわてていった。
「この木の下にいたらクリスマスはキスしないといけないってさっきおじょうさまに教わったです」
「それ嘘だよ」
「うそ」
 ルーテは硬直した。
「ごめんなさいです」
「いやいいよ忘れて。忘れるから」
 六星はルーテから顔を背けた。
 緩む頬を隠すために。
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2007年02月13日

それいけノノ先生冬 橘花先生の四文字熟語特講4

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 橘花は黒板の前に立っている。笑顔はいつもと変わらないが、額にうっすらと汗がにじんで、顔色も血の気がなく何かに怯えているようだ。。
 教室の後ろにはいかつい制服姿のクロスケたちをはじめとする小鬼たちが立っている。


「乙女座のシャカさまのような感じかな。それとも仏ゾーン」
拈華微笑
「華を捻って、微笑するっていうこと。まあ以心伝心って感じかしら。
 仏様が蓮華の花を捻ったんやけど、その意味を理解して笑みを返したのがただ一人やったの。教外別伝・不立文字ちうもんで禅宗のはじまりのトコね。
 今回は六星くん七瀬ちゃん兄弟がいかにお互いを思いつつ勘違いしておるかわかるトコね。悟りの道は険しいね」

「これはなんちゅうか」
画脂鏤氷
「油に絵を描いても直ぐ流れてしまうわ。 氷に彫刻しても直ぐ溶けて形をとどめへん。 時間ばかり食ってなあんも形にならへんこと。 ゴチャゴチャゆうとる場合やあれへんな。要は無駄な努力の事。
 でもな、油に絵を描いてもダメやけど、油を材料にした画材を用いた絵はどエライ重厚だし、雪祭りの時の彫刻とかも氷だけで綺麗だよね。
 やから六星くんにもがんばってほしいな」

「四文字熟語ですらないやけども」
心意把功
「これは技の名前ね。どのような中国拳法の技の名前ね。心意把功三年不成といわれるように、三年学んでも習得でけへんといわれとるものなの。
 なんでルーテちゃんができるかちうと、翼の分加速力があるからと思うんやけどね、意図して出しとるわけやないから」

「これはよく使うな」
一触即発
「小さなきっかけで物事がいきなり起こってしまうような状態。
 今回はまあルーテちゃんがこけたせいでいろいろおきてしまっておるから確かに小さいことや。
 でも、忘れちゃいけへんのは、小さなことでおきてしまうような事態は、すでにそこにいろいろなことが起きているちうこと。仮に今回スルーできても、結局は何ぞ起こるものよ」

「普通は遠慮会釈がないっていう意味でネガティブに使うわね。『アルちゃんは遠慮会釈がない』とか」
 遠慮会釈
「言動を慎み相手の気持ちを思いやること。
 気持ちが沈みこんでいても相手のことを考えようとする封希ちゃんにぴったり。
 でも六星が理由を聞かんといろいろしとるっていうのも入っておるやろか」


「なかなか想像すると怖いよね」
口蜜腹剣
「口では甘いことをいって、内心ではいろいろ険悪な事を考えとるっていう意味。
 寧ちゃんが親切そうにいっとるのにもかかわらずほんまはあないなに腹の中で考えとるっていうのはまさに言葉通り・・・
 甘い言葉をいって、人のええ封希ちゃんから言質をとっとるのね。
 え、ウソはいってへんのにどうしてこっちにくるの」

 橘花の周りにクロスケたちが現れ、縛る。

「真実ガ常ニ尊イト思ウノハ幼イ証拠ダ」
posted by 管理人 at 18:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | ノノ先生| edit

2007年03月01日

それいけノノ先生冬 橘花先生の四文字熟語特講5

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息せききって橘花が教室に戻ってくる。その手には何やら動かなくなった黒い物体が。
 橘花は廊下にそれを放り投げてにこやかな表情を向ける。制服のところどころに傷や赤黒いものがついている。
「真実はいつも一つ」
 橘花は黒板に書き始めた。

