2007年06月30日

海深く翼

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 いつものように天見六星は港を抜けて、島を見にいく途中だった。
 真夜中、港を歩く学生服姿は目立ちはしたが、それを見ているものはいないようだ。6歳の頃から十年近く六星は何度となくこうしてきたが、誰にも咎められることはなかった。咎められたら、ライセンスを見せればすむことだが、それは煩雑に思えた。
 港は十年前の津波によって甚大な被害を受けたが迅速に復旧された。しかし、港の端にある十三埠頭は、荒れ果てたまま放置されている。それでも昼間は、近隣の工場の発電施設から出る温水により肥えた魚を狙う釣り人や、それを追い払おうとする港湾局の人間がいたが、この時間になると人の姿はない。
 埠頭に立って六星は島を見た。
 島への出入りは禁じられている。こうして一番近い十三埠頭から見れば、すぐにでもいけそうに見えるが、それは錯覚だ。
 島は大きかった。津波で破壊された瓦礫を貪欲に引き受け、巨大になり、津波の被害で焼け太りしたと噂される企業がその全てを買い取った為、そこは巨大な私有地であり、工場となっていた。
 その島を見ながら適当な岩に腰掛けて夜明けを迎えるのが六星の習慣だった。
 暗闇に、紫が混じり、やがて暖かな朱をもってくる。
 多くの詩人に読まれた夜明けの美しさだが、六星はその美しさを感じたことはなかった。
 今この時までは。
 夜明けの光の中、何かが落ちてくる。それは金色の輝きに包まれていた。動くこともできず、六星はその美しいものを見ていた。
 水飛沫があがった。
 海に何かが落ちてきていた。海面に頭が見えた。誰かが海の中でおぼれていた。
 六星は上着を投げ捨てると海に飛び込んだ。
 海水は冷たかった。海は一月前の温度を持つという。冬の海に飛び込んだのと同じ事だ。その中を六星は泳ぎ始めた。
 少しずつ近くなる姿。癖のないまっすぐな金色の髪が、光のように海の中で揺らめいていた。少女だった。
 後ろから近づくと脇に手を入れて、埠頭に向かい泳ぎ始める。それほど疲れなかったのは少女が意識を失っていたからだろう。もし起きて暴れたなら、これではすまないはずだ。
 六星は上着をとると、携帯を取り出し、救急車を呼びかけて、止まった。こんなところまで救急車は入ってこられない。六星は少女を背負い、港を歩き始めた。
 海の中で冷えていたのに、少女は生命を示しているように暖かかった。服もあまり濡れておらず、むしろ六星の方が水に濡れているくらいだ。
 六星は歩き続けた。
 明け方の光を受けながら歩いていると、あの津波の日を思い出す。あの日、自分は背負われて歩いていた。
 誰に背負われていたかはわからない。津波の中で、誰かが自分を救い出し歩いていた。周りには壊れた建物。水だけではなく、辺りは津波によって起こされた衝撃の為、火事を起き、息を吸うたびに胸が痛んだ。その中で広い背中の上だけは安心していられた。
 この少女に、あの時の気持ちが少しでも伝わればいい。そう思って歩いた。
 十三埠頭を抜けて、工場地帯に入った。少女をおろし、風が入ってこない建物の影に置く。六星は携帯を出すと、電波が届いていない。そのまま歩き出して少しでも電波のいいところを探した。
 大きな足音がした。
「見いつけた」
 振り返ると緑色の髪をおさげにした、小柄な獣人の女だった。警察や警備、そうしたものを思わせる制服に身を包み、その頭にはベレー帽が見える。朝の光の中で、猫科めいた瞳孔が細まって、少女を見ていた。
「君は?」
「それを渡せ」
「今、救急車を呼ぶ」
「それには及ばないよ」
 獣人特有の強靱な脚力で、すぐに六星の側に女はきていた。近づいてみると割合丸顔で小柄ではなく、まだ子供の獣人かもしれなかった。
「貰ってくよ」
 少女の服のワッペンに六星は眉をひそめた。それ一件十字架をもしたものに見える。しかし、十字架の上に一つの点が見えた。
「組織の人間か」
「『翼ある蛇』だよ。それならどうした?」
「渡さない」
 六星の顔に女は笑った。
「知っているのに逆らうなんてバカなやつ。あんたなら、幾らくらいかな」
「何がだ」
「ミンチの値段さ」
 少女の手には黒光りする鉄の塊があった。
 それは実戦で始めて使用された際、悪魔の兵器と恐れられた。ただ一人で死体の山を築くとされた機関銃であったが、実際は重く数人の補充を必要とした。
 だが、少女の手にあるH&K MP7はそうではない。携帯性に優れ、片手での取り扱いが可能で、短距離でなくとも人体を防弾チョッキごと貫通し、破壊する優秀な兵器だ。
「g100円ってところかな」
 軽やかな声を上げ、少女はMP7を六星に向けた。
 六星は動けない。動けば背後で眠る少女にも当たる。
 地面を蹴った。
 引金に指がかかる。
 六星の体が少女の眼前に移る。
 驚く女の顔。
 MP7は転がった。
「な」
 六星は少女の目の前で手を大きく開いた。何か来ると少女がひるんだ刹那、手首を固めて、そのまま返して地面に押しつけた。
「このまま手を退け」
 少女は無視して暴れた。
 小柄な体とは思えない力に六星は弾かれそうになる。獣人は人間に比べて強い膂力を持っている。このまま押さえきれないかもしれない。
 六星は手刀で、少女の延髄を軽く殴った。意識を刈り取るのに強い打撃は必要ない。少女の体はそのまま動かなくなった。
 六星は早足に少女の元に戻った。少女の意識は戻ってはいない。きれいな髪が朝の日の光を受けている輝いている。光を返しているのではなく、内側から発しているような輝きだ。
 六星は少女を背負い、再び歩き出した。その時、背後で堅い音がした。それは安全装置を外す音。
 先程気絶させた少女。手にはMP7。
「ミンチになりな」
 銃弾が放たれた。

 肉体をミンチと布きれを化す銃弾は宙で止まっていた。光の幕が、六星の周りを包み込み、銃弾を防いでいるのだ。
 シールド。防御魔術の中でも基本とされる物だが、こうして全ての弾丸を防ぐ範囲と強度は魔術師の腕前をしめてしている。
 六星は魔術を扱ったものを探した。
 光の幕が消え、銃弾は地面に転がった。
 埠頭の方から歩いてきたのは、ナースを思わせる白を貴重とした服装で身を固めた長身の女だった。胸元には翼ある蛇のマークが見える。黒い髪をきれいに結い、大きな髪飾りが見える。手にはどこかアンテナめいたものが握られていた。素材を生かしたまま加工したそれは現代の魔術師の杖だ。
「ファン、傷つけてダメですよ」
「命拾いしたなさっさと渡せ」
 獣人の女ファンは大声でいった。
 六星は周りに眼をやった。一人なら逃げ切れると思われる倉庫の隙間も、こうして少女を背負った状態では無理だ。
「おいきいてんのか」
 騒ぐファンを横に、長身の女は六星を見ている。その黒い瞳は六星の心の底を見透かすようで、居心地が悪い。
「あなた天見六星。なら止める必要はありませんでしたね」
 長身の女の言葉に六星は笑って答えた。
「誰か教えてもらえませんか?」
「魔镖に比べれば、名乗るほどのあだ名は持ちませんから」
 女は杖を振るった。地面の上をはうような衝撃が六星に襲いかかる。交わしたと思ったそれは方向を変えた。
「それは地の鮫。大した術ではないですけど、しつこさは折り紙付きです」
 六星は走り出した。
「あくまで逃げるのですね」
 鮫は地面を奔ってくる。
 全力でなら追いつかれないが、それも時間の問題だ。
 六星は放置されている廃車の群れに飛び込んだ。
 合間を抜け、かける。魔術で作られたものとはいえ、こうしていれば障害物にあって、まっすぐにこれない。
 予想通り鮫の姿は消える。
 六星の背後で大きな音がした。悪い夢のようにト廃車が宙にはじき飛ばされていた。 鮫は一体ではなく、数体に増えていた。それは一体では抜けられない、廃車を初めとする障害物を破壊し、弾きながら向かってくる。
 先程の魔術師の姿は見えないから、あれはオートで敵を定め、飛び込んでくるタイプの魔術だ。
 六星は立ち止まって、少女を地面におろした。
「天使を離したね」
 ファンがMP7を構えて廃車の上に飛び乗っている。
「さっさとミンチだ」
 距離は十m。先程とは違う。
 引金がひかれた。

 あまたの銃弾が六星を襲った。血が飛び散り、肉片と赤く染まった布きれがそこにはあった。もう命がなくなったのがわかってもファンを撃つやめなかった。
 弾倉が空になってはじめてMP7をおろした。
「ミンチになりやがった」
「gいくらくらいだ?」
 眼前に六星の姿はそこにあった。六星の体がもう密着といっていい距離にある。既に何もできはなしない。
 六星の拳が自分の腹にめり込んだ瞬間、ファンの意識は吹き飛んだ。
「心纏流風神」
 六星はファンの体を地面におろした。
 振り返ると、まだ鮫はこちらに向かってくる。ファンのMP7をつかみ、腰にあった予備の弾倉をつけかえる。
 倒れた廃車の下にこぼれている黒い染みが見えた。かぐと油臭く、ガソリンか、オイルだ。 
 鮫が近づいてくるのが見える。
 MP7を地面に向けて撃った。火花が散って油に火が移る。
 少女を背負い、六星は歩き出した。
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2007年07月05日

海深く翼2

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 診断室は古めかしいベットを真ん中に、右にはオフィスにあるような棚、左には学校にあるようなスチールの机と椅子が置かれていた。
 椅子に腰掛けたドクターは口を開いた。
「今回はどんな死に方だね」
「この銃で撃ち殺されました」
 六星はMP7を出した。ドクターはMP7をとるその重さを確かめるように動かしている。
「体を銃弾でつぶされる感触はどうだった?」
 その声に六星は揶揄を感じた。ここで医師の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。神殺名医の名で呼ばれるドクターは、重病にかかり命を失いかけていた牧師を改宗させた事に由来する。元牧師の言葉、「神は死んだ」が、そのあだ名となった。
 ウィッチドクター、霊的治療を行える医師は多くとも、ドクターに勝る物はいない。少女の為にも、ここは素直に答えなくてはならない。
「意識が飛ばなかったのが幸運です」
「あまたの死を超えてきたものの言葉とは思えないな。あの猛毒に化けた塩の針はどうだった?」
「あれは効き始めるまで間がありましたから」
「なるほどな、やはり意識させないまま、遠距離から一撃でしとめるのが一番確実だな。ありがとう参考になった」
「いえ」
 六星は奥歯を噛んだ。この医師とは一度敵味方に分かれた事がある。その時にしとめきれなかったのが余程悔しかったらしい。
「ところで、あの少女はなんだね」
「海で拾いました」
「なるほど。慰霊の際に見つけたというところだね」
 ドクターは息を吐き、「あの少女は人間ではない」
「は?」
 少女の人以外なにものでもない外見を思い出した。
「獣人のたぐいですか」
 遺伝子の一部を書き換え、戦闘力を増加したもの。または、シャーマニズム、自分の祖先に獣のトーテムを持つことで自然の造化による獣の能力を所持したものだ。
「いや、そうではないよ。あれは生き物ですらないのだ」
「俺は確かに彼女を抱き上げて運んできた」
「君の内部での話だ。あれは、周りからエネルギーを吸い取って自分が存在するように認識させる」
「先生も見ているのに?」
「ああ。認識している。私の感覚に対して干渉を受けているからな」
 六星は息を吐いた。では、白昼の幽霊のようなものだというのだろうか。
「事を構えたのは誰だね」
「蛇です」
 ドクターは盛大にため息をつくと、顔を押さえた。
「まったく君は。蛇相手だと容赦ないね」
 どこかで鈴の音が聞こえた。
「患者が起きたようだ」
 ドクターは立ち上がった。ついていこうとする六星にドクターは小さく笑うと、待っているようにと言い残していった。
 六星はベットに腰掛けて外を見ていた。
 この部屋からも島が見える。
 工場の象徴と言われる煙突。空気汚染がされないように高空で煙が流されるそれは工場が操業している昼間は白い煙を流している。島ができてから生まれた子供の中には、あの白い煙が雲を作っていると信じているものもいる。それほど工場は止まることはなく、煙を吐き続けている。
「六星」
 ドクターの声に振り返った。
 はじめに目に入ったのは翠の瞳だった。
 どこか遠くを見ているような瞳だった。癖のない柔らかな顔立ちが、瞳の持つ神秘を薄め、どこか人なつっこい印象を受けた。
 入院患者用のガウンに包まれた体は小柄だった。
「礼がいいたいそうだ」
「ありがとうございます」
 声も柔らかい。
「いえ、当然のことをしたまでです」
 六星はできるだけ冷静に答えた。
「そうそう、こいつはヒーローだからな。むしろ仕事を提供してやってありがたいと思っているさ」
「ヒーロー」
 少女は何か思い出したように強くうなずいた。
「良いですね」
「ところで名前を聞いて良いかな。whoやらアンノウンではレシピはかけないからな」
「ルーテです」
「どこからきたんだ」
 手はゆっくりと窓の向こうを指した。
「あそこです」
 そういったルーテの顔は真摯だった。
「もっぱら天使といったところかな」
 ドクターのからかいにルーテはうなずいている。
 ルーテの手はまっすぐに空を指さしていた。

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2007年07月08日

海深く翼3

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 頭を強く押しつけられるような不快な空気は消えていた。
 地下から出た六星の頭上で、空は黄金に輝いていた。
 先程まで空を覆っていた黒い雲は変わらずあるが、オーロラめいた輝きが雲の間からさしている。
 どうなったんだ。
  さっきまで周りにあった嫌なプレッシャーは消えている。そして父親の気配も。
 六星は外に出て歩き始めた。
 竜巻でも起こったのか、地上にある建物はなぎ倒されいた。地上に居れば結果は明らかだ。
 歩いても誰の姿もなかった。それだけではない。
 何の音もしない。ここは海の近くで、常に波の音がしていたのに。
「お父さ〜ん」
 六星の声は響いていったが答えるはなかった。父親の名を呼びながら、六星は歩き続けた。
 街は終わり、もう海のすぐ側まで来ていた。
 海の向こうに、崩れかけたビルが見えた。あそこに父がいるような気がした。
「お父さん」
 堤防に登った時、六星は声を失った。
 波が壁のようになって向かってきていた。
  
 六星は目を開けた。
 病院の廊下の椅子に腰掛けたところまでおぼえているが、眠ってしまったようだ。
 きっと波の音のせいだ。
 六星は夢を思い出していた。それは夢であるが、数年前に六星が見たものが、作り直されたものだ。
 悪夢だったが、ただ一つの場面がそれを懐かしい思い出に代えた。
「俺はまだそこにいけない」
 父、天見四郎の最後の姿。あの背中を今でも追いかけている。あの時の父はヒーローだった。
 少しでも近づきたくてただ同じように振る舞った。救いを求めるものを助ける。敵は打ち倒す。
 街では少しは知られるようになった。ただ、それは父のようなものではなく、小魔侠とそしりを含んで呼ばれるものであった。
 街も父がいた頃とは違う。この十年で世界は変わってしまった。
 かつては何の問題もなく出られた首都への移動も、今では許可制になり検疫が必要になった。国の中の外国。それが六星の住む境界だった。
 十六になった時、境界管理局が発行するバウンティハンターのライセンスを取得した。
 これで一歩近づけるそう思えた。しかし、既にこれまでの因縁が、六星の周りには張り巡らされていた。
 その一つが『翼ある蛇』だ。組織が問題なのは、あくまで組織的なバウンティハンターの顔を持つということだ。母体企業である『真人』は、境界において著名な企業だ。その警備部門ということで、社会的な信用も高い。
 ルーテが、賞金のかかっている存在なら、捕縛直前にかすめ取ったことになる。
「ルーテか」
 彼女にそのような雰囲気は一分もないが、調べる必要はあるだろう。
「六星、電話だ」
 ドクターの声に六星は向かった。コードつきの電話を必死にのばしているドクターの姿があった。
「天見です」
「こんばんわ」
 その声は昨夜あった魔法使いだ。
「どなたさまですか?」
「聞き覚えはありませんか」
「もうしわけないです」
「ティエンともうします。真人の保安部門で渉外を担当しています。天見さまは、こちらで確保する予定だった対象を、保護されていると思いますが」
「何のお話ですか」
「そういわれると困りますね。韜晦しているのか、揶揄しているのか」
 六星は答えずに言葉を待った。
「恐らく、金髪翠眼の少女の姿をとっていると思いますが、それは擬態ですから、注意されるとよいと思います。あれは人間を簡単に無力にしますから。では、失礼します」
 電話は切れた。
 確保対象ということは、宣戦布告のようなものだ。今後も、何かしてくるということだろう。
「済んだか?」
 ドクターは不機嫌そうに眉をしかめた。
「ええ。蛇の人間だな」
「ご存じですか?」
「『妖精兇手』。異界出身のバウンティハンターだよ。いろいろな系統の魔術を使うので、有名だ。確か半年くらい前に、真人にスカウトされたんじゃないかな。それより、事を構える相手くらい覚えておけよ」
「すいません」
 六星は謝った。
「ルーテさんは?」
「また眠っているよ。まあ異様に消耗しているからな」
「そうですか」
 六星はうなずいた。
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2007年07月11日