意中之人
運否天賦
意気揚揚
気炎万丈

「これはまさにそのまま」
 意中之人
「これはまあ、はじまりの物語封希&疾斗 × ノノ ルーテ編
http://99ya.gozaru.jp/storys/afb/1.htm
をみてもらえると分かりやすいんだけど、疾斗くんとルーテちゃんは一つ屋根の下だった時期があるの。その後の展開は、雛稀さんのサイトに置かしていただいている『疾斗の部屋にて』シリーズを読んでもらえれば分かるんだけどね。
 むしろノノ先生のようなハードではない、未来はこのシリーズから分岐したといえるのね」


「全ては天の差配というちょっとばかり投げやりな言葉ね」
運否天賦
「まあ、ここでの天は天使にもかかっているんだけどれども。六星くんの心持はルーテちゃんに掌握されているからね。」


「これまたそのまんまね」
意気揚揚
「威勢のよい様子ね。
 まあ、サラちゃんは常に意気揚々なわけだけれども、店全体の活力ある様子も示しているわ。
 ところでどうしてサラちゃんがこうして気合をいれて店をしているとかというと、ノノ先生のせいなのよ。
 『執事喫茶』をひつじ喫茶だと思ったノノ先生がやたらいきたがっていたのね。それでサラはせっかくなので作ったというわけよ。
 愛は偉大ね」

「これまた激しい」
気炎万丈
「やる気の炎が万丈、30.3030303 キロメートルまであがっているということね。
 まあ、その後のサラさんの逃走具合を考えるとそれくらいでもあっているかも。」


「さて、ノノ先生冬シリーズもこれにておしまいとなりました。
 クリスマスに書こうとしていて結局三月もかかっているというのはなんともいえないけど」
posted by 管理人 at 12:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | ノノ先生| edit

2007年10月12日

口にしたことは責任・・・

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「だからあれはキャラメルの名前した別物なの」
「ああそれでか」
 ノノとアルは教室に戻ってきたのは昼休みも半ばも過ぎた頃だった。
 いつもなら教室にいるはずの面々が誰もおらず二人は顔を見合わせた。
「なんか人いないね」
「前の時間は選択制だからな」
「アルは何を選択してたの」
「あ、いたです」
 教室に入ってきたのはルーテだった。
「みんなはどうした?」
「ああ、なんかご用事があるそうで、皆さん出かけてしまったですよ」
「ええ。封希にゴチソウになろうと思ったのに」
「お腹すいているですか」
「まあね」
「前の時間料理をとっていたので食べるものあるですよ」



 
 それは東洋の伝説に登場する名を発してはならぬ物の呼称の一つである。『臨終の息』の中で、今際の際にみるものとも、僻地にひそむものの秘められた形質ともいう。そのため、魔術においては「天上の気泡」など死の比喩として用いられるのが一般的である。



 よく分からない鑑定結果が心の中に広がった。

「あたしお腹いっぱいだし、アル食べれば」
「いや遠慮することはないノノ先生が食べればいいさ」

 ルーテに背を向けて顔を合わす、ノノとアル。

「ノノ先生が言わなければ今ここにあれは登場しなかったんだぞ」
「しょうがないじゃない。ただ教室に入っただけでデットエンドへのフラグがあるなんてわかるわけないでしょ」
「一度口にしたことは責任をとらないとは」
「ええ」
「しょうがない。ここは一つ勝負しようじゃないか」
「何かいかさまするわけじゃないでしょうね」
「コイントスだ。表か裏だ。単純だろ」
「いいわ。じゃあいくわよ」
 ノノはコインを投げた。
「表か裏か」
「表」
「裏」
 ノノは手をどけた。そこにある小さな金貨は
「ふふ裏ね」
「よく考えたらわしどっちが裏か表かわからないぞ」
「一度口にしたことは責任をとらないとね」
「く・・・いやあノノ先生の勝ちだ」
 ノノはルーテを見た。
「少し残念ですけど、二人で勝負したんですからしょうがないですよね。どうぞ」
 ルーテは差し出した。
「アル」
 ノノが振り返るとアルは。
「当然かった人間の物だ」
「え、ちょっと」
「食べるところをみるのは悔しいからな」
 アルはノノに言い終わらさずに窓から飛び降りていった。
「どうぞノノ先生」
 
 
 
 
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2009年10月07日

マボロシの予告偏

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いつかは続きを書きたいんですけどね。
posted by 管理人 at 22:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | ノノ先生| edit
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