海深く翼4

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 部屋には誰の姿もなかった。
 寝顔でも少しみたいなという不埒な考えがここでは僥倖だった。
 六星は先程の電話を思い出した。あの何の意味もないような会話。その向こうで、ルーテはさらわれていたのだ。
 情報を引き出そうとこっちが長々としゃべろうとするのは、相手からすると好都合だっただろう。それだけ発見が遅くなると言うことなのだから。
「なんだ寝込みでも襲い・・・」といいかけたドクターだったが、六星の様子を見るなり理解したようだ。
「見当はついているのか?」
「探しに出ます。まだそれほど遠くにはいっていないはずです」
 六星は外に出た。
 恐らく、ここから離れるにしても、ルートを限られている。この診療所に向かう道と言えば、一本しかない。
 六星は走り出した。
 寝ている少女はそれなりの荷物になるはずだ。しかし、相手が複数であれば確とはいえない。結局は時間と労力の大小の問題だ。
 診療所から出て前屈みになってタイヤの後を探す。風が強いせいで消えやすいが、それほど時間はたっていない。もし車できたならわかるはずだ。となれば、海しかない。
 相手が同じように思考するなら、海に向かうだろう。陸路では限定されてしまうし、追跡も用意だ。
 しかし、それは間違いだ。海からは自在に上陸できるように思えるが、この辺りは海流の流れがあって、意外と安全に停泊できるところは多くない。
 六星は海に向かい駆け下りた。岩礁になった一角は岩陰が多く、見通しが悪い。上から見るだけではわからず六星は岩場に降りた。
 海は荒れていた。波が飛沫を上げながら足下をぬらす。六星はルーテの姿を探しながら歩いた。
 首が締め上げられた。波に混じっていたせいで近づいてくる音はしなかった。六星の
 締め上げるのはむしろ細い手だ。だが、そこに秘められた力は半端ではない。
 視界が赤く霞む。六星は相手の首を締め上げる腕の指を持つと力任せにひねった。
 小さくうめきをあげ、腕は離れた。
「おお痛い」
 そこに立つのはファンであった。
「お前か」
「先に片付けておいた方が仕事が早いからね」
 六星は踏み込みながら右拳。ひねりを加えた一撃は青年男子でも意識を刈り取るが、強靱な筋肉は弾いていた。
 六星は飛び退いた。
「いたかないよ人間の細い腕じゃね」
「生粋の獣人からすればそうだろうな」
「はあ〜まがいものと区別がつくだけましだね。気をつけろっていうのももっともだ」
「お前もバウンティハンターなら相手の事くらい調べておくべきだな」
「小魔侠だっけ。あんた、ずいぶん、荒っぽいんだろ。これまで、うちの連中ともさんざんやりあったっていうじゃない。」
 ファンの手には大剣が握られていた。両手持ちのそれは赤く鈍い光を放っている。刃そいのものは実体があるのではなく、魔力と称される正体のわからない場を持った異界の武器だ。その魔力部分に紋様が現れることから、呪紋武装と呼ばれる武器だ。
「細々にして小々々魔侠くらいにしてやるよ」
 ファンの自信ももっともだ。その手の異界の武器は、こちらの常識で判断すると、掠った一撃が致命となる。
「これがお前をあの世に送る死に神の鎌だ」
 六星は息を大きく吸った。呼吸のリズムを代え、同時に自分の中の力を代える。対人から対魔へ。人外のものと荒そうならば必要な、日常を送る上では不要な意識を呼び覚ます。 操るのは自身という一降りの刃。
 波が大きく寄せた。
ファンが動いた。
 振り落とされる刃はそれほど早くはない。踏み込みかけて、六星は止まった。刃の振り抜かれた地面から湯気が出ている。
 ファンの周りが暑くなっている。
「気づいたね。でも、もう遅い」
 ファンが振った刃が大きく振られた。切っ先がなぞった流木が発火し、燃え上がった。その勢いのまま六星に剣が走る。
 隙は正面。
「くたばりな」
 六星は踏み込んだ。ファンの正面から拳を放つ。剣のせいでファンの早さは落ちている。とららえきった。そう思った瞬間、横にした刃で拳は防がれた。
「終わりだ」
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2007年07月15日

海深く翼5

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 発火物を燃え上がらせる効果を持つのが、ファンの大剣紅蓮に秘められた呪紋だ。 一撃では燃え上がらせることがないものも、剣の間合いに作られた熱の場。そこにとどまることでいずれは燃え上がる。
 足下の海水は全て水蒸気と化している。そのせいで六星の姿は近いながらよく見えない。
 人体は意識、無意識にかかわらず抵抗力を持つため、一瞬では燃え上がらない。しかし、直に刃に触れ、呪詛を流し込ませた者は、発火する。
 海水が蒸発しきったのか、靄は消えた。
 六星の手を動き出した呪紋が伝わっていくのが見える。それが伝えきれば、六星は火柱と化して燃え尽きる。
「Break The Spell 」
 六星は叫んだ。
 一瞬赤熱した学生服は燃え上がるのを拒むように燃えるのをやめた。
 呪紋は動きを止めた。
「お前、何を」
  ファンの手に激痛が走った。六星の拳がファンの柄を握る手に叩きつけられる。大剣の重さにファンの体が傾いた。崩れたファンの腹に六星の正拳をそのまま腹に伸びている。
「効かないよ」
 しかし、人間とは質の違うしなやかな筋肉が、六星の拳の威力を殺していた。このまま六星を振り払い剣でとどめをさす。発火がきかなくとも、剣の威力で十分六星を倒せるはずだ。
 だが、そのもくろみは消えた。
 触れた拳から何かが伝わってくる。それは波音に似ていた。
「天見心纏流風塵」
 ファンの口元から血がこぼれた。
 揺すられたのは内臓だ。筋肉は鍛えることはできても、また強靱でもその内部は普通の人間とそう変わるものではない。
 倒れないのは大剣によりかかっているせいで、ファンは立っているのが精一杯だ。体温が下がっていくのはわかるのに、腹の中だけは燃えているように熱い。それが苦痛のあまり脳が認識を惑わしているのもわかった。
「このくらいで終わるか」
 叫びながら口元から漏れた血が辺りに飛び散る。
 立ち止まれば死。
 目の前の少年の形をした死に神をファンはにらんだ。

 世界に存在的な秩序があり、独自の蓄積システムがあり、プログラムがある。そのプログラムを利用し、万象を解析する。そんなアーキテクチャーを持ち、自分の肉体と霊体をインターフェースとして、意思を伝える。
 magiとその思想は呼ばれた。
 magiは危険なものであった。前回したものが、同じ結果をもたらすとは限らない試行錯誤。それは人間というものの差異が故に当然の事であった。
 しかし、時に天分の持ち主を持つ者があり、magiを自らのものとし、奇跡を作り出した。
 大剣にもたれたまま倒れたファンを見ながら六星は拳を下げた。
 だが、奇跡には代償が必要だ。六星が数時間内におこなった現象の支配は体にダメージを及ぼしていた。
 Fictional Future。虚構の未来。蓄積システム上に存在する過去を改訂し、それ以降の時間を書き換える。自分にとって必要な未来を観測し、現実にする。magiの中ではもっても基本的かつ危険なテクニックだ。些細な変更と思われても、全ての構造は連動しており、もしかしたら自分の存在を不能にする事態が起こるかもしれない。リスクを回避する為に、矛盾は少ない方がいい。矛盾の解決が六星に残るダメージだ。外のダメージはなくなっているが、経験は六星に蓄積される。肉体には見えないもののダメージは残っていた。
 ファンとの戦いは、時間が過ぎ回復しているものの、一度死んだ体で行っているのに等しい。
「元来、戦闘に向かないmagiをよく使い込んでいますね。とどめは、家伝の拳法ですね。」
 六星はファンの背後に立つ女、ティエンを見た。
「自分の内側に置くよりも、外部に置いた方がリスクは少ない。ケアも楽。それが現代の魔術ですね。magiは自分をインターフェースにすることで危険すぎます」
「そうでもないですよ」
 こちらの体調がどの程度ばれているだろうか。六星はそう思いながら、背筋を伸ばした。
「嘘つきですね。立っているのも精一杯でしょう?」
「それでも、片付けるくらいの体力は残っています」
 六星は地面を蹴った。
「あまり動かない方がいいですよ」
 人の頭ほどの大きさの雷球が六星の周りに数個浮いている。
「どこにいますか?」
「それはこっちが聞きたい」
 言ってから六星は黙った。
 黙っておけば交渉の余地があったのに、ばれてしまってはしょうがない。
「逃走しましたか」
「そっちがてっきり連れ出してこっちに時間稼ぎしているのかと思いました」
「それは剣呑」
 ティエンの目が空に空に向けられた。
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2007年07月25日

海深く翼6

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 雲の合間から光が降りてきていた。それは雲の間から日の光がこぼれているようにも思えたが、どこか違和感があった。
 光は美しすぎだ。
「Jacob's ladder」
 ティエンは呟いた。
「ヤコブはあれに天使の姿を見たと言いますが・・・あの光の下にいけば、彼女はいますよ」
 ティエンは六星の側にゆっくりと降りてきた。六星は警戒しつつ、病院にマシンガンを置いてきたのを後悔していた。あれがあれば少しはマシになるだろう。
「一つ今ので貸しということで、手を出さないでいただけますか?」
 六星はうなずいた。六星の微かな動きに合わせて、海月が海水に揺れるように、雷球は動く。触れれば炸裂するタイプのもののようだ。早さとトリッキーな動きで、触れずに攻めればどうにかなるかもしれないが、今の六星の体では無理だった。
「ファンつかまりなさい」
 ファンは朦朧としていたが、ティエンを見ると淡い笑みを浮かべた。信頼に満ちたその表情は幼児にのようだ。
 ファンの体を支えたまま、ティエンは剣に手をやった。剣は光の粒になると、ティエンの手元に吸い込まれる。
 先程まであった暑さが一気にひく。
 ティエンは六星に背を向けて歩き出した。しかし、一度立ち止まって振り返る。
「あそこにいって、全てを見た上で、もう一度、こちらの交渉に乗るかどうか決めてください。そう時間はありませんけど、後一日はだいじょうぶでしょうから」
「何のです?」
 ティエンは少しだけ困ったように眉をひそめた。
「無知は罪ではありませんが、知らないですまそうと怠惰な行いをしたり、目をそらすのは罪です。あなたがチーフを嫌っているのはしっていますが、少しは我々が何をしたいか情報を得た方がいいと思いますよ」
 ティエンは歩いていった。
 隙だらけの背中だった。
 六星は黙って見送った。苦痛のせいではなく、ティエンの言葉だった。
 チーフ。木辺雹の事を思い出したからだ。

『操るのは自身という一振りの刃』
 木辺雹が最初の教えがそれだった。
 木辺は父の友人であり、十代の頃に知り合ったという。そのせいか、家にもよく顔を出した。その頃の印象は穏和そうなお兄ちゃんだった。
 父が亡くなった後も、引き取るという形こそとらなかったが、陰日向に様々な援助を行ってくれた。
 父親の一周忌にハンターになりたいことを告げると、木辺は力の一端を見せた。穏和なお兄ちゃんなどそこにはおらず、阿修羅がいた。『そうなりたい』という六星に木辺から送られた言葉がそれだった。
 六星の技の土台は父親の家伝の拳法である天見心纏流だが、身体運用を実戦を想定して構築しなおしたのは木辺の指導だ。ハンターとしてのやり口は、父よりもむしろ木辺に似ている。
 その木辺が、父の死の原因となった『真人』に属したと聞いたのは一年ほど前だ。
 ただ、面と向かって尋ねることはなく、木辺も六星の意思を尊重したのか、顔を見せなくなった。
 それからどことなく遠慮して『翼ある蛇』とのもめ事も起こさなかった。今になってみれば、何かがあったとき、木辺と向かうあうのが怖かったのだ。
 数分あまりの物思いの間に六星の出血は止まった。
「動けるな」
 短期間でずいぶんと回復したのはmagiの為だ。戦闘前に暗在系にバックアップしておいた自己像を元にmagiがシュルドレイク共鳴を利用して肉体を修復したのだ。Fictional Futureと違い即効性はないが、生命を保つという点では非常に友好的な手段だ。ただし、共鳴による修復は、同時に成長を封じる。前の段階に能力が戻ってしまい、戦いで得た経験を蓄積することができない。
 体は回復しているものの、未だFictional Futureの影響は残っているせいで体が重い。口の中で小さく「1・2」と数えながら六星は歩き始めた。
  Jacob's ladderに向けて。

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2007年08月16日

海深く翼7

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「ここだ」
 その邸宅は森の中にあった。
 森は暗く、その中に見える白亜の建物は、アールデコ様式。世界が一定の方向に向かうと大きな夢を持って生きていた時代の様式だ。
 一見個人の住宅ではなく、美術館や博物館を思い出させる。
 ドクターは慣れた様子で玄関に入った。
「とってくわれたりはせんよ」
 ルーテはドクターの後について入っていった。
 玄関には窓と一体化したガラスで作られた亜麻色の乙女の立像が飾られている。
「すごいですねこれ」
 立像を見ながらルーテはいった。ドクターは立ち止まった。
「まあな。なんといってもここは境界で一、二を争う金持ちだからな。この屋敷もそうだろう」
「おお」
 そういいながらルーテは六星の姿が無いことに気付いた。
「いないです」
「いやついてきてるから大丈夫だ」
 ドクターは後ろを見た。
「お待たせしました」
 髪を両脇に縛ったしたメイドが姿を見せた。
「こちらにどうぞ」
 家の中に入ると外よりも強く木々の匂いがした。
 案内されたのは広間だった。間接照明の薄明かりの部屋だ。ツツジをモチーフにした壁紙。床には赤色の絨毯が敷き詰められ、壁際に一人かけのソファが5つ置かれている。中央には大型のランプが置かれている。
「そちらに座ってお待ちください」
 ソファを示し、メイドは一礼する。
 ルーテとドクターはソファに座った。
「良い匂いするですね」
 ドクターがランプを指さした。
「アロマランプなんだ」
「ああそれで家全体が良い匂いするですね」
「お待たせしました」
 落ち着いた澄んだ声だった。
 先程のメイドに手を引かれ、姿を見せたのは少女だった。
 癖のないまっすぐな髪をポニテールにし、白いブラウスに紺のブリーツスカート。中性的に整っている面立ちの中で、口元は小さく笑んでいるのは女性らしい柔らかさを感じさせた。しかし、その目は閉じられている。
「遅くなりました。ア・・」
「ドクターでかまいませんよ。清原さん」
「ではドクター、『翼ある蛇』に追われているとのことでしたね」
「ええ」
 ルーテはドクターに手を引かれた。突き出されるように少女と向かいあう。彼女は目を閉じたままなのにじっと見られているように思えた。
「失礼」
 ドクターは少女の開いている右手をとると、ルーテの顔に沿わせた。少女の手は冷たい。その手が顔をなでるにルーテは任せた。不快感は感じなかった。手を通して感じたのは強い意思だ。
 少女は手を戻した。
「不調法をしました」
「だいじょうぶです」
 ルーテは見えないということを考えながらも小さく笑った。
「私に彼女をどうしろとおっしゃるのですか?」
「ところで清原嬢、彼女、ルーテを匿って欲しいのですが」
「ドクターがご存じかどうかわかりませんが、私は『真人』のステークホルダーです」
 ドクターは邪にも見える歪んだ笑いを浮かべた。
「だからこそですよ。組織の右手をしていることを左手は知るよしもない。ましてあなたは心だ。手では想像もつかないでしょ」
 少女は手を口に持って行って沈黙した。
 かっきり10秒。
「わかりました。この屋敷に滞在していただきましょう。橘花、私はいいから客間の準備を」
「かしこまりました」
 橘花と言われたメイドは一礼すると少しばかりうるさいくらいの足音で部屋から出た。
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2007年09月02日

海深く翼8

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「暫くすれば、橘花。先程のものが迎えに参りますから」
 少女はそういうと小さく頭を下げた。
「では失礼します」
 少女はゆっくりと背を向けた。
「一人でだいじょうぶですか?」
 ルーテが手を伸ばしたタイミングが悪かったのか、少女の体は前によろめいた。
「危ないです」
 少女の体は支えられていた。
 六星の手に。
 驚いたのか少女から笑みが消え、刹那冷ややかな仮面のような顔が見える。六星は素早く手を離している。
「だいじょうぶですか?」
「ありがとうございます。重くありませんでしたか?」
 少女の言葉にルーテは答えようとすると、六星が唇に手を当てているのが見えた。
「だいじょうぶです」
 少女は安心したのか笑みを再び浮かべた。
「では、失礼します」
 少女は戻っていった。
 すっかり部屋が静まりかえった頃、六星が口を開く。
「すいませんでした」
 ルーテが答えに困っているとドクターは鷹揚に口をいった。
「気にすることはないさ」
「あのお知り合いですか?」
 ルーテの問いに六星は目を細めた。
「どうしてそう思うんですか」
「だってあの人は目が見えないのです。だから声を出さなければ知られることもないですけど、最初から知らない人なら隠れる必要もないですよ」
 六星は落ち着いた声でいった。
「従姉です。会うのはずいぶん久しぶりなんですけど」
 その六星の答えはなお隠れる理由がないように思えた。
「まあルーテ聞きたいこともあるだろうがここはね」
 橘花と呼ばれたメイドが姿を見せた。
「お待たせいたしました」
 橘花は深く一礼する。
「至王子橘花です」
 六星を一瞥して、続いて顔を廊下にむけた。
「こちらにどうぞ」
 部屋を変えると森の匂いが変わり、レモンを思わせる匂いがした。部屋は黄色い壁紙がはられ、アルプスの山河を描いた油絵が飾られている。
「食事は、時間になりましたらお知らせします。何かご入り用の物がありましたら、ベルでお知らせください」
 橘花は小さく頭を下げた。
 部屋のソファにドクターは腰掛けた。立って居るままのルーテと六星に向かい目で促した。ルーテは座ったが、六星は窓際に拠って景色を眺めている。
 座ってみると、柔らかいソファに埋もれるようで、疲労が強く感じられた。
「少し休んだらどうだ」
「だいじょうぶです」
 そういっているがもう眠い。
 ルーテは目を閉じた。
「おやすみなさいです」

 目を開ければ月明かりが部屋に差し込んできていた。
 ベットの上にルーテは横たわっていた。部屋は変わら同じようにモダンな感じだが、ベットと壁に備えつけのクローゼットを抜かせば何もない部屋だ。
 ソファで眠り込んでしまった後、六星かドクターが運んでくれたのだろう。そう重いながらルーテは体を起こした。
 意識して体を動かしてみると重いのがわかる。昨夜から感じていた消耗は未だ回復してはいない。ルーテを追っていたあの一団の放つ武器は傷つけるわけではないが、ルーテの存在を欠落させる作用があるらしい。あまたの武器と同じく、自分を損なう事などないと、あたっていても気にしなかったのが現状をまねいている。
 少しでも休んで消耗を取り戻そうと目を閉じるが月明かりが瞼の奥にまで忍んでくるようで眠れない。
 ルーテはベットから降りて窓によった。カーテンを閉めようと手を伸ばすと、彫像の置かれた庭に六星が月を見ながらぼんやりと立っている。その姿は小さかった。
 
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2007年09月04日

海深く翼9

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 鎮守の森であったという森は、濃厚な植物の匂いに満ちている。木々の果てにある白磁館は、アールデコ様式の美しい館だ。
 屋敷の前で、揺れる金髪が2つ。ドクターとルーテだ。六星はその後ろをゆっくりと歩いた。
 この森を最後に訪れたのは、叔母夫婦の葬儀の後だった。白磁館に入ると森の匂いがこくなった。
 初めてあう従姉である山海寧は、香水塔と呼ばれる自分より大きなアロマランプによりかかり、まっすぐな瞳で自分と父を見ていた。父が来意をつげると
『父母は生きていけるものは残してくれましたから、だいじょうぶです』  
 そのとげとげしい雰囲気に六星は怯んだが、父は黙ってその体を抱きしめた。いとこが泣き出したのは直ぐで、ただの強がりなのがよくわかった。六星は思わず一緒に泣き出した。
 それから従姉とはよく遊ぶようになった。父の亡くなる日までは。
「いないです」
 ルーテがいっているのを聞きながら、ドクターがこちらを見ている。
 森に入ってから気配を消して、隠身していた。気配を消していれば、ルーテがいうように姿が見えなくなる者だが、ドクターはわかっているようだ。
 ドクターとルーテが入っていくのを後ろからついていった。
 中には昔と変わらず香水塔から流れるこい森の匂いがする。
 寧が姿を見せた。瞳は閉じられたままで、あの日の傷が癒えていないことがわかって、六星は見続ける事ができなかった。
 寧とドクターで言葉が交わされ、『ルーテを匿って欲しいのですが』
 ドクターも思い切った事をする。清原家は『真人』の筆頭株主だ。寧は現在でも真人系の企業のひとつのオーナー社長だ。
いつでも逃げられるように六星は寧の答えを待った。
寧は考えているのか黙った。その沈黙が長くないのを六星は知っていた。彼女は30秒で思考を終えるはずだ。
 匿われる事が決まり、六星はほっとした。これでだいじょうぶだ。そう思った時、寧の体が歪んだ。

 寧が六星の存在に気付かなかったのはありがたかった。
 自分が助けるべきではないのか。寧の姿はそう思わせる哀れみで満ちていた。
 清原家の跡取りなのだから、苦労なんてしているわけはない
 ずっとそう思っていた。
 だが、今の姿はどうだろうか。メイドの姿は一人しか見かけず、こうして庭を見ていれば荒れている場所もちらちら見かける。昔ならそんなことはなかった。
「六星さん」
 声をかけられ、六星は振り返った。ルーテが立っていた。
「ルーテさん」
「だいじょうぶですか」
 後ろから見ているだけで感じるほど感情が表に出ていたのだろうか。答える代わりに六星は笑みを浮かべた。
 笑みは本心を隠す仮面でもある。寧も何か隠しているのだろうか。
「似ているです」
「え」
「笑い方が寧さんに」
 六星は顔に触れた。
「血筋ですかね」
 冗談めいた口でいうが、ルーテは小さく首を横に振った。
「雰囲気です」
 断言するルーテに六星は頭をかいた。
「その気はないんだけれども」
 ルーテは自分の胸に手を当てた。目を閉じて言葉を選ぶように少しづつ声に出してくる。
「多分ですけど、同じ何かを知っているのです二人は」
「そうかもしれないですね」
 
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2007年09月13日

海深く翼10

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 海の中にまっすぐ伸びた橋は、波が来てもまったく揺れる事なく強固だった。伸びる橋の果てには島が。そしてピラミッドがあった。
 島はもともと産廃山脈と呼ばれる産業廃棄物の山を処理する為に窮余の策として作られたものだった。開発から取り残されたその中央に位置するピラミッドは、何にもまして威容を誇っている。地下10F、地上40Fのビルは、高さこそ都庁に及ばないが、階段状なものの四角錐をしたそのデザインは山を思わせる安定したさまを見せている。強化ガラスと鉄骨とセラミックで作られた建物はそのデザインからピラミッドの愛称で呼ばれた。
 天見六星は橋を走っていた。気がつけばもうピラミッドは直ぐ側だった。
「すごい」
 六星は声を上げた。
 毎日のようにテレビで放映されているので。すっかり見た気になっていたがこうして目の前にすると、その大きさに驚く。
 テレビでは天気のいい日にロケをするせいか黄金に見えるが、今日のように曇っている空の下では本家のものと同じように遺跡のように見えた。
 不意に怖くなって先ほどまでの高揚が下がっていくのがわかる。気づけば一緒にきていたはずの、父親の四郎やいとこの寧の姿はない。
 大きな声が聞こえた。
「少し落ち着いて」
「わかった」
 いとこの言葉に六星は頷いた。
 思い返してみれば確かに今日の自分は調子に乗りすぎていた。まどろんでしかいない上に早起きしたから、かなり頭に血が上っていたのだ。それもしょうがないのだ。今日はいとこだけでなく、父親もいる。いつもは忙しい父親がこうして朝から相手してくれたのはいったいどれくらいぶりだろうか。
いとこがいなければ最高の休日なのに。
 寧が追いついてきて六星の側に立った。
「だめでしょ」
 年はそう変わらないが、六星より頭一つは高い背のせいか、いとこは常に高いところから六星に接してくる。
「寧姉が遅いのが悪いんだよ」
「痛い」
 六星の口を寧は引っ張った。
 じゃれるというには六星が寧に一方的にやられていると、風呂敷包みを持った父が歩いてくる。
「ごめんなさい」
 父がお昼の重箱を持っていたのをすっかり忘れていた。
 父の四郎は笑った。
「気にするな。子供はそれくらいの方がいい」
 そのまま六星は持ち上げられた。肩車をされる。一気に視界が高くなった。その視界の隅で重箱を揺れている。父親は持てといいたいようで、六星はあわててとった。
「おじさまは六星にもう少し厳しくした方がいいです」
「するときはしてるさ。それより雹がもう待っているから少し急ぐか」
 寧の腰に六星は手を回した。
「何するんですか」
 寧の体を四郎に抱えていた。
「急ぐぞ」

 ピラミッドのよく見える公園だった。今日は曇っていて霞んでいるが、晴れた日は水平線とピラミッドが重なり、よい眺めであるだろう。
 遊具が置かれるべき場所もまだ何もなく公園そのものが空っぽだ。そもそも高さの代価として作られた緑地だから、このまま何もくることなく終わるかもしれなかった。
 その中を走る父親は子供二人と四人前のお弁当を持っていても息一つ乱れていない。
 六星は疲れきっていた。多分自分でここまできたほうが疲れなかったはずだ。それでも楽しかったのはジェットコースターと同じだ。。
「またせたな」
 芝生の上にはビニールシートが敷かれ、上にはクーラーボックス。その横には近衛雹が座っていた。
「いえいえ。そろそろ下してあげたらどうです?」
「悪い」
 重箱と共に六星は地面に置かれた。寧の方を女の子という遠慮があるのか少しは丁寧におろされる。落ち着いたもので、寧はさっさと乱れた髪を手櫛で直している
 寧はしっかりしたもので雹と顔を合わせるなり、小さく頭を下げた。
 雹は六星と寧にクーラーボックスから取り出したお茶のペットボトルを、四郎にはビールを放った。
 その間に四郎は風呂敷からとりだした重箱を置いた。
 重箱を開くと何種類か形の変わったおいなりが姿を見せる。
「さあ食え」
 六星はおいなりに手を伸ばし口に入れる。油揚げから適度な甘みが広がる。
「おいなりさんしかないけどな」 
「構いませんよ。あまり作ってこられてたら気持ち悪い」
「でもお父さんのお弁当はおいしいんよ」
 雹はさもいやそうに顔をしかめた。
「だめですよ四郎さん子供に嘘をつかせちゃ」
「嘘なんかいうか。六星は本気だぞもちろん。なあ六星」
「うん」
 六星は頬に酢飯を、リスのようにほおばっていたせいで声に出ていない。
「ほらね。六星は口を開ければ父親への不服をいうことになるとこうして口を塞いでいるんです」
 四郎はビールをあけてすするように飲み始めた。
「しかしこれだけのところに人がいないとすごいな」
「今だけですよ。正式にオープンすればうなるほど人が来るようになる。まあ、子供はそうこないかもしれないですけどね」
「こんなところによくもまあ建てる気になったな」
「発電所ですか。まあ電気も地産地消の方がいいですよ。運ばれてくれば問題が増える」
「くる間にどんどん電気って消えていくらしいな」
「おじさま、多分雹さんがいっているのは守る範囲だと思います」
「正解。電線っていうのは補給路だからね。長すぎると守りにくく、途中で寸断されただけで終わりだ」
「寧はよく考えてるな」
 ほめられても寧はいつものように淡い笑みを浮かべている。
「まるでここが攻められるみたいな事をいうな」
「だろうは大切ですよ」
 よく分からない話だがそのあたりは納得できた。正義の味方だってピンチになった時は新しい武器が用意されているものだ。
 寧の顔が止まった。寧は空の一点を見ている。六星は寧の見ているものを目で追った。
 天使のきざはし。そう呼ばれる雲の合間から差す光が見えた。それだけなら珍しいものではないが、それが七色を帯びて差してきていた。
「彩雲なんて珍しいですね」
「虹を帯びた雲だ」
 六星が聞く前に父親は言った。
「仏さまが姿を見せる前に見せるってものさ」
「なるほど」
 知ったかぶって頷く六星に父は苦笑した。
「分からない時は聞けよ」
 六星は頷いた。
 だから四郎は聞いたのだ。
「寧ちゃんの上にいるのは天使」
 父親が目の前に立って寧の姿が見えなくなる。その陰で雹が跳躍したのが見えた。その手には日の光を返す白刃があった。
 金属がこすれあうような音が聞こえて六星の前で崩れ落ちたのは何か光るものだった。
「四郎さんは二人をつれて建物の中へ」
 父親に手を引かれた。
 雹の前には靄に包まれたような光が見えた。
「雹さん」
 雹は小さく笑うのが見えた.


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2007年09月20日

海深く翼11

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 ピラミッドに背を向け、橋に向かって走る父。その小脇に抱えられ、六星は幾度となくピラミッドを見なおした。
 最後に見た雹と天使は争っていた。羽毛に似た何かが乱れ、光りを放つ血めいたもの。それは天使が傷ついたもの。雹は傷ついてはいなかったが、それでも緊張の中にいるのは分かった。緊張に耐えながらも顔を歪ませないその顔は阿修羅を思わせた。
「お父さん」
 父は答えず無言のまま足を速めている。
「あれは天使だよね。天使はどうしてあんなことするの。天使はよいものでしょ」
 六星は知る限りの天使の姿を思い浮かべた。

 救い主の出現を伝えるもの。
 人々の後ろにいて警告を与える主義者。
 図書館でこっそり本を指さしている。

 その姿はどれも人と神の間を取り持つ存在だ。それなら神様に見捨てられてしまったのだろうか。
「そうだ。でもな人間と同じでいい天使も悪い天使もいる」
 いつも分からないことを教えてくれる時の同じ口調に少し安堵した。
「よし」
 目の前には橋が見えた。
「あの橋を渡れば安心だ」
 先程は瞬く間に渡った橋が今はとても長く感じられる。白い橋は終わらずいつまでも向こう側につかないようだ。
 少しづつ歩みが遅くなっている。顔を見れば父は汗をかいていた。
「自分で歩く」
「そうか」
 六星の体は地面に放られた。予想はついてから簡単に着地できた。
「寧は無理だからな」
 寧は腕で頭を抱えたままふるえている。時折、聞こえてくる「お父様、おかあさま」といううめきに六星は何もできずに悲しかった。
「このまま橋を渡ろう」
 父親の後をついて橋を歩く。
先程までの心躍る感覚とは無縁の、冷たく堅い空気。同じように父に触れているのにこの恐れは何なのだろう。
「なあ六星。女は泣かすなよ」
「うん」
 六星は首をひねった。
「なんで」
「いや、これはいっておかないといけないと思ってな。爺ちゃんにはいろいろ教わったけどなそれが一番記憶に残ってる」
「わかってる。泣かさないよ」
 橋は終わった。
 橋の向こうには人だかりができていた。近くの工場や施設で働く人間達だ。その中からツーテールにしたメイドが歩いてくる。
「四郎さん」
 父が軽く頭を下げて答える。
 小脇に抱えていた寧を男に向かい差し出す。寧はぐったりとなっていて、四郎からメイドへ体が移ったのも気付いていないようだ。
「状況はどうですか」
「予定通りmagiによりフィールドは形成されてます」
「よかった」
「しかし思った以上に数が多いんでわかりませんね」
 ピラミッドの前で光があがった。父が息を飲んだのがわかった。
「寧と六星をお願いします」
 父は中腰になった。父の顔が間近にあった。
「雹いるからちょいと手助けしてくるわ。まあ、あいつなら一人でも何ら問題ないんだろうけどな」
 自分と同じ高さの目線。目には今まで見たことがないくらい強い輝きがあった。
「いろいろ教えようと思ってたんだけどな。さっきのしか思いつかん」
「帰ってきたら教えて」
 怒鳴るようにいったのは父の瞳の中に見えたものを振り払いたいから。
「いってくる」
 父は背を向けて走り出した。
「父さん」
 六星は叫んだ。
 父は振り返らずその手を挙げて答えた。
「任せておけ」
 父の姿は小さく消えていく。
「六星くん」
 声をかけてきたのは寧を抱き上げるメイドだ。
「ここは危ないから逃げよ」
「だいじょうぶ」
 お父さんと雹おじさん。二人でかかっているんだから何も起るわけはない。
「血筋かな」
 メイドは何かを思い出すように小さく笑みを浮かべた。
「六星くん、うちな寧さまを置いてくる。そしたら迎えにくるさかい、ここにいてな」
「わかりました」
 六星はうなずいた。
 メイドはできるだけ揺らさないようにというのか静かに人混みの中に消えていった。
 六星は視線をピラミッドに戻した。
 空気が変わっていた。
 ピラミッドの上に虹の幕が踊っていた。それはオーロラを思い出させた。
体重が何倍にでもなったように体が重い。それが恐怖であることに気付いて六星はふるえた。
 父も寧もいなくなって一人になったときにこれを感じ始めるのは正直怖かった。それでも六星にできるのはこうして待つことだけだった。
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2007年09月26日

海深く翼12

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「またせたかな」
 橘花に声をかけられ六星は息を吐いた。そうすると体の中にあった堅いものが溶けていくようだ。ずっと緊張していたのか体のあちこちが痛い。
「中の様子観たくない?」
 六星はうなずいて、それから橘花を見つめた。
「定点カメラをいくつか操作できるようにした。ここでは無理やけどな」
 黙ってこうして見ているよりは、橘花の言う場所の方がいいように思えた。
「こっち」
 そこに止まっているのは白塗りのワゴンだった。
「後ろな」
 中には多くのディスプレイとキーボードとマウスがついているから。パソコンと思われる棺のような箱が見えた。
 棺の前のソファには寧が眠っていた。
「適当にすわっといて」
 橘花は手頃なコードを抜くと、自分の首筋に近づける。髪に隠れて見えないが、橘花の頭にもケーブルがあるようだ。
「じゃあいくよ」
 ディスプレイの中でピラミッドの映像が現れる。
 公園だった。さっきいた芝生の上には誰かを待つように、シートが広げられ、飲み物や食べ物だったものが散乱している。
「雹さんが戦っていたところ」
 雹の姿はなかった。
 何か砂のようなものが芝生の上に転がっている。
「あれは」
「多分なれの果て。雹くんは敵と決めれば、加減せんからね」
「天使も死ぬんだ」
「六星くん君勘違いしてるな。あれは天使やないで」
「だって天使って」
「あだ名みたいなもんや。本当の天使はあんないやないと思う」
「そうだよね」
 六星はうなずいた。父がさっき答えなかった事がすっきりした。そうだ。天使がそんな存在であるはずなのいのだから。
 携帯が鳴った。
「六星か」
 その声は小さく掠れていた。
「今どこだ?」
「クルマの中」
「じゃあ師娘、あのさっき迎えに来た人いるか」
「お父さん」
 橘花に向かい六星は携帯を差し出した。
「どこにいんの」
 橘花が何か操作したのか画面が切り替わった。だが、そこは闇が包んでいる。
「カメラがアホになっとる」
 「そうか。雹を探せるか?」
 廊下。
 研究室。
 食堂。
 ロビー。
 発電所。
画面が二転三転するが雹の姿はない。
「見あたらない」
「やられているわけないよ。雹さんはすごい強いんだよ」
「知ってる。きっと機械もだますような隠れ方しとるんやろ」
「やはり無理か」
 四郎の声は遠い。モニターは再び父がどこかに隠れる闇を見せている。
「どうして探してんの」
「親玉らしいのがいる」
「一人だと厳しい?」
「二人なら何とかいけると思うんだが」
 六星は息を飲んだ。
「気付かれた」
 電話が切れた。
 モニターに光が走った。
 それは天使が見せていた。全身から放射される燐光は闇を照らしだしている。その数は一体ではなかった。同じように燐光を放つ存在が数体姿を見せている。
 その一体の天使が不意に吹き飛ばされた。四郎が画面の中で姿を見せている。
 六星は外に飛び出したs。
自分でももしかしたら役立ちかもしれないと思いながら。
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2008年01月03日

海深く翼13

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「お父さん」
 六星は声を出して呼んだ。
 重苦しい空気は変わらなかった。こうしているだけで頭から押さえつけられているような気持ちになる。しかし、体の方は逆に熱い。何か内側からわき出るものに突き動かされるようだ。
 ピラミッドの中に入っていくと人がいた。あわてて近づくと、あるのは何か白い塊で人ではなかった。
 残念な反面、安心もあった。誰かに見つかれば、子供一人がここに、まして戦場に赴くなど許されはしない。
 戦場であろう、父がいるのは空調制御室といっていた。広すぎてどこに空調制御室があるかなど分からない。
 そう考えて進むと、ロビーの中央には受付があった。六星は横から回り込んで受付のカウンターの中に入った。館内の案内図を見ると、空調制御室は地下にあるのが分かった。案内図を手に、ついでに非常用と書かれた袋の中からヘルメットと懐中電灯を取り出した。 空調制御室に向かう。本来はロビーからは入れないと思われる施設フロアであるが、災害の際は全てのロックが外されるようで、あっさりと重い扉の中に入ることができた。
 扉の隙間から覗くと、電気は消えてしまっていて、緑色の非常灯だけが見えた。
 六星は進み始めた。数歩歩いて立ち止まる。聞こえたのは自分の足音だけだった。
「静かにいこう」
 父は気配を隠すのもうまかった。気配を隠せば目の前にいるのにまるでいないように錯覚しそうな存在の薄さになった。しかし、一度動いたときは、地味な努力の積み重ねな結果なのを六星は思い出した。気配を絶ったからといって魔法のように存在が消えるわけではない。
 階段を見つけて下に降りた。手すりをつかみ確実に一歩づつ歩いたせいで2〜3分はかかったろうか。階段を下りきったところで懐中電灯をつけた。階段を照らすと、地下というよりは高い建造物を見上げているような気分になる。その明かりを使って案内図を眺めた。このまままっすぐ行けば空調制御室につくはずだ。
 そう思った時、六星の口はふさがれた。
「どうしているんだ」
 少しあきれた声は聞き覚えがあるものだ。
「大きな声出すなよ」
 口から手が外された。
「雹さん」
 六星が笑うと、雹は苦い顔をした。怒られると思って目を閉じると、『はあこの親子は』と小さく呟いていた、
「戻るよ。ここは危険だ」
「雹さん、お父さん助けて。この先にいるんだお父さん」
「四郎さんが」
 雹はいうなり黙った。
 六星は雹の答えを待った。雹がいってくれるなら、きっとだいじょうぶそう思った。
「六星はここにいるんだ」
 雹は闇の中に入っていく。
 二人で戦ってくれればきっとだいじょうぶだろう。
 聞こえてきた轟音は六星の安堵を一瞬で打ち消した。それは巨大なものが起動する音だ、ジェット飛行機や、タンカー、そうしたもの。
 闇の中に光が生じた。スポットライトのように浮かび上がる瓦礫。その側にいるのは父だった。コンクリートの塊が背中を押しつぶしている。
「父さん」
 叫んで駆け寄った。だから、その光の源が何かなど気にならなかった。
「逃げろ」
 雹の声がした。
 そう光は天使が敵を捕らえるために放った光に他ならなかった。
 光を放ちながら天使が一斉に六星に襲いかかった。
 六星は無言のまま近づいてくる光を見ていた。その光がより大きな光に覆われていくのを六星は見た。

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2008年01月11日

海深く翼14

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「その後はよく覚えていません。いつの間にか地上にいて、誰もいなかった。街は洪水になっていて、その目を覚ました時は、一人だった。ただ、分かるのは僕があそこにいかなければきっとお父さんは生きていた事です」
 六星は大きく息を吐いた。あの日の事を忘れたことは無かった。だが、話した事は初めてだった。そのせいか心が軽い。
「父の分も、僕は困っている人をすくわなくてはいけない。だから、ルーテさんは何も気にすることはありません」
 ルーテは何も言わずに六星を見ている。翠色の瞳はただ澄んで六星の顔を映していた。その自分の顔が泣きそうで、見られていると思うと気恥ずかしくなった。
「償いをするつもりで生きるのはよくないです」
「償い?」
「自分を助けたせいでお父さんが亡くなったと思っていますけど、それは違うのです」
「運命だとでも」
 そういうのなら、たとえルーテの言葉でも頷く事はできなかった。
「生あるものは必ず亡くなります。六星さんが何かをお父さんから受け継いだとしたら、それは罪ではなく、思いだと思うのです」
「思い」
 六星は呟いた。
「ヒーローですよ」
 ルーテは元気よくいった。
「だからわたしも助けてくれました」
 庭の向こうから煙が上がった。次いで聞こえてくる破裂音。その音を六星は知っていた。
 妖精兇手ティエンが使った地を這う鮫の音だ。
 ルーテに注意を呼びかけようとした刹那、違和感を感じた。
 はっきりと見えないが、誰かがそこにいる。
「誰だ」
 気配が強くなる。
 制服に身を包んだ男が立っていた。服のワッペンに、十字架の上に一つの点が見えた。『翼ある蛇』のシンボルだ。
 目視できればはっきり分かった。先程からずっとその男はいたのだ。ただ、気配を完全に消し去っていたが故に、景色として見え、人として認識できなかった事に六星は思い至った。
 目の前に立つ男を六星は知っていた。
 木辺雹と男の名はいった。
 父の友人であり、自分に戦いを教えた男。そして『翼ある蛇』のチーフ。
 六星はルーテを背に庇う。
「ハンターとして、資産を回収に来た。意味はわかるな」
 雹はそういうと六星に近づいてくる。
「渡しません」
 思ったよりもはっきり声は出た。ひるんで抵抗できる気持ちなどないかもしれないと正直思っていたのだが。
 雹はゆっくりと近づいてくる。
「排除する」
 雹は小さくいうと手を振り上げた。手の中に見えるのは短めの直剣だった。その切っ先は六星の喉を狙っていた。
 無駄のない動きであるが、軌跡は見破れた。最短距離の攻め。迷いない一撃を六星は交わした。
 六星は剣を引いた雹と向かい合った。
 雹の殺気を、体の至る所に感じる。隙があれば、雹の剣先は間髪入れず、六星の急所を狙ってくるだろう。
 雹の剣の質を一言で言えば実だ。虚のないというのは、フェイントを織り交ぜずに、単調という意味ではない。使うべき時に、必要なだけ力を注いでくるのが、実の攻めだ。先の一撃もしっていたからこそ交わせただけだ。
 だから、今はよく剣を見なくてはいけない。
 雹の指先の動きが妙手となり、絶技につながるかもしれない。
 雹が動いた。手の中の剣、切っ先が狙うのは眉間。刃を無手で弾く事はできない。踏み込んで手元を狙う。雹の切っ先が素早く円を描く。
 円に巻き込まれた六星の手にも動脈を始め、無数の急所がある。
 どこを狙ってくる。そう考えた瞬間、腹に激痛を感じた。見れば、雹の足が腹にめり込んでいた。蹴りの威力を殺しきれず、六星の体は転がり、庭の彫像を壊すまで停まらなかった。
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2008年01月14日

海深く翼15

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「六星さん」
 ルーテの叫びが響くが、ルーテはすぐにおとなしくなった。側には雹が近づいてルーテの手を捕らえた。
「六星さん」
 六星の周りがゆがんだと思うと、立ち上がった。
「Fictional Futureを使ったのか。意識を飛ばしきれなかったか」
 Fictional Futureは限定的な時間回帰だ。既にもたらされた未来と、今存在する現在が六星の中できしみをあげている。もたらす苦痛をねじふせながら六星は叫んだ。
「ルーテさんを離せ」
 六星は地面を蹴った。
 一気に距離をつめる直線の動きは相手の遠近感を狂わせる。
 雹はルーテを背にしながら剣を六星に向けた。
 六星は舌打ちした。雹の構えは、そうすれば剣で六星の位置を推し量れる。加えて雹の攻めは突きだ。
 正面からぶつかった場合、突きは点の動きとなる。それは横から切られるのとは比べものにならない、見切りを難しくする。
 無数の突きが放たれる。
 だが、六星ははっきりと雨だれの如く放たれる刺突をみていた。
 雹から教わった事は多いが、盗んだ事も多い。今回はそれがうまくいっていて、動きを読み切れる。
 六星は剣が伸びきったところをとらえて刃を弾いた。雹の手から剣が足下に転がる。その体勢も小さいながら崩れている。
 六星は体を捻りながら拳を握り、一気に叩き込む。
「砕破衝風塵」
 衝撃を帯びた拳が雹に向かい放たれる。
 足下から稲光が走った。それが光ではなく蹴り上げられた剣と認識した時、脇腹を刃が切り裂いていった。
「操るのは自身という一振りの刃。教えなかったか?」
 雹の声を聞きながら六星の体は崩れ落ちた。
 脇腹が熱湯にでもつけたように熱い。それが痛みだと認識した瞬間、六星は叫びを上げた。
 magiを使い余計な情報、痛みを切り離そうとしたが、それは失敗に終わった。体の中でmagiは麻痺を起こしている。これでは治癒を始め、他の選択肢もないのと同じ事だ。
「magiは、新しい革袋に注がれた古い酒だ。酒に変わりはない」
 雹の前身が同族の裏切り者を断罪する人間である人狩りなのを六星は思い出した。同族とは六星同様、異能を持つ者に他ならない。まして自分が雹の動きを知るように雹も自分の動きを知っている。あの剣には何らかの呪能が込められていたのだろう。
 立ち上がろうとすると苦いものが込みあがってくる。それでも立とうとすると咳き込んだ。血だった。
 雹が地面に転がった剣を持ちあげるのが見える。
 雹はそのまま剣をしまい、ルーテに近づいていく。
「逃げるんだ」
 それは声にならずに喘ぎ声にしかならなかった。
 背を向けて館に向かうルーテに六星は安堵した。
 逃げかかったルーテの体が止まった。
 雹が自分の方に向かってくる。
「いこうか」
 ルーテは雹の言葉に頷いた。その頷いた理由が自分の生命であるのに六星は気づいた。
「だめだ」
 声よりも血が口から漏れた。
 あの時と同じだ。自分のせいでまた。誰かが結末を迎える。
 雹がこちらを見ている。その足が自分に向かい蹴りを放つのが見えた。
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2008年01月25日

海深く翼16

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「起きたか」
 濃い緑の壁紙。八角形の電灯が高い天井に揺れている。そこが自分に用意された部屋であるのを六星は思い出した。
「盛大にやられたな」
 声の方を向けば、ドクターが椅子に腰掛けて本を読んでいる。
「いかないと」
「止めといた方がいいぞ」
 立ち上がろうとした六星は痛みのあまり体をくの字に曲げる。
「一応塞いだが腹に穴が開いている」
「すいません」
 六星は息を整えた。
「どうもmagiが止まっているみたいだな」
「それで」
 一切の回復が停止している。
 六星の体はmagiを利用したDNAコンピューターによる肉体の制御が行われている。それは回復能力の向上。痛みのカット。身体能力の強化と数値で説明できるところだ。だが、制御しているDNAコンピューティングを制御するmagiは、オカルト、特に錬金術で培われたモジュール化だ。その黎明期、六星のしらないところを雹ならば熟知しているかもしれない。雹の持つ剣には術を阻む呪能があったのだろう。
「古い酒か」
 六星は立ち上がった。
 痛みを予想していたから先程に比べれば楽だが、それでも自由には動けない。しかし、ルーテを救いにいかなくてはならない。
「あてはあるのか?」
「最初にルーテさんを拾ったあたりにいきます」
「待て、行く前にあの音を聞け」
 廊下を指さすといったりきたりしている足音が聞こえた。
「清原嬢が部屋の前でずっと待っている」
「寧姉が」
「目をさましたぞ」
 寧が橘花と共に入ってくる。
「目がさめてよかった」
 寧は胸に手をあてた。
「すいません」
 ルーテのことばかり考えていて、屋敷の被害をすっかり忘れていた。門の方でした音を考えればそれなりの騒ぎがあったと考えてもおかしくはない。
「あなた以外誰もけがはしていないから大丈夫」
「よかった」
「よくないわ。その傷は雹おじさまね」
 寧と父と雹と自分でいったあの日が思い出された。
「さあ」
 六星はできるだけ平気な顔で歩き始めた。
「取り返しに行くの?」 
 六星は頷いた。
「おじさまは、ハンターとしてあなたに告げていた。知らなければ、ただの獲物の奪いあいになる。これから奪い返せば、あなたが獲物に回る」
「それでも行こうと思うんだ」
「どうして?」
「お姫様は救い出すものだから」
 寧はため息をついた。
「私もいきます」
「お嬢様」
 橘花が声をあげる。それに合わせるようにして六星はいった。
「ダメだ。そもそも目が見えないのにそんな」
 六星の頬に寧の手が触れた。
「何」
 寧の指先からリズムが感じられた。はじめは小さく血流かと思った。だが、弱いと思ったそれは強く鼓動のようになって六星に伝わってくる。
「どうして?」
 magiの発動だった。つぶやきめいたそのコードは暖かみに満ちていた。
「六星と同じでmagiによって最適化されているの。あの事件の後にすぐね、目が見えないのを踏まえて、問題ないように構成されたの」
「そんなことを」
「もう奪われるのはたくさんだから。父さんが亡くなった時も、母が消えた時も」
「戦いがあるかもしれない」
 寧は首を横に振った。
「六星、戦い方を見せてあげるからいきましょう。数年間、私がどんな戦場にいたか、言葉で語るよりもいい機会だから」
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2008年01月30日

海深く翼A

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清原寧は境界に住む少女だった。まだ十にならない身から、生き残るための戦いに直面していた。
彼女は幼い頃からの闘争の日々を誇っていた。それは戦う事から逃れられない以上は、それを自らの価値として認めるしかなかった。
彼女は両親の友人をはじめとした年長の人間から可愛がられていながら、これといった親しい友もなく、古い屋敷の一角で、乳母と共に暮らしていた。
 彼女の謙虚な態度は、年長者たちをはじめ、学校の中からも評価は高かった。実のところ、彼女のその物腰は、諦念に由来するところだった。
 彼女は夜になると誰も連れることなく密かに街に出た。多くの敵が彼女の周りで跋扈したが、その体に傷をつけるものはなかった。
 彼女を守るものは、あまり世間には知られず、認められないものが多くを占めていた。 体を守るのは不負の技。心を護るのは半ば自動化された魂。その二つを持つ彼女は無敵だった。
 いつも彼女は夜の街で一人踊る。時に激しく、時に密やかに。目を閉じたまま、経帷子めいた白い着物で踊る彼女を見た人々は、心をおかしくした少女が、忘我の最中にあるように思う。
 しかし、彼女の心は決して恍惚の中にはなかった。あるのは冷静に獲物を追う、熟練の狩人のものだ。
 寧は踊りながら自分の周りにくるものを見た。一見、影のように見えるそれは、よく見れば泥をかぶった人間に似ていた。彼らは死者だった。
 この境界の地は、多くの異界。ことなる世界との間に設けられた緩衝地帯だ。その異界の力故か、一部の死者は安からに眠ることなく、夜の街を徘徊する。
 彼ら、レブナンは夜の街を行き、不用意に夜出歩くものを襲う。そして死者は増え、夜の街は死者のものになるのだ。
 寧は踊りをやめた。
 黙って自分の周りを二重三重に自らを囲んだレブナンを前にしても何も臆することはなかった。
 結局、レブナンは-なのだ。+の多い寧を-に転じるだけの数はいない。だから数を集めているのだ。寧の持つプラスを優に超えた時、レブナンを一斉に襲いかかるはずだ。
 レブナンは寧に惹かれてその数は増えていく。
 寧は小さく頭を下げると再び体を動かし始めた。今度は静かな舞だ。緩やかな動きの中、手足の一つ一つの動作が闇の中に白を刻んでいく。先程まではなかった恍惚を持って、寧は踊っていた。
 一指し舞を終えた時には、寧の周りはレブナンが無数取り巻いていた。レブナンの影の先が夜に紛れて、もう街すべてが影に包まれたようだ。
 影はただ残る白い一点、寧を巻き込もうと押し寄せた。
 寧の周りに三角形の鏡が現れる。鏡は微かに光を返したと思うと、襲いかかる影を吸い込んだ。ただ一体のレブナンを吸い込んだだけでは、−の大きさは変わらない。
 だからレブナンは寧に殺到する。
 鏡の放つ小さな光など影の中にただ飲み込まれるだけだ。
「かかった」
 レブナンの触れたのは寧ではなかった。寧の前には三角形の鏡があった。先程と同じデザイン。だが、巨大だった。
 レブナンに覆い被さるように鏡は倒れた。影は吸い込まれて姿を消していく。
 残るのは白い息を盛大に吐く寧だけだった。
 鏡を始め、力を使うのはそれなりに消耗する。レブナンに襲われてとられることに比べれば少ないが、続けていれば冷たさが足下からまとわりついてくる。
 家に戻ろうと体を動かすと体が重い。今日は少し無理が過ぎたようだ。足だけだと思えた冷えは、這い上がるように体を包んでいた。寧は冷たい建物の壁によりかかった
 どこか楽しい気持ちになって、寧は動かなくなっていく体を見ていた。
 今日はいいことがあったから、明日失うかもしれないのならこのまま何も考えられなくなってもよかった。
 自殺したいわけではない。だが、こうして眠っていくように死ぬのならば、死に気づくことなく夢見れそうで幸せに思えた。
 肩を揺すられた。
「身持ちの悪い娘だ」
 その声に寧はおっくうながら顔を上げた。
「雹おじさま」
 そこに立つのはおじさまというには不釣り合いな男だった。寧と年は同じほど。背は高くなく、横も広くない。端正な顔は女性的で秀麗ともいえた。身につけた制服とベレー帽は、十字架に似た『翼ある蛇』のものだった。だが、隊長を示す腕章が手に巻かれている。『翼ある蛇』の木辺雹だった。
「体だけでなく魂も持って行かれるぞ。自分を使った鎮魂なんてな」
「こんなところでどうしましたか?」
「六星が逃げ込んでないか?」
 確かにこの先に雹が用があるのは自分の屋敷だけだろう。六星がつけられていたか、何らかの手で監視されていたのだろう。
「殺す気ですか?」
 その言葉に雹が少し顔色を変えた。それが苦悩であるのは明らかで、少し寧はうれしかった。
「『翼ある蛇』に加わった時点で六星とは戦うのを覚悟されているのかと思いました」
「覚悟というほどのものはないさ。もともと戦場にあっては、目の前に立ちふさがるものは敵だ」
「男はこれだから困ります。人間同士、話し合いでどうにかなるところもあると思いますけど」
「そうなる状況になればな」
「戦場でなければいいんですね」
 寧は答えずにただ立ったままだ。
「まあ答えたくないならいい、家に戻るのならば送っていくが」
「ありがたくお受けします」
 寧は頭を下げた。 


 本編とは関係あるようなないようなシーンでした。
 最近、文章を書くのが解らなくなっていて、ちょっと意図的に変えておりますです。
posted by 管理人 at 20:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 海深く翼| edit
